喪黒福造「何なら、中国で本格的な料理修業をしてみませんか?」 中国人料理人「えっ、私が中国に行くんですか!?」
1: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:24:24.226 ID:Ksf8+LbyD
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
劉永漢(45) 料理人
【料理修業】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
劉永漢(45) 料理人
【料理修業】
ホーッホッホッホ……。」
2: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:25:00.359 ID:YlIlbZ590
期待していいのか
3: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:25:55.923 ID:nfXiDGx70
期待するぞ
4: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:26:19.493 ID:Ksf8+LbyD
テロップ「神奈川県、横浜中華街――」
数々の牌楼と、立ち並ぶ中国風建築物。街のシンボル・関帝廟。
街中をひしめく人の群れ。甘栗売りの男が、通行人に呼び込みをしている。
甘栗売り「甘栗、おいしいですよー。試食してみてくださいねー」
興味ありそうな表情で、甘栗売りの前に立つ若いカップル。カップルの側を通り過ぎる例の男――喪黒福造。
歩道にいる怪しい占い師の女が、喪黒に呼び込みを行う。
占い師「手相占いいかがですか?よく当たりますよー」
占い師の姿に目もくれず、そのまま立ち去る喪黒。
とある料理店では、観光客たちが食べ放題のサービスを堪能している。また、別の料理店も客でにぎわっている。
一方、場末の中華料理店『陽光軒』。通行人たちは、店に入ろうとせず素通りしていく。『陽光軒』の店内は客が全くいない。
客席のテーブルにいるのは、どうやらこの店の店主のようだ。昼間であるにも関わらず、店主は店で酒を飲んでいる。
数々の牌楼と、立ち並ぶ中国風建築物。街のシンボル・関帝廟。
街中をひしめく人の群れ。甘栗売りの男が、通行人に呼び込みをしている。
甘栗売り「甘栗、おいしいですよー。試食してみてくださいねー」
興味ありそうな表情で、甘栗売りの前に立つ若いカップル。カップルの側を通り過ぎる例の男――喪黒福造。
歩道にいる怪しい占い師の女が、喪黒に呼び込みを行う。
占い師「手相占いいかがですか?よく当たりますよー」
占い師の姿に目もくれず、そのまま立ち去る喪黒。
とある料理店では、観光客たちが食べ放題のサービスを堪能している。また、別の料理店も客でにぎわっている。
一方、場末の中華料理店『陽光軒』。通行人たちは、店に入ろうとせず素通りしていく。『陽光軒』の店内は客が全くいない。
客席のテーブルにいるのは、どうやらこの店の店主のようだ。昼間であるにも関わらず、店主は店で酒を飲んでいる。
5: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:28:13.694 ID:Ksf8+LbyD
テロップ「劉永漢(45) 料理人・『陽光軒』店主」
劉(この店も、俺の代で終わりか……)
酒で酔い潰れ、赤ら顔をしている劉。彼は虚しそうな表情をしている。
『陽光軒』の玄関の戸が開き、店の中に喪黒が入る。喪黒の姿に気付く劉。
劉「ああ、いらっしゃいませ……」
慌てて喪黒に水とおしぼりを渡す劉。メニューを見る喪黒。
喪黒「ホイコーロー定食で……」
劉「かしこまりました……」
厨房に立つ劉。酔っ払ってはいるものの、料理を作る様子は手なれている。
喪黒のいる席にホイコーロー定食を運ぶ劉。劉が作った定食を一人で食べる喪黒。
食事が終わり、レジの前に立つ喪黒。
劉「お会計ですか?」
劉(この店も、俺の代で終わりか……)
酒で酔い潰れ、赤ら顔をしている劉。彼は虚しそうな表情をしている。
『陽光軒』の玄関の戸が開き、店の中に喪黒が入る。喪黒の姿に気付く劉。
劉「ああ、いらっしゃいませ……」
慌てて喪黒に水とおしぼりを渡す劉。メニューを見る喪黒。
