Richard Breese 『Morgenland』(Hans im Gluck, 2000) を久しぶりに遊んで、やっぱり大変よくできたゲームだと思ったのですが、やっぱりエンドゲームに問題を抱えたゲームだなとも思ったので(これでもリメイク前の Keydom よりはだいぶマシになってるんですけどね)、いまさらですがヴァリアントをつくることにしました。 このヴァリアントにより、どのラウンドでも必ず5枚の(っていうかゲーム人数と同じ枚数の)アーティファクトをめぐって争いが起きることになります。また、もともと第7ラウンドまでもつれるケースはあまりないゲームですが、このヴァリアントを導入すると、第7ラウンドまでいくのは極端なレアケースだけになるはずです。 ごくふつうの発想なので、たぶんもうこのルールでやってる人どっかにいると思いますし、なんなら書かれたヴァリアントがすでに存在しているかもしれません。 * * * ■概要■ ・あるアーティファクトの山はカラになったのに別の山には複数枚残っている、という状況が発生した場合は、ならす。 ・王宮内、カラになっているアーティファクトに対応する席は、「マイナス1枚分のスクロール」という負の特殊効果を持つ仮想的なアーティファクトがあるものとして扱う。 ※ただし、王宮内のどこかの席の実物のアーティファクトが誰にも取られなかった場合、これは仮想的アーティファクトと交換される。 * * * ■ラウンド終了時の追加処理■ ラウンド終了時点で、あるアーティファクトの山がカラになっていた場合、以下の処理により補充が行えるなら、補充を行う。
カラになったアーティファクトの山が複数ある場合、それらのうち左側のカラの山から順々にこの補充の処理を行う(一部のカラの山についてのみこの補充処理を行えるという場合は、そのようにする)。この処理により、まだ誰の物にもなっていないアーティファクトがゲーム人数と同じ枚数かそれ以上あるならば、必ず次のラウンドで王宮内のすべての席にアーティファクトがあるという状態が担保される。 ■王宮内にアーティファクトの置かれていない席ができたラウンド■ アーティファクトがゲーム人数に満たない枚数しか残っていないラウンドでは、王宮内にアーティファクトが置かれていない席が存在することになる。このような席については、以下のような仮想アーティファクトが1枚存在するものとして扱う。
仮想アーティファクトの獲得者は、それとわかるよう、その席の(カラの)アーティファクト置き場に、自分のチップを置いておくこと。また、仮想アーティファクトとの交換で実物アーティファクトを獲得した場合、獲得者は、その仮想アーティファクトの獲得を示していた、対象の席のアーティファクト置き場から、自分のチップを外すこと。なお、仮想アーティファクトは実物アーティファクトと同様、獲得が確定した時点で、魔法やアーティファクト効果の対象から外れる。 なお、誰にも獲得されなかった仮想アーティファクトは、そのラウンドの終了をもって(いったん)消える。ただし、ゲームがまだ続行する場合、次のラウンドでもその席には新たに仮想アーティファクトが1枚登場する。 ■ゲームの終了■
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by Taiju_SAWADA
| 2024-07-28 23:28
| 雑題
Moritz Eggertによれば、かつて、利益の機会こそがゲームを作る主な理由だという考えは、ドイツのゲーム会社の耳には奇妙なものに響いていたらしい。無論、現在は全くそうではない。消費者の興味を喚起するための演出は、あらゆるカテゴリーの商業ボードゲームにおいて必須のものとなっている。これは過去200年の商業ボードゲームの歴史という観点からは何ら珍しい事態でもないが、しかしユーロゲームという極めて屈折した商業ボードゲームのムーブメントは、そうでないごく短い時期を形作るものだったのであり、そしてその一瞬は、ゲームデザインの可能性を爆発的に広げた時間でもあったのだ。
実のところ、これは商業ボードゲームに限ったことでもない。印刷の性質上過大な部数を抱える傾向を持ちながら消費者とコンタクトするチャネルが極めて限られる、インディペンデントなゲーム生産者にとっては、消費者の興味を喚起する演出の必要性は商業ボードゲームに比べても高いとすら言えるだろう。その物品が自分の身銭と空間を削って作られたものである以上、これを誰かに売らずに手元に抱え続けることは、生産者にとってあらゆる意味で負担になる。 しかし、それは本当に唯一のあり方なのか? 《同人》という日本語が示しているのは、インディペンデントに生産されたゲームは不特定多数の消費者ではなく、趣味を同じくするコミュニティのメンバーの間で流通させることが可能だったはずだという事実だ。消費者へ向けた数々のサービスは、同人ボードゲーム作品を、幸福なる……としておこう……少数者のコミュニティからかえって遠ざける結果に繋がっていないか? 当然のことだが、たまたまインディペンデントな形で生産されている作品が、インディペンデントを志向しなければならないわけではもちろん無い。より大きな生産者たらんと欲し、大衆〈マス〉との幸福な出会いを願うのは何も悪いことではない。問題は、そうでないあり方を求める少数者たちにとって、そのような善意の野望に由来する演出に埋め尽くされた小世界の中で、同じ少数者に出会うことの途方も無い困難のほうだ。 単純に考えよう。演出を準備することが消費者との幸福な出会いを希求する資格なのだから、演出を準備しないことは、消費者との幸福な出会いを望まないことの明らかな印となる。それを行うのに、技術的に難しいことは何も無い。