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ハッピーメリークリスマスプレゼント!!

やぁ同志諸君。
あっという間に師走が来たということは、あっという間にクリスマスが来るということで、クリスマスということはいつもお世話になってる同志諸君にプレゼントをする日ということでもある!
更に丁度僕のフォルムも赤と白でサンタクローススタイル!!
これまでも去年のAGFでのフリーペーパーを公開した訳だが……書き下ろしがない!!
そんな訳で去年に続き今年も暇そうにしていた白鳥さんをとっ捕まえて書き下ろしを要求してきたぞ!
何を書くかは任せたんだが……
あまり書く機会がないから……ということで『Money Parasite』を書いてくれた。
少しでも喜んでくれたら嬉しい。

……ごほん。

改めまして今年も一年TAKUYO、及びTAKUYO作品を応援してくださりありがとうございました!
来年は新作『DistortedCode -生者の残り香-』や
NintendoSwitch版『Panic Palette』の発売も控えて大忙しの弊社ですが、
色々頑張って参りますので何卒よろしくお願いいたします…!!
またTAKUYO公式webでもお知らされておりますが、
弊社も年末年始休業期間の為、通信販売発送業務、及びサポート対応は一時休止となります。

2024年12月28日(土)~2025年1月5日(日)
(※詳細はTAKUYO公式webよりご確認ください)

重ねてよろしくお願い申し上げます。
ということで同志達も体調には気をつけつつ、楽しい冬休みを過ごしてくれ!!


さて、気になる書き下ろしはこちらから↓↓↓↓↓








★ライトアップ煌めく今夜は貴方とパーティータイム!!

時は3月。
久々に見たら『春』が来ているらしい。
つい先日遂に冬が訪れたような気がするのに、本当に信じられない早さだ。
『春』といえば雪が溶け、生き物が命を育み、色取り取りに咲く花が野を彩る季節。
近所の激安スーパーにはイチゴやタケノコ、新玉葱や春キャベツなど様々なものが並ぶ季節。
そして少ない服をどう組み合わせるか、それがゲーム感覚で楽しくなる季節でもある。

……が、今はあまり関係ない世界に身を置いている。
勿論、世界の海を渡り歩けば様々な季候の中を生きることになるけれど、そもそも普段着を着る機会が少ない。
そうなれば、服を買うことだって少なくなる。
見渡す限り海であることも少なくないし、ともすれば今がどの季節なのかを忘れてしまいそうになる。
けれど、それは当たり前に繰り返していた日常がすっかり変わってしまったという証でもある。
そして私の日常をぶち壊し激変させた彼とずっと、一緒にいるという証でもある。
それは悔しいことに、私の幸せに繋がっている。
……けれど。

「……幾ら何でも、忙しすぎる」
まさに目が回るほど、猫の手も借りたいとはこのことだ。
働く時間は昼から昼。
夕方から働き始めて朝には布団にいたのが遠い昔のように感じる。
足腰は痛いし身体は重いし頭は回らない。
「心が、折れそう……」
呟きながら身体に鞭打ちスキンケア。
その後は秒で倒れ込んで、眠りに就いた――……否、気絶した。



「…………ん?」
目を覚ますと目に飛び込んできたのは変わり映えのない天井だった。
すっかり見慣れた船の中。外は綺麗に晴れた明るい水色の空。
「…………」
「……! 目覚ましは?」
一つでは起きられなくなっている私は今、5つくらいの目覚ましを掛けて起きている。
しかし見れば当たり前のように全てオフになっており、それどころか……
「………………………………嘘、でしょ?」
さーっと血の気が引いたような気がした。