喪黒「ホイコーロー定食で……」
劉「かしこまりました……」
厨房に立つ劉。酔っ払ってはいるものの、料理を作る様子は手なれている。
喪黒のいる席にホイコーロー定食を運ぶ劉。劉が作った定食を一人で食べる喪黒。
食事が終わり、レジの前に立つ喪黒。
劉「お会計ですか?」
6: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:30:16.173 ID:Ksf8+LbyD
喪黒「あの……。ちょっと気になったことがあるんですが……」
劉「は、はあ……」
喪黒「あなた、昼間から店内で酒を飲んでいましたよねぇ……」
劉「す、すみません……」
喪黒「おそらく、酒を飲まずにはいられない何かの事情があるのでしょう」
劉「ええ、その通りです……。何と言っても、店のやりくりに苦労していて……」
喪黒「そうですか……。あなたの心にもスキマがおありのようですなぁ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
劉「……ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
劉「人生相談とか、そういったお仕事ですか?」
喪黒「どちらかというと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
劉「は、はあ……」
喪黒「あなた、昼間から店内で酒を飲んでいましたよねぇ……」
劉「す、すみません……」
喪黒「おそらく、酒を飲まずにはいられない何かの事情があるのでしょう」
劉「ええ、その通りです……。何と言っても、店のやりくりに苦労していて……」
喪黒「そうですか……。あなたの心にもスキマがおありのようですなぁ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
劉「……ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
劉「人生相談とか、そういったお仕事ですか?」
喪黒「どちらかというと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
7: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:32:17.231 ID:Ksf8+LbyD
『陽光軒』。店のテーブルで会話をする喪黒と劉。
喪黒「ほう……。劉さんは先祖代々、料理人の一族なのですか」
劉「はい。『陽光軒』は祖父がこの地で開業した店であり、私で三代目になります」
喪黒「さすが……。一族を通じて料理人であるおかげか、あなたも料理の腕は割といいようですなぁ」
劉「ありがとうございます……」
喪黒「それにも関わらず、この店が繁盛しているようにはとても見えませんし……」
「何しろ、あなたは店のやりくりに苦労して酒に溺れていますよねぇ……」
劉「ええ、そうですよ。今日、この店に入ったお客様はあなたたった1人だけですから……」
喪黒「劉さんの料理店は、老舗の食堂屋として中華街で細々とやってきました」
「しかしながら、食べ放題の店が増えたことにより、客が次第に減っていった……というわけですよねぇ?」
劉「おっしゃる通りです。格安の食べ放題の店が増えたおかげで、中華街から老舗の料理店は前よりも減りました」
喪黒「格安で食べ放題の店は、大衆受けがいいですからねぇ……。ただ、一方で言えるのは……」
「劉さんのお店は、値は張るものの質の高い料理を作ってきた……ということでもあります」
喪黒「ほう……。劉さんは先祖代々、料理人の一族なのですか」
劉「はい。『陽光軒』は祖父がこの地で開業した店であり、私で三代目になります」
喪黒「さすが……。一族を通じて料理人であるおかげか、あなたも料理の腕は割といいようですなぁ」
劉「ありがとうございます……」
喪黒「それにも関わらず、この店が繁盛しているようにはとても見えませんし……」
「何しろ、あなたは店のやりくりに苦労して酒に溺れていますよねぇ……」
劉「ええ、そうですよ。今日、この店に入ったお客様はあなたたった1人だけですから……」
喪黒「劉さんの料理店は、老舗の食堂屋として中華街で細々とやってきました」
