Toyの覚え書き

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リメイク版「鉄腕アトム」第52話「アトムの初恋」

 1980年10月に始まったリメイク版「鉄腕アトム」は1981年12月に第52話で最終回を迎えました。最終回のタイトルは「アトムの初恋」というもので、タイトルバックも明るい雰囲気で始まってます。

アトム(鉄腕アトム)

 エピソード冒頭に手塚治虫氏自らが出演するプロローグがあって、「ある悲しい物語が」と言われているので、そんなに明るい話ではないと覚悟はできるのですが、結論から言えば悲惨な話です。

 アトムの原型となったロボットの設計図が盗まれていて、その設計図を取り戻しに、アトムがグロッタ共和国に潜入するのですが、そこで出会ったのが、ニョーカというロボットの女の子です。

ニョーカ

 物語の中盤で明らかにされるのが、そのニョーカこそ盗まれた設計図から作られたロボットで、中性子爆弾を内蔵したロボット爆弾だということでした。自爆スイッチを入れられたニョーカは爆発を止めるため(アトムを助けるため)、自ら解体されることを受け入れるのですが、解体されていくニョーカを見守るアトムがちょっとかわいそうです。

 アトムは残されたニョーカの足を自分の足と付け替えてもらったところで、物語は終わるのですが、私はこの話を見た数年後、鉄腕アトムが実に救いようのない悲惨な話が多いことに気がつきました。小学生の頃から好きで読んでいた原作のマンガですが、そのことに気づいてから、気楽に読めなくなったのです。

 ニョーカは爆発を止めるために解体されましたが、それはニョーカの死を意味していました。アトムはニョーカの死を悲しんでいましたが、アトムをねぎらうお茶の水博士は一言も、ニョーカを哀れんではいません。脚本を書いた手塚氏は、あえてここでお茶の水博士の冷徹さを表現したのだと思います。

 お茶の水博士はアトムの理解者のような立場ですが、決してそうではなく、事と次第によってはアトムを危険な場所へと送り込むことも辞さない、結構ドライな人です。そして、アトムの世界においては科学技術の善用を象徴するお茶の水博士は、殺戮破壊兵器であるニョーカは処分されて当然と思うはずです。お茶の水博士にとってはニョーカは存在を許せる対象ではないのです。

 リメイク版のアトムは原作に沿った話が多かったですが、一方ではアトムはかなり明るいよい子というイメージでした。原作ほど暗いイメージではありません。手塚氏はアニメ雑誌(1982年マイアニメ2月号)のインタビューの中で、アトムはよい子というイメージを覆したかったが、果たせなかったと残念がっておられましたが、最終回の脚本の中で、その怨念が爆発したような感じがします。

「鉄腕アトム」という作品は、そんなに明るい話ではないと、私が「鉄腕アトム」という作品を、より深く理解するきっかけとなったのが、この「アトムの初恋」でした。