ただ認めれば良いだけだ。二十世紀末には同じ場所に立っていたように見えたのかもしれないが、結局のところ彼らは正しく伝道者だったのであり、一方の我々は失敗した伝道者ですらなく、単なる複数の少数者だったのだと。 * * * 不毛な御託は切り上げて実務を進めよう。ゲームデザインの可能性なるもののために商業的な可能性を捨て去って少数者同士で群れることにした我々は、そのサインとして、演出のないゲーム、消費者の興味を喚起しないものであることをこれ見よがしに示すゲームを作ることにしたのだったが、具体的にはどのようにすれば良いのだろう? ちょうど良く、ここにかつて失敗した革命が転がっている。James Ernestが1990年代後半に開始したCheapass Gamesは、まさに当時のアメリカのボードゲームにおける肥大化した演出に異を唱えるプロジェクトだった。我々はもはや外に対して何かを期待してはいないものの、Ernestに倣うことで、外に対して何も期待していないと示すことはできる。 #### Tier 1: 清貧ユーロゲーム #### ・内容物の構成 外装は封筒を使用すること(後述)。 内容物として、説明書(ルールブック)、ボード、カード、既製品の円形シール(後述)のみ同梱可。 ・内容物における色の使用について どのパーツにおいても、印刷(または手書き)を行う際は、黒単色(グレー含む)のみ使用可。 ただし、プレイヤーや物品等の識別を目的として、補助的に、既製品の円形シールを同梱し、このシール※を適切なパーツに貼付するよう指示することは可とする。 (※ニチバン製「マイタック カラーラベル」を想定しているが、その他の円形単色の既製品シールでも可。) シールの使用色は下記の5色を超えないことを推奨する。 ・白(White) ・赤(Red) ・青(Blue) ・黄(Yellow) ・緑(Green) パーツへのシールの貼付を指示する場合、対象のパーツの該当箇所に色を示す文字(「白/赤/青/黄/緑」または「W/R/B/Y/G」)を記すこと。 ・イラストについて どのパーツにおいても、イラストや写真は商用(印刷利用)自由の無料のもののみ利用可。加工は可(ただしイラスト自体の利用条件に抵触しないこと)。 自らイラストを描いてはならず、自ら撮った写真の使用も不可。また、この作品のために他者にイラストや写真を新たに創出させるのも不可。 ※例外として、説明書(ルールブック)に図例を掲載する場合に限り、自ら準備したイラストまたは写真を用いてもよい。「説明書(ルールブック)」の項を参照。 ・フォントについて どのパーツにおいても、フォントは商用(印刷利用)自由の無料フォントのみ利用可。 ・メカニクスについて 『ユーロゲーム』において、ユーロゲームの代表的なメカニクス(または目的)として記されている、 下記の要素の少なくともひとつをキーメカニクスとして実装することを強く推奨する: ・オークション ・エリアコントロール(エリアマジョリティ) ・セットコレクション ・トレード/交渉 ・役割選択 ・ワーカープレースメント ・タイルプレースメント ・外装 既成の封筒、白またはクラフト色のみ使用可。サイズは洋2カマス(A6)、角6(A5)、角3(B5)、角20(A4)のいずれか(ただし角20は非推奨)とする。 封筒に直接印刷するかわりに、シール(白またはクラフト色)に印刷し(黒単色のみ)これを封筒に貼付してもよい。 表面には任意の情報を印刷可能。 裏面には、下記の情報のみ印刷可とする(これらの情報は表面に記載してもよい) ・(必須)同梱していないがプレイにあたり必須となる駒・ダイス・コイン等各種パーツ(不要の場合はその旨を明記する) ・(推奨)作者名 ・(推奨)出版者名 ・(推奨)《メカニクスについて》項に列挙された各メカニクス(または目的)の使用不使用の別 ・(推奨)内容物一覧 ・(推奨)清貧ユーロゲームプロジェクト Frugal Eurogame Project参加作品であることの表明。 ・説明書(ルールブック) 白上質紙のみ可。封筒に収まらないものは不可。 イラスト/写真の利用に関する例外として、説明書(ルールブック)に図例を掲載する場合に限り、自ら準備したイラストまたは写真を用いてもよい。 ただし、例示ではなく装飾を意図するイラスト/写真に関しては、通常のルールが適用される。 ・ボード 枚数は任意。封筒に収まらないものは不可。 厚紙のみ可。紙の色は任意。ただし、1mmを超える厚みの紙は使用不可。 ボードへのニス加工は非推奨。PP加工はマット/グロス問わず不可。 ・カード 枚数は任意。封筒に収まらないものは不可。紙の色は任意。原則として片面にのみ印刷可。 角丸加工は禁止。ニス加工は非推奨。PP加工はマット/グロス問わず不可。 ・同梱しない物品について 大量生産される既製品であり、形状や意匠において著作権の保護を受けていない物品であれば、任意のものを指定可能。 ボードゲームに典型的な物品としては下記を想定している。 ・小キューブ(8または10mm立方を想定) ※駒の色は内容物と異なり、白青赤黄緑の5色に縛られないが、白青赤黄緑黒灰茶の8色以内とすることが望ましい。 ・大キューブ(14mm立方を想定) ・小ディスク(15mmの円盤を想定) ・大ディスク(20mmの円盤を想定) ・ミープル駒(立った状態と寝た状態の2状態を表現できる人形型の駒) ・ハルマポーン駒(立った状態のみ) ・ダイス ・小コイン(様々な額面のもの) ・ポーカーチップ(様々な額面のもの) ・紙幣 ・トランプ ・タロット ・カードスリーブ ・メモ帳, 筆記用具 #### Tier 2: 準清貧ユーロゲーム #### 下記を除いてTier 1と同様。 ・内容物の構成 内容物として、タイル(後述)を同梱してもよい。 ・内容物における色の使用について 印刷の際、黒(および灰)に加え、青赤黄緑を用いてもよい(ただし、外装の封筒はTier 1同様に黒単色刷のみ可とする)。 ただし、これらの色は、パーツの属性を示すため、シールの代用としてのみ用いることができる。 イラストや写真にはこれらの色を用いてはならず、装飾を目的としてこれらの色を用いることもできない。 ・説明書(ルールブック) 上質紙以外の紙を用いてもよい。紙の色は白のみとする。 ・タイル 駒やコインやカードによって代用できない場合に限り、下記のいずれかの方法により作成されたタイル(正方形または正円型のみ可)を同梱することができる。 ・印刷所・加工所等に発注して作成した、厚さ1mm以下のもの ・厚さ1mm以下の既製品の厚紙を作者自身が切り抜くことにより作成したもの ・購入者が既製品のコイン等に貼付けタイルとして使用するためのシール タイルの色は任意。原則として片面にのみ印刷可能とする。 #
by Taiju_SAWADA
| 2022-11-01 01:50
| うわごと
ルールブック組込み用トリックテイキングゲーム概要説明文 このエントリは Creative Commons CC0 1.0 で公開しています。 つまりこのエントリはパブリック・ドメインに提供しているものであり、営利目的か否かにかかわらず、許可を得ずに複製、改変・翻案、配布などが可能です。適宜改変の上で、必要な部分をつまんで、トリックテイキングゲーム作品のルールブック等に組み込まれることを主に想定しています。このエントリの著者の名前やこのエントリへのリンク等も示さないで構いません。 Creative Commons CC0 1.0 要旨(日本語) https://creativecommons.org/publicdomain/zero/1.0/deed.ja Creative Commons CC0 1.0 リーガルコード本文(英語) https://creativecommons.org/publicdomain/zero/1.0/legalcode 沢田 大樹 ver0.1: 2021年11月18日公開 ver0.2: 2021年11月20日公開(切札のコラムを追加) ■ディールを使わず、かわりにラウンドを使った説明 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。この種のゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出し、そのあと他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってきます。一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。このトリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。ゲーム終了条件を満たすまでラウンドを繰り返します。 ■ディールとラウンドを同義で用いることを強調した説明 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。この種のゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出し、そのあと他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってきます。一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。このトリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。この1ラウンドのことをトランプ用語で「ディール」と呼びます。ゲーム終了条件を満たすまでディールを繰り返します。 ■ディールを使った説明 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。この種のゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出し、そのあと他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってきます。一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。このトリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと一勝負終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。この一勝負のことをトランプ用語で「ディール」と呼びます。ゲーム終了条件を満たすまでディールを繰り返します。 ■トリックが一巡ではないゲームの場合 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。◆普通のトリックテイキングゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出した後、他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってきて、一巡したら一区切りとなります(『』では一巡で一区切りではないのですが)。◆一区切りになったら出されたカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一回の競り合いを制したことになります。