「た、田中さん……っ!!」
ノックもせずに彼の部屋の扉を思い切り開け放つ。
良く考えたらここにいるかどうかも分からなかったけれど、そんなことを考える余裕もなく。
だが運良く彼はコーヒーを片手に優雅に外を見ていた。
忙しいはずだが、この船のからくりを知れば彼が何をしていても今更変にも思わない。
「……すみません、礼儀を欠いてました」
「構いませんよ、相手が貴方なら」
「……そこに込められた意味は?」
「ご想像にお任せします」
(……知ってる、田中さんはそういう人だけど!!)
「……って、違います! そうじゃなくて……そのっ、仕事……っ!!」
「仕事?」
「あの、私一週間も寝てたんですか!? 記憶がない内に時間が凄く過ぎてて……っ!!」
「そうですね。遂に明日から4月ですし、早いですよねぇ」
「……すみません、私……」
この忙しい中ですっかり仕事を飛ばしてしまった。
周りの人にも申し訳ないし、今どうなっているのだろう。
こんなことをする前に、仕事をするべきだっただろうか……。
起きた瞬間に頭は真っ白で、無意識にここに走ってきてしまったけれど、
「ああ、落ち込む必要はありませんよ。倒れるのも想定内でした」
「想定内……?」
「働き過ぎたら倒れるものでしょう? 人には限度というものがありますし」
「それは……そう、ですね」
「でも貴方は周りに迷惑を掛けると思うと、休みもしないでしょうから放っておきました」
『倒れたら強制的に休ませられますからね』
続ける言葉に唖然としつつ、心の何処かで喜んでしまっている自分がいる。
すっかり飼い慣らされているような気がするが、これは田中さんの言うようにそんな人を好きになってしまった自分に全責任がある。
残念ながら後悔はしていない。
「ああ、休んでいる間は僕が一式お世話しましたので大丈夫ですよ」
「お世話……?」
「はい、お世話です」
気付けば無意識に自らの身体に目をやってしまったけれど……
「…………………………詳しくは聞かないことにします」
仕事についても『何とかした』という田中さん。
私は勿論それ以上詳しいことを聞かず、笑顔でお礼を伝えた。
「ところで貴方、身体は大丈夫なんですか?」
「え?」
「僕が過労に倒れさせておいて何ですが、長々と眠っていた訳ですし」
「……? ああ、確かに。長々倒れてたら身体動かしにくかったりしそうですもんね……でも、何故か問題ないので大丈夫です!」
「でしょうね」
「“でしょうね”?」
「体力があるということですよ! 特技は『脅威の回復力』、貴方の履歴書に書けますね!」
「履歴書はもう書きません! 私の就職先はここなんですから!」
「“ここ”とは?」
「……っ、貴方のところですよ! 貴方の!!」
答えると愉快そうに手を叩いてこちらを見つめる田中さん。
『何故この人を好きになったのか』
最早数え切れない程に頭の中に浮かんだ疑問だが、答えはないので今日も捨てる。
好きなものは好きなのだ。
身体を張って『面白い』を提供して、共に『面白い』時間を過ごせたら、やっぱり残念ながら私は幸せなのである。

「という訳でそろそろ仕事に戻りますね! 田中さんが何とかしてくれたとはいえ周りに迷惑を掛けてしまったことには変わりないですから」
「真面目ですねぇ、まだ倒れたことにしておけばいいのに」
「そんなこと出来ませんよ! 仕事は仕事です!」
「では今日はお休みということで」
「え? いやいやそんなことは――」
「ここでは僕がルールです」
「いやいや」
「では分かりました。僕を全力で笑わせに来てください。成功したら貴方が一番欲しがってるものと仕事復帰をプレゼントします」
「え?」
「という訳で、さあゲームスタート!」

人の話を聞かないのは相変わらずである。
しかし残念なことに彼がルールなことは間違いない訳で……
だったら、思い切り一日を過ごしてやろう。
彼を笑わせるというミッションの為には傍にいなければならないのだ。
それは考えによってはデートにもなるはず。
「田中さん、覚悟してください!!」
(目に物見せてやる……っ!!)


