料理研究家の樋口直哉さんの名作レシピ記事に「最高の焼きそばの作り方」というものがある。
2019年の記事で、もう6年近く前のものになるが、今読んでもその求道のプロセスに感動させられる。*1
ところが惜しむらくはこの記事、参照用レシピとしては無視できない欠点がある。「最高の焼きそば」に至る思考の路程を活写した記事ではありつつ、その成果物であるところのレシピ本体については、実は明示的に書き切れていない。よくよく読めば正しくレシピを再現することができるのだが、実際に「どのタイミングで」「何を、どのくらい合成して」「どのタイミングでそれらを投入するのか」についての情報が、曖昧なままになっているのだ。
そこで、私が実際に、この6年前の名作レシピを先日*2再現した際に、終盤のレシピの記載を再構成したノートを共有する。このノートだけを見ても「樋口直哉の焼きそば2019」を再現することはできるし、本人の公開レシピより再現が容易になっている自負はある(そもそもそうした用途のために必要に駆られて作ったのだから)。それでもこのレシピとは別に、本人の原文を頭から通して読んでから、その心意気を垣間見た状態で作り始めることを推奨する。
▼「最高の焼きそば」(樋口2019〔原著〕;tricken 2025〔註釈〕)
レシピ記法に関する注意点:
- 明確に原文に不足していると感じる要素だけ、青字で強調している。
- 分数は適宜小数点に書き換えている。
- 分量の単位がグラムであることが自明な具材については、材料一覧でのみgを明記し、レシピ本編ではgを省略して単に数値のみ記載している。
- 「大さじ」「小さじ」は以下の略語で書き換えている。
材料一覧(調達するときはここを見る)*5
- 具材類(野菜・肉・麺など)
- もやし:100g
- キャベツ:150g
- 玉ねぎ:1/4個(60g〜80g相当)
- 豚バラ肉:80g
- 袋麺:2袋
- 調味料類
- ラード:大さじ1
- 天かす:30g
- ウスターソース〔※野菜炒め用〕:大さじ1
- 醤油〔※野菜炒め用〕:大さじ1/2
- 中濃ソース〔※焼きそば炒め用〕:大さじ2
- 醤油〔※焼きそば炒め用〕:大さじ1/2
- 砂糖〔※焼きそば炒め用〕:小さじ1
- 胡椒:適量
- トッピング類
- 鰹節:適量
- 青のり:好みで
- 紅生姜:好みで
- 中濃ソース〔※最後に追いソースする用〕:適量
調理手順
(1) 2つのソース準備セクション:
以下の配合で2つのソースを作成しておく。野菜炒め用がウスターソース、肉・麺炒め用が中濃ソース、と使い分けてそれぞれ調合していることに注意が必要だ。*6
- (1a) 野菜炒め用混合ソース:ウスターソース(ts1)+醤油(ts0.5)
- (1b) 後で焼きそばを焼き付ける際に掛ける混合ソース:中濃ソース(ts2)+醤油(ts0.5)+砂糖(s1)
- ※仕上げに掛ける分量外のソースは、単に中濃ソースを追いソースとして掛けるだけなので、事前準備の必要はない。*7
(2) 野菜炒めセクション:
- フライパンを強火にかけてラード(ts1)を溶かす。
- キャベツ150+玉ねぎ60〜80+もやし100を一気に炒める(熱が回復するまで触らない)。
- 片面加熱のイメージでひっくり返したら(1a) の野菜炒め用混合ソースを投入。
- 全体を和えてからボウルに開ける。
(3) 肉&麺炒めセクション:
- 袋麺2袋を電子レンジ20秒で温めておく。
- フライパンを弱火にかけて豚バラ肉80を炒め始める。このとき、分量外の塩コショウを入れても良い。
- 豚肉にある程度火が通ったら、滲み出てきた脂で先ほど温めた麺を焼く。火加減は弱火のまま。
- 豚肉が焦げそうになったら、麺の上に避難させ、さらに焼く。
- 麺の水分量が減ってきたら裏返して、ここで(1b) の肉・麺用混合ソースと天かす30を加え、箸で混ぜる。
- 20秒ほどで麺に絡む。
(4) 中間素材の合成:
- (2) の野菜炒めセクション終わりでボウルに開けておいた野菜系の中間素材を、再度フライパンに戻す。
- 火を止めて混ぜる。
(5) トッピング:
- 器に盛り付ける。
- 鰹節をかける。
- 中濃ソース(分量外)を少しかける。
- この時にかけるソースはブルドッグではなく、甘味の効いたソースの方が推奨される(樋口はトリイソース中濃を使用)
- ほか、青のり・紅生姜を上から好きなぶんだけ掛ける。好みにより、必要なければ省略してもよい。*8
▼追記:書籍レコメンド
このレシピの元になった樋口直哉さんは、現在科学料理マンガ『ヤンキー君と科学ごはん』の食事監修をしています。知識漫画としても、青春漫画としても面白く、おすすめです。2025-01-29の最新回は「ステーキ肉を焼くにはまず袋に入れた肉を40℃のお湯に5分間漬けて温度を上げておく」といった所から開始しています。
また、焼きそばといえば、塩崎省吾さんの以下の2冊が、近代日本の食文化に関する知的好奇心を満たしてくれ、おすすめです。
*1:この記事の基本線は、(1)「粉末ソースで作るより液体ソースで作る方がいいよ」という提案で構成されている。ところが続けて、(2)「ソース焼きそばの理想の味を決めるのは実は醤油」であると解き明かし、かつ実作に至って (3)「野菜を炒める際に採用するソースはウスターソースで、麺と肉を炒める際に採用するソースは中濃ソース」にまで至るくだりを読んでいると、単にレシピ記事以上のなにかのholicな印象を読者に与える。この鬼気迫る内容を、2024年連載開始の限界グルメOL漫画『限界OL霧切ギリ子』のグミと豚キムチの回(第14話)に例えたかぎろいさんのBluesky投稿でこの記事のことを思い出し、2025年02月の実作に至った。
*2:2025-02-03
*3:海外レシピでは一般に tsp. や tbs. などと略されることが多いが、ここではさらに短縮している。
*4:海外レシピでは一般に ts. と略されることが多いが、ここではさらに短くしている。
*5:個人的には、「買い物で材料を調達する時」と、「セクションごとに食材を投入する時」とで別々のリストを準備しておくことが多い。しかし今回は買い物用のレシピと割り切って並べた。樋口レシピ原文と違い、具材→調味料→トッピングの順序で並べ替えている。
*6:樋口2019原文では「2つのソースを作る」ことまでは明示されているが、それぞれの正確な分量、および正確な形・正確なタイミングを記載しきれていない点がある。
*7:ここまで青字で強調した3種のソースの区別とその配合、そしてこの後に出てくる投入タイミング、このすべてを明確に読み解くところが、樋口2019原文の核の部分であり、理解に至った瞬間に凄み、いや狂気さえ感じるところである。
*8:個人的には、紅生姜はあったほうがよい。今回のレシピとの相性が良い。