ゆるゆり なもり 感想 『ゆるゆり』の面白さは歳納京子の面白さ
ゆ る ゆ り
『ゆるゆり』の何がよいかって、まずタイトルがよいね。ゆるゆり。『ごらくぶ』でも『さどうぶ』でも『おちゃのこ』でもしっくりこない。やはり『ゆるゆり』がふさわしい。まず、百合漫画の専門雑誌で連載しているにもかかわらず(しかもいまや看板漫画だ)、こんなふざけたタイトルを使っている点でひねくれている。さらに、普段はタイトル通りゆるゆるだらだらしているのに、やにわに王道を突っ走って有象無象の作品を置きざりにするという、もう一段階のねじれがあるのが面白いんだよね。またすぐに脇道にそれてだらだらするんだけど。私は『少女セクト』と同じくらいこの『ゆるゆり』というタイトルが好きだ。『少女セクト』は「かわいい女の子原理主義! 他はしらん!」という潔さがいいのよね(もちろん、それだけの作品じゃないから評価されてるんだけど)。
ときに『少女セクト』と言えば、『ゆるゆり』3巻59ページ2コマ目のさくひまが玄鉄絢絵に見えるのは私だけだろうか。他のなもり絵に御大の要素は感じないんだけど、ここだけはなぜかそう見える。変わった角度だからだろうか。
アニメ『ゆるゆり』1話のつまらなさは異常
ついさっきアニメの1話を見返してみたが、やっぱりこれ、すっげーっつまんないわ。メタネタ、あるあるネタ、もし~だったらネタ、身内いじりと、視聴者置いてけぼりでどっちらけなネタをやりもやったりって感じだ。1話でクソアニメと判断して切った人はかなりいると思うぞ。ニコニコでは1話だけじゃなく、3話くらいまで公開したほうがいいんじゃないか。
私は原作の1話~最序盤を百合姫Sでリアルタイムに読んだが、やっぱり「何このふざけたタイトル。何このうすっぺらいキャラ。それでオチのつもりなのか」「ミラクるん? 本編が意味不明なのに劇中作なんかしらねぇよ……」という感想しか浮かばなくて、以来この漫画にいい感情を持っていなかった。雑誌を買っても読み飛ばしていた。高二病患者はメタネタや内輪ノリが大嫌いなのだ。それが、たまたま電車内での暇つぶしか何かで買った3巻を読んで「あれっ? なかなか面白いじゃん。タイトルは人を小馬鹿にしているようだけど、やるときはやるじゃん」と評価を改め(特にクリスマス回が面白かった)、全巻購入した。アニメ化を期にじっくり読みなおしてみた。そして今のウッヒョーマンセー状態に至る。
なもり先生、本当に成長したな。今は十分、ギャグ漫画として評価される域に達しているよ。この化け具合はどうだい。やっぱり精一杯描く人は伸びるんだね。
『ゆるゆり』の魅力=歳納京子の魅力
このレビューを書くためにいろんな人の感想を読んでみたが、案の定というかなんというか、盟友のみやきちさんが私の言いたいことをとっくのとうに書き上げていた! あっはっは。私もがんばって自分の言葉で語ってみよう。
「掲載誌『コミック百合姫S』のコンセプトを全否定するあの問題作」「無法者4人と生徒会4人衆が仲良くケンカしな、という感じ」という帯の形容通りの作品です。「CUTE&LOVELY」を標榜する百合姫Sで、敢えてすっとぼけたギャグ漫画でありつづけるところがとても好き。アンケートハガキでまで徹底して笑いを取りに行く(見ればわかる)という姿勢には、ただただ脱帽です。でも、だからと言ってこの作品に百合なあれこれが無いとか、あっても物足りないとかいうわけでは全然ないんですよ。むしろ、忘れたころに予想外の場面でふっと香る百合っぽさににやりとさせられました。
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20100625/p2
『ゆるゆり』をジャンル分けすれば、日常系のギャグ漫画に入るだろう。ありふれたジャンルだ。さらに「かわいい女の子たちがなかよし(≒百合)」という作品に限定しても、既に飽和状態だろう。『苺ましまろ』『あずまんが大王』『らきすた』『けいおん!』『ひだまりスケッチ』『かなめも』など、比較対象の作品はいくらでもある。『ゆるゆり』はギャグ漫画として見ても十分に面白いと思うが、偉大な先人たちと比べて格段に優れているとも思えない。私が『ゆるゆり』の何より面白いと思うところは、一言で言えば、油断ならないところだ。
