2023年9月初頭、チュメニ高等軍事工学司令学校で行われた研究及び実験結果が露軍将校向けに発表された。本稿はその解説を行う。
本稿にて明かされる小型UAVによる地雷原の敷設方法について、手法の発想そのものは珍しいものではない。各国は同様のやり方を考えてはいる。ここで重要なのは野外実験を通して現状最も効率的と見なされ正式に提唱されたその具体的内容にある。それは実戦投入を念頭に置いた現時点での戦術的運用法を意味する。ここで示される幾つかの数値は実施側、対策側の両者にとって参考となるはずである。
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2023年、露軍の高級将校及び軍事研究者向けの軍事誌『軍事考察』9月号が発行され、そこにウクライナ戦争での実施に向けた研究論文が載せられた。著者はД.Ф. ЕВМЕНЕНКО少将とС.И. МЕЛЬНИК大佐、軍事科学分野を専攻する両者による論題は「小型UAVを用いた地雷原の遠隔敷設」だ。
ロシアーウクライナ戦争での急激な変化があった軍事技術分野として小型UAVの大規模な普及を冒頭で述べ、特にマルチコプター(複数羽型回転翼機)の用途について、地雷敷設に使える可能性を見出した。理由はまず安価であり、機械的信頼性が高く、低速や低高度での操作制御性と移動力があり、その設計的特性上現場で積載重量をある程度変えれるからだ。
地雷原の効果は米国の行った近年の軍事作戦を事例として、その効力が増大しつつあると捉えた。特に「戦闘中に、突然且つ正確に地雷が使用された」場合の効果を重視する。
露軍には遠隔で地雷を敷設する方法として航空機、ミサイル部隊や砲による投射が既にあることを示し、それらは敵の全縦深まで適用可能な手段と述べた上で、その一方で工兵部隊による遠隔敷設は
ПКМ(持ち運び可能な円筒型投射機)やГМЗ-3工兵戦闘車両といったものであり、その能力には限定性があったことを指摘した。工兵部隊の遠隔設置可能範囲は最大でも200mに限定されていた。本文には書かれていないが、航空や砲兵による遠隔投射は、その地雷原の敷設について正確性が欠けること、大型の機器を多量の人員を用いたオペレーションする必要があり迅速性が欠けること、そして彼らは高価であり、現在の戦線で確認されているように戦線数キロ程度の位置から投射しようとすると敵に見つかり撃破される可能性があることは、小型UAV採用方針の背景にあると思われる。
チュメニ高等軍事工学司令学校(ТВВИКУ)にいる各専門家たちが集まり、生産性とメンテナンス性を念頭においたであろう簡易なアタッチメントの開発が進められた。彼らは開発対象を対人地雷POM-2R用に絞り込んでおり、POM-2を選んだ理由が強く気になる所であるが残念ながら書かれていない。恐らく投入された対人地雷の中で現場の評価が高かったものを採択したと思われる。
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露軍内では常識的なので本文では省かれているがPOMの解説を記す。
ПОМ-2とは破片式の対人地雷で、殺傷半径は約15m(または16m)、円筒形で一見すると錆たスプレーや空き缶のゴミに見える。手で投げても良く、落下すると衝撃で基部が花びらのように開き上を向いて直立する。上部からヒモのついた重りアンカーが自動的に4本射出され、周囲に固定される。いずれかのヒモに歩兵が引っかかって一定以上の張力を書けると爆発する仕組みだ。作動のために一切の電気制御が無く純粋な油圧機械式なため、POM-1よりも長期安定性に優れている。更に装薬量が増加してもいる。POM-2の総重量は1.6kg(又は1.5kg)、サイズは凡そΦ 63 × 180 ммである。一定時間が経過すれば自己爆発処理させられる機能がある。これは自軍が被害にあう可能性を大いに減らし、攻撃時にも縦深に投下できる可能性を生んでいる。
動画:非常に危険な検証の仕方をしているため真似しないこと。
https://youtu.be/7_fNUYzcBi0?t=382
2022年の動画、ウクライナ戦争で使用されていることが確認されている。ウ軍工兵による除去。
https://www.youtube.com/watch?v=EiKlCv2RyUA&ab_channel=CrazyBOOm
