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※【 AGF2023に行ってみた。SS風ペーパー 】に掲載したテキストは全て2023/12/26 午前11時までの限定公開です
11月3日、某ホテル最上階にて。
「もう列に並んでるって呟きが……!」
数日前からのワクワクを何とか抑え、本番前日にぐっすり眠れて良かった!なんて喜んでいる場合じゃなかった。戦いは既に始まっているのだ。
スマホを置いて念入りに準備を始める。目的はお目当てのグッズを手に入れることとはいえ、隣に立ってくれるであろう人のことを考えたら気合いも入るというもの。
「アミルさん……! 待っててくださいね!!」
今回の為に無理を言って連れてきてもらった為、彼は一仕事終えてから合流する予定になっている。その間はずっとデーツさんが傍にいてくれた。
準備を整えて外に出ると、当然のように彼の姿が――。
「あ、アミルさん!?」
「やあ、おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「はい! こんなに良い部屋を取って頂いてありがとうございます。デーツさんもずっと見守ってくださって……って、あれ?」
いつもいてくれた彼の姿が見えない。
「少し離れた所から守ってくれるそうだよ。大丈夫、何も心配せず行こう」
「は、はい。すみません、我が侭を言って」
「謝る必要なんてないさ。君の言葉なら叶えてあげたいと思うのは当然だからね。それに、何でも言ってもらえる方が嬉しいよ」
「……何でも、良いんですか?」
「ああ。私が叶えられることで、相手は君限定だけれど」
「そんなこと言って……アミルさんに叶えられないことなんてないじゃないですか」
「そうかい? でも今日のお目当てはランダムだと聞いたよ? それを引き寄せられるかは運ということじゃないかな」
「そ、それは……そうですけど」
「もちろん制限がないなら好きなだけ買ってもらいたいけれど……それは君が望まないだろう?」
「お、お客さんも沢山いるでしょうからね。大丈夫です、欲しい物はたった一つですから」
「缶バッジだったかな? 何故か君の絵柄があるそうだね」
「そうなんです。何故かは本当に分からないんですけど。……でも、欲しいのはアミルさんの缶バッジですよ?」
「それは嬉しいね。でも、自分のこととはいえ少々妬けてしまうな」
「ふふ」
「それなら私も一つ挑戦させてもらおうか。もちろん君の絵柄狙いで」
「私の、ですか? ……当たったらどうするんですか?」
「うん? 缶バッジというのは身に付けるものではないのかな?」
「そうですけど……私の絵柄を、身に付けるんですか?」
「? そうだね」
「私がいるのに?」
「……ふふ、そうだね」
「わ、私がいても?」
「では、隣に並べるというのはどうかな?」
「えっ」
「君のと私の。まあお互い手に入れられなければ叶えられないけれど」
「そ、そうしましょう! 私、絶対にアミルさんを手に入れます!!」
「ああ、その意気だ。では行こうか」
自然な動作で差し出された腕に腕を絡め、私達は会場を目指した。
「? アミルさん、列はあっちじゃ……」
午後チケットの最後尾に並ぼうとしたのだけれど、彼は別の方へ進もうとしている。初めての場所で私も詳しくは分からないけれど、とりあえず腕を引いてみた。
「大丈夫さ、私達のチケットはこれだからね。はい、君の分のスマホだよ」
「あ、ありがとうございます。今回電子チケットで勝手がよく分からず……」
そう、今回のチケットには1人1台必須アイテムのスマホ。ここにチケットを表示させるということで専用のものをアミルさんが手配してくれたのだけれど。
「ファストチケット!?」
チケットといってもファスト、一般、午後とある。もちろん最上がファストだ。
「え? でもあの、私が誘った時にはもう申し込み時期過ぎてましたよ、ね?」
彼に叶えられないことなんてない。確かにそうだとは思っているけれど、流石に時間は戻せないだろう。それは人の力を超えてしまっている。
「実は今回のイベント、最初から君を誘おうと思っていたんだ」
「え……?」
「だから君から『一緒に行きませんか?』と誘ってもらえたことが嬉しくてね。改めて、私達の心は一つだと感じることが出来たよ」
「っ……そうだったんですね! 私も嬉しいです!!」
ファストチケットを用意してもらえたことは何よりだけれど、それ以上に私も彼と心が一つであったことが嬉しかった。
「本当にありがとうございます、アミルさん!」
「お礼を言うのは私の方さ。では今度こそ行こうか。列はあちらのようだよ」
「はいっ!!」
それからはスムーズに順番がやってきて、私達は会場内に足を運んだ。
お目当てのブースは……あそこだ!!
そしてそれぞれ掴んだ結果は――。
「そろそろ風が出てきたね。戻ろうか」
「もう、ですか? アミルさんも久し振りのお休みですし、ゆっくりしても……」
「ありがとう。でも君といられるならどこでも構わないんだ。水族館もプラネタリウムも綺麗だったし驚きもあったけれど、君のマジックほどじゃない。君以上に私を惹き付ける存在なんてないんだ」
「……私の缶バッジよりも、ですか?」
袋に入った二つの缶バッジ。一つはアミルさんの、もう一つは私のだ。
「価値があるのは君の絵が描かれているからで、缶バッジ自体に興味はないよ」
「じゃあ、例えば建物の中にあった噴水に私の映像が映し出されたら?」
会場に向かうまでに見た噴水広場を思い出す。
「そのまま全てを持って帰らせるよ。そうすればいつでも君が見られる。でももちろんそれは本物の君じゃない。映し出されなければただの水さ」
「…………」
「私達の国でいかに水が大切であるかは、一緒になってくれたから分かるだろう?」
「はい……。あの、ごめんなさ――」
謝ろうとしたらぎゅっと抱き締められた。慣れ親しんだ香りに包まれれば安心する。でもその優しさに甘えてはいけない。
「……ごめん、なさい」
「謝らないで欲しかったのに」
「いいえ、謝らないと。だってアミルさんの想いを疑うようなことを言ってしまいました」
「不安にさせてしまったのは私の方さ。……信じてくれたかい?」
「ええ。信じます」
「良かった」
目を閉じてそっと額を合わせれば、何も不安に思うことなんてなかった。
「私も、貴方以上に惹き付けられる存在なんていません」
「私の缶バッジよりも?」
「……アミルさんの缶バッジは、私の缶バッジと結婚してもらいます!」
「ふっ……あはは!」
ホテルに戻り、二人でも広すぎる部屋に足を踏み入れる。二つの缶バッジが入った袋をソファの上に置くと、後ろから抱き寄せられる。
「二人の結婚式は、私達の後でも良いかい?」
普段よりも低く囁かれる時は、本気の合図。
私は身を翻し、正面から彼に抱き付いた。
終わり
AGF2023に行ってみた。SS風ペーパー / ver.Money Parasite ~嘘つきな女~
登場人物 : アミル=サイード、運命の人
作 : 関口琴子