この一回の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。◆このトリックを何回か、普通は手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。◆ゲーム終了条件を満たすまでラウンドを繰り返します。 (※【(『』では一巡で一区切りではないのですが)】の部分を強調。トリックテイキングゲームの説明を読み飛ばす=トリックテイキングゲームの知識を持っているプレイヤーの目に、この部分だけは入るようにする) ■マストフォローの説明まで入れたい場合 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。◆トリックテイキングゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出します。そのあと他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってくるのですが、多くのゲームには、「一番手が出したのと同じ色のカードを持っている人は、原則としてその色のカードを出さなければいけない」というルールがあります(同じ色のカードを出すことを「その色をフォローする」と言います。このフォローの義務のルールは『』にもあります)。◆一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。通常は、今回のトリックを取った人が次回のトリックでは一番手になります。◆トリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。ゲーム終了条件を満たすまでラウンドを繰り返します。 ■メイフォローの場合 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。◆トリックテイキングゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出した後、他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってきます。なお、多くのゲームには「一番手が出したのと同じ色のカードを持っている人は、原則としてその色のカードを出さなければいけない」というルールがあります(同じ色のカードを出すことを「その色をフォローする」と言います)が、このフォローの義務のルールは『』にはありません。◆一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。通常は、今回のトリックを取った人が次回のトリックでは一番手になります。◆トリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。ゲーム終了条件を満たすまでラウンドを繰り返します。 (※【フォローの義務のルールは『』にはありません】を強調) ■マストフォローだがリードスート以外のスートがフォロー対象になるゲームの場合(リーダーの説明込み) 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。◆この種のゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出します(この一番手の人のことを「リーダー」と呼びます)。その後で他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってくるのですが、普通のトリックテイキングゲームには、「リーダーが出したのと同じ色のカードを持っている人は、原則としてその色のカードを出さなければいけない」というルールがあります。決まった色のカード(この場合はリーダーが出したカードの色です)を出すことを、その色を「フォロー」する、と言います。先ほどのルールは「リーダーの出した色をフォローする義務がある」と言い換えることができます(※後ほど説明するとおり、このフォローの義務のルールは『』にもありますが、リーダーの出した色をフォローするわけではありませんのでご注意ください)。◆一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。通常は、今回のトリックを取った人が次回のトリックのリーダーになります。◆このトリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。ゲーム終了条件を満たすまでラウンドを繰り返します。 (※【フォローの義務のルールは『』にもありますが、リーダーの出した色をフォローするわけではありません】を強調) ■マストフォローだがリードスート以外のスートがフォロー対象になるゲームの場合(「リーダー」を使わず「一番手」で通す) 『』は「トリックテイキング」と呼ばれる種類のカードゲームです。◆この種のゲームでは、まず一番手の人が手持ちの中からカードを選んで出します。その後で他の人にもカードを出す順番が一度ずつ回ってくるのですが、普通のトリックテイキングゲームには、「一番手が出したのと同じ色のカードを持っている人は、原則としてその色のカードを出さなければいけない」というルールがあります。決まった色のカード(この場合は一番手が出したカードの色)を出すことを、その色を「フォロー」する、と言います。先ほどのルールは「一番手の出した色をフォローする義務がある」と言い換えることができます(※後ほど説明するとおり、このフォローの義務のルールは『』にもありますが、一番手の出した色をフォローするわけではありませんのでご注意ください)。◆一巡したら出したカードの強弱を比べ、最も強いカードを出した人が、この一巡の競り合いを制したことになります。この一巡の競り合いのことを「トリック」と呼び、トリックを制することを「トリックを取る」などと言います。通常は、今回のトリックを取った人が次回のトリックでは一番手になります。◆このトリックを何回か、普通は全員の手持ちのカードが尽きるまで繰り返すと1ラウンド終了、取ったトリックなどに応じて点数計算が行われます。ゲーム終了条件を満たすまでラウンドを繰り返します。 (※【フォローの義務のルールは『』にもありますが、一番手の出した色をフォローするわけではありません】を強調) 推奨改変事項