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チュメニ軍事工学学校の専門家たちは小型UAVの中からはマルチコプターを選択し、今回はヘキサコプター(六回転翼機)に地雷を搭載し投下できるアタッチメントとしてリボルバー式容器(4発装填)を開発/装着し、更にそれをUAVオペレーターがコントローラーで投下操作できるようプログラムも組んだ。
< 図1 a:POM-2を装着した容器 b:断面図 >
防御と攻撃両方で、戦闘作戦実施中に対人地雷の遠隔設置をすれば、各戦術的タスクごとに奇襲性を生み出すことが確実に可能だ。
防御における小型UAVでの遠隔敷設の目標は次のものがある。
・その場所にいる敵部隊が活動するのを妨害する。
・自軍の火力が効果的に発揮されるような状態を作り出す。
・敵の打撃部隊の第1梯隊が攻撃に効果的に移るのを妨害する。
・敵の戦術的予備がその戦場へ展開するのを乱し遅延させる。
・敵特殊部隊(空挺など)が着陸してきた際、その場所に閉じ込める。
・砲兵戦闘の効果を増大させる。
・敵戦力が自軍防御を突破し進んでくる速度を低下させる。
・逆襲の際の側面防御を担当する。
攻撃における小型UAVでの遠隔敷設の目標は次のものがある。
・敵戦術的編制の各部隊の連携を妨害し、機動を拘束し、自軍の火力投射部隊の効率を上昇させる。
・敵防御部隊の移動を制限する。
・敵戦術的予備の移動を制限し前進と展開にダメージを与える。
・敵を打ち負かして前進した後に、工兵的障害物(塹壕や鉄条網、地雷原)をすぐにその前進ラインに設置するので、その際に参加する。
全ての目標は、各戦術的タスクの解決策としてUAV使用と、各エリア、ルート、境界、対象物に工兵タスクを地雷原敷設と共に実施された際に達成されることに留意すること。
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< 図2 ヘキサコプターに装着されたリボルバー式地雷装填容器 >
今回提案される手法ならば、既存のVSM-1ヘリコプターでの敷設と比べて幾つかの利点がある。
・視認性と騒音性が低い。
・敵の携行式ミサイル、防空システム、小火器で撃墜されるリスクが低い。(※注:代わりに対UAV電子戦のリスクが増える)
・投入運用の効率性が極めて高い。
UAVの地雷敷設運用はその技術的特性、特に飛行時間に影響される。
式(1) T=S/V
T:到達までにかかる時間
S:地雷原を設置する位置までの距離
V:UAVの速度
この計算式ならば、距離5㎞の位置に7.5分で到着することになる。飛行時の気象条件を考慮し20%の時間増を見込み9分で到着とする。
到着後、地雷原を、即ち複数の地雷を設計された位置形状で敷設するのにかかる時間は次のものになる。
式(2) T1=k*t+d/v
k:敷設する地雷の数(個)
t:地雷1個の投下設置にかかる時間(h)
d:各地雷ごとの距離(m)
v:UAVの地雷原敷設中の水平速度(km/h)
チュメニ高等軍事工学の研究者たちは実験の結果、UAV1機によって1グループの地雷原(この場合1度に装填できる4個分)を敷設するのは、POM-2Rは適切なポイントに投下するだけでいいので、13~14秒と判明した。数値を丸めても最大10分でオペレーターから距離5㎞の位置に1グループの地雷原を敷設することができたのだ。(即ち到着までにかかる時間が大半で、極めて迅速かつ正確にUAVとプログラム済み投下シリンダーは各地雷を求められた距離間隔で設置することができた。)
学内の訓練場で確認された地雷原敷設方法が野外でも同じようになるか実証するために、士官のコースを受けている者たちと専門家による特別戦術演習が実施された。これにより上記の数値が証明されるだけでなく、リボルバー式容器を装着した小型UAVの地雷放出高度は50~350mとすることが実験的に求められた。
この野外演習により、下記の表に示されているUAVの各スペックが実稼働させるとどうなるかが確認でき、リボルバー式容器搭載型UAVのオペレーターにとっての必要な手順を開発することもできた。(通信および機械作用のシークエンスは略)
【1】地雷敷設可能距離:5㎞以内
【2】飛行高度:1㎞以下
【3】飛行速度:40㎞/h以下
【4】平常コンディションでのバッテリー保持時間:30分以内
【5】最大離陸重量:12kg以下
【6】使用地雷:POM-2R
【7】地雷搭載数:4個
【8】自己破壊時間:4~100時間
【9】殺傷半径:16m以内
【10】対応可能外気温:‐20℃~+50℃
【11】周波数:コントロールリンク=2.4GHz、映像送信用=5.8GHz
