まとめサイト「保守速報」をめぐり、その差別的な内容によって名誉を毀損されたとして在日朝鮮人の女性が同サイトを訴えていた裁判で、最高裁第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は12月11日付で、保守速報側の上告を棄却した。保守速報に対し、損害賠償200万円の支払いを命じる判決が確定した。
高裁の判決では、ネット上の書き込みを「まとめる」行為は独立した表現であると指摘。それによる不法行為が成り立つという判断を下していた。「まとめサイト」に関する一つの判例が生まれたことになる。
まず、経緯を振り返る
「保守速報」は「政治、東亜ニュースを中心にまとめ」(公式Twitterより)ているサイトで、Twitterフォローが6万人近くにあるなど拡散力が高い。中国や韓国に関する差別的内容や誤った情報などを配信し、たびたび問題視されてきた。
同サイトをめぐっては、その収入源でもある広告に関して、記事内容を問題視したユーザーの通報を受けて企業側が掲載を撤退する動きが相次ぎ、仲介会社もそれに続いていることが、BuzzFeed Newsの取材でわかっている。
裁判は、フリーライターの李信恵さん(47)が、自身に関する同サイトの記事が「名誉毀損、侮辱、いじめ、脅迫、業務妨害」に当たるとして、2200万円の損害賠償を求めて起こしたものだ。
大阪地裁は2017年11月、記事内容の差別性を認めて200万円の支払いを命じる判決を出し、大阪高裁が18年6月にそれを支持。保守速報が上告していた。
まとめ行為は「表現行為」とした高裁判決
李さんはBuzzFeed Newsの取材に対し、以下のようにコメントした。
「保守速報がやっていた、ネット上にあるものをまとめただけという主張は通用しなかった。これがひとつの判例になり、まとめサイトをめぐる差別など様々な問題の解決にもなれば、と感じています。戦ったことが役に立てば嬉しいです」
そもそも保守速報側は裁判で、記事は2ちゃんねるにあった「第三者による複数のレスで構成」していたとして、ブログ全体が名誉毀損などの不法行為には当たらないと主張していた。
しかし大阪高裁の判決はこれを認めず、地裁判決より踏み込んで「まとめる」という行為を「独立した別個の表現行為」と指摘。管理人の「一定の意図」があるとして、こう言及していた。
本件各ブログ記事は、控訴人が一定の意図に基づき新たに作成した一本一本の記事(文書)であり、引用元の2ちゃんねるのスレッド等からは独立した別個の表現行為である。
そのうえで「ブログ記事の掲載行為は、新たな文書の『配布』である」「素材は2ちゃんねるにあるとしても、情報の質、性格は変わっている」とし、こうも指摘している。
読者に与える心理的な印象もより強烈かつ扇情的なものになっているというべきである。そして、2ちゃんねるの読者とは異なる新たな読者を獲得していることも否定し得ない。
差別についても厳しく指摘
保守速報側は「李さんが論争相手に対し、侮辱的表現である『ネトウヨ』を乱発して煽り立てていた」「対立する思想の支持者全体に対する過激な批判的言動に対抗するための対抗言論」とも主張していたが、高裁判決はこれも否定した。
言論の応酬の法理が適用される場面は、自己の正当な利益を擁護するためやむを得ず他人の名誉を毀損するような言動をした場合である。
そのために「言論の応酬の法理」は適用されないとし、「仮にこの点をおくとしても」としたうえで、「その内容において適当と認められる限度を超えている」と指摘した。
判決ではそのほか、記事にあった「マジこいつゴミ」などの表現についても、「社会通念上許される限度を超え」ていると厳しく批判。
「帰ってくれ」などと、日本から出ていくように促すようなヘイト表現についても、「これを閲覧した一般読者がおよそ具体的行為を扇動されたりすることもあり得ないとはいえない」とした。
そのうえで、名誉毀損や侮辱、業務妨害や脅迫などの不法行為については地裁判決よりも踏み込み、「人種差別および女性差別に当たる内容も含んでいるから、悪質性が高い」などとも指摘している。
保守速報の今後は
こうした判決と共に、サイトに掲載されていた広告の出稿主へ通報する「広告剥がし」の動きも広まった。広告は無くなり、保守速報は収入源を失った。
現在は福岡県行橋市の小坪慎也市議らの支援により「保守基金」というECサイトが立ち上がり、旭日模様の「保守速報しおり(A)旭日桜」(1,000円)や国史研究家の小名木善行氏の講演依頼が30万円で販売されている。
最高裁判決を受け、保守速報側は以下のようなコメントを掲載した。
「最高裁で上告が棄却され敗訴となりました。今まで応援してくださった読者の皆様ありがとうございました。保守速報は続けていきます。今後ともよろしくお願いいたします」