「しかしながら、食べ放題の店が増えたことにより、客が次第に減っていった……というわけですよねぇ?」
劉「おっしゃる通りです。格安の食べ放題の店が増えたおかげで、中華街から老舗の料理店は前よりも減りました」
喪黒「格安で食べ放題の店は、大衆受けがいいですからねぇ……。ただ、一方で言えるのは……」
「劉さんのお店は、値は張るものの質の高い料理を作ってきた……ということでもあります」
9: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:34:19.000 ID:Ksf8+LbyD
劉「はい。とはいえ……、この中華街に多くの観光客が訪れている現在は……」
「大衆受けするものに、商売のやり方を変えるべきなのかもしれません」
喪黒「でも、料理の質を落としたくないという気持ちも一方でおありでしょう」
劉「そうですよ。結局……。私は時流に乗れず、敗北者になったということでしょうね……」
喪黒「劉さん、諦めるのはまだ早いですよ。あなたが料理人として立ち直る余地はまだありますから……」
劉「お気持ちはありがたいんですが……、私にはどうすることもできませんよ」
喪黒「大丈夫です。私が何とかしてあげましょう」
劉「なっ……!?」
喪黒「劉さん。何なら、中国で本格的な料理修業をしてみませんか?」
劉「えっ、私が中国に行くんですか!?」
喪黒「そうです。何しろ、中国は中国料理の本場の地でもありますから……」
「この国で修行すれば、あなたは今以上に料理の腕前を身につけることができます」
「しかも……。経済発展が目覚ましく、競争が盛んな中国で店のやりくりを学ぶことにより……」
「あなたは店を経営するためのコツも掴むことができます」
劉「うーーーん……」
「大衆受けするものに、商売のやり方を変えるべきなのかもしれません」
喪黒「でも、料理の質を落としたくないという気持ちも一方でおありでしょう」
劉「そうですよ。結局……。私は時流に乗れず、敗北者になったということでしょうね……」
喪黒「劉さん、諦めるのはまだ早いですよ。あなたが料理人として立ち直る余地はまだありますから……」
劉「お気持ちはありがたいんですが……、私にはどうすることもできませんよ」
喪黒「大丈夫です。私が何とかしてあげましょう」
劉「なっ……!?」
喪黒「劉さん。何なら、中国で本格的な料理修業をしてみませんか?」
劉「えっ、私が中国に行くんですか!?」
喪黒「そうです。何しろ、中国は中国料理の本場の地でもありますから……」
「この国で修行すれば、あなたは今以上に料理の腕前を身につけることができます」
「しかも……。経済発展が目覚ましく、競争が盛んな中国で店のやりくりを学ぶことにより……」
「あなたは店を経営するためのコツも掴むことができます」
劉「うーーーん……」
10: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:36:15.701 ID:Ksf8+LbyD
喪黒「今以上に料理の腕前が身につき、その上、店を繁盛させるためのコツも身につけることもできますから……」
「中国大陸での料理修行は……。劉さんにとっては、まさに一石二鳥というわけです」
劉「言われてみれば、そうかもしれませんね……」
喪黒「じゃあ、決まりです!劉さん、中国へ行ってみましょう!」
劉「そうなると、この店は……」
喪黒「残念ながら、畳むしかないでしょう」
劉「やはり、そうせざるを得ませんか……。先祖代々続いた店を閉めるのは惜しいですね……」
喪黒「ですが、修行がうまくいけば……。あなたは今の店よりも、しっかりした店を持つことができます」
「料理人としても経営者としても一流になることこそ、あなたの先祖への供養になると私は思いますよ」
劉「分かりました……」
上空を飛ぶ旅客機。飛行機の客席の中には劉がいる。
劉(この修行で、料理人として立ち直ることができるのなら……。自分としてはまさに本望……)
「中国大陸での料理修行は……。劉さんにとっては、まさに一石二鳥というわけです」
劉「言われてみれば、そうかもしれませんね……」
喪黒「じゃあ、決まりです!劉さん、中国へ行ってみましょう!」
劉「そうなると、この店は……」
喪黒「残念ながら、畳むしかないでしょう」
劉「やはり、そうせざるを得ませんか……。先祖代々続いた店を閉めるのは惜しいですね……」