普段は飽きもせずくうだらないことをやっているくせに、思い出したように、ほっこりほのぼのさせられる掛け合いをはさんでくる。そこいらの萌え作品が裸足で逃げ出すほどのによによするやりとりを、不意討ちで繰り広げてくる。その落差にどぎまぎさせられてしまう。登場人物にしてもそうだ。ありがちな記号だと思っていたキャラが(上述したが、連載当初は主要登場人物すらまごうことなき記号だった)、意外なシチュエーションで意外な一面を見せてくる。確固たるキャラとして立ち上がってくる。私はこの漫画の、そんな油断ならないところが大好きだ。
例えば京子だ。『ゆるゆり』の実質的な主人公は歳納京子である。このことに異論を挟む人はあまりいないだろう。というか、アニメで猛烈に逆プッシュされるあかりを見て、初めてこの漫画の主人公が誰か知った人も少なくないんじゃないか。全国1千万のあかりファンには申し訳ないが、彼女はあくまで「周りの個性的なキャラに食われている、不憫な空気主人公」という属性を付与されたサブキャラだと思う。サブキャラとしてはむしろ濃ゆい。閑話休題。京子はまさに『ゆるゆり』を象徴するようなキャラクターだ。普段はフリーダムなお調子者で、始終場を引っかき回しているのに、周りの人間を一番よく見ているのはこの人だったりする。そこが面白い。そもそもの発端である、使われなくなった部室を乗っ取ってだらだらするという、イリーガルかつずぼらなことを言い出したのは間違いなくこの人だろう(アニメではそうだった)。自分の欲望のためだけに、口八丁でちなつを入部させたのもこの人だ。みょうちきりんな企画を立ち上げて、みんなを巻き込むのは決まってこの人だ。その一方で、結衣の一人暮らしの家で、はしゃいでいるようでホームシックの結衣のことを気遣っていたのもこの人だ。クリスマスデートで、持ち前の観察眼とチートスペックを駆使して、相手の評価を一番上げたもこの人だ。花粉症回で、綾乃が困っていることをいち早く察して、茶目っ気たっぷりにフォローしたのもこの人だ。貫禄の主人公スペックやがな。サザエさん時空回の「23☆方式が決まりました」におけるこの人も実に面白い。京子さんはまず、ダジャレやら、声色を変えてのおねだりやら、結衣へのネタ振りやら、夫婦漫才やら、画力を盛大に無駄使いした変ポーズやら、出たとこ勝負のネタを5ページに渡って披露してくれる。あの芸人魂には感服せざるをえない。それで、あれだけしょうもないことをやりきったあとに、満面の笑みで、あんな歯の浮くような台詞をさらっと言っちゃうんだぜ? どうよこれ。私はメタネタを毛嫌いしているけれど、こんな使い方をされちゃあ文句も引っ込むってもんよ。結衣の反応もかわいらしいし、イイハナシダナーで締まれないところも『ゆるゆり』らしくていい。私はこの、おバカで無茶苦茶な要素と繊細な要素が絶妙なバランス(5:1くらい)で共存しているところが、京子の、ひいては『ゆるゆり』の魅力だと思う。
例えば結衣だ。貴重な突っ込み役のこの人は、普段は一歩引いたところからみんなの暴走を見ている。にもかかわらず、有事の際には『ゆるゆり』らしからぬ熱い啖呵をきってしまう(バールの回)。京子にはうんざりだとたびたび言うけれど、なんのかんのでこの人は京子ありきなんだよね。あんた、京子の話をするときにイキイキしすぎだろう(京子と櫻子回)。
例えば綾乃と千歳だ。綾乃は絵に描いたようなツンデレキャラで、千歳はよくいる妄想系腐女子キャラだ。そんなギャグ漫画にありがちな服を着て歩く記号なのかと思いきや、二人には親友のことを本当に大切にしているという、ほっこりさせられる一面がある(花火回、クリスマス回、7巻おまけ漫画など)。
例えばちなつだ。基本的にはいいやつしかいないキャラクターの中で、この恋愛脳の腹黒ピンクさんは困ったちゃんである。京子よりはるかに問題児だ。結衣以外の人間(特にあかり)をナチュラルに軽く見ているようなふしがある。そんな彼女も、天使アッカリーンのてらいのない言葉には思わずたじたじしてしまったり(7巻おまけ漫画)、京子のストレートすぎる好意を完全に無碍にはできなかったりする。限りなく黒に近いグレーな人だが、憎めないところがある。
私は京子たちの、決して一面的ではない、人間くさいところが好きだな。こじつけっぽくなるが、ただのアホの子と思わせておいて、土壇場でおそろしいまでの凄みを見せる、Keyのキャラクターに似た魅力があると思う。
ゆる百合