【12】ノイズ耐性係数:2.8
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地雷敷設特殊小隊(露略語:ВСМ)を編制する。編制内訳は、ドローン1機運用当たりを2人で行いそれを1ユニットと呼称し、1個分隊には3ユニット計6名。小隊は2個分隊と小隊長で組織され、即ち1個小隊あたり総計6ユニット計13名を保有する。
加えて、各人員は全地形対応車に載って移動すること。例えばУАЗ (Росомаха)である。(※注:露製の新しい小型バギー。装甲無し。荷台小。参考サイト:https://rosomaha-rus.ru/)
< 図3 地雷敷設特殊小隊の編制 >
諸兵科連合部隊の戦術的戦闘の間に、UAVコンプレックスを用いた遠隔地雷敷設を活用するやり方は幾つかのバリエーションがあるだろう。
・各機の同時投入か順次投入か:利用可能なUAV全ての投入か、その持ちうる戦力の大半を投入するか、それとも一部のみの行動となるか。
・行動目標に関する情報の確定度合いに左右される:投入するUAVの航路を予め決めておけるか、戦闘中に最も効果的に地雷原敷設ができるようにオペレーターたちは確定した(特定された)エリアでUAVを運用できるか。
・緊急要請されている行動か:設定された時間に計画通り(緊急要請に乱されず)UAVを飛ばせられるか、呼び出しに応じて飛ばすか、準備完了次第即投入するか。
・戦闘任務を受領した時点でのUAVの初期位置はどこか:UAV射出位置にいるか、戦闘即応性を保って待機位置にいるか、どこかの射出地点への移動をまずしてからとなるか。
これらの変化要素はあるものの(具体的な運用方法例を戦争中の露軍は求めているので)、チュメニ高等軍事工学学校の専門家たちは次の2つを提唱している。
【花びら型=緊急時の全周への地雷原障壁設置】
戦闘作戦が急激な勢いで変化している時に適用する可能性がある。(例:付近で敵が戦術的に突破してきて友軍状況が一部不明、撤退がすべきでないと思われる時。例:攻撃突出時に、敵逆襲の兆候が見て取られた時。全方位へ即興の防御障壁を展開する。)
< 図4 花びら型に各UAVを飛ばし地雷原を各々敷設 >
(別個のフライト計画を立てるのではなく)UAVの運用プランは1つに統合しうる。先だって飛ばしたUAVがその特定のタスクを果たせたかどうかで次のUAVの射出も変わるからだ。
【地雷原敷設による障壁の急速な構築】
POM-2R使用時の対人地雷原の急速な遠隔敷設を、複合的な工兵障害物と共に、UAVの特定のフライトグループで実施する。(即ち、他の障害物と連携を取れるようなデザインの地雷原を、各UAVは各々が部分的に役割分担を行って最速最適で敷設する。)そのやり方の具体例を本研究実験を行った結果から専門家たちは次のように提示した。
< 図5 小型UAV使用型の地雷敷設特殊小隊(2個分隊)による地雷原障壁の急速構築 >
工兵の地雷は、諸兵科連合部隊の戦闘能率を増大させ、その運用法を改良する流れに進んでいる。近い将来ここにある問題は、移動性と遠隔性の更なる改善により解決されていくことは間違いないと思われる。
本稿に提案された小型UAVによる遠隔の地雷原敷設は、5㎞までの戦術的範囲で任された工兵の障壁建設を確実にこなすであろう。
以上。
上記はほぼ原文の流れに沿って、意訳と補足を交えて記載した。以下には最も現在のウクライナ戦争で適用される可能性が高い、障壁型の遠隔敷設に関し本文中になかった部分の補足を記す。
まずPOM-2R破片炸裂式対人地雷は殺傷半径16mだが、チュメニ高等軍事工学学校の研究チームは演習の結果、15~20m間隔で設置している。単純に殺傷半径を限界に並べれば32mごとでいいはずなので、アンカーで作動できる範囲を考慮した数値だろう。最小で30m幅に3個の対人地雷が設置されている可能性がある。
小型UAV1機あたり4個が今回開発されたリボルバー式容器で搭載されるので、真っすぐ1列にそのUAVは飛び45~60mの間に4個を敷設する。これが1グループである。1個小隊に2個分隊いるので、分隊ごとに左右に分かれて分担される。これにより、横列には4*2=8個が並び、幅は最大160mの対人地雷原障壁が作られる。
縦列は3段が例として挙げられており、千鳥状に半分ずらして後段は設置する。縦方向の離隔距離は約20mとなっている。
小型UAVの1個分隊には3ユニットがおり、それぞれが前段、中段、後段を分担してシンプルで最速の敷設を可能としている。航路が単純明快なので操作もやりやすくこれ以上のものは無いだろう。