さて、そんな訳で半ば無理矢理開戦させられた田中さんとのゲーム。
一体何をして面白がらせてやろうか……
なんて考えてぱっと思い付くような天才ではない。
それどころか、私が一番欲しがっているものというのも自分でもなんだか分からない。
「という訳で僕はお先に失礼しますね」
「え、どこか行くんですか!?」
「勿論ですよ。“一番欲しいもの”なんですから、それなりに苦労した方が喜びもひとしおというものです」
『では』と笑顔で手を振ったと思ったら、追いかける頃にはもうその姿を消している田中さん。
相変わらず一筋縄ではいかない人だが、それでこそ戦い甲斐もある。
私の中にゴングが響くと、早速行動を開始した。



……とは言ったものの。
一体何をすれば良いのだろうか。
時間がない中で考えると焦りばかりが先に来て、答えが遠退いていく。
今私が欲しいものを聞かれたら、“一体何をしたら田中さんが笑ってくれるのか”と答えるだろう。
恋する人の笑顔が見たいといえば聞こえはいいし、これが少女漫画の主人公ならきっと可愛いのだろう……が、
「…………」
田中さんの笑顔を思い浮かべると、何故か腹が立ってきた。
(大体、本当に『私が一番欲しがっているもの』って何!?)
それに何故にそれを他でもない田中さんに分かったかのように言われないといけないのか。

――だって僕はいつも貴方を見てますから。
「うっ……!」
(幻聴が聞こえてきた。まるで私が望んでるみたいで……あああ……っ)
(もう、なんでこんなに私ばっかり振り回されてるの!)

――それが嬉しいくせに!
(うわあああ……っ!! もうこうなったら田中さんを嫉妬させてやる!)
(どうせどこかで見てるんだろうし、そうじゃなかったとしても誰かを連れて田中さんのところに行ってやる!!)
そもそも田中さんは口では振り回したいと言いながら、本当は振り回されたい人なのだ。
彼の『面白い』は彼の脚本通りに事が進まないこととイコール。
一体今どんなことを考えているのか分からないが、うじうじ悩むより何にしても全力でやった方が田中さんだって面白がる。
スポーツと同じだ。
(……良し、そうと決まれば皆さんに会いにいこう!)
彼らのことを利用するようで僅かに心が痛むけれど、こんなことは今日だけだから許して欲しい。


