シリアの化学兵器使用疑惑 安保理で米露が激しく衝突

Russian and US envoys at the UNSC

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シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区で7日にシリア政府軍が化学兵器を使用した疑いをめぐり、9日に開かれた国連安全保障理事会で米国とロシアが舌戦を繰り広げた。

シリアのアサド政権を支持するロシアのワシーリー・ネベンジャ国連大使は、東グータ・ドゥーマでの戦闘は反政府勢力によって計画されたもので、米国の対抗措置こそ「深刻な影響」を及ぼすと話した。

これに対し米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、ロシアの手が「シリアの子供たちの血」で汚れていると批判。シリアのバッシャール・アル・アサド大統領を「モンスター」と呼び、国連安保理が報復措置をとるかどうかに関わらず、「どちらにせよ米国は行動する」と述べた。

「協議は進んでおり、我々がこうして話している間にも重大な決定が下されようとしている」とヘイリー大使は強調した。

ドナルド・トランプ米大統領も9日夜、化学兵器攻撃は「強力な反撃を受ける」と述べた上で、米国には武力行使の選択肢がたくさんあり、「今晩」か「近いうち」にも対抗措置を決定するとしている。

米国は軍事行動の可能性を排除していない。昨年4月には、反政府勢力が制圧する北西部イドリブ県ハーン・シェイフンでシリア政府軍が神経剤サリンを使用し80人以上が死亡したとして、シリア空軍基地を空爆した。このサリン攻撃について、国連と化学兵器禁止機関(OPCW)はシリア政府によるものだと断定している。

7日に何が起きたのか

米国の医療支援団体「シリア系米国人医療協会(SAMS)」によると、東グータ地区のドゥーマでは「化学物質を浴びた様子を示す症状」で500人以上が治療施設に運ばれた。

呼吸困難や皮膚の変色、口から泡を吹く、角膜の熱傷、「塩素のような匂いを発する」などの症状が見られたという。

死者数や実際に何が起きたかといった情報は、ドゥーマが封鎖されているため確認することができない。

今回の化学兵器攻撃による死者数は42~60人とみられているが、医療団体は、何百もの家族が空爆から逃れるために地下に逃げ込んでおり、こうした場所に救援隊がたどり着けば死者数はさらに膨らむと見ている。

動画説明, シリアの化学兵器疑惑 子供たちにも被害

フランスのフランソワ・ドラートル国連大使は、地下に染み込む可能性を見込んで、毒ガスが故意に使われたと指摘した。

米仏英がこの問題の国際的批判の先頭に立つ一方、シリア政府とロシアはあらゆる責任を否定している。

ロシアの国連での反応は?

ネベンジャ国連大使は、ドゥーマ攻撃について、反政府勢力による自作自演だと主張。誹謗中傷や「タカ派的言説」など「幅広い戦法」を使ってロシアを傷つける米国主導の計画の一環として、化学兵器攻撃とその余波を演出したと批判した。

大使は怒りに満ちた声明を読み上げ、OPCWの調査員を10日にもシリアに招致し、化学兵器攻撃が行われたとされる地域までロシア軍が案内すると述べた。

ロシアは、自国の専門家は「塩素やいかなる化学物質が市民に対して使われたという証拠」を発見しなかったとしている。

ネベンジャ大使は、ロシアに対する各国の物言いは冷戦時代でも受け入れられなかったレベルだと反発し、米国の軍事行動をけん制した。

「ロシアは正当な政府からの要請に答えてシリアに軍を派遣している。シリアに対し、偽りの口実で軍事行動を起こしたりすれば、深刻な影響を及ぼすだろう」

A picture shows the site of an explosion of unknown origin which killed 11 civilians in Syria"s northwestern jihadist-held city of Idlib on April 9, 2018.

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反ロシアの風潮

3月に英南部ソールズベリーで起きたロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)に神経剤が使われた殺人未遂事件や、2016年の米大統領選への介入疑惑を機に、ロシアと西側諸国との関係はここ数十年で最悪のものとなっている。

ソールズベリーの事件を巡っては、英国政府はロシアが開発した軍用レベルのノビチョク剤が使われたと指摘。西側諸国とロシアの間で外交官の追放が相次いで行われた。

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シリアの状況は?

ドゥーマでは化学兵器が使用されたとされる戦闘の後、シリア政府軍と反政府勢力が避難合意に達した。

ロシアによると、軍事行動は一旦停止され、100台のバスで8000人の兵士と4万人の家族が避難している。また、反政府勢力の捕虜も解放された。

これにより、東グータ地域の全域を政府軍が制圧した。アナリストによれば、アサド政権にとっては2016年にアレッポを攻略して以降で最大の軍事的成功となる。数週間に及ぶ戦闘では1600人が死亡した。

9日にはこのほか、北西部イドリブで高層ビルが爆破され、少なくとも13人の市民が死亡、多数のけが人が出た。この事件の原因は明らかにされていない。

イドリブはアルカイダ系のイスラム過激派が掌握しているが、他の戦闘地域から多くの兵士や市民が流れ込んできている。

(英語記事 Russia and US in fierce row over Syria)