形が整然とした長方形になることは、地形に合わせるためそうよくはないだろうが、机上では横160m*縦40m=6400m2を占める24個で構成される地雷原が10分で出来上がる。
露軍の一般的な工兵向け教本の話をすると、2021年以前の資料なら、対人地雷原は縦2~4段で各段は5m以上離隔することとし、計で縦10~15m或いはそれ以上としている。1㎞幅にどれだけ地雷を設置するかは、爆発型で2000~3000個/km、破片炸裂型で100~300個/kmと書かれている。今回の遠隔敷設でも1㎞なら150個(6.25個小隊分*24個/160m)となるので教本の範囲内だ。ただこの1㎞範囲は単純化されており、戦場の実態に即していない。
ウクライナの戦場において、ウ軍は今まで一度も幅1㎞に数十m間隔で縦隊の小隊を5個以上投入したことは一度も観測されていない。むしろ、防風林沿いまたは数十m林から離れたルートで、1区画ごとに1列のみで突進することの方が圧倒的に多い。両側の防風林と、まれにある2列での攻撃を鑑みて600m幅に3列縦隊しかない。それどころか両側の防風林を同時に一斉攻撃することすら少ない。このWW2の倍以上の散会性は砲撃による被害がまとめて大量に出ることを予防しているが、代わりに打撃力が著しく減少している。
この種の攻撃に対して、短時間展開型の地雷原は1㎞幅も必要ない。突進してくる箇所、これは先行する砲撃と戦車で明らかになることが多いが、ウ軍は装甲車のみで高速の突進を果敢にする部隊も存在する。
今回のチュメニ高等軍事工学学校での最新の研究で提案されている方式の最大の特徴は、ウクライナの戦場の実態に合った、ピンポイント型の急速敷設を初めてロシア軍内に提示したことにある。
POMシリーズにある時限式自爆処理の機能は、戦術的な能力を増大させる。2個分隊で構築される1個特殊敷設小隊は高い迅速性と分散性を持つ。障壁型は160m幅にせず、各分隊で別の場所にして80m幅にもできる。これらは防風林およびその傍からアプローチを1~2列でしてくるウ軍の襲撃部隊に対して適合している。
露軍は短距離UAVによる観測が戦線の相当量の場所で実施されており、戦術的縦深からウ軍の接近を検知する。検知距離が最前線陣地の5~10㎞以内である場合、もし以前の攻撃で既存地雷原が開かれていてウ軍の機械化先遣隊が停止せずに到着できた場合、露軍のこの敷設特殊小隊は準備を完了させるのに数分、更に上述の投下に10分かかるので地雷原を間に合わせるのは困難である。一方で、既設地雷原を恐れて多少手前で降ろすか、或いは前方観測所の処理後に前進するケースのウ軍歩兵小隊に対しては、この敷設小隊は十分に間に合う。ウ軍の最前線陣地への侵入に間に合わなかった場合、その左右と自軍のより奥の陣地側に、この地雷敷設を行い、それ以上のウ軍の拡大をブロックする手法が考えられる。特に囮となる露軍の前衛小隊が前哨から撤退した後にその危険性は高くなる。ウ軍が幾つかの理由で、歩兵の徒歩前進と交代が多くなっている箇所では、後方連絡線が明らかになっているので、この地雷原敷設をされるとウ軍の歩兵小隊は孤立し、著しい損失をだすだろう。
対処法は、より大量の砲を配備し砲兵隊が縦深5㎞まで大規模な制圧射撃をしてUAV小隊を行動不能にすること、より大量の観測UAVを入手し常時監視により見敵即高精度砲撃をすること、より大量の装甲車両を配備すること、より大量の歩兵を連続的に投入し飽和させること、より多くの電子戦システムを前線に広くかつ危険な突出部隊もカバーできるよう投入することなどが求められる。
また、アプローチルートについて、露軍とウ軍の両方で何度か実施されている斜め型の突進は対策の1つとなるだろう。ただし前線に突入した部隊がある地点を確保した後、すぐにそこへの増援/補給/ローテーションを行うためのルートを複数開くことが望ましい。地雷原がないことが確認できたルートがあると、それ以上の切り開く際のリスクを恐れてそのルート1本に依存しがちになるのだが、今回の露軍のUAVによる即興的かつ縦深への地雷原遠隔敷設はまさにその傾向を狙って効果を発揮するのだ。
_____________________________________________
了。
【出典】
Д.Ф. ЕВМЕНЕНКО少将、С.И. МЕЛЬНИК大佐, 2023, "軍事考察 9月号", ロシア国防省, pp.52~58
