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2016年 04月 16日
ブログ「日朝国交「正常化」と植民地支配責任」http://kscykscy.exblog.jp/を運営されている歴史学者、鄭栄桓氏が、新刊を刊行された。詳しくは、氏の上記ブログを参照されたい。
早速読んだが、日本の論壇・ジャーナリズム、言論界の惨状を、これほど実感させてくれる本も珍しいだろう。 特に若い人に一読を薦めたい。若い人は知らないと思うが、こういう本は、近年、出にくくなっているのである。小谷野敦が新刊の『反米という病 なんとなく、リベラル』(飛鳥新社)で、政治・社会系の雑誌が売れなくなったのは論争をしなくなり、つまらなくなったからで、スマホの普及などは関係ない、ということを書いていたが、近年は出版界・書店界の関係者や研究者、ジャーナリストの思考が「なんとなく、リベラル」で画一化してしまって多くの読者が離れてしまい、似たような思想の読者向けの本づくり・ブックフェアが一般的になっているように見える(悪循環)。その意味で、非常に貴重な本である。大学生・大学院生ならば、本書を読んで自分たちのまわりの教員たちと彼ら・彼女らの言論の空虚さに気づき、ショックを受ける人も出てくるだろう。 本書は、数多くの(リベラル)知識人やジャーナリズムが絶賛し、各種の賞も受賞した朴裕河『帝国の慰安婦』がどれほど非学問的で、非論理的であるか、被害者の尊厳を踏みにじる主張を展開しているかを異論の余地がないと思われるまでに徹底的に証明する。また、それに関連して、多くの著名な知識人をも批判する。読みながら読者は、朴の主張の支離滅裂さに呆れつつ、こんな人物の主張をよくここまで丁寧に検討できるな、と鄭氏に感心すると同時に、この『帝国の慰安婦』が絶賛されているという現実の事態に慄然とさせられるだろう。こういう感覚というのは実際に本書をじっくり読まないと体感できないのである。 本書は結論部分から読む人も結構いるのではないかと思うが、そこでの、『帝国の慰安婦』絶賛という事態が「日本軍無実論」による「大日本帝国」肯定願望と「戦後日本」の肯定願望という「二つの歴史修正主義」 に取りつかれた人々の欲望が生み出した産物、という指摘など、鄭氏による日本社会と「リベラル」の分析も、そこまでの綿密な論証を時間をかけて読んだ後で読み直すと初読よりもはるかに強い説得力を持っていることに気づかされるだろう。これは得難い体験である。 また、本書は、「慰安婦」問題や「補償」「賠償」をめぐる議論に関しても、格好の(再)入門書となっている。朴が自己の主張の正当化のために、右から「左」までのありとあらゆる(と思われる)言説を用いるので、かなり包括的なQ&Aの本になっているのである(これは鄭氏の企図しなかったところであろうが)。また、本書は基本的な事項から丁寧かつ明晰に説明してくれており、私も多くのことを教わった。 ただ、最後に本書で書いていない点についても触れておくと(鄭氏も気づいていると思うが)、朴裕河批判のスタンスを現在とっている人々からも今後、(「忘却のための」)日韓「和解」論が出てくると思うので(実際にその種の認識は既に表明されている)、そちらが結構大きな問題になってくるように思う。韓国の総選挙で野党が勝利して、その可能性は一層強まっているのではないか。また、朴裕河の主張は、実は植民地近代論、ポストコロニアリズムと親和性が強いと思われるので、そうした理論への検証(特にここ20年の日本における機能)も必要だろう。朴が理論を理解していない、歪曲しているというよりも、以前、このブログで與那覇潤に言及した時に書いたように、ポストコロニアリズム自体が本質的には保守的な性格のものだと思う。 いずれにせよ、多くの方に読んでほしい本であり、繰り返すが、特に若い人に薦める。
by kollwitz2000
| 2016-04-16 00:00
| 日本社会
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