――しかし。
こうして悪の心を疼かせている時には彼らと中々出会えない。
(……神様が見ているのかも知れないけれど、ここは諦める訳にはいかない!!)
逸る心と共に足も速くなる。
きょろきょろと周りを見ながら足早に船の中を探索していると、
「……あ!」
見付けたのは後ろ姿でも分かる、加賀美楓真くんだった。
私は彼の下に駆け寄ると、声を掛けることにした。
「こんにちは!」
「……? あ、お姉さん」
「お久し振りです」
「お久し振り……? 一昨日、お会いしませんでしたか……?」
「……?」
「…………。すみません、眠りすぎてぼうっとしているのかも知れません」
「そ、そうですか」
寝込んでいた為少し驚いたけれど、彼がそう言うならきっとそうなのだろう。
彼は朝に起きて夜に寝る、ではなく、眠くなったら寝て起きたくなったら起きるという生活をしているようだから。
「…………」
「あの、今は何してらしたんですか?」
「……食事を摂ろうかと」
「! 良かったらご一緒してもいいですか?」
「……? ……ええ、構いません?」
(まだ少し寝ぼけてる……?)
少し不思議そうな顔をしていたが、楓真くんには特に断られることもなく。
私は歩いて行く彼についていくことにする。
彼はレストランに入ると相変わらずパンケーキを食べていた。
フルーツ増し増しで表情はあまり変わらない彼だが、ほんの少し嬉しそうに見える。
「……美味しいですか?」
「はい。……それよりお姉さんも食べたらどうですか?」
「……そ、そうですね」
目の前に来ている生クリーム乗せパンケーキのことも忘れ、この後を考えじっと見つめすぎてしまっていたかも知れない。
やや恥ずかしさに顔が熱くなったが、口説こうとする私の方が照れてどうする。
ふるふると頭を振ると、私はパンケーキを口に運ぶ。
「わぁ、甘くて美味しい! 沁みる……!」
「沁みる……?」
「久し振りに食事を摂った所為か、なんだかこう……幸せな気持ちなんです!」
「…………そう? ですか」
やはり不思議そうにしていたが、彼はそれ以上を何も突っ込んではこなかった。
だが振り返ってみれば食事ひとつに幸せを感じて口にする……というのもちょっと大げさだったかも知れない。
彼がフルーツを口にする姿を眺める。するとひとつのアイディアが頭を過ぎった。
(……そうだ!)
私は小さく切り分けたパンケーキに“これでもか!”という程にたっぷりとクリームをつけると……
「楓真くん」
「はい」
「あーん」
「……“あーん”?」
(え…………どうしよう、まさかの首を傾げられた!!)
「…………」
「…………」
フォークに刺されたままのパンケーキが宙に浮いている。
なんて恥ずかしい体勢だろうか。
「……よ、良かったら生クリームだけのパンケーキもどうですか? その、美味しいですよ……っ!」
「……お姉さんのを分けてくれる、ということですか?」
「う、うん……」
(ずっとこの体勢は辛いから、早く食べて……!?)
そんなことを願いながら必死になって笑顔を作りながら答えると、しかし楓真くんは……
「…………え?」
脇に回り、まさかの隣の席に座った。
一体何が始まるのか分からない私は思わず固まってしまってしまった……のだが、
「お気遣いなく」
言って、差し出した私の手を上から包み込むように添え、……フォークは私の口に運んだ。
すると先程よりもずっと甘いクリームの味が口いっぱいに広がった。
(な……んで、こんなことに……っ!?)
「お姉さんが節約生活を送っているのは分かっています。なのでお気遣いなく」
「は、はひ……」
彼は特段気にした様子もなく、再び手を離すと向かい側の席に腰を下ろした。
あまりに突然のことに目が眩んでしまった上に、胸までどきどきしてしまっている。
(……いや、違う。違うんだけどね、びっくりしすぎただけで……)
意識するといつまでも口の中に舌に残る甘さを感じてしまって恥ずかしい。
その上、
「良かったらどうぞ」
「え? これは……」
「キウイとオレンジとイチゴとバナナです。あとパンケーキの欠片」
「う、うん……でもこれこそ楓真くんのじゃ……」
「久し振りの食事? を摂っているとのことでしたので」
「…………あ、ありがとうございます」
最初は断るべきかとも思ったが、これはきっと彼なりの厚意だ。
それなら受け取った方が相手にだって失礼にならないだろう。
「……お、美味しいです!」
「……はい」
薄笑みを浮かべる楓間くんは、やはりどこか嬉しそうに見える。
「…………」
(……だめだ。これ以上今何か話すと、私の方が不自然になるような気がする)



――で、結局私は食事の後もひとりでいると。

……おかしい。
何だか私の方がときめかされてしまったような気がする……。
(……いや、次だよね! 次……の人こそきっと私のお色気で悩殺……っ!!)
(出来る程の身体がないから、何か……取り敢えず"何か”を頑張ろう!!)

楓真くんと別れた後、私は今度はまた別の人を探しに船内を歩き回っていた。
思った以上にゆっくりしてしまっていたらしく、気付けば空は茜色になっている。
(急がないと……っ!!)
……『私が一番欲している物』をなんだかんだ、結局気にしてしまっている私。
(もしかして誰か夕陽を見るようなロマンチストとか、いたりするかな……アミルさんとか?)
思い付くと同時に足はそちらに向かっている――。
(頼む、頼むから誰か甲板にいて……っ!!)