本稿にて明かされる小型UAVによる地雷原の敷設方法について、手法の発想そのものは珍しいものではない。各国は同様のやり方を考えてはいる。ここで重要なのは野外実験を通して現状最も効率的と見なされ正式に提唱されたその具体的内容にある。それは実戦投入を念頭に置いた現時点での戦術的運用法を意味する。ここで示される幾つかの数値は実施側、対策側の両者にとって参考となるはずである。
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2023年、露軍の高級将校及び軍事研究者向けの軍事誌『軍事考察』9月号が発行され、そこにウクライナ戦争での実施に向けた研究論文が載せられた。著者はД.Ф. ЕВМЕНЕНКО少将とС.И. МЕЛЬНИК大佐、軍事科学分野を専攻する両者による論題は「小型UAVを用いた地雷原の遠隔敷設」だ。
ロシアーウクライナ戦争での急激な変化があった軍事技術分野として小型UAVの大規模な普及を冒頭で述べ、特にマルチコプター(複数羽型回転翼機)の用途について、地雷敷設に使える可能性を見出した。理由はまず安価であり、機械的信頼性が高く、低速や低高度での操作制御性と移動力があり、その設計的特性上現場で積載重量をある程度変えれるからだ。
地雷原の効果は米国の行った近年の軍事作戦を事例として、その効力が増大しつつあると捉えた。特に「戦闘中に、突然且つ正確に地雷が使用された」場合の効果を重視する。
露軍には遠隔で地雷を敷設する方法として航空機、ミサイル部隊や砲による投射が既にあることを示し、それらは敵の全縦深まで適用可能な手段と述べた上で、その一方で工兵部隊による遠隔敷設は
ПКМ(持ち運び可能な円筒型投射機)やГМЗ-3工兵戦闘車両といったものであり、その能力には限定性があったことを指摘した。工兵部隊の遠隔設置可能範囲は最大でも200mに限定されていた。本文には書かれていないが、航空や砲兵による遠隔投射は、その地雷原の敷設について正確性が欠けること、大型の機器を多量の人員を用いたオペレーションする必要があり迅速性が欠けること、そして彼らは高価であり、現在の戦線で確認されているように戦線数キロ程度の位置から投射しようとすると敵に見つかり撃破される可能性があることは、小型UAV採用方針の背景にあると思われる。
チュメニ高等軍事工学司令学校(ТВВИКУ)にいる各専門家たちが集まり、生産性とメンテナンス性を念頭においたであろう簡易なアタッチメントの開発が進められた。彼らは開発対象を対人地雷POM-2R用に絞り込んでおり、POM-2を選んだ理由が強く気になる所であるが残念ながら書かれていない。恐らく投入された対人地雷の中で現場の評価が高かったものを採択したと思われる。
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露軍内では常識的なので本文では省かれているがPOMの解説を記す。
ПОМ-2とは破片式の対人地雷で、殺傷半径は約15m(または16m)、円筒形で一見すると錆たスプレーや空き缶のゴミに見える。手で投げても良く、落下すると衝撃で基部が花びらのように開き上を向いて直立する。上部からヒモのついた重りアンカーが自動的に4本射出され、周囲に固定される。いずれかのヒモに歩兵が引っかかって一定以上の張力を書けると爆発する仕組みだ。作動のために一切の電気制御が無く純粋な油圧機械式なため、POM-1よりも長期安定性に優れている。更に装薬量が増加してもいる。POM-2の総重量は1.6kg(又は1.5kg)、サイズは凡そΦ 63 × 180 ммである。一定時間が経過すれば自己爆発処理させられる機能がある。これは自軍が被害にあう可能性を大いに減らし、攻撃時にも縦深に投下できる可能性を生んでいる。
動画:非常に危険な検証の仕方をしているため真似しないこと。
https://youtu.be/7_fNUYzcBi0?t=382
2022年の動画、ウクライナ戦争で使用されていることが確認されている。ウ軍工兵による除去。
https://www.youtube.com/watch?v=EiKlCv2RyUA&ab_channel=CrazyBOOm
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チュメニ軍事工学学校の専門家たちは小型UAVの中からはマルチコプターを選択し、今回はヘキサコプター(六回転翼機)に地雷を搭載し投下できるアタッチメントとしてリボルバー式容器(4発装填)を開発/装着し、更にそれをUAVオペレーターがコントローラーで投下操作できるようプログラムも組んだ。
