【社会科見学】鴎来堂&かもめブックスさんに行って栁下さんと語った「インターネットと心の距離感」
モデレーターの馮です。こんにちは。
今回はWebSig24/7社会科見学第2弾、神楽坂にある鴎来堂さん、かもめブックスさんにお邪魔してきました。
元々モデレーターの坂西さんがオーナーの栁下恭平さんとお知り合いだったこと、そして、僕自身出版社に勤めていて、かもめブックスさんは開店後から個人的に気になっていた場所だったのでお伺いしてきました。
かもめブックスさんは昨秋オープンした、独立系の書店......というか本屋さんです。今回お話を伺った、オーナーの栁下さんの想いが詰まった場所です。
入口にはカフェ、その奥には「かもめブックス」が選んだ書籍や雑誌が並んでいて、さらに一番奥にはギャラリーがあります。
栁下さん曰く「街の本屋を目指した」とのこと。なので、いわゆる大手チェーンのような棚作りではなく、本を読まない人でも本に出会える場所を意識しているそう。これって言語化すると「なるほど」と思うことですが、実際にその「場」を意識してつくるのは本当にスゴイことだと思います。
そして、カフェ、本棚、ギャラリーという構造にも意味を持たせていて、日常的な場である「カフェ」、非日常の空間としての「ギャラリー」、その間をつなぐ「本屋(書棚)」になっているのです。これはブログで書くだけでは伝わらないので、ぜひ足を運んで、その空間を体験してもらいたいです。
校正・校閲という仕事
さて、かもめブックスさんでモデレーター一同が待ち合わせたあとは、神楽坂駅を挟んで反対側にある「鴎来堂」さんに伺い、栁下さんのお話を伺ってきました。
出版関係であれば鴎来堂さんの名前を知っている方も多いかと思いますが、こちらは「校正」「校閲」を生業とした会社です。
校正とは、印刷物など元原稿にある字句や内容、体裁、色彩の誤りや不具合を、あらかじめ修正すること、校閲とは、校正の作業に加えて、元原稿に書いてある内容の事実関係を確認し、正すことです。
今のネット社会では、何が正しくて、何が間違っているのか、本当に見極めが難しいもの。その中で、校正・校閲という仕事はますます重要になっていくと思います。
で、いきなりなんですが、名刺交換のあと、モデレーター一同、校正・校閲テストを受けました。
どういうことかというと、栁下さんの名刺の裏には次のような文章が書かれていて、この中に6ヵ所の誤りがあります。
皆さん、わかりますか? 僕たちは2分半の間にいくつ見つけられるかのテストを受けたのです。いやー、出版社在籍の身としては、頑張らねば!とやってみたものの......4つしか見つけられませんでした。
その後、校閲を実演していただきました。
先ほどの名刺の誤植についてはぜひ栁下さんにお会いして名刺交換をして確認してみてください。
鴎来堂とかもめブックス
紙?Web?――ネット時代の校正・校閲
そんなアイスブレイクを交えながら、鴎来堂、そして、かもめブックスの出自について話していただきました。現在は約50名の従業員が在籍しているそうで、「校正」「校閲」のプロ集団、プロのネットワークをつくることが企業の目的とのこと。
さまざまなメディアで出版業界は厳しいと言われている中、「プロが集まること、そして、専門性をネットワークでつなぐことに、未来を感じている」と栁下さんがおっしゃっていたのがとても印象的でした。
さらに、「今の時代、紙の印刷物以外にも校正・校閲が求められるシーンが増えていて、たとえば、企業の広報がその1つ」(栁下さん)と話してくださいました。どういうことかというと、インターネットやソーシャルメディアが普及したことにより、オンラインにある情報の鮮度・寿命が長くなり、その結果として、1次情報の正確さが求められているということです。加えて、誰が目にしたり読むかがわからないからこそ、不特定多数、最大公約数の読者に向けて、誤解を生まない表現を実現するために校正・校閲を行う需要が増えてきていて、実際、鴎来堂さんでは、企業広報向けのスクールも行っているそうです。
まさにネットが生み出した、従来産業の新しい価値と言えます。
他にも出版社の新人編集者向けの授業なども行うなど、扱う情報を正しくすること、校正・校閲の専門性に対する強い思いと高いプライドを感じることができました。
街の本屋を残すために
一方、かもめブックスをオープンした背景には、自分が住んでいる街の本屋がなくなることの怖さを感じたからとのこと。
「正直、自分がふだん足を踏み入れない土地の本屋がなくなることは、時代の流れとして受け入れられたのですが、いざ、自分が日常的に生活している土地に本屋がなくなることに直面したとき、一気に自分事になったんです」とコメントされ、空いた場所に、この「かもめブックス」をオープンすることを決めたそう。
そして、前述のとおり、「街の本屋さん」を目指して、今も試行錯誤しながら、この時代の「本屋」づくりをこころがけているそうです。
余談ですが、今の時代、出版不況でもあり、実際書店数が減っています。しかし、書店の平均坪数は増えているという調査結果も出ています(JPOの調査:PDF)。
つまり、大手チェーンが増えたり、総合施設内にある書店が増える一方で、街にある独立系の書店が減っているという見方ができるわけです。この状況の中、かもめブックスのような存在がこの先どう進化していくのか、とても楽しみでもあります。
履歴書拝見~波瀾万丈の人生を送る栁下さん
さてさて。この日は、約3時間、栁下さんのお話をみっちりお伺いしました。
元々は書店、そして校閲ということにフォーカスして話を聞く予定だったのですが、最初に、WebSig24/7代表の和田さんから「僕はあまり出版のこととか詳しくないので、栁下さん自身のお話、とくに履歴書的なことを話していただいてもいいですか?」という振りをしてみたところ、インパクトのある逸話が出てくる出てくるw
履歴書の話については、2015年頭のエントリにも書かれているとおり、2015年のWebSig24/7の方向性の1つでもあったのですが、事前にまったくお伝えしていなかったにもかかわらず、僕たちの想像以上濃い話が聞けました。
とにかく生まれてから今までの人生が濃くて深い。詳細についてはぜひリアルイベントの場で改めてお話しいただきたいと思います。
その中から、僕が最も印象的だったのが「心の距離感(半径)」という表現。栁下さんの自己分析で「僕は心の距離感をとても意識していて、無意識・意識的にかかわらず、相手との心の距離感を測るのが上手いほうだと思います」とおっしゃっていて、その結果として、校正や校閲という仕事に足を踏み入れたとのこと。
どういうことかというと、とにかく相手の気持ちを考え、話を聞くときは何も言わずにとにかくずっと聞けるそう。これってすごい難しいことですよね。一方で、今回のように、自分の話もしっかりできる。自分自身を持っているからこそのスタンスだなと、お話を伺いながら感じました。そして、インターネットの時代だからこそ、「心の距離感」を測り、適切に保つことが大事だと思いました。
以上、WebSig24/7社会科見学第2弾をお届けしました。
またこれからも魅力的な方のお話、そして、未来につながる場所に訪問していきたいと思います。僕たちモデレーターに来てほしい!という方がいらっしゃいましたら、 [email protected] までご連絡ください。
最後に、栁下さん、鴎来堂&かもめブックスの皆さん、ありがとうございました!