――すると。
(願いが通じた……っ!!)
頬杖を突きながら海を見つめる彼の姿は一際目立っていた。
何処かアンニュイな雰囲気が漂っているのは気の所為だろうか。
一瞬声を掛けることが躊躇われたが……
「……ジェレミアさん?」
“今がチャンスだ”という気持ちと心配する気持ちが混在した結果、そっと声を掛けるという結論に至る。
振り返る彼は先程までのどこか憂いた雰囲気は何処へやら。
目映いほどのスマイルで私を迎えてくれた。
「やあ、今日はお仕事お休み?」
「あ……はい、珍しく」
「そっか。本当大変だよね。君はいつも全力で頑張ってるから」
「いえ、それを言うならジェレミアさんも同じじゃないですか。芸能人ともなれば常に誰かに見られることを気にしないといけませんし」
「あはは、確かに。でも、それだけ僕を気にしてくれる人がいるってことは幸せなことだとも思うよ」
それを言われてしまえば確かにそうかも知れない。
けれど、大変なことには違いない。だからこそ、ここに『私人』として訪れているのだ。
「……何か、あったら話してくださいね。誰にも言わないので」
「……? どうしたの、急に」
「あ、すみません差し出がましいことを……。見てたら思わず口から漏れてしまったと言いますか、その……ただ、それだけの気概はあるというだけの……宣言です……かね……?」
「宣言……?」
「は……はい!」
思い付いたまま口にしてみたは良いものの、話していく内に少しずつ矛盾に気付き……
オチがおかしなことになってしまったが、ジェレミアさんが目の前で笑ってくれたから結果オーライということにする。
「それじゃあ僕も、同じくらいの気概で君に接しないとね」
「え……?」
「……全てが全て同等って訳にはいかないけどさ、僕を想ってくれる人には僕も全力で応えたいって思うんだよね」
「……それはファンの皆さんのことですか?」
「も、当然含まれてるよ。でもそこに限らず、僕を愛してくれる人には全力の愛を以てお返しするつもりでいるからね」
「…………」
(……この人を好きになれていたら、もっと純粋な自分でいられたような気もする)
(と言っても、それはそれできっと大変なんだろうけどね)
(どれだけ想っても、職業柄一人のものにはなれない人だから)
「という訳で、君も何かあったら話してね? 誰にも言わないから」
「え……?」
「そうしたらそれは僕達だけの秘密ってこと。宣言だよ?」
彼は人差し指でそっと私の唇に触れる。
思わず目を見開いてしまい……周囲をきょろきょろと見回してしまう。
「大丈夫だよ、もう日没の時間だ」
「……言われてみれば」
さっきまで赤かったはずの空が、気付けばあっという間に真っ暗になっている。
(そんなにゆっくりしてたかな……)
(……いや、集中してると思うより時間って早く過ぎたりするもんね)
(それにしても……)
「…………」
距離を縮めるにはこれはチャンスである。
彼に今更『女』を見せようとしたところで、無意味でもある。
(……そ、それにこういうのは友人関係としても大事なことだもんね!)
しかし何の相談をしようか。
……と、考え始めると頭に浮かんでしまうのはやはり“彼”のことで。