< 図1 a:POM-2を装着した容器 b:断面図 >
防御と攻撃両方で、戦闘作戦実施中に対人地雷の遠隔設置をすれば、各戦術的タスクごとに奇襲性を生み出すことが確実に可能だ。
防御における小型UAVでの遠隔敷設の目標は次のものがある。
・その場所にいる敵部隊が活動するのを妨害する。
・自軍の火力が効果的に発揮されるような状態を作り出す。
・敵の打撃部隊の第1梯隊が攻撃に効果的に移るのを妨害する。
・敵の戦術的予備がその戦場へ展開するのを乱し遅延させる。
・敵特殊部隊(空挺など)が着陸してきた際、その場所に閉じ込める。
・砲兵戦闘の効果を増大させる。
・敵戦力が自軍防御を突破し進んでくる速度を低下させる。
・逆襲の際の側面防御を担当する。
攻撃における小型UAVでの遠隔敷設の目標は次のものがある。
・敵戦術的編制の各部隊の連携を妨害し、機動を拘束し、自軍の火力投射部隊の効率を上昇させる。
・敵防御部隊の移動を制限する。
・敵戦術的予備の移動を制限し前進と展開にダメージを与える。
・敵を打ち負かして前進した後に、工兵的障害物(塹壕や鉄条網、地雷原)をすぐにその前進ラインに設置するので、その際に参加する。
全ての目標は、各戦術的タスクの解決策としてUAV使用と、各エリア、ルート、境界、対象物に工兵タスクを地雷原敷設と共に実施された際に達成されることに留意すること。
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【地雷搭載した小型UAVの性能】
< 図2 ヘキサコプターに装着されたリボルバー式地雷装填容器 >
今回提案される手法ならば、既存のVSM-1ヘリコプターでの敷設と比べて幾つかの利点がある。
・視認性と騒音性が低い。
・敵の携行式ミサイル、防空システム、小火器で撃墜されるリスクが低い。(※注:代わりに対UAV電子戦のリスクが増える)
・投入運用の効率性が極めて高い。
UAVの地雷敷設運用はその技術的特性、特に飛行時間に影響される。
式(1) T=S/V
T:到達までにかかる時間
S:地雷原を設置する位置までの距離
V:UAVの速度
この計算式ならば、距離5㎞の位置に7.5分で到着することになる。飛行時の気象条件を考慮し20%の時間増を見込み9分で到着とする。
到着後、地雷原を、即ち複数の地雷を設計された位置形状で敷設するのにかかる時間は次のものになる。
式(2) T1=k*t+d/v
k:敷設する地雷の数(個)
t:地雷1個の投下設置にかかる時間(h)
d:各地雷ごとの距離(m)
v:UAVの地雷原敷設中の水平速度(km/h)
チュメニ高等軍事工学の研究者たちは実験の結果、UAV1機によって1グループの地雷原(この場合1度に装填できる4個分)を敷設するのは、POM-2Rは適切なポイントに投下するだけでいいので、13~14秒と判明した。数値を丸めても最大10分でオペレーターから距離5㎞の位置に1グループの地雷原を敷設することができたのだ。(即ち到着までにかかる時間が大半で、極めて迅速かつ正確にUAVとプログラム済み投下シリンダーは各地雷を求められた距離間隔で設置することができた。)
学内の訓練場で確認された地雷原敷設方法が野外でも同じようになるか実証するために、士官のコースを受けている者たちと専門家による特別戦術演習が実施された。これにより上記の数値が証明されるだけでなく、リボルバー式容器を装着した小型UAVの地雷放出高度は50~350mとすることが実験的に求められた。
この野外演習により、下記の表に示されているUAVの各スペックが実稼働させるとどうなるかが確認でき、リボルバー式容器搭載型UAVのオペレーターにとっての必要な手順を開発することもできた。(通信および機械作用のシークエンスは略)
< 表 容器搭載済みUAVの性能 >
【1】地雷敷設可能距離:5㎞以内
【2】飛行高度:1㎞以下
【3】飛行速度:40㎞/h以下
【4】平常コンディションでのバッテリー保持時間:30分以内
【5】最大離陸重量:12kg以下
【6】使用地雷:POM-2R
【7】地雷搭載数:4個
【8】自己破壊時間:4~100時間
【9】殺傷半径:16m以内
【10】対応可能外気温:‐20℃~+50℃
【11】周波数:コントロールリンク=2.4GHz、映像送信用=5.8GHz
【12】ノイズ耐性係数:2.8