喪黒「ですが、修行がうまくいけば……。あなたは今の店よりも、しっかりした店を持つことができます」
「料理人としても経営者としても一流になることこそ、あなたの先祖への供養になると私は思いますよ」
劉「分かりました……」
上空を飛ぶ旅客機。飛行機の客席の中には劉がいる。
劉(この修行で、料理人として立ち直ることができるのなら……。自分としてはまさに本望……)
11: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:38:17.675 ID:Ksf8+LbyD
テロップ「中華人民共和国――」
空港で、案内役の人物と会う劉。いつの間にか劉は、案内役が運転する車の助手席に乗っている。
劉(ずいぶん遠くへと向かっているな……)
とある地方都市。広めの公園を歩く案内役と劉。
劉「ここに、私の料理修業の師匠がいるのですか……?」
案内役「そうです」
公園の広場には、太極拳を行う年配の市民たちの姿が見える。太極拳グループを見つめる劉。
グループから離れた一人の初老男性が、樹木の側で太極拳をしている。
テロップ「呉源宝(60) 料理人」
案内役「こんにちは。呉老師」
太極拳の動きを止めて、案内役と劉に向き合う呉。
呉「これはこれは……」
空港で、案内役の人物と会う劉。いつの間にか劉は、案内役が運転する車の助手席に乗っている。
劉(ずいぶん遠くへと向かっているな……)
とある地方都市。広めの公園を歩く案内役と劉。
劉「ここに、私の料理修業の師匠がいるのですか……?」
案内役「そうです」
公園の広場には、太極拳を行う年配の市民たちの姿が見える。太極拳グループを見つめる劉。
グループから離れた一人の初老男性が、樹木の側で太極拳をしている。
テロップ「呉源宝(60) 料理人」
案内役「こんにちは。呉老師」
太極拳の動きを止めて、案内役と劉に向き合う呉。
呉「これはこれは……」
14: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:40:16.032 ID:Ksf8+LbyD
案内役が運転する車に乗る呉と劉。
案内役「呉老師は伝説的な料理人であり……。何よりも、多くの弟子たちを育てた人物としても知られています」
劉「さすがですね……」
呉「まあ、何と言うか……。今の私は、料理人を育てる仕事が中心ですから……」
とあるホテルの料理店。多くの客でにぎわう店内。テーブルで料理を食べる呉、案内役、劉。
劉「ここの料理、なかなかおいしいですね……。料理人の私が思わず感心するほどのでき栄え……」
案内役「この店のシェフは、呉老師の弟子の一人なんですよ」
劉「そ、そうなんですか……」
呉「彼がここまで一人前になってくれて、本当によかったよ」
案内役「ただし、呉老師による料理修業は非常に厳しいですよ」
劉「それは覚悟していますよ。でも……。修行を成し遂げて、料理人として一流になりたいんです!」
呉「あなた、気にいったよ。明日から、私のもとで修業しなさい」
案内役「呉老師は伝説的な料理人であり……。何よりも、多くの弟子たちを育てた人物としても知られています」
劉「さすがですね……」
呉「まあ、何と言うか……。今の私は、料理人を育てる仕事が中心ですから……」
とあるホテルの料理店。多くの客でにぎわう店内。テーブルで料理を食べる呉、案内役、劉。
劉「ここの料理、なかなかおいしいですね……。料理人の私が思わず感心するほどのでき栄え……」
案内役「この店のシェフは、呉老師の弟子の一人なんですよ」
劉「そ、そうなんですか……」
呉「彼がここまで一人前になってくれて、本当によかったよ」
案内役「ただし、呉老師による料理修業は非常に厳しいですよ」
劉「それは覚悟していますよ。でも……。修行を成し遂げて、料理人として一流になりたいんです!」
呉「あなた、気にいったよ。明日から、私のもとで修業しなさい」
17: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:42:14.910 ID:Ksf8+LbyD
ある店の厨房で、呉から指導を受ける劉。劉が作った料理を試食する呉と料理人たち。
呉「劉、あなたは荒削りながら、なかなか見込みがあるね」
劉「あ、ありがとうございます……」