■切札コラム 〔v0.2追加〕 多くのトリックテイキングゲームには、「一番手が出したのと同じ色のカードを出せなかったプレイヤーは、そのトリックを取れない」というルールがあります。このルールの例外が「切札」です※。切札は一番手が出した色のカードより強いカードとして扱われます(一番手が切札を出している場合は別ですが)。◆※切札のことを英語でtrumpと言います。 ■切札コラム(既にマストフォローの説明を行っている前提での注釈付き)〔v0.2追加〕 多くのトリックテイキングゲームには、「一番手が出したのと同じ色のカードを出せなかったプレイヤーは、そのトリックを取れない」というルールがあります。このルールの例外が「切札」です※。切札は一番手が出した色のカードより強いカードとして扱われます(一番手が切札を出している場合は別ですが)。ただし、切札はフォローの義務から逃れられるカードというわけではないので、一番手が出したのと同じ色のカードを手に持っている場合は、切札を出したくても出せず、一番手が出した色のカードを出さないといけません。◆※切札のことを英語でtrumpと言います。 #
by Taiju_SAWADA
| 2021-11-18 20:49
| 雑題
ある日わたくし「ボドゲガレージ」という小規模なボードゲーム即売会に行ってきてですね、事前に何の情報も入れてなかったのでとりあえずパンフレットとかブースのポップとかを見て「トリックテイキングゲーム」と書いてあるゲームを機械的に買ってきたのです(8つくらい買ったはず)。その後、 【ボドゲガレージで買ったトリックテイキングゲームをみっつほど遊んだんですが、とりあえずルールの文面においては普通に「トリック」とか「ディール」とか「フォロー」とか使ってください。意図はわかりますが現状ではポジティブな効果を持ち得ていません。ひたすら読者を苛立たせているだけです】(2021年11月15日) とツイートしたあとで、いや別にディールは使わなくていいんじゃねえかな、とも思ったわけですけど、意外にも僅かながら反響があったようなので、せっかくだし本件について多少の補足を書いてみようかと思います。 ■主張の対象となるゲーム まず、この主張は前提として ・小規模なボードゲーム即売会で売っている ・同人のカードゲームであって ・パンフまたはポップで「トリックテイキングゲーム」と明確に謳っている (またはタイトルがトリックテイキングゲームであることを明らかに想起させるものである) ゲームを対象としています。トリックテイキングゲームであってもそうと謳っていないものは対象としていません。また、大規模な商業流通を前提とした出版物も一応は対象外です。 そのような主張の対象であるトリックテイキングゲームは、下記の3種類に分けることができます。 (1) 購入者/ルール読者のほとんどがトリックテイキングゲームについて一定の経験を持つことを前提としたゲーム (2) トリックテイキングゲームの紹介/への入門を意図して作られ、購入者の一定割合がトリックテイキングゲームを知らないことを想定しているゲーム (3) トリックテイキングゲームの枠組を使いながら根本的には別種のゲームとして作られており、購入者の一定割合がトリックテイキングゲームを知らないことを想定しているゲーム ■「トリック」の語を使わないことの弊害 前述の3分類のどれであっても、ルールブック中に「トリック」への言及は行うべきです。 購入者の一定割合がトリックテイキングゲームを知らない前提のゲーム〔(2)(3)〕では、パンフまたはポップまたはタイトルで「トリック・テイキング」と言っている以上、「トリック」とは何を指しているのか説明が無い限り、パンフまたはポップまたはタイトルが何を意味しているのか不明なままになります。とりわけ、トリックテイキングゲームの紹介/への入門を意図したゲーム〔(2)〕においては、「トリック」への言及がないと、紹介すべきものをプレイヤーに紹介できたことになりません。 ルール読者のトリックテイキングゲーム経験を前提としたゲーム〔(1)〕は、多くの場合ジャンルの基本的な構造を部分的に崩して作られるものでもあり、読者の側でもそのような期待あるいは疑いを持ったままルールを読み始めることになります。作者がこのトリックテイキングゲームのなかで何を「トリック」であるとしているかをできるだけ早期に示すことにより、読者にルール読解の足場を与えることができます。逆に言えば、このゲームにおいて何がトリックであるか示さないまま、捻ったトリックテイキングゲームに出てくる謎めいた新概念を次々に繰り出してしまうと、ゲームの全体について像を結ぶ読解の手掛かりを得られないまま、与えられたパーツからトリックテイキングゲームの枠組を成立させるための試行錯誤を頭の中で繰り広げないといけなくなります。