建築基準法の特例措置など、もっての外だ──。1000年以上前に創建された世界遺産「仁和寺」(京都市)の門前で着工した高級ホテルを巡り、周辺住民が市と指定確認検査機関を訴える行政訴訟が巻き起こった。
仁和寺はかつて皇室出身者が住職を務め、「御室御所」とも呼ばれた寺院だ。創建は888年とされ、複数の建物が国宝や重要文化財に指定されている。世界文化遺産でもある名所とあって、観光客は絶えない。
そんな古刹の門前で着工した高級ホテルプロジェクト「御室花伝抄計画」を巡って、建築確認取り消しなどを求める行政訴訟が京都地方裁判所で進行中だ〔写真1、図1〕。原告は周辺住民51人、提訴は24年6月。被告は京都市と日本ERIの2者。建築主はホテル大手の共立メンテナンス、設計・施工者は戸田建設だ(いずれも訴外)。
原告側は、計画が世界遺産の「バッファゾーン」として求められる土地利用状況と整合せず、景観利益を含む「住居の環境を害する恐れ」があるなどと主張している。完成すれば建築確認取り消し訴訟は意味がなくなる。そこで京都地裁は、特に迅速化が求められる行政訴訟と位置付け、25年夏ごろの判決言い渡しを目指しスピード審理を行っている。
用途規制を市が特例で緩和
訴状によると、問題の敷地は全体の約57%が第1種住居地域、約43%が第1種低層住居専用地域で、宿泊施設の延べ面積は通常、最大3000m2に制限される。だが、建設中のホテルは延べ面積約5800m2で、上限の約2倍に当たる規模だ。
このような計画を可能としたのが、特定行政庁である市の特例許可。市は22年、建基法48条ただし書きに基づき、建築計画が「良好な住居の環境を害する恐れがない」として規制を緩和した。これに基づき23年に日本ERIが建築確認を下ろした経緯がある。原告側はこれを問題視した。
原告側の訴えは市の特例許可の取り消し、そして建築確認取り消し。許可が否定されれば、必然的に用途規制違反になる、という構成だ。
仁和寺門前の敷地では、分かっているだけでも20年以上前から、「良好な住居の環境を害する恐れ」を巡る紛争が続いてきた〔図2、3〕。
歴史的景観の保全に加え、特に問題となってきたのが交通量の多さ。仁和寺と敷地を隔てる道路「きぬかけの路」は、仁和寺から金閣寺までを結ぶ観光道路。「絶えず観光バスが行き来し、紅葉の時期などは頻繁に渋滞する。付近は古くからの狭い道路ばかりだが、渋滞を回避するため進入するドライバーが絶えない」と原告代理人の中島晃弁護士は語る。
原告側が懸念しているのは、そうした地域に用途規制を超えた施設の建設を認めれば、交通の便が今以上に悪化する点だ〔写真2〕。