世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めない
フランク・マルテラ
ハーパーコリンズ・ジャパン
世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めないの要約
幸福は単なる感情を超えた、人生の意味や価値との深いつながりを持っています。現代を生きる私たちに求められているのは、幸福そのものを目標として追い求めることではありません。むしろ、自分らしい生き方を見つけ、それを日々の暮らしの中で丁寧に実践していくこと。そして、人生をプロジェクトではなく、豊かな物語として紡いでいくことにこそ、真の幸せがあるのかもしれません。
幸福度を高めるために必要なこと
ただ困ったことがある。幸福は結局、単なる感情なのだ。ともかく、自分の置かれている状況や、これまでの経験を良いものだと思うことができ、総じて満足していれば、その人は幸福だと言える。つまり、生きている中で不快な経験よりも快い体験を多くすれば、それで幸福になれるということだ。そうだとすれば、幸福は、人生に永続的な意味を与えてくれるものではないことになる。(フランク・マルテラ)
現代社会において、「幸福」は多くの人々が追い求める究極の目標となっています。しかし、世界幸福度ランキングで常に上位に位置するフィンランドの人々は、むしろ幸福を直接的な目標とはしていないという逆説的な事実が、注目を集めています。
フランク・マルテラは、幸福とは結局のところ、一つの感情状態に過ぎないと指摘します。人は自分の置かれた状況や過去の経験を肯定的に捉え、全体として満足感を得られれば、それを「幸福」と呼んでいるに過ぎません。言い換えれば、人生における不快な経験よりも快い体験の方が多ければ、その人は幸福だと感じられるということになります。
この視点に立てば、幸福は必ずしも人生に永続的な意味や価値を与えてくれるものではないという結論に至らざるを得ません。
フィンランドの人々が実現している幸福の本質は、「自己の内面」と「他者との調和」の絶妙なバランスにあります。著者は、人間の幸福が「自分の内側との関係」と「自分の外側との関係」の両面から構築されると説明します。
内側との関係では、自律的な選択ができることや、能力を向上させる喜びを感じられることが重要です。一方、外側との関係では、他者とのつながりや、自分が幸せになることで周りにも良い影響を与えられるという慈善の実感が、幸福感の基盤となっています。。
この背景には、政府をはじめとする公的制度に対する強い信頼関係があります。市民は増税などの政策についても、それが社会全体の利益につながると理解しており、この信頼関係が社会の安定性を支えているのです。
幸福の測り方には様々なアプローチがあります。国連が実施する世界幸福度調査では、人生全体に対する満足度を数値化していますが、この調査では北欧の国々が上位を占めます。しかし、国民の感情を重視する幸福度調査では、中南米諸国が上位を占め、結果が変わります。
マルテラは、このような違いを踏まえた上で、幸福を単なる感情として捉えることの限界を指摘しています。 人間の幸福は、いくつかの本質的な欲求が満たされることで自然に生まれる副産物だと、著者は説明します。自律性への欲求、能力向上への意欲、親密な人間関係の構築、さらには他者への善意を示したいという慈善の欲求などが、その代表例です。これらの欲求が適切に満たされることで、私たちは自然と幸福感を得ることができるのです。
ノースウェスタン大学で行われた神経画像検査の結果は、私たちが人生に意味を感じる背景に、脳の働きが深く関与していることを示唆しています。この研究では、内側側頭葉という脳の領域が注目されました。この部位は、過去や未来への「脳内タイムトラベル」と呼ばれる機能に関連しており、特に人生に意味を見いだす能力に大きく寄与していることが明らかになったのです。