新しいゲームとはそもそもそういうものなのだ、とは確かに言えるのですが、なぜトリックテイキングゲームという大枠に乗っかってしかもそのことを謳ってすらいるゲームにおいて、そのような試行錯誤が必要となるのか、それは単に無駄なことをさせられているだけではないのか、という不信が読者の中に芽生えていきます。 えー、というかですね……、ここまでの話はある意味で綺麗事に過ぎないのでして……、読者の側としては、これまでに遭遇した様々に愉快な経験の数々から、「小規模なボードゲーム即売会で売っている」「同人の」カードゲームやボードゲームのルールライティングに対して根本的なところで不信があるわけです。よくわからないパーツがパーツのままに放り出され、最後までそれらがゲームとして形を成すことはないのではないか。繰り返しますが、これは故のない不信ではありません。そもそも「このゲームはトリックテイキングゲームである」という宣言こそ、その読者の不信を軽減する最大のものであり、もしかするとゲームが購入されるに至った主因ですらあるかもしれないのですが、それでもそれだけでは不信の解消には充分ではないんです。 有効な言及の方法は複数ありますが、トリックテイキングゲーム概念について冒頭で概要として簡単に説明するか、そのゲーム自体の概要について冒頭で説明する中で、トリックに相当する概念に言及する際「※伝統的なゲームでは、これを《トリック》と呼びます」と触れるのが基本になると思います。 ■「フォロー」の語の使用 トリックテイキングゲームの紹介/への入門を意図して作られているゲーム〔(2)〕では、「トリック」で記したのと同じ理由により、「フォロー」の語を使うべきです。同じく、ルール読者のトリックテイキングゲーム経験を前提としたゲーム〔(1)〕でも、「フォロー」の語は何らかの形で使うべきです。 何をフォローすべきかについて標準的なルールを採用しているゲーム、つまりリードプレイヤーが手札から出した1枚のカードのスートが必ずフォロー対象スートになるようなゲームという意味ですが、このようなゲームでかつマストフォローの場合は、マストフォロー概念の説明の際、リードプレイヤーが出したのと同じスートを出すことについての文が必ず現れるはずですので、そこに「※これをフォローと言います」などのような注釈を入れるだけでも問題ありません。ですが、何をフォローすべきかについて捻りを加えたゲームの場合、読者の混乱を静めるためにも、フォローの語を明示的に定義した上で、何がフォローの対象になるのかについて、フォローの語を使用することでより強調的に表す必要があります。(なお、このようなゲームの場合は、リーダーの出したカードのスートとフォロー対象スートの違いを示すため、「リード」または「リーダー」の語も定義して使用する必要があります。そうでなければ、「リード」は便利な語ですが、使用必須というほどのものでもありません。) 一方、トリックテイキングゲームの枠組を使いたいだけのゲーム〔(3)〕の場合、プレイヤーとトリックテイキングゲームに対してフォローの概念を教え込まないといけないような義務を自ら負っているわけではないので、「フォロー」の語を使うべきとは言えません。ゲームが全体としてはトリックテイキングゲームの定型に従ったものでは全くない、というのであれば、むしろ避けた方が良いとすら言えるかもしれません。ただしその場合、既に使われている「トリックテイキングゲーム」という言葉は混乱を招く災いの源でもあり、作者はこの余計な災禍を抱えながら、自身の新しいゲームを説明しきらないといけないことになります。 ■トリックテイキングゲームの原則 ところで、前段で「伝統的なトリックテイキングゲームでは原則として、フォロー対象のスートをフォローしなかった場合、切札を出したのでなければ、そのトリックの獲得者にはなりません」と書きました(追記:すいません、書いたあとで消しました)。これはトリックテイキングゲームの原則ですが、特に現代のデザイナーズゲーム(もちろん同人ゲームも含まれます)においてはさほど守られません。このような守られたり守られなかったりする原則としては、他に ・フォローの義務(マストフォロー) ・最も高い価値のカードを出したプレイヤーが、そのトリックを丸ごと獲得する があります。守られる度合いは様々ですが、とはいえこれらはいずれも原則ではありますから、読者はこれらを念頭に置いて読んでいます。トリックテイキングゲーム経験を前提としたゲーム〔(1)〕でこの原則を破るルールを採用しているのであれば、その部分は強調して書くべきです。この強調表示には、作者がトリックテイキングゲームの基本原則を知っていること、その原則を今回のゲームにおいては採用していないことを明示する意味があり、読者にとっては作者のトリックテイキングゲーム理解が読者と変わらないものであることを支持する効果を持ち、これまで述べてきた不安や不信の解消に繋がります。 ■「ディール」について 不信の解消という意味では、「ディール」も同様の効果を持ちます……が、冒頭で触れたように、この語については、使ったほうが良いかどうか微妙なところがあります。というのは、これは別にトリックテイキングゲームの必須概念とかそういうものではなく、単にカードゲームの専門用語でしかないからです。言うまでもないことですが、ルールブックに登場する専門用語の数は少なければ少ないほど好ましく、専門用語を使う場合はその一つ一つについて必要性を問うた上で、使うと決めた用語にはあの煩わしい定義なるものを載せる必要があります。 それでも敢えて最初のツイートで「ディールの語を使った方が良い」と言っているのは、実のところあんまり一般性のある話ではなく特定の作例を念頭に置いたものです。