企業版ふるさと納税制度の寄付が企業側に還流した疑惑で揺れる福島県国見町。寄付を原資にした救急車開発事業の契約に疑問を抱き、公益通報に動いた町職員が懲戒処分を受けた。公益通報者保護法は通報者の不利益な扱いを禁じている。兵庫県でも問題となった。人口8千人の町で何が起きているのか。

 町の会計管理者だった男性職員(54)が減給10分の1(6カ月)の懲戒処分を受けたのは今年3月。町の事業の不正を疑い、事業を受注した企業と町の契約に関する資料を町監査委員事務局に提供したり、外部への公益通報を準備したりした行為が「職務上の権限を逸脱して事業の文書を取得し、極めて不適切な取り扱いをした」と判断された。町側は、事業には法令に触れる事実はないとして、職員の行為は「公益通報にはあたらない」としている。町によると、第三者への情報漏洩(ろうえい)は確認されていないという。

 この事業は、町が高性能な救急車を所有して他の自治体などに貸し出し、データを集めて救急車の開発に生かすというもの。2022年に計画され、国の企業版ふるさと納税制度を使って3社が町に匿名寄付した計4億3200万円が原資だった。公募型プロポーザルに唯一応募した宮城県の食品会社ワンテーブル(ワン社)が受注した。

 しかし23年2月、河北新報が、救急車製造を請け負ったベルリング(ベル社)と寄付した3社はネット関連企業DMM.comのグループだったと報じ、最大9割の税額控除を受けられる制度を悪用した可能性を指摘。翌月にはワン社の社長(当時)の「行政機能をぶんどる」といった発言も報じ、町は「信頼関係が損なわれた」として事業を中止した。

町議会の百条委は「入札に見せかけた随意契約」と指摘

 町議会は同年10月、事前に受注者が決まっていた官製談合の疑いがあるなどとして調査特別委員会(百条委)を設置。ワン社が事業を受託する10カ月前に、救急車12台のうち7台をベル社に発注していたことや、町が示した車体の仕様書がベル社製のものと酷似していることが調査の中で判明した。納車までの期間が極端に短かったことも踏まえ、百条委は今年7月に「入札に見せかけた実質的な随意契約だった」とする報告書を公表。町の第三者委員会も同9月に報告書で、ワン社の受注経緯を「手続きの公正性・透明性を欠いた」と指摘した。

 職員が処分を受けたのはこれらの結論が出る前だった。

 職員は、町の内部通報窓口の総務課は一連の寄付の窓口でもあったうえ、担当係長が過去に救急車事業に関わっていたため、正面からの通報は難しいと判断。23年6~9月、のちに消防組合や病院へ譲渡されることになる救急車の保管状況の悪さを懸念して町監査委員事務局や町議に情報提供しつつ、官製談合の疑いもあるとみて、外部の公正取引委員会や県警への通報の仕方を県外の弁護士に相談した。その後に監査委員が事業の問題点を指摘し、町議会が百条委を設置したため、「住民自治による真相究明が優先されるべきだ」と外部通報には至らなかった。

 この外部通報の準備として、事業を時系列に整理した私文書を作成し、保管するために自身のフリーメールに送信した。こうした行為も懲戒処分の理由となった。

知事らを内部告発した職員を処分した兵庫県、そして今回の福島県国見町。行政機関の「公益通報者への報復」とも言える対応が相次いでいます。記事後半では自治体の内部通報態勢の現状や課題を取り上げます。

 今回の件を専門家はどうみるの…

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