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1割のトッププログラマーになれなかった僕が、生き残るためにやってきた「空間設計力」の鍛え方
「僕は今、パブリッククラウド・エバンジェリストとしてさまざまな講演や勉強会でお話しする機会をいただいていますが、一つだけ、自分で“禁じ手”にしていることがあります。それは、安易に物事を『ランク付け』することです」
そう話すのは、リアルタイムコミュニケーションサービス『co-meeting』の共同創業者兼CTOで、現在は上記の通りパブリッククラウドの専門家として全国各地で講演を行っている吉田雄哉氏。
フリーランスのエバンジェリストとして、AWS、Windows Asure、ニフティクラウド、さくらインターネット、GMOクラウドetc…と幾多あるクラウドサービスについて横断的な技術解説や導入支援を行っているが、参加者によく聞かれるのが「結局どのサービスが一番か?」という質問だ。
「そこで仮に採用企業数でランキングを付けたとして、その順位を僕がサービスの優劣として伝えてしまうと、『じゃあ利用率No.1のサービスを使えばいいのか』となってしまいます。それだと、もしNo.1のクラウドサービスがダウンした際、ほとんどのWebサービスが落ちてしまうという事態になってしまう。本当に大切なのは、ユーザーの目的と用途に応じてベターなサービスをチョイスしてもらうことで、『一番のサービス』を薦めることじゃないと思うのです」
ある一側面だけで物事の優劣を判断しても、本来解決すべき課題を解決するとは限らない――。この考え方は、エンジニアのキャリアにも同じことが言えると吉田氏は言う。
例えばプログラマーとしての技量が他人より劣るからといって、ソフトウエア開発やシステム構築の現場で即「使えない」となるわけではない。むしろ、吉田氏は新卒以来いくつかのシステム会社で働く中で、「どんなに凄腕のプログラマーがいても、完成したソフトウエアやシステムが無用の長物になることがある」と悟ったそうだ。
「そこで必要になるのが、プログラマーとして大成できなくても、きちんとユーザーの視点に立ってサービスをデリバリーできる“凡人”なんだと思います」
吉田氏はなぜこのような考えを持つようになったのか? 聞くと、2つの大きな転機があったという。
「普通の人」はプログラミングの技能で一喜一憂しても意味がない
一つは、新卒入社した中堅SIerにいたころの出来事。もともとコンピュータが大好きで、学生時代からプログラミングを習得していた吉田氏は、入社半年後から次期の新入社員育成プログラムを作ることになったという。
それまでの育成研修が、業務に必要なスキルや開発言語をひたすら習わされるような内容だったことに違和感を覚えた吉田氏が、社長に進言して「開発業務を好きになってもらうための研修」に変えたのだ。
それが好評で、2年目以降も研修担当を任されていた吉田氏は、あることに気付く。
「毎年、開発部門への配属を希望していた新人が研修期間中に営業職へ鞍替えしたり、逆に営業職で入社した人が開発に職制転換を希望するようなケースが出てくるんですね。そして、営業職からプログラマーにジョブチェンジした人が、その後開発チームで主力級の活躍をすることもあるんです」
つまり開発の仕事、とりわけプログラミングには、好き・嫌いとは別に向き・不向きがあるということ。そして、プログラマーとして「社内のヒーロー」になれる人は、全体の1割程度しかいないということを知ったのだ。
「1つの社内でも“ヒーロー”はこの程度の割合しかいないのですから、どんな会社でも通用するようなプログラマーになれる人はもっと少ないはず。さらに、国際的に一流と言われるようなトッププログラマーは、全体の1%もいないんじゃないでしょうか。そう考えると、僕自身を含めた“普通のエンジニア”は、プログラミングの技量を比べて一喜一憂していても無意味だと思うようになったんです」
もう一つ、吉田氏がプログラマーとしての優劣に拘泥してもしょうがないと強く思うようになった背景には、その後に入った製造業系SI会社での経験があった。