その作例においてはディール概念を説明する語としてフレーバーに沿った独自の語を用いているのですが(非実在の例を挙げますと、たとえば学校生活をテーマにしたゲームにおいてディールを表す語に「学期」を用いている、みたいな感じです)、その語がディールを表すものであると確定するのがルールの終盤に入ってからで、ルールを読んでいる最中には、「繰り返し概念であることは最初に提示されている(ステップやフェーズとは違うもののようだ)」「たぶんこれはトリックではない」「ディールとトリックの中間概念は存在しなさそう」「ディールより大きくてゲームより小さい繰り返し概念は無い」「つまりこれはディールのことだ」と読者は推測を続けていくことになり、これが非常に煩わしいわけです。読者をこういう目に遭わせるよりは、最初から「※これはディールのことです」と注釈を入れておくべきです。 独自の語ではなく、しかしディールほどピンポイントに定まったわけではない語、たとえば「ラウンド」を使うという選択肢を考えてみましょう。トリックテイキングゲームにおいて「ラウンド」の語がふつう指し示しうる概念はトリックかディールのどちらかです。従って、トリックを示す語として「トリック」を割り当てておけば、「ラウンド」の使用には全く問題が無いことになります。そうでない場合、ラウンドと区別するため、結局なんらかの汎用的(=曖昧)または独自(=謎)の語をトリック概念に割り当てないといけなくなります。 ■ついでに言っておきたいこと 一部の分野の論文や教科書では、読者は知識ゼロ・読解力無限であることを想定して書け、なんてことが言われる場合もありますが、同人ゲームのルールライティングでその態度を取るのは止めましょう。少なくとも知識ゼロの読者を想定する場合、その知識ゼロの読者のルール読解力は知識のある読者の読解力よりも当然劣ります。知識の無い読者のために専門用語を使わないという選択を行うのであれば、専門用語を使わずに説明できればそれでOK、という態度は決して取れないはずです。 ■ところで、読者一般は置いといて、君は何がそんなに苛ついたの? 何をフォローすべきかについて捻りを加えたゲーム(リードプレイヤーが手札から出した1枚のカードのスートがフォロー対象スートになるというわけでは無いゲーム)に連荘で当たってどっちも何がフォロー対象なのか後ろのほうまで読まないとわかんないルールになっていたのです。たいへん不幸な事故と言えます。 #
by Taiju_SAWADA
| 2021-11-17 01:22
| うわごと
2020年1月に書いたゲルツの紹介文です。元々は目的があって書いたものなんですが、たぶんお蔵入りになったと思われるので、こちらに載せておきます。 * * * マック・ゲルツについて何かを書くのであれば、やはりまずは彼のデビュー作である2005年の「古代 Antike」から始める必要があるでしょう。古代ローマの時代を舞台に担当国を決めて3都市を持ってスタートし、街から出る資源を元に軍隊を雇って軍隊を動かして軍隊で街を建てて、というよくあるドイツの地政学ゲーム、より狭く言えば拡張・開発・殲滅ゲームなんですが……よくある、というのは嘘です。確かにこれは、1980年代前半までの英米の多人数ゲームでは比較的好まれた主題です。しかし、ドイツの商業ボードゲームや、それがグローバル化した「ユーロゲーム」と呼ばれるジャンルにおいて、この種のゲームをまっとうに作る方法は、事実上この「古代」の登場以前には存在しませんでしたし、2020年現在でも決してよく見られるものではありません。なぜかといえば、ユーロゲームというのはジャンルの定義上、許容される複雑さに上限があるからで、一方で英米の地政学ゲームというのは地域間の関係の動学を総合的に表現するものだったので一定以上の複雑さが避けられなかったんです。 複雑さの上限とプレイ時間の制約を厳密に守った上で地政学ゲームを作りあげるために、ゲルツはテーマに固有の特殊ルール、ローマなので軍隊が強いとかカルタゴなので云々とかそういうやつですが、これを完全に削除し、勝利条件をおよそ地政学ゲームでは考えられなかった「一瞬でもいいので何々できたら1点」「最初にx点取ったら勝ち」というものに変え、さらには一手番あたりの負荷を下げることでゲームのテンポを上げ、とあらゆることをやっています。これにより、夢もロマンも歴史もない、しかし間違いなく地域間のダイナミズムが表現された充分にシンプルで遊びやすいボードゲームが産まれ、彼の名前はボードゲーム愛好家に知れ渡ることになります。 とりわけ、「手番あたりの負荷を下げる」、つまりプレイヤーがゲームの中でできる行動を「収入」「技術開発」「駒の購入」「配置」「移動」というような形で分割モジュール化し、1回の手番ではそのうちの1つしか選択・実行できないようにする、しかも(ここが重要なんですが)その選択も自由に行わせるわけではなくこれまでの行動選択の履歴に応じて一定の制約をかける。これは、ゲルツの作品に共通する、彼のデザインの最も大きな特徴です。このデザインが「輪盤(ロンデル)システム」という形で盤上にわかりやすいビジュアルと共に提示されたということも、「古代」そしてマック・ゲルツという作者の登場が大きな注目を集めた一つの理由ではあるでしょう。 とはいえ、重要なのはロンデルであること自体ではありません。個々の行動の最小化・モジュール化によりテンポが非常に早いゲームになっていること。行動の選択順序に制約をかけて選択肢の数を減らした上でその選択自体を戦略的意思決定と言えるような重要なものにしていること。そしてそれらによって、元来は複雑なルールと煩雑なプレイが必然的に付随するものとされていた主題から、シンプルな骨子だけを分離できている、という点です。