通信環境と端末の進化によって、SNSは文字から画像、動画をシェアするツールに変化した。動画時代を謳歌する10代はさらに新たなコンテンツを共有している。それが位置情報だ。常に相手とつながり続けることに抵抗はないのか。垣間見えたのは「今どこ?」の連絡すら面倒と感じる若者の心理だった。

「Zenly(ゼンリー)」を使いこなす若い世代は、位置情報も1つのコンテンツという認識なのかもしれない(写真/鈴木朋子)
「Zenly(ゼンリー)」を使いこなす若い世代は、位置情報も1つのコンテンツという認識なのかもしれない(写真/鈴木朋子)

アクションしなくても位置情報が伝えられる

 自分の知り合いが今どこにいるのか、地図上で24時間確認できるアプリがある。それが「Zenly(ゼンリー)」だ。2019年5月21日現在、Android版のダウンロード数は500万を突破し、App Storeでもソーシャルネットワーキング部門のランキングでLINEに次いで第2位につけている。

 Zenlyは2015年にフランスZenly社が開発した、電話番号やIDをベースにつながった人の現在地を確認できる位置情報共有アプリ。FacebookやWeChatにも位置情報を共有し、近くに友人がいる場合に通知される機能はある。しかしZenlyは位置情報の共有に特化し、お互いに現在地を“見せ合い続けている”のが特徴だ。

 なお、17年には写真共有アプリ「Snapchat」を運営する米Snap社がZenly社を買収し、その後Snapchatに「Snap Map」という同様の機能が盛り込まれた。Snapchatは日本の10代にも「スナチャ」の愛称で親しまれ、自撮り機能が人気だが、位置情報を共有する場合はZenlyが利用されることが多い。

 Zenlyが搭載する機能は、「自分の現在地を公開する」「友達になった人の現在地と滞在時間」「スマホの電池残量の確認」「メッセージの送受信」「近くにいる人との通話」など。さらに友達を3人以上登録すると、自分の位置情報を閲覧された回数を知ることができる。位置情報ゲームのような仕掛けもあり、自分の訪問した先は地図上で白く塗りつぶされていく。そのエリアで移動範囲が広い人はランキング上位として友達に表示されるので、競い合いも楽しい。画面デザインも非常にポップで、イベントがあるとアニメーションとともにスマホがバイブする仕掛けなど、楽しい雰囲気が満載のアプリに仕上がっている。

Zenly画面。友達の居場所、電池残量などが画面に表示される
Zenly画面。友達の居場所、電池残量などが画面に表示される

 女子中高生向けのマーケティング支援などを手がけるAMFが18年11月に発表した「JC・JK流行語大賞2018」では、アプリ部門の第3位に「Zenly」が入った(ちなみに第1位はTikTok)。同社によると、「今どこにいる? という連絡が省ける」点が評価され、上位にランクインされたとのこと。

 確かに若者はLINEなどのチャットでも自分の居場所を伝え続ける。スマホを使うようになって「待ち合わせをしなくなった」とよくいわれるが、若いスマホネイティブは特にこの傾向が顕著だ。「夜ご飯食べよう。どこ辺りで」程度は決めても、後はその場のノリや気分で決めていることが多い。「家出たよー」「私はまだ着替えてる」など、常にチャットでお互いの様子を把握している。

 そこに当てはまるのがZenlyだ。Zenlyなら文字すら打つ必要がない。常に自分の居場所が相手に伝わり、普段の生活を知っている相手なら何をしているかも推測できる。今日はバイトなのか、オフで家にいるのか、わざわざ伝える必要はない。友人と一緒にカラオケ店にいることがZenlyに表示されれば、「私も合流したい!」と別の友人が連絡してくる。こちらから誘うことは気が引けても、向こうから乗ってくればラッキーという場合もあるだろう。

LINEのビデオ通話もつながりっぱなしで生活する若者

 若い世代にとって、今の状況をネット経由で友達に見せることは日常だ。Instagramのストーリーズ(Stories)でライブ中継すれば、文字や画像で伝えなくても、「今誰とどこで何をしているか」を簡単に友人とシェアできる(関連記事「若い女性が夢中、Facebookの『ストーリー』って何?」)。

 LINEのビデオ通話もよく使われている。ずっとつなげていても無料なので、通話状態のまま端末を部屋に置いておき、勉強したりくつろいだりしながら、気が向いたら話すといった使い方だ。相手が誰でもそういう使い方をするわけではないが、「つながりっぱなし」であることにそれほど抵抗を感じないのだ。

 Twitterで「Zenly」を検索すると、「Zenlyやってる人つながろう」とIDの交換を呼び掛けている人が多い。友達の人数で機能が増えることもあるが、Zenlyを開いたときに表示される友達が少ないとつまらないからだろう。中高生のTwitterは知り合い同士でフォローし合っているケースが多いので、やみくもにつながるためにZenly IDの交換をしようとしているわけではないが、なかには赤の他人とつながっている人もいると思われる。

 Zenlyはよく滞在する場所に「家」アイコンを設置するため、他人に家がばれる可能性もある。自分の居場所を隠すモードも用意されているが、位置情報を固定するか曖昧にする手段しかないため、隠していることは周囲に知られる。

プライバシーの基準は細かく分かれている

 幼い頃からネットがそばにある若い世代にとって、オンラインとオフラインの違いは希薄だ。ネットでの顔出しは当たり前で、自分の名前、学校名、部活などをSNSに記す。「彼らにはプライバシーを守る気がない」と考える人もいるだろう。

 しかし、若い世代が全員Zenlyを歓迎していると考えるのは早計だ。プライベートの露出に抵抗が薄い世代ではあるが、常に位置情報を監視されるZenlyには拒否感を示す人も多い。大人と同じように、発信する情報を制御したいという考えだ。プライバシーに関してはすべての若者が緩いのではなく、それぞれが自分のポリシーを持っていると考えたほうがいいだろう。

 現在のスマホネイティブは、青春時代をネットと共存している初めての世代だ。「自分を知ってほしい」「でも全部は知られたくない」「友人と常につながっていたい」「でも干渉されるのはウザい」と常に揺れ動いている。はやりのサービスが登場しても、つまらないと感じたらすぐに去っていく。次に若者が何を面白いと感じるか、テクノロジーの進化と併せて、読み解く必要があるだろう。

■変更履歴
記事タイトルを「位置情報全見せアプリ「Zenly」が急成長 若者が夢中になる理由」から、「「Zenly」で友達に位置情報を全見せ 女子高生など若者が夢中」に修正しました。[2019/12/25 15:30]
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