山本七平botまとめ/内なる「悪」に無自覚な日本人

山本七平&岸田秀の対談集『日本人と「日本病」について』/純粋信仰/111頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【山本七平:以下[山本]】今、お話にでた社会の中に不自然をみて、それを悪であるとする発想は、人間は善であるという性善説と表裏の関係にありますね。人間は善い、自分は善い、しかし社会が悪いのだと。<岸田秀との対談集『日本人と「日本病」について』より

2012-02-12 09:21:19
山本七平bot @yamamoto7hei

②【岸田秀:以下[岸田]】つまり、その場合、社会の悪はどこから来るのかということまでは分析しない。今、お話にでた社会悪の構造的原因まで追究しないことが多いですね。

2012-02-12 09:51:19
山本七平bot @yamamoto7hei

③【山本】そしてナマズを持ち出す。小室直樹氏が地震ナマズ説という比喩を使っているんですが、地震が起きるのはナマズが暴れるからだ、ナマズが諸悪の根源である、ナマズを殺せば全てが解決するという発想ですね。日本人は特にこの発想に陥り易い。だから「諸悪の根源」は絶えず必要なんだそうです。

2012-02-12 10:21:26
山本七平bot @yamamoto7hei

④【岸田】それで日本の捕り物には、必ず悪人が登場する。そして悪人を殺すか、悪人が改心するかすれば、一件落着、めでたし、めでたしです。悪人がいるから悪が生じる世の中が善人ばかりなら悪は起きないという抜きがたい前提がある。

2012-02-12 10:51:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤【岸田】悪が生じるのは、社会組織の何らかの欠陥に原因があるのではなくて、自分以外の誰かが悪人で、その悪人が「人間性」を失って悪いことをするからです。いや、もっとも西欧にもユダヤ人を悪人に仕立てて、虐待した例があるから、日本人特有の幻想であるとまでは言いきれないんでしょうが。

2012-02-12 11:21:27
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥【山本】ただ、西欧社会のスケープ・ゴートというのは、羊そのものに罪はないという意識がスケープ・ゴートを仕立てる側にあるんですね。羊は元来、罪とは無関係です。そこで自分たちの罪を身替わりの羊に転嫁しているという自覚がある

2012-02-12 11:51:21
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦【山本】「第ニイザヤ書」の有名な「苦難のしもべ」にしても、新約聖書のキリストにしても、罪のない人間として設定されているからこそ、人間の罪をすべて背負って処刑されたりすることができる。

2012-02-12 12:21:31
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧【山本】ところが、日本の場合は、諸悪の根源を殺しても、それが自分たちの罪を転嫁されて身替わりになって死んだのだという痛みがともなわないでしょう。何しろ″諸悪の根源″なんですから……。

2012-02-12 12:51:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨【岸田】罪をなすりつけている意識がまるでないわけだ。 【山本】新約聖書には、善玉、悪玉という意味での悪人という存在は出てこないんですよ。人間はすべて、いわば「善悪人」です

2012-02-12 13:21:25
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩【岸田】ところが、日本の社会が悪人を必要とするのは、皆が自分を善人だと考えるからであって、自分の内なる悪に無自覚なためですね。自分の内なる悪に無自覚だから、他人にそれをなすりつけなければならなくなる。

2012-02-12 13:51:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫【岸田】本当の悪人というのがいるとすれば、それは他人を悪人に仕上てあげる人なんですよね。そうしているという自覚なしに。僕に言わせれば、あいつは悪人だと言って正義を振りかざす奴が一番たちの悪い悪人です。それにしてもなぜ日本人はこうも簡単に自分が善人であると思い込めるのか

2012-02-12 14:21:26
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬【山本】これも幻想だな。 【岸田】大いなる幻想、赤ん坊善人説につらなる幻想ですよ。僕は以前、主観と客観は逆比例する、という文章を書いた事があるんです。例えば自分が思いやりの深い人だと思いこんでいる人間がいるとします。

2012-02-12 14:51:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭【岸田】自分は他人の気持ちをよく理解し、汲みとってやっていると日頃考えている訳です。すると彼は自分が人の心を理解せず、人を傷つけるケースがあってもそれに盲目になる。自分を思いやりの深い人間と思っている者は、じつは自分が人を傷つけている事実に盲目である者にすぎない

2012-02-12 15:21:21
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮【岸田】逆に真に思いやりのある人間というのは、自分は常々、人の心を傷つけてしまっている事実をよく知っているんです。主観と客観の関係というのはそんなふうに逆比例するそれを、″思考の全能″ではないけれど、「主観イコール客観」と置いてしまうから恐いんです。

2012-02-12 15:51:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯【山本】パウロにみられる「罪」の意識というのは″わが欲する善は行わず″″わが欲せざる悪を行う″である。この罪のある人間から、どうやって脱してゆけるのかという問題意識なんですね。

2012-02-12 16:21:17
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰【山本】人間は自分が欲する善は絶対に行わないものだという前提に立つとしますと、もし善意があるとすれば、自分がそれを実行していないという意識としてしかない訳です。自分が欲していない事ばかり実行しているという意識ですね。日本では善意もそのまま実行してしまう

2012-02-12 16:51:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱【山本】これは明治維新より古い発想だから根が強いですな。 【岸田】そんな言いかたをすると、ひねくれていると思われますよ(笑)

2012-02-12 17:21:19
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲【山本】そうなんです。「善意が通らない」と言うから、そんな善意が通ったら社会は大変な事になるといえば、憤慨されますから。戦後は特に自分が善で社会が悪だという単純形式で来ておりますから。 【岸田】そこでこの悪い社会をぶっ潰せばよい、と。革命もまた性善説を前提にしているんですな。

2012-02-12 17:51:09
まとめたひと
山本七平bot @yamamoto7hei

山本七平の著作から名文・名言等を紹介しています。字数の都合上、元の記述を編集・追記・省略等したり、(続)で分割して続けたり、①②のように連続させている場合があります。また、字数に余裕があれば<の後に引用元の著作名を入れています。 作者:@yamamoto8hei 作者のブログでも山本七平を紹介中です。