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【具体的な運用法の提唱】
本研究実験の結果、次の運用法を提唱する。地雷敷設特殊小隊(露略語:ВСМ)を編制する。編制内訳は、ドローン1機運用当たりを2人で行いそれを1ユニットと呼称し、1個分隊には3ユニット計6名。小隊は2個分隊と小隊長で組織され、即ち1個小隊あたり総計6ユニット計13名を保有する。
加えて、各人員は全地形対応車に載って移動すること。例えばУАЗ (Росомаха)である。(※注:露製の新しい小型バギー。装甲無し。荷台小。参考サイト:https://rosomaha-rus.ru/)
< 図3 地雷敷設特殊小隊の編制 >
諸兵科連合部隊の戦術的戦闘の間に、UAVコンプレックスを用いた遠隔地雷敷設を活用するやり方は幾つかのバリエーションがあるだろう。
・各機の同時投入か順次投入か:利用可能なUAV全ての投入か、その持ちうる戦力の大半を投入するか、それとも一部のみの行動となるか。
・行動目標に関する情報の確定度合いに左右される:投入するUAVの航路を予め決めておけるか、戦闘中に最も効果的に地雷原敷設ができるようにオペレーターたちは確定した(特定された)エリアでUAVを運用できるか。
・緊急要請されている行動か:設定された時間に計画通り(緊急要請に乱されず)UAVを飛ばせられるか、呼び出しに応じて飛ばすか、準備完了次第即投入するか。
・戦闘任務を受領した時点でのUAVの初期位置はどこか:UAV射出位置にいるか、戦闘即応性を保って待機位置にいるか、どこかの射出地点への移動をまずしてからとなるか。
これらの変化要素はあるものの(具体的な運用方法例を戦争中の露軍は求めているので)、チュメニ高等軍事工学学校の専門家たちは次の2つを提唱している。
【花びら型=緊急時の全周への地雷原障壁設置】
戦闘作戦が急激な勢いで変化している時に適用する可能性がある。(例:付近で敵が戦術的に突破してきて友軍状況が一部不明、撤退がすべきでないと思われる時。例:攻撃突出時に、敵逆襲の兆候が見て取られた時。全方位へ即興の防御障壁を展開する。)
< 図4 花びら型に各UAVを飛ばし地雷原を各々敷設 >
(別個のフライト計画を立てるのではなく)UAVの運用プランは1つに統合しうる。先だって飛ばしたUAVがその特定のタスクを果たせたかどうかで次のUAVの射出も変わるからだ。
【地雷原敷設による障壁の急速な構築】
POM-2R使用時の対人地雷原の急速な遠隔敷設を、複合的な工兵障害物と共に、UAVの特定のフライトグループで実施する。(即ち、他の障害物と連携を取れるようなデザインの地雷原を、各UAVは各々が部分的に役割分担を行って最速最適で敷設する。)そのやり方の具体例を本研究実験を行った結果から専門家たちは次のように提示した。
< 図5 小型UAV使用型の地雷敷設特殊小隊(2個分隊)による地雷原障壁の急速構築 >
工兵の地雷は、諸兵科連合部隊の戦闘能率を増大させ、その運用法を改良する流れに進んでいる。近い将来ここにある問題は、移動性と遠隔性の更なる改善により解決されていくことは間違いないと思われる。
本稿に提案された小型UAVによる遠隔の地雷原敷設は、5㎞までの戦術的範囲で任された工兵の障壁建設を確実にこなすであろう。
以上。
補足
上記はほぼ原文の流れに沿って、意訳と補足を交えて記載した。以下には最も現在のウクライナ戦争で適用される可能性が高い、障壁型の遠隔敷設に関し本文中になかった部分の補足を記す。まずPOM-2R破片炸裂式対人地雷は殺傷半径16mだが、チュメニ高等軍事工学学校の研究チームは演習の結果、15~20m間隔で設置している。単純に殺傷半径を限界に並べれば32mごとでいいはずなので、アンカーで作動できる範囲を考慮した数値だろう。最小で30m幅に3個の対人地雷が設置されている可能性がある。
小型UAV1機あたり4個が今回開発されたリボルバー式容器で搭載されるので、真っすぐ1列にそのUAVは飛び45~60mの間に4個を敷設する。これが1グループである。1個小隊に2個分隊いるので、分隊ごとに左右に分かれて分担される。これにより、横列には4*2=8個が並び、幅は最大160mの対人地雷原障壁が作られる。
縦列は3段が例として挙げられており、千鳥状に半分ずらして後段は設置する。縦方向の離隔距離は約20mとなっている。
小型UAVの1個分隊には3ユニットがおり、それぞれが前段、中段、後段を分担してシンプルで最速の敷設を可能としている。航路が単純明快なので操作もやりやすくこれ以上のものは無いだろう。