過去の記憶を思い返すとき、人は郷愁を覚えます。懐かしい思い出が蘇ることで、単なる感情的な反応以上に、自分の人生がどのように形成されてきたかを認識する機会となります。例えば、幼い頃の経験や大切な人との時間を思い起こすことで、現在の自分が存在する背景を理解し、感謝の念を抱くことがあります。こうした内省的な作業が、人生に深い意味を感じさせる要因となるのです。
過去を振り返ることは単なる回顧ではなく、現在を強く支え、未来に向けての自信や希望を形作る重要なプロセスだといえます。 一方、人間は未来に向けた意味づけにも非常に長けています。私たちは、現状を超えた理想的な未来を想像する力を持っています。
この未来への想像力があるからこそ、人は現在の困難を乗り越えるための計画を立て、努力することができるのです。より良い未来を描くことは、希望という形で私たちの心を動かし、行動を促します。たとえ目の前に苦労があったとしても、それを一時的なものと捉え、それを乗り越えることで未来がより輝くと信じられるのです。
この未来志向の力が持つ意味は、単なる希望以上のものです。未来の目標を設定し、それに向けての計画を立てる過程では、自分自身と向き合う必要があります。
何を大切に思い、どのような人生を望むのかを問い直す時間を持つことで、目標達成だけではなく、自分自身をより深く理解することが可能になります。そして、その過程がまた新たな意味を生み出し、人生に豊かさを加えるのです。 現在の苦しさや困難もまた、未来への意味づけを通じて耐え抜く力へと変わります。
例えば、大きな夢や目標があるとき、その達成に向けた努力は苦労と感じるだけではなく、意義あるものと捉えられます。どれほど厳しい状況に置かれていても、未来への希望を失わない限り、その努力の一つひとつが人生を彩る重要なピースとなるのです。
これらすべては、内省の力によって可能になります。過去を振り返り、未来を思い描くことで、私たちは現在をより深く理解し、意義のある行動を選択できるのです。人間の内なる力が人生の意味を支えていると考えると、日々の生活における小さな選択や行動も、より大きな視点から見たときに輝きを増すでしょう。
人はお金だけでは幸せになれない!
経済的に成功すれば幸福になれると思い込む人も多いが、それは間違いだ。
私たちはしばしば、収入が増えれば幸福も比例して増すと信じがちです。しかし、この考え方には限界があることが、さまざまな研究によって示されています。生活の基盤が整い、不安なく暮らせる水準に達した人々にとっては、収入がさらに増加しても幸福度が大幅に向上するわけではないのです。
ある研究では、一定の収入を超えたところから、追加的な収入増加が幸福度や生活満足度にほとんど影響を与えないことが示されています。この現象の背景には、生活の中で必要不可欠なものが満たされている場合、それ以上の収入が新たな満足感をもたらすことは少ないという事実があります。
たとえば、日々の生活費や安全な住居、教育や医療へのアクセスが確保されていると、それ以上の収入が新たな喜びを生むのではなく、むしろ他の課題を生むことがあるのです。 さらに近年の研究では、収入の増加が一定水準を超えると、幸福度や生活満足度が逆に低下する傾向があることが報告されています。この結果は一見、直感に反するもののように思えますが、その背後には多くの理由が潜んでいます。
たとえば、収入が高まることで生じる責任の増大や、競争やプレッシャーの増加が人々の心理的な幸福感に悪影響を及ぼすことがあります。また、収入が高い人ほど、他人との比較や自身の成功に対する過剰な期待に苦しむケースも多いのです。
このような状況は、経済的な成功を幸福の鍵とする信念が根強い社会で特に顕著です。人々はより多く稼ぐことを目指して努力を続けますが、その結果得られるものは、必ずしも期待通りの幸福ではありません。むしろ、「もっと良い生活があるはず」という青い鳥を追い求めるような感覚に陥り、現在の生活に対する満足感が薄れてしまうことがあります。
さらに興味深いのは、収入が高いほど、他者とのつながりや社会的な交流が希薄になる傾向があるという指摘です。高収入を得るために費やす時間や労力が、友人や家族との交流を犠牲にすることが少なくないのです。この結果として、人間関係が疎遠になり、本来それがもたらすべき幸福感を失う可能性があります。