「古代」の場合は、地政学ゲームをチェックポイント早巡り競争に書き換えることで、ゲーム全体を「可能な限り早く」という意思の下に駆動させるようにし、そこに選択の順序つまり何を先にやるべきかという問題を載せたということが、テンポの速さと一回ごとの選択自体の重要性の両立に大きく関わっています。言うまでもないことですが、単にゲーム盤上に輪を描けばロンデル・システムとして機能するわけではありません。 翌年の第2作「インペリアル Imperial」では再び地政学、それも交渉ゲームをベースに、「1830」などで知られる株券=経営権メカニズムを突っ込み、これ以上無く重厚長大なところから始めています。「古代」と同様にロンデル・システムを用いたダウンサイジングは十二分な成果を挙げていますが、それでもこれはプレイ時間、ルールの複雑さ、プレイヤー間の対立構造の厳しさ、ガードレールの不在、いずれの点でもゲルツの全作品の中では頭一つ抜けてプレイヤーへの負荷の高いゲームです。「古代」が旧来のゲーマーズ・マルチプレイヤーズゲームをユーロゲームの文脈に置き直したゲームであるのに対し、「インペリアル」は不要な枝葉を落とした後の骨格としてユーロゲームの文脈からこぼれ落ちるもののほうを残している、と言ってもいいかもしれません。 おそらくこの地政学ゲーム2作(と、そのリメイクまたは変形ゲームである「インペリアル2030」「古代・決戦 Antike Duellum」「古代II」)がゲルツ初期のゲームとしてくくられるべきもので、2007年の第3作「ハンブルグム Hamburgum」以降の5作は全て、前述のモジュール化とテンポへの意識はそのままに、元々ユーロゲーム的な主題である経済効率を競うゲームとなっています。盤上に様々な種類の「拠点」(実際には文字通りの意味での拠点とは異なる場合もありますが)を築いていくことで得られるリソースを如何に良いタイミングでその時々必要なものに変換できるか、加えて、どの種類の拠点を勝利点に換金するか。彼の2010年代の3作品はいずれも、この「ハンブルグム」で最初に提示された枠組を引き継ぎ、その中で異なる側面を描き出したものです。 (本来はここで、他の作品群と並べた時に異質さが際立つ《ロンデルの中を駆けずり回るゲーム》、2009年発表の傑作「マチュピチュの王子 The Princes of Machu Picchu」について、2010年代の作品群と何が同じで何が異なるか述べていく必要があるんですが、作品の簡単な紹介を通じてゲルツの作家性を大掴みに説明するという本稿の趣旨から大きく逸脱するため、申し訳ないのですが省略させていだだきます) 特に2010年の「ナヴェガドール」は「ハンブルグム」との対比がわかりやすい作品で、「ハンブルグム」が混沌のまま盤上に散らばった得点の欠片のうち「what - 何を」取っていくのが効率的なのか、ということを主眼においたネットワーク構築ゲームだったのに対し、盤上も得点要素も全てが徹底して明瞭かつ直線的/単線的になるよう美しく整理された「ナヴェガドール」は、何をすべきなのかは自明に近い、「how - 如何に」の技術についてのゲームでした。「ハンブルグム」の枠組をどのように可視化するかという点では、「ナヴェガドール」は最終回答と言えるものです。実際、ゲルツは答の出た部分をいじることを好まず躊躇無く使い回しを行う作者なので、その後の2作でも同様のメカニクスがそのまま登場しています。一方、ユーロゲームがhowの技術を競うゲームであるべきなのかという点では、もしかすると思うところがあったのかもしれません。「ナヴェガドール」で結論を得た見通しの良さを可能な限り保ったまま改めてwhatのネットワーク構築ゲームを作るということが行われたのが、2013年発表の、現在では「古代」を上書きするゲルツの代表作とみなされている「コンコルディア Concordia」です。 「コンコルディア」ではロンデル・システムが捨てられています。代わりに、やりたい行動が書かれたカードをカードデッキに組み入れていき、かつその取ったカードの色がそのまま特定の種類の得点に対する乗数的増幅要素にもなるという、簡易的なデッキビルディングが行動選択のメカニクスとして採用されています。初期の地政学ゲームではロンデルとして提供された数種類の行動から何をどの順番で行うかがそのまま戦略的意思決定となって戦術を縛っていましたし、逆にどこまでも戦術のゲームである「ナヴェガドール」ではロンデルのまわり方の巧拙がそのまま点差になっていたんですが、「ハンブルグム」のロンデルは他のゲームほど絶対のものではありませんでした。何と言っても、90分で遊べるネットワーク構築ゲーマーズゲームの傑作ならばユーロゲームの枠内で他にもあるわけですから。「ナヴェガドール」(や「マチュピチュの王子」)のようにロンデル自体を競争要素とする趣向が無いのであれば、枠組の実装に必要な複数の要素を同時に片づけることのできるデッキビルディングのほうが、不必要な複雑さを削除し見晴らしを良くするという点でより望ましいわけです。結果として、この種のゲーマーズゲームとしては例外的にシンプルなルールセットの中でバラエティに富んだ「何をどれくらい重視するのか」の選択肢を提供することに成功し、発表から6年以上が経過した現在でも広く愛されています。 最後に現時点での最新作である、2017年発表の「
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by Taiju_SAWADA
| 2021-10-03 00:45
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