最初のSIerでの経験から、「システムやソフトウエアはユーザーの使い勝手がすべて。だからエンドユーザーのそばで開発を行い、細かく感想を聞きながら作っていくべき」という考えを持つようになっていた吉田氏は、いわゆる情報システム部員の立ち位置で開発に取り組もうと転職をした。
そこで、「モノは良いのに、現場で有効活用されていないシステムやソフトウエアはたくさんある」という現実を見て、エンジニアにはプログラミング以上に重要な能力があると確信を持つに至った。
それが、「ステークホルダーへの説明を含めた“空間設計”の能力」(吉田氏)だという。
あるERP導入プロジェクトで知った、ユーザーが求めるもの
例えば、ある製造現場にバーコードスキャンシステムの導入をするとしよう。
その際、ただ単に業務効率アップを謳い、会社命令として無理やり導入を推し進めても、現場の作業員たちに嫌がられるのがオチだ。現場は、「なぜ今までの作業フローを変えるようなシステムを使わなきゃならないのか」、「また新しく仕事を覚えるのは面倒だ」となるものだからだ。
こういうシチュエーションで本来必要なのは、「現場で作業するおじサマ・おばサマに『これを導入すれば納期間際で一気に多忙になる現状を解消できますよ』、『皆さんの残業時間を減らすためにも、新システムを入れましょう』などとメリットとなることをイメージしてもらうこと」だと言う。かつ、システムの導入は「会社(事業部長)が皆さんのことを考えて決めたことなんだ」と伝えることも大切だ。
こうやって「システム導入にかかわるすべての人たちと一体感を醸成するための取り組み」を、吉田氏は空間設計と呼んでいる。
「どうやってステークホルダーを巻き込んでいくか? という視点で業務改善のやり方を考えるのは、ある意味でプログラムを書く時の因数分解と同じ。だから、僕は会社でERP導入プロジェクトを担当することになった時も、システムを開発する前工程で関係部署と折衝を繰り返し、『完ぺきなプログラムを作る』感覚で導入計画書を作っていました」
こうして、2000年半ばごろ、業界内で「導入成功率は3割程度」と揶揄されていたERPプロジェクトを予算超過せずにやり遂げた吉田氏だが、それでも社長へ完了報告をしにいった時、苦言を呈されたという。
完ぺきを目指すあまり予定の納期を少々押してしまったことと、その進ちょく報告がなかったことに、社長は腹を立てていたのだ。
「エンジニアが見れば『完ぺきだ』と思う開発でも、ほかの立場の人が見れば不満の残る場合もある。そういう苦い経験をいくつも重ねながら、空間設計の大切さを痛感していったんです」
技術力以外の面で己を知る。そこから本当の「武器」が見つかる
では、吉田氏が意識的に磨いてきた「空間設計」の能力を高めるには、何をすればいいのか。
「これは僕個人の体験談ですが、まずは技術力以外の面で己を知ることから始めるのが大切だと思っています。他人とのコミュニケーションを円滑にする上で大事なのは、自分は相手に何を提供できる人間なのかを認識すること。提供できる“技術以外の武器”が多ければ多いほど、いろんなシチュエーションに対応できるようになるからです」
つまり、エンジニアとして何をフックにユーザーとの関係を築けるのか、たな卸ししてみる作業が必要ということだ。
冒頭に記した経歴からも分かるように、吉田氏はベンチャー企業のCTOとしてサービス開発に携わる技術力も、エバンジェリストとして人に請われる技術知識も持ち合わせている。そんな同氏ですら「技術以外」の強みを模索し続けてきたのは、自分以上に優れたコードを書く一流を何度も目の当たりにしてきたからだ。
「それに、世の中に1割程度しかいないはずの凄腕プログラマーって、一般人の感覚からするとちょっと変わっている場合が多いんですね(笑)。そういう天才たちが話し、考え、作るものを、非エンジニアにも分かりやすく“通訳”するという行為はトップ1割以外のエンジニアの役目であり、1割以外にしかできないことなんだと思います」
取材・文/伊藤健吾(編集部)
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