形が整然とした長方形になることは、地形に合わせるためそうよくはないだろうが、机上では横160m*縦40m=6400m2を占める24個で構成される地雷原が10分で出来上がる。
露軍の一般的な工兵向け教本の話をすると、2021年以前の資料なら、対人地雷原は縦2~4段で各段は5m以上離隔することとし、計で縦10~15m或いはそれ以上としている。1㎞幅にどれだけ地雷を設置するかは、爆発型で2000~3000個/km、破片炸裂型で100~300個/kmと書かれている。今回の遠隔敷設でも1㎞なら150個(6.25個小隊分*24個/160m)となるので教本の範囲内だ。ただこの1㎞範囲は単純化されており、戦場の実態に即していない。
ウクライナの戦場において、ウ軍は今まで一度も幅1㎞に数十m間隔で縦隊の小隊を5個以上投入したことは一度も観測されていない。むしろ、防風林沿いまたは数十m林から離れたルートで、1区画ごとに1列のみで突進することの方が圧倒的に多い。両側の防風林と、まれにある2列での攻撃を鑑みて600m幅に3列縦隊しかない。それどころか両側の防風林を同時に一斉攻撃することすら少ない。このWW2の倍以上の散会性は砲撃による被害がまとめて大量に出ることを予防しているが、代わりに打撃力が著しく減少している。
この種の攻撃に対して、短時間展開型の地雷原は1㎞幅も必要ない。突進してくる箇所、これは先行する砲撃と戦車で明らかになることが多いが、ウ軍は装甲車のみで高速の突進を果敢にする部隊も存在する。
今回のチュメニ高等軍事工学学校での最新の研究で提案されている方式の最大の特徴は、ウクライナの戦場の実態に合った、ピンポイント型の急速敷設を初めてロシア軍内に提示したことにある。
POMシリーズにある時限式自爆処理の機能は、戦術的な能力を増大させる。2個分隊で構築される1個特殊敷設小隊は高い迅速性と分散性を持つ。障壁型は160m幅にせず、各分隊で別の場所にして80m幅にもできる。これらは防風林およびその傍からアプローチを1~2列でしてくるウ軍の襲撃部隊に対して適合している。
露軍は短距離UAVによる観測が戦線の相当量の場所で実施されており、戦術的縦深からウ軍の接近を検知する。検知距離が最前線陣地の5~10㎞以内である場合、もし以前の攻撃で既存地雷原が開かれていてウ軍の機械化先遣隊が停止せずに到着できた場合、露軍のこの敷設特殊小隊は準備を完了させるのに数分、更に上述の投下に10分かかるので地雷原を間に合わせるのは困難である。一方で、既設地雷原を恐れて多少手前で降ろすか、或いは前方観測所の処理後に前進するケースのウ軍歩兵小隊に対しては、この敷設小隊は十分に間に合う。ウ軍の最前線陣地への侵入に間に合わなかった場合、その左右と自軍のより奥の陣地側に、この地雷敷設を行い、それ以上のウ軍の拡大をブロックする手法が考えられる。特に囮となる露軍の前衛小隊が前哨から撤退した後にその危険性は高くなる。ウ軍が幾つかの理由で、歩兵の徒歩前進と交代が多くなっている箇所では、後方連絡線が明らかになっているので、この地雷原敷設をされるとウ軍の歩兵小隊は孤立し、著しい損失をだすだろう。
対処法は、より大量の砲を配備し砲兵隊が縦深5㎞まで大規模な制圧射撃をしてUAV小隊を行動不能にすること、より大量の観測UAVを入手し常時監視により見敵即高精度砲撃をすること、より大量の装甲車両を配備すること、より大量の歩兵を連続的に投入し飽和させること、より多くの電子戦システムを前線に広くかつ危険な突出部隊もカバーできるよう投入することなどが求められる。
また、アプローチルートについて、露軍とウ軍の両方で何度か実施されている斜め型の突進は対策の1つとなるだろう。ただし前線に突入した部隊がある地点を確保した後、すぐにそこへの増援/補給/ローテーションを行うためのルートを複数開くことが望ましい。地雷原がないことが確認できたルートがあると、それ以上の切り開く際のリスクを恐れてそのルート1本に依存しがちになるのだが、今回の露軍のUAVによる即興的かつ縦深への地雷原遠隔敷設はまさにその傾向を狙って効果を発揮するのだ。
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了。
【出典】
Д.Ф. ЕВМЕНЕНКО少将、С.И. МЕЛЬНИК大佐, 2023, "軍事考察 9月号", ロシア国防省, pp.52~58