下半身まひの患者、脊髄に電気パッチ移植で再び歩けるように=米研究

研究に参加した自動車事故で負傷したケリー・トーマスさんは、その成果により歩けるようになった

画像提供, University of Louisville

画像説明, 研究に参加した自動車事故で負傷したケリー・トーマスさんは、その成果により歩けるようになった

米ルイスビル大学とメイヨー・クリニックの研究チームがこのほど、腰から下をまひした患者3人の脊髄に適合する電気パッチを移植したところ、3人全員が再び歩けるようになったとの研究結果を発表した。

負傷部位の下に取り付けられた機器について専門家は、脳から発された失われた信号を足の筋肉に伝える手助けをするものと説明している。

ルイスビル大学とメイヨー・クリニックの研究チームは、この成功を医学誌ネイチャー・メディシンとニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告した。

移植を受けた患者の1人は、この技術によって自分の人生は一変したと話している。

事故後の希望

フロリダ出身のケリー・トーマスさん(23)は、米ルイスビル大学で研究開発の支援を受けた患者2人の1人。2人は数カ月に及ぶ集中リハビリ治療もあわせて受けた。

「この研究の参加者になったことは、本当に人生を変えた。自動車事故のあと、可能だと思わなくなっていた希望をもたらしてくれた」とトーマスさんは語った。

「初めて自分の足で歩いた日は、絶対に忘れないだろう。私の回復にとって感動的な節目だった。リハビリ指導者の補助を受けて少し歩き、指導者たちが補助を止めても、自分の足で歩き続けた。研究と技術の助けを借りて人体がなしとげられることは、本当に素晴らしい」

ジェフ・マーキスさんは現在、手すりか人間の補助があれば、歩くことができる

画像提供, University of Louisville

画像説明, ジェフ・マーキスさんは現在、手すりか人間の補助があれば、歩くことができる

マウンテンバイクの事故で負傷したジェフ・マーキスさん(35)も、研究の恩恵を受けた。

マーキスさんは現在、手すりにつかまるか、両側の人に両手をつかんでもらいながら、自力で歩ける。

3人目の患者ジェレド・チノックさん(29)は、メイヨー・クリニックで米カリフォルニア大学ロサンゼルス校と連携した治療を受けた。

チノックさんは2013年にスノーモービル事故で脊椎を損傷した。パッチを移植されて以来、チノックさんは手すりの補助を受けて100メートル以上歩けるようになっている。

移植された器具を使い、ジェレド・チノックさんは手すりを用いながら100メートル歩いた

画像提供, Mayo Clinic

画像説明, 移植された器具を使い、ジェレド・チノックさんは手すりを用いながら100メートル歩いた

パッチは損傷を回復はしないが、脊髄下部にある神経を刺激し、損傷部分を迂回(うかい)する。

パッチは脳からの信号を目標の筋肉に届かせるため、被験者は再び、自分の動きを自分で制御できる。

電気刺激をオフにすると、意識的な動きは起こらなくなった。

米ミネソタ州ロチェスターのメイヨー・クリニックで研究チームを共同指揮した神経外科医のケンドル・リー博士は、「非常に興奮しているが、まだ研究のごく初期段階だ」と話す。

詳細な仕組みや研究で助けられる人の条件など、答えの出ていない問いは多く残るものの、「研究はまひを抱える人に希望を与えている」とリー博士は語る。

まひをめぐっては過去、細胞を用いた脊椎の修復に、別の研究者らが成功している。

(英語記事 Electrical implant helps paralysed people to walk again)