とある部屋で、呉と一緒に腕立て伏せをする劉。また、劉は公園で呉とともに太極拳を行う。
呉「料理は肉体労働でもあるから、料理人には体力が必要だよ。劉……」
劉「は、はあ……」
ある山。森の中を行く呉と劉。ひょうひょうとした呉と、へたばった表情の劉。
呉「味のいい料理を作るためには、質のいい食材を選ぶことが大事だ」
「こういった大自然の中は、質のいい食材の宝庫でもあるからな……」
ある大都市。ビル街の中のある料理店。店の中には、呉と劉がいる。
呉「劉。しばらくの間、この店を営んでみてはどうかね?」
劉「えっ!?私がですか?」
呉「劉、あなたは荒削りながら、なかなか見込みがあるね」
劉「あ、ありがとうございます……」
とある部屋で、呉と一緒に腕立て伏せをする劉。また、劉は公園で呉とともに太極拳を行う。
呉「料理は肉体労働でもあるから、料理人には体力が必要だよ。劉……」
劉「は、はあ……」
ある山。森の中を行く呉と劉。ひょうひょうとした呉と、へたばった表情の劉。
呉「味のいい料理を作るためには、質のいい食材を選ぶことが大事だ」
「こういった大自然の中は、質のいい食材の宝庫でもあるからな……」
ある大都市。ビル街の中のある料理店。店の中には、呉と劉がいる。
呉「劉。しばらくの間、この店を営んでみてはどうかね?」
劉「えっ!?私がですか?」
18: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:44:20.811 ID:Ksf8+LbyD
呉「そうだ。どうやって客を集め、どんな風に店を栄えさせるかを……」
「自分の頭で考えながらやってみなさい」
劉「は、はい……」
テロップ「1年後、横浜中華街――」
エキゾチックな街並みの中、ところどころ日本語の看板も見える。街は、今日も多くの観光客でにぎわっている。
再びこの街を訪れる喪黒。喪黒の片手には、赤い表紙のミシュランガイドが握られている。
中華料理レストラン『新生陽光』の中に入る喪黒。
喪黒「私は、ここの店主の劉さんと顔見知りなんです」
ウェイトレス「えっ、そうなんですか?」
喪黒「私の連絡先を書いたメモを、店主に渡しておこうと思います」
ウェイトレスにメモを渡す喪黒。メモには、BAR「魔の巣」の住所がボールペンで書かれている。
しばらくした後、喪黒のテーブルに中華料理のフルコースが運ばれてくる。食事を行う喪黒。
「自分の頭で考えながらやってみなさい」
劉「は、はい……」
テロップ「1年後、横浜中華街――」
エキゾチックな街並みの中、ところどころ日本語の看板も見える。街は、今日も多くの観光客でにぎわっている。
再びこの街を訪れる喪黒。喪黒の片手には、赤い表紙のミシュランガイドが握られている。
中華料理レストラン『新生陽光』の中に入る喪黒。
喪黒「私は、ここの店主の劉さんと顔見知りなんです」
ウェイトレス「えっ、そうなんですか?」
喪黒「私の連絡先を書いたメモを、店主に渡しておこうと思います」
ウェイトレスにメモを渡す喪黒。メモには、BAR「魔の巣」の住所がボールペンで書かれている。
しばらくした後、喪黒のテーブルに中華料理のフルコースが運ばれてくる。食事を行う喪黒。
19: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:46:31.765 ID:Ksf8+LbyD
BAR「魔の巣」。喪黒と劉が席に腰掛けている。
喪黒「劉さん。『新生陽光』での料理、おいしかったですよ。さすが、ミシュランに載るだけのことはありますなぁ」
劉「お褒めいただき、誠に恐縮です……」
喪黒「中国での料理修業は、見事な形で成果を上げたようですねぇ。劉さん」
劉「ええ。私の料理の腕は見違えるように上がりましたし、店を経営するためのコツも掴むことができました……」
喪黒「それはよかったですなぁ」
劉「何もかも喪黒さんのおかげです。喪黒さんには本当に感謝しています」
喪黒「どういたしまして。ですがねぇ……。私はあなたに、どうしても言っておきたいことがあるのですよ」
劉「は、はあ……」
喪黒「劉さん。あなたは料理人として、すでに完成されていますから……。何も心配することはありません」
「今以上に完璧な境地を求めようとすると、きりがないですから……」
劉「はい……」
喪黒「劉さん、私と約束してください。中国での料理修業は、昨年行った1回のみにしておいてください」