「あの……一筋縄ではいかない相手を好きになってしまったことって、ありますか?」
「それは君の悩み?」
「あ……いえ、と、友達の話ですよ!? 勿論!!」
「……そっか」
(わぁ、いい笑顔……)
「で、それって具体的にどんな感じなの? 立場的にイケナイ関係とか……?」
「あ、そういう訳ではないんですけど、ちょっと……特殊といいますか……」
「特殊?」
言葉で『田中さん』を言い表すのは難しい。
敷いて言えば『モンスター』に近い気がするが、そんなことを言われても困るのはジェレミアさんだ。
「……告白はしてるの?」
「えっと…………してます、ね。それで『悪くない』みたいな態度は取られてるんですけど……」
「“悪くない”?」
「いや、わた――友達が半ば押し切ったような形って聞きました。その熱意にやられた……んだと思います、相手は」
「……わお! それは凄いね、情熱的」
「そ、そう……ですね、多分……」
「でも、だからこそ『悪くない』って評価な訳だ」
「……そう、ですね」
(とはいえ、完全に押し切っている訳でもない……はず)
(彼が興味を持つ部分を私が強行突破して笑わせたから……それを貫けば傍においてくれる訳だし)
「答えを言えば、僕はそういう人を好きになったことはないけど……」
(! ……で、ですよね)
「でも、単純にその人が羨ましいなって思うよ」
「羨ましい?」
「だって、それってそれだけ愛されてるって証みたいなものでしょう?」
(そ、うなの……かな……)
「でも何より、その君の友達が羨ましい」
「え? それってどういう……」
「それだけ強い想いを持てることも、それを相手に素直に伝えることも出来る。様々な理由でそう出来ない人が沢山いる中で、その人は自分の気持ちに素直でいられる」
「ジェレミアさん……」
「相手がいることだからね、何もかも自分の思い通りって訳にはいかないと思うし大変なこともあると思うけどさ。でも……」
“それって幸せなことだと思わない?”
彼は笑顔でそう言った。
確かに、彼の立場に立ってみたらそう上手く事を運ぶことは出来ないのだろう……。
「それに、相手を根負けさせられる程の“好き”ってパッションを持てることも単純に羨ましいしね」
「……ジェレミアさんは、そういう気持ちを持ったことは?」
「残念ながらまだ未経験かな? これは君と僕だけの秘密だけど」
「……っ、す、すみません! アイドルにこんなプライベートなことを……」
「何言ってるの、君とだけの秘密を作れるっていうのはちょっと……いいじゃない?」
「? “いい”、というのは?」
「君が熱視線を向ける人がいるとしたら、ちょっとだけ横取り出来た気分だから」
「横取り……」
「そう、それこそ君にだって『相手がいる話』。絶対に成就はしないけど、雰囲気だけはちょっと禁断の関係っぽいでしょう?」
「…………」
惚けるようにじっと見つめてしまった私に向かって、彼は『現実』を思い起こすようにウィンクしてみせた。
実際に何か具体的なことを相談した訳ではなかったけれど、話を聞いて貰えて良かったと思う。
それに。
確かに恋愛とは『相手がいること』で成立するもの。
でも、私の中に生まれる気持ちは私だけの物だし、それを相手に向けた時に『相手がどう思うか』は別の話。
私は私の気持ちを大事にしたいし、それを受け取って欲しいと思う。
『愛』や『恋』を理解出来ないどころか『面白い』一点突破の人だったとしても、
それこそ相手が音を上げるまで、私は私の気持ちを彼にぶつけ続けたい。
大体それを『悪くない』と言ってるのは彼自身なのだから。
本人の言葉を借りるなら『私を面白いと感じてしまった田中さんが悪い』のだ、
「…………」
(……でもやっぱり、彼みたいな人を好きになれた方が幸せな気がする)
気がするだけで、どうすることも出来ないのが相談すべき本当の『悩み』なのかも知れない。
「少しはすっきりした?」
「はい、とても参考になりました! ありがとうございます!」
「そう、君に笑顔が戻って良かった」
当たり前のように頬に触れ、親指を優しく肌の上に滑らせる。
彼にとっては当たり前のスキンシップなのかも知れないが、やはり私には慣れない。
(……というか、これは楓真くんと同じコースを辿っているのでは!?)
(距離が近いと何となく……顔も熱くなってしまう……)
(それでも田中さんには謝らないけど)



――そして相変わらず一人へ。
それから他の人を探し回ったけれど、結果は何も変わらなかった。
アミルさんには優しくされ頭を撫でられ、ピアノを聞かせて貰っては心を癒されて。
何故この人を好きになれなかったのかと同じ感情を繰り返す。
溜め息を吐いていたら黄さんには『子供はとっとと寝ろ』と言われホットミルクを渡されてしまった。
その真意は分からないが、近頃は『優しさ』なんじゃないかと勝手に解釈している。
勿論、その方が自分の心に優しいからだ。