経済的な成功が幸福をもたらすという考え方は、私たちが日常的に抱く直感に基づくものですが、それが間違いであることを理解することは、幸福を再定義する上で重要です。
生活の基盤が整っている状況下で、幸福を追求する方法は収入に頼ることではなく、より深い意味を持つものへ目を向けることです。たとえば、自己成長や他者との良好な関係を築くこと、感謝の気持ちを育むことなどが挙げられます。
幸福の本質は、収入や物質的な豊かさの中に見出されるものではなく、自分自身の価値観や生活の質に根ざしていると言えるでしょう。このことに気づくことで、私たちはより持続可能で本質的な幸福感を育むことができるのです。
広告の影響力は大きい。絶えず、これを買えば生活はもっと良くなると訴えてくる。それに対抗するためには、自分の心の中に確固たる指針を持っていなくてはならない。自分なりの価値観、人生の目標をしっかり持っていないと、この広告だらけの社会に振り回されずに生きることは難しいだろう。どうすれば自分の人生が意味のあるものになるのか、それを知っていれば大いに助けになる。
日々、私たちは「これを買えば、もっと豊かで幸せな生活が手に入る」という広告のメッセージに囲まれています。これらの広告は、消費行動を促すだけでなく、時に私たちの価値観や自己評価にまで影響を及ぼします。その結果、多くの人々が広告が提示する理想像に引きずられ、自分自身の本来の価値観や目標を見失ってしまうことも少なくありません。
こうした状況に対抗するには、自分自身の心の中に確固たる指針を持つ必要があります。自分なりの価値観や人生の目標を明確にし、それに基づいて行動する力が求められるのです。このような内なる指針があれば、広告や他者の期待に振り回されることなく、自分自身の生き方を選択することができるでしょう。
そして、その指針を築くためには、「どうすれば自分の人生が意味のあるものになるのか」という問いを真剣に考えることが重要です。 しかし、幸福を人生の最終目標として設定することには注意が必要です。幸福そのものを追求する行為には、しばしば危険性が伴うからです。
人生を物語と捉える!
人生はプロジェクトではなく、〝物語〟とみなすべきだ。物語は、その人が目撃、遭遇、体験したこと、その人が表現したことでできている。その人だけのものだ。人生でなにが起きたとしても、良いことも悪いことも、自分で選んだことも、外から与えられたことも、すべてが物語の一部となる。物語の各章には、その人の良いところも悪いところも含まれている。不思議なことや思いがけないことも含まれているだろう。
現代社会において、人生を「プロジェクト」として捉える考え方が強調される風潮があります。目標を設定し、それを達成するために計画を立てることは、多くの人にとって生産的な人生の在り方と考えられています。
しかし、著者が指摘するように、このような目標達成型の思考に囚われすぎると、人生の本質的な価値を見失う危険性があります。目標が達成できなかった場合、それを人生全体の失敗として受け止めてしまうことがあるからです。また、目標そのものを人生の価値の基準とすることで、成功や達成だけを重視し、日々の経験や学びから得られる豊かさを軽視することにもつながります。
人生をプロジェクトとしてではなく、「物語」として捉えることの重要性はここにあります。物語の中では、成功も失敗もすべてがその物語を形作る重要な要素となります。失敗は挫折としてだけではなく、後から振り返ったときに新たな視点をもたらす出来事として価値を持つのです。
また、物語の進行は一方向に固定されておらず、その時々の選択や経験が新しい展開を生み出します。このようにして、人生は豊かさを増し、予測不可能な魅力を持つものとなるのです。 近代化による価値観の変化も、人生観に大きな影響を与えています。かつては共同体への貢献が人生の主要な目的とされてきましたが、個人主義が広がる現代では、幸福の追求が個人の責任とされています。