「料理人としては、あくまでも今のままの生活で満足しておくべきです。いいですね!?」
喪黒「劉さん。『新生陽光』での料理、おいしかったですよ。さすが、ミシュランに載るだけのことはありますなぁ」
劉「お褒めいただき、誠に恐縮です……」
喪黒「中国での料理修業は、見事な形で成果を上げたようですねぇ。劉さん」
劉「ええ。私の料理の腕は見違えるように上がりましたし、店を経営するためのコツも掴むことができました……」
喪黒「それはよかったですなぁ」
劉「何もかも喪黒さんのおかげです。喪黒さんには本当に感謝しています」
喪黒「どういたしまして。ですがねぇ……。私はあなたに、どうしても言っておきたいことがあるのですよ」
劉「は、はあ……」
喪黒「劉さん。あなたは料理人として、すでに完成されていますから……。何も心配することはありません」
「今以上に完璧な境地を求めようとすると、きりがないですから……」
劉「はい……」
喪黒「劉さん、私と約束してください。中国での料理修業は、昨年行った1回のみにしておいてください」
「料理人としては、あくまでも今のままの生活で満足しておくべきです。いいですね!?」
20: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:48:17.755 ID:Ksf8+LbyD
劉「わ、分かりました……。喪黒さん」
横浜中華街、『新生陽光』。弟子の料理人たちとともに厨房に立つ劉。
料理を作りながら、若い料理人に何かを教える劉。
劉(自分が、若者にものを教える立場になるとはな……。俺も年を取ったものだ……)
テロップ「中華人民共和国、上海――」
とある大型の料理店。テーブルに向かう劉と弟子の料理人たち。
弟子の料理人A「ここは、ミシュランに載っている有名な店ですよね」
劉「ああ。それだけでなく、この店の店主は呉老師の弟子でもあるんだ」
劉と弟子たちの元へ、料理のフルコースが運ばれてくる。料理を食べる一同。
弟子の料理人B「おいしい!!」
劉(こ、これは……。私が作った料理よりも質が上回っている……)
横浜中華街、『新生陽光』。弟子の料理人たちとともに厨房に立つ劉。
料理を作りながら、若い料理人に何かを教える劉。
劉(自分が、若者にものを教える立場になるとはな……。俺も年を取ったものだ……)
テロップ「中華人民共和国、上海――」
とある大型の料理店。テーブルに向かう劉と弟子の料理人たち。
弟子の料理人A「ここは、ミシュランに載っている有名な店ですよね」
劉「ああ。それだけでなく、この店の店主は呉老師の弟子でもあるんだ」
劉と弟子たちの元へ、料理のフルコースが運ばれてくる。料理を食べる一同。
弟子の料理人B「おいしい!!」
劉(こ、これは……。私が作った料理よりも質が上回っている……)
21: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:50:18.407 ID:Ksf8+LbyD
テロップ「横浜中華街――」
帰国し、街の中を歩く劉と弟子たち。
劉「呉老師は、私よりも腕のいい料理人を育てていたのか……。やられた……」
弟子の料理人A「気にすることはありませんよ。劉さんは、横浜中華街ではトップクラスの料理の腕前ですから……」
劉「私も料理人なら、あのような上級の品質の料理を作ってみたい。それどころか、あれを追い越した極上のものを……」
弟子の料理人B「大丈夫です。劉さんなら作れますよ」
劉「いや。あそこまでのレベルの料理を作るには、もう少し修行が必要かもしれない……」
劉の頭の中に、喪黒の忠告が思い浮かぶ。
(喪黒「中国での料理修業は、昨年行った1回のみにしておいてください」)
劉「ううむ……」
『新生陽光』。大勢の客たちでにぎわう店内。
客たち「この店の料理、最高だね!」「ああ。さすがはミシュランに載った店だよな」
帰国し、街の中を歩く劉と弟子たち。
劉「呉老師は、私よりも腕のいい料理人を育てていたのか……。やられた……」
弟子の料理人A「気にすることはありませんよ。劉さんは、横浜中華街ではトップクラスの料理の腕前ですから……」
劉「私も料理人なら、あのような上級の品質の料理を作ってみたい。それどころか、あれを追い越した極上のものを……」
弟子の料理人B「大丈夫です。劉さんなら作れますよ」