そんなことをしていると当然……
「もう23時45分……」
残り時間は僅か15分。
どうせどこかで見ているあの人に、焼きもちを焼かせようと走り回ってみたものの結果は惨敗。
その間に田中さん本人とは一度も顔を合わせることもなく。
一つ溜め息を吐いた。
諦めるつもりはない、とにかく彼を面白がらせれば良いのだ。
直接顔を合わせればどうにか力技でねじ伏せることだって出来るかも知れない。
「…………」
(それでもやっぱり疲れるのは疲れるんだけどね……)
すっかり温くなってしまったホットミルクを一気に飲み干し、改めて気合いを入れ直す。
そして田中さんの部屋の前に立ち扉をノックすると、ドアノブに手を掛けた。

挨拶と共に足を踏み入れると、パソコンの画面を見つめていた田中さんはこちらを向いて手を振った。
相変わらず余裕そうなその顔は、とても楽しそうに見える。
「おや、その様子はあまり結果は芳しくない、といったところでしょうか?」
「うっ……」
「残念でしたね。今日は僕の勝ちが決まったようなのでプレゼントは――」
「まだ15分あります」
「ほう……確かに仰る通りですね」
「最後まで全力でやった方が悔いも残りませんから」
「それでこそ僕の見込んだ貴方。……で、何をしてくださるんです?」
(わくわくしてるのが態度から伝わってくるんだからもうそれって楽しんでるんじゃないのかと!!)
「…………田中さんは、私のこと見てました?」
「ええ、見てましたよ。貴方には気付かれない程度に観察してました。お陰でコーヒーが美味しかったです」
「まるで酒の肴みたいな言いぐさを……」
「おや! それは言い得て妙ですね、さすがです!」
「それってもう楽しんでるじゃないですか! 私の勝ちですよね?」
「基準に満たないので却下です」
「ぐぬぬ……」
(なんて憎たらしい笑顔を……うう、だからと言って何も思い付かないし……!!)
(それならいっそのこそ全てぶちまけてやる……っ!!)
私は両手を腰に当てると、思い切り息を吸い込み……
「嫉妬させたいと思った訳です!!」
とはっきり言ってやった。
だというのに、彼は平然と返してくる。
「ええ、知ってましたよ。だって僕のことが大好きな貴方が私的な時間を使って他の男のところを回ってる訳ですからね」
「嫉妬心なんかは……」
「前にも言いましたけどそういうのはありませんね」
「ああ……ですよねー!!」
我ながら悲しくなってくるし、幾度となく繰り返す思い――“何故この人に惚れたのか”。
それでも目の前で憎らしく笑顔を見せる彼が好きなのだ。大好きなのだ。
「…………」
私は彼の手を握った。
そこには人の血が通っているし、温もりがある。
「でも僕から言葉を引き出す為だけに、諦めず一日中駆け回る貴方の姿は中々に可愛らしかったですよ」
「……でも、そういう私を面白がってませんよね」
「まぁ爆笑するようなことはありませんでしたけど……おっと、もう残り5分ですね」
ちょっとでも雰囲気が良くなった……なんて思うとすぐこれだ。
視線は時計に向いているし、まるで第三者目線で私を見ている。
「『何故目の前の貴方に惚れたのか』と、今日は何度思ったか分かりません」
「ほう」
「でも、彼らと言葉を交わす度に『貴方が好きだな』と思ってしまうんです。貴方がどんな風に思っていたとしても」
「ふむ」
「貴方がどんな人でも笑ってくれたら嬉しいし、貴方を笑わす為だけに全力投球出来てしまうんですよね!!」
「……ふふっ、実際こうして僕の元に帰ってきますからね」
僅かに口元を緩めるけれど、これでは恐らく足りないのだろう。
必死になって思いを伝えれば、受け取ってはくれている証はくれる。
ちらりと横目に時計を見れば、残りはもう1分。
……私が息をしている間にも、時が刻まれていく。

私は彼から手を離してその両頬に手を添えた。
そしてまだ触れたこともない唇に、思い切り自らの唇を押しつけた。

最早面白がらせるとかなんとか、考えられる余裕はなかった。
目の前で余裕ばかりぶちかますその顔を歪めてやりたい!!
これくらいしたっていいでしょう? 貴方も私に盲目になればいいんだ!