私が他に『ゆるゆり』で素晴らしいと思うところは、女の子同士の関係に対するスタンスだ。この漫画はタイトルこそふざけているし、ばかばかしいこともやるけれど、決してそれを茶化してはいないんだよね。千歳の妄想ネタしかり、ちなつの暴走しかり、コメディータッチに描いて笑いを取ることはあっても、断じて「笑いもの」にはしていない。鼻息も荒く肯定こそしないけれど、優しく見守るような、ゆるゆるであたたかい視線が随所に感じられる。このことに異論があるやつは「Special☆4 もうゆるいゆりなんて言わせないっ!!」を読んでいないと断言できるね。何を言ったところで仕方がないので、6巻を購入して57ページ下半分を穴が空くほど見てほしい。このまぶしい一枚絵が全てを表しているじゃあないか。どんなに説明台詞や美辞麗句や心理描写を並べても、この一枚絵の無言の説得力にゃあ勝てないぜ。絵力のある漫画の強みっすな。
そういえば、『ゆるゆり』目当てでひさびさに百合姫を買ったんだがが、櫻子の姉ちゃんがナチュラルに彼女持ちだった。こういうのをさらっと書いちゃうのが格好いいよね。
『ゆるゆり』名エピソード
その他、原作で好きなエピソードをいくつかピックアップしてみる。
26☆クリスマス中止、を中止!!
言わずとしれた神回。イケメン京子、結衣と綾乃のリアルな空気、安定のひまさくと非の打ち所がない。アニメの水増しもここだけは褒めていい。パートナー自慢が始まった途端に饒舌になる二人が面白かった。
31☆たまにはマンガみたいな
もしアニメでこれをやらなかったらぶち切れていたね。改変は悪くなかったけれど、オチは原作の方が面白い。予想の斜め上を行っている。てっきりセイカクハンテンダケを食べた柏木家の四女みたいになるかと思ったらアレだよw
43☆旅は道連れ…?
おいィ、2期でやるんだろうな!? 向日葵と桜子の関係がよくわかる名エピソード。
49☆女殺花粉地獄
京子の魅力がよく出ている話だ。こういうイケメンエピソードがあるから、タラシでも嫌味がないんだろう。何の理由もなくモテモテマンセーされるダメ百合作品の主人公はこの人を見習うべき。
Special☆ 7姉妹それぞれの事情
ダメ人間率の高さに笑った。
Special☆ 8池田姉妹の情事
千鶴の姉思いなところとダメなところがほどよく表れていて微笑ましい。アニメの千鶴は、登場時以外は暴力をふるうばっかりで芸がない。
7巻おまけページ
万難を排して読め。ごらく部一部年生組と生徒会二年生組の話が特に好きだな。これからもこういう話とばかばかしい話を1対5くらいの割合でやってくれるとうれしい。
原作厨かく語りき
あらかじめ断っておくと、私は筋金入りの原作厨だ。メディアミックス作品は基本的に褒めない。原典をあがめ奉っている。くわえて90のよいところを見つけるより、10の悪いところを重箱の隅を突っつくように指摘する方が得意な、ゆがんだ人間である。……まぁ、アニメはそれなりにがんばってるんじゃないかな。
しかし、修学旅行回だけは断じて許せない。あれだけはありえない。あの回の京子は躁病か多動症にしか見えないぞ。全く空気が読めていない。うざかわいいんじゃなくて、シンプルに目障りだった。京子はそんなことしない。それと、あのゲロネタの天丼はなんだったんだ? 今日び、小学生でもあんな捻りのない食いしん坊ネタやゲロネタで笑ったりしないぞ。テクニシャンちなつやひまさく探検隊(気になる人は原作を買おう!)を削ってまで、ゲロを吐かせる必要性が微塵も感じられない。原作の名エピソードより、やくざなオリジナル要素を優先させたのは本当に理解に苦しむ。アニメのスタッフは
本気を出せば、アニメの原作チョイス、オリジナルエピソードなどに対する愚痴を、今まで書いてきた分量の三倍くらいは書けるんだけれど……『ゆるゆり』をマンセーする為にこしらえた記事なのでほどほどにしておこう。
まとめ
常にふざけているようで、魅せるところはしっかりと魅せる。おちゃらけてばかりなようでときどき真摯な、百合漫画の名作だと思う。紋切り型の「お姉様」系作品に飽きたあなた、ひねりもクソもないイチャコラするだけの作品では物足りなくなったあなた、そんなあなたたちも満足させること請け合いっすわ。
一迅社WEB | ゆるゆり
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