劉「いや。あそこまでのレベルの料理を作るには、もう少し修行が必要かもしれない……」
劉の頭の中に、喪黒の忠告が思い浮かぶ。
(喪黒「中国での料理修業は、昨年行った1回のみにしておいてください」)
劉「ううむ……」
『新生陽光』。大勢の客たちでにぎわう店内。
客たち「この店の料理、最高だね!」「ああ。さすがはミシュランに載った店だよな」
22: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:50:56.378 ID:27OGy3xHa
横浜中華街でミシュランってよっぽどだよね
23: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:53:42.718 ID:Ksf8+LbyD
弟子の料理人たちと厨房に立つ劉。
劉(俺の腕前はまだまだ、上海のあの店の水準には達していない……)
数か月後。BAR「魔の巣」。喪黒と劉が席に腰掛けている。
劉「あの、喪黒さん……。もう1度、中国で料理修業をしたいのですが……」
喪黒「いいえ、なりません。あの料理修業は1度のみにしておくのが、私との約束でしたよねぇ」
劉「で、ですが、喪黒さん……。私よりも優秀な料理人の存在を、上海で知りました!」
「何より、彼もまた呉老師の弟子だったのです……!私は、あの時のショックを今も忘れていません!」
喪黒「まあまあ、劉さん……。あなたは今のままでも、料理人としては超一流ですから……」
「今以上に完璧な境地を追い求めなくても、社会で十分通用しますよ」
劉「いえ、喪黒さん……!私はどうしても……。上海のあの店の水準に追いつき、追い越したいんですよ!」
「だから、もう1度だけ中国で料理修業をしたいんです!!せめて、もう1度だけ……」
喪黒「仕方ないですねぇ……。では、今回は特別にあと1度だけ料理修業を認めましょう」
「ただし……、あなたに何が起きても私は知りませんよ!!」
劉(俺の腕前はまだまだ、上海のあの店の水準には達していない……)
数か月後。BAR「魔の巣」。喪黒と劉が席に腰掛けている。
劉「あの、喪黒さん……。もう1度、中国で料理修業をしたいのですが……」
喪黒「いいえ、なりません。あの料理修業は1度のみにしておくのが、私との約束でしたよねぇ」
劉「で、ですが、喪黒さん……。私よりも優秀な料理人の存在を、上海で知りました!」
「何より、彼もまた呉老師の弟子だったのです……!私は、あの時のショックを今も忘れていません!」
喪黒「まあまあ、劉さん……。あなたは今のままでも、料理人としては超一流ですから……」
「今以上に完璧な境地を追い求めなくても、社会で十分通用しますよ」
劉「いえ、喪黒さん……!私はどうしても……。上海のあの店の水準に追いつき、追い越したいんですよ!」
「だから、もう1度だけ中国で料理修業をしたいんです!!せめて、もう1度だけ……」
喪黒「仕方ないですねぇ……。では、今回は特別にあと1度だけ料理修業を認めましょう」
「ただし……、あなたに何が起きても私は知りませんよ!!」
24: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:56:10.212 ID:Ksf8+LbyD
喪黒は劉に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
劉「ギャアアアアアアアアア!!!」
テロップ「中華人民共和国――」
案内役と劉が乗る車が、高速道路を走る。例の公園で、呉源宝と再会する劉。
呉「2度目の料理修業は、1度目よりもはるかに厳しいものです。それでも耐えられますか?」
劉「もちろんです。どんなに厳しい修行であっても、私はやり抜いてみようと思います」
1週間後。山の中を行く呉と劉。劉は獣の唸り声を耳にし、違和感を感じる。
劉「こ、ここは……。ああっ!!」
呉と劉の周りには、虎が2匹いる。2人の前に迫りくる2匹の虎。脅えた表情の劉と、落ち着いた表情の呉。
襲いかかる虎に対し、呉による拳と蹴りが次々と命中する。呉に虎が倒されたのを見て、残り1匹の虎はひるんだ様子になる。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
劉「ギャアアアアアアアアア!!!」