ゆっくりと唇を離すと、当たり前かも知れないが思うより顔が近かった。
息が当たって恥ずかしくなって、思い切り顔を離すと熱くなる頬を両手で押さえる。
すると……
「あっはははは! 確かにこれは悪くないですね!!」
「い、今のは笑うところじゃないですよね……!? 乙女の純情をなんだと――」
「僕の物でしょう?」
「え……」
「少なくとも貴方の中にある『乙女の純情』は僕のもの。違いますか?」
「……違いません」
「では考えてみてください? そんな純情な貴方が、我を忘れて愛の告白をしてくるんですよ?
 それも富も地位も名誉もある他の男のところを巡って、それでもそんな男より貴方に愛も恋も囁かない僕が良くてキスもする。
 その上、キスの後には照れ過ぎて顔を離して挙げ句の果てには両手で真っ赤な頬を覆うんですよ? 乙女の純情をこれ以上ないほど体現してました」
「……冷静に言葉にしないでください!」
「しますよ、何なら耳元で繰り返して差し上げます。だって今の貴方は面白い。……という訳でおめでとうございます、合格です!」
「……っ! 合格!?」
「一分前にヤケクソになる姿も中々良かったですね」
(……私の純情がコーヒーのお供にされてる)
一体何のつもりなのか、片手にはピースサインを作っている。
私の心は平穏どころか、台風が吹き荒れているというのに。
「では、貴方が一番欲しがっているものをプレゼントしましょう」
「あの……今更ですが、私が一番欲しがってるものって何なんですか?」
「それを貴方が聞くのはおかしな話では?」
「…………確かに」
「ということで、部屋に戻ってみてください。そこに貴方の一番欲しがってるものがありますよ」
(“一番欲しがってるもの”……)
ふと、頭に過ぎった一番欲しいものは目の前にあるという現実。
まだまだ彼も私のことを何も分かっていない。
そう考えれば彼のシナリオなんてまだまだ幾らでもひっくり返せるポテンシャルが私の中にはある気がした。
「ふふっ……」
「何を笑ってらっしゃるんですか?」
「さあ、何故でしょうね。精々答えのない私のことばかり考えていてください!」

私は今世紀最高かもしれない笑顔を残すと、田中さんの部屋を出た。
それはそれとして、一体田中さんが考える『私の一番欲しい物』とは何なのか。
単純にそれは気になった。
思うと自然に軽くなる足取りで、部屋に戻る。
すると、いつの間にか私のベッドの枕の上には一通の白い封筒が置かれていた。
「これは……」
逸る気持ちを抑えながらハサミで丁寧に封を切っていく。
すると中から出てきたのは、やはり何の飾り気もない一筆箋が一枚。
中には……

――カレンダーをご覧ください。
「え……?」
言われて素直に暦を見ると、今日の日付には……

『“追いかける 貴方が『知』る僕の『日』常 『春』の陽気は まだ遠い』
※短歌風に読むと読みやすいですよ!

という訳で、出てくる漢字をくっつけて僕の名前は“智春(ともはる)”です☆』
「これって……」
(田中さんのほ、本名……“ともはる”!?)
(ということは田中さんって『田中智春』って名前なの……!?)
(いや、“田中さん”自体が仮名って言ってたし、そもそも最初からフルネームを全部教えてくれるような人じゃ――……)
と、そこまで言ってふと気付いた。
「……今日って4月1日、エイプリルフールでは!?」
思わず声を上げてしまった。
では一体この名前はなんなのか、やっぱり仮名なのだろうか!?



「も、もう……田中さーーーーーーんっ!!!」



――Happy Merry Chirsmas!!