私たちは、自分自身で人生の目的や意味を見出し、それに基づいて行動する自由を手にしました。しかし、この自由は同時に、大きなストレスや責任を伴うものでもあります。何を選び、どのように生きるかを自分自身で決めなければならず、その結果への責任も自ら負うことが求められるのです。
本書の「物語」としての人生観は、この現代の課題に対する一つの答えとなり得ます。物語の中で重要なのは、経験や学びの積み重ねです。成功だけを追い求めるのではなく、日々の生活の中で新たな価値を見つけ出す姿勢が求められます。
幸福感を高め、人生により多くの意味を感じたいのであれば、最善かつ最も簡単な方法は、自分の態度を変えることだ。自分のことばかり考えるのをやめ、他人とつながることにより力を入れるべきだ。
たとえば、他者との関係を深めたり、新しいことに挑戦したりする中で、自分だけの物語が形作られていくのです。そうした物語の積み重ねが、結果として人生に意味を与え、幸福を副産物としてもたらします。
他者とつながることは、人間が本来持つ社会的な性質に根ざしたものです。他者との関係を築き、相手のために何か良いことをする行為は、単に相手を喜ばせるだけでなく、自分自身にも深い満足感を与えます。
例えば、友人や家族との時間を大切にすることや、困っている人を助ける行動がこれに該当します。これらの行為を通じて、自分が社会の中で役立つ存在であるという感覚が芽生え、それが人生に意義を与えるのです。 人間関係におけるつながりは、単なる付き合いではなく、より深いレベルでの理解と共感が伴うものです。
他者とのつながりの中で、私たちは自己を再発見する機会を得ることもあります。他人の視点や感情に触れることで、自分の価値観や行動を見直すきっかけになるからです。そして、こうした関係性の中で育まれる感謝や信頼は、人生をより豊かで意味深いものにしてくれます。
一方で、自分自身とつながることも同じくらい重要です。これは、自分らしく生きることや、自分の能力を高めることを指します。自分の興味や情熱に従い、新しいことに挑戦することで、成長する喜びを味わうことができます。このような過程は、自己理解を深め、自分に対する信頼感を高める手助けとなります。
また、自分自身とつながるとは、自分が何を本当に大切にしているのかを見極め、それに基づいて行動することでもあります。現代社会では、外部からの期待や情報が多く、自分の価値観を見失いやすい傾向があります。しかし、自分自身に問いかける時間を持ち、内なる声に耳を傾けることで、真に自分らしい生き方を見つけることができるのです。
この二つの方向性は、どちらか一方だけで完結するものではありません。他者とのつながりが深まると、自分自身の存在価値を認識しやすくなりますし、自分自身とのつながりが強まることで、他者との関係もより真摯なものとなるのです。
これらは、互いに補い合いながら私たちの人生を支え、より深い満足感や意義を生み出します。 人生を意味あるものにする方法に正解はありませんが、他者とつながり、自分自身ともつながるという二つの視点を取り入れることで、その道筋が自然と見えてくるでしょう。これらは私たちの心を満たし、日々の生活に活力を与える力となるのです。
本書の哲学的な事例は、幸福の本質を考える上で示唆に富んでいます。フィンランド人は、幸福を直接追い求めるのではなく、意味のある生活を送ることや、人間関係を大切にすることを重視します。このような生き方が、彼らを世界幸福度ランキングの上位に位置付けている要因の一つとされています。
幸福は、単なる感情ではなく、より深い人生の意味や価値と結びついているのです。 私たちが現代社会の中で目指すべきは、幸福を一つの目標として追い求めることではなく、自分らしい生き方を発見し、それを日々の生活で実践していくことではないでしょうか。
過去から学び、未来に希望を見い出し、その中で現在を充実させることができたとき、幸福は自然と訪れるものなのかもしれません。それは瞬間的な達成感を超え、長い物語としての人生全体に響く豊かな感覚をもたらすものとなるでしょう。このような考え方が、私たちの生き方に新たな方向性を与える鍵となるのです。
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