テロップ「中華人民共和国――」
案内役と劉が乗る車が、高速道路を走る。例の公園で、呉源宝と再会する劉。
呉「2度目の料理修業は、1度目よりもはるかに厳しいものです。それでも耐えられますか?」
劉「もちろんです。どんなに厳しい修行であっても、私はやり抜いてみようと思います」
1週間後。山の中を行く呉と劉。劉は獣の唸り声を耳にし、違和感を感じる。
劉「こ、ここは……。ああっ!!」
呉と劉の周りには、虎が2匹いる。2人の前に迫りくる2匹の虎。脅えた表情の劉と、落ち着いた表情の呉。
襲いかかる虎に対し、呉による拳と蹴りが次々と命中する。呉に虎が倒されたのを見て、残り1匹の虎はひるんだ様子になる。
25: 名無しさん 2018/10/03(水) 21:59:39.956 ID:Ksf8+LbyD
呉「さあ、劉……。あなたも生身で虎と戦ってください」
「自分の力で虎を倒し、これを料理して食べるのが今日の修業ですよ」
劉「ええっ!?さ、さすがの私も、そんなことは無理ですよ……」
呉「劉……。あなたは『どんなに厳しい修行であっても、やり抜く』と私に言いましたね?」
「その言葉通り、ここにいる虎と戦いなさい。修行を成し遂げ、今以上の料理人になりたいでしょう?」
劉「……分かりました。こうなった以上、やるしかありません……。ウオオオオオオッ!!!」
叫び声を上げ、生身のまま虎に立ち向かう劉。劉の声を聞き、彼に襲いかかろうとする虎。
横浜中華街。善隣門の前にいる喪黒。
喪黒「そもそも、人間にはものを食べる機能が備わっていますが……。人間と動物は、食べることに対して決定的な違いがあります」
「動物の食事は、本能のまま、ただ腹を満たすだけですが……。人間の食事は、作る方も食べる方も何かしらの形で頭を使います」
「だから……。料理文化は、人間が長い歴史をかけて築いた知恵の蓄積であり、身近でありつつも貴重な宝と言えるかもしれません」
「とはいえ、料理の修業は非常に厳しいものですから……。プロの料理人になるには、並大抵でない苦労を味わうのも確かです」
「果たして、劉さんは2度目の料理修業を成し遂げて、日本へ帰って来れるでしょうか?彼が、無事に帰国できればいいですけどねぇ……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
「自分の力で虎を倒し、これを料理して食べるのが今日の修業ですよ」
劉「ええっ!?さ、さすがの私も、そんなことは無理ですよ……」
呉「劉……。あなたは『どんなに厳しい修行であっても、やり抜く』と私に言いましたね?」
「その言葉通り、ここにいる虎と戦いなさい。修行を成し遂げ、今以上の料理人になりたいでしょう?」
劉「……分かりました。こうなった以上、やるしかありません……。ウオオオオオオッ!!!」
叫び声を上げ、生身のまま虎に立ち向かう劉。劉の声を聞き、彼に襲いかかろうとする虎。
横浜中華街。善隣門の前にいる喪黒。
喪黒「そもそも、人間にはものを食べる機能が備わっていますが……。人間と動物は、食べることに対して決定的な違いがあります」
「動物の食事は、本能のまま、ただ腹を満たすだけですが……。人間の食事は、作る方も食べる方も何かしらの形で頭を使います」
「だから……。料理文化は、人間が長い歴史をかけて築いた知恵の蓄積であり、身近でありつつも貴重な宝と言えるかもしれません」
「とはいえ、料理の修業は非常に厳しいものですから……。プロの料理人になるには、並大抵でない苦労を味わうのも確かです」
「果たして、劉さんは2度目の料理修業を成し遂げて、日本へ帰って来れるでしょうか?彼が、無事に帰国できればいいですけどねぇ……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
引用元: http://hebi.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1538569464/
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- 名無しさん@とろ速 - 2018年10月04日 03:34:16
卑しい私利私欲とかじゃなくて、己の仕事に対する向上心が災いして…という
パターンは珍しいな。それ故に説得力よりも理不尽さの方が色濃い感はあるが。