マイスターです。
ちょっと面白い記事を見つけました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「諫早湾干拓、『失敗百選』に 文科省の外郭団体選定」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/science/update/1120/SEB200711200012.html
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国営諫早湾干拓事業(長崎)は、科学技術分野の歴史で重要な事故・失敗例として、文部科学省の外郭団体の科学技術振興機構(JST)がまとめた「失敗百選」に選ばれている。
JSTは、失敗から得られた知識や教訓を後世に生かすことを目的に「失敗知識データベース」を作成、インターネットで公開している。失敗百選は、そのなかでも特に「典型的な失敗例」とされる。
諫早については「ノリを始めとする漁獲高の減少など、水産業振興の大きな妨げにもなっている」と干拓による漁業被害を挙げ、「走り出したら止まらない公共事業という国民的批判と不信を生み出した」と指摘。諫早湾を分断した干拓堤防や調整池からの排水、干潟の消失などが原因と分析している。
さらに、将来のための教訓として、「国はある時期に実施決定した公共事業であっても、社会経済条件の変化について的確に再評価を行うべきである」とまとめた。
こうした評価について、農水省諫早湾干拓事務所は「農業面や防災面では高い評価を受けている」と反論する。
(上記記事より)
↓こちらが、記事で紹介されている「失敗知識データベース」です。
■「失敗知識データベース」(科学技術振興機構)
http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search
主として科学技術に関する「失敗」を収集し、「どうしてその失敗は起こったのか? 背景にはどのような問題があったのか?」といった分析を加え、データベース化して公開しているサイトです。
「失敗まんだら」の検索システムもユニークです。
「原因」「行動」「結果」の3点から、失敗の事例を検索することができます。
例えば、「自己保身」という行動が、「死亡」という結果を招いてしまった失敗事例を探す、なんてこともできます。
(実際にこういうケースが4件もあるようです)
その失敗事例に、諫早湾の干拓事業が掲載されたというのが、冒頭の報道です。
失敗知識データベース、なかなかやるなぁ、という感じです。
↓こちらが、その失敗事例の概要。
■「失敗事例:国営諫早湾干拓事業による漁業被害」(失敗知識データベース)
http://shippai.jst.go.jp/fkd/Detail?fn=0&id=CD0000139&kw=%EB%DD%C1%E1%CF%D1
栄えある「失敗百選」に選ばれてしまった場合、↓さらに詳細なレポートがPDF形式で掲載されます。
■「失敗百選:国営諫早湾干拓事業による漁業被害(PDF)」(失敗知識データベース)
http://shippai.jst.go.jp/fkd/Detail?fn=2&id=CD0000139
確かに、行政がやらかす「典型的な失敗」だよなぁと思えます。
冒頭の記事には、
こうした評価について、農水省諫早湾干拓事務所は「農業面や防災面では高い評価を受けている」と反論する。
とありますが、この反論の仕方もまた、よく耳にする、典型的な行政の言い訳のような。
JSTの前身は科学技術振興事業団。失敗知識データベースは、5人の大学教授でつくる推進委員会(委員長=畑村洋太郎・東大名誉教授)が取り上げる事例を決定し、その指示を受けて専門の研究者らが執筆する。1136件の概要や経過、原因、死傷者数、社会的影響などが記載され、昨年度は国内外から約450万回の閲覧があった。
(「諫早湾干拓、『失敗百選』に 文科省の外郭団体選定」(Asahi.com)より)
委員長の畑村氏は、「失敗学」という研究で知られる方です。
マイスターも上記の本を読んだことがあるのですが、「失敗」の要因を分析し、活かすためのアプローチを紹介した本で、面白かったです。
「起こってしまった失敗から学ぶ」というのは、工学分野に限らず重要なことですよね。
というわけで、以前からこの「失敗知識データベース」のことも存じ上げていたのですが、何しろ「失敗を起こさないためにあらかじめ調べておく」ためのデータベースですので、個人的には正直、現職のエンジニアの方が仕事のどういう場面でこれを使うのか、ちょっと想像しにくいところもあります。
しかし実際には450万回のアクセスがあったとのことですから、結構、エンジニアの方々も興味を持って閲覧されているということでしょうか。
あるいはもしかすると、大学の教育の一環で利用されているのかも知れません。
「機械」「化学」「建設」「電気・電子・情報」などのカテゴリーでも事例を検索できますし、工学系の教育で使うには、非常によくできたデータベースだと思います。
せっかく貴重な事例が収集・分析されているのですから、大学で積極的に活用されたらいいなとマイスターは思います。
もしくは、失敗の事例を学生達にまとめてもらい、それをこのデータベースにフィードバックしていくような授業があってもいいですよね。
(事故に繋がったような失敗事例をもとにケーススタディを行うと、学生達はそれを強くイメージでき、なかなか忘れないのだと畑村氏の著書にもあったように思います)
なおこのデータベースには、↓大学で起こった事故も掲載されています。
■「失敗事例:大学におけるモノシランガスへの亜酸化窒素ガスの逆流混合による爆発」(失敗知識データベース)
http://shippai.jst.go.jp/fkd/Detail?fn=0&id=CC0000150&kw=%C2%E7%B3%D8%A1%A1%B3%D8%B2%CA
しばしば大学の実験室で起こった事故が報道されることがありますが、上記の事例の情報などは、大学の教職員にとっても大いに役立つのではないでしょうか。
ここまで書いて、ふと思ったのですが、このデータベース、それぞれの事例に対して
「我々はこの事例から学び、このような対策を行った。その結果、事故の発生確率を減少させることができた」
といった「失敗の解決法」の書き込みができると、全国から色々な知見が集まって、なお良いかもしれませんね。
そんなわけで、色々と大学で活用する方法がありそうです。
よろしければ、見てみてください。
以上、マイスターでした。
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(追伸)
わが国の教育政策が、「失敗事例」として登録されたりしないよう、がんばってください。
>文部科学省様