(社説)トリチウム水 福島の声を聴かねば
東京電力・福島第一原発の汚染水を浄化処理した後、放射性物質トリチウムが残留する水をどう処分するのか。経済産業省の小委員会が、とりまとめの提言を大筋で了承した。
薄めて海に流す「海洋放出」を事実上、最も重視する内容になっている。
これを参考に、政府はトリチウムを含む処理水の処分方法や時期を判断する。環境中に放出すれば、風評被害が生じる恐れがある。拙速な判断は厳に慎まねばならない。
小委は2016年から、経産省の作業部会が示した5案について、技術的な側面に加えて、風評被害など社会的な影響も含めて検討してきた。
とりまとめの提言は5案のうち、海洋放出と、蒸発させて排出する「大気放出」の2案に前例があることから、現実的な選択肢と位置づけた。そのうえで、両者の長所と短所を検討する形をとっている。
通常の原発で実績がある▽設備が簡易で取り扱いのノウハウがある▽放出後に拡散の予測やモニタリングをしやすい▽想定外の事態が起こりにくい……。こうした技術的なメリットを踏まえて、「海洋放出の方が確実に実施できる」と評価した。
社会的な観点から見た場合、影響の大小を比較するのは難しいという。ただ、大気放出をすると、海洋放出に比べて幅広い産業に風評被害が広がる恐れがあると指摘した。
明言こそ避けたものの、海洋放出に優位性があることを示唆している。
とはいえ政府は、これをもって安易に海洋放出を決断してはならない。「地元の自治体や農林水産業者など幅広い意見を聴いて方針を決めることを期待する」。この小委の要請を、重く受け止めるべきだ。
地元との対話に、政府が海洋放出ありきの姿勢で臨めば反発を呼ぶだろう。自治体や事業者のほか、地域住民らの声を誠実かつ丁寧に聴いてほしい。
忘れてならないのは、小委が一連のプロセスをガラス張りにするよう求めている点だ。密室で議論しても、政府の最終判断に国民の理解は得られまい。情報公開が肝要である。
東電は「22年夏ごろに敷地内の貯蔵タンクが満杯になる」として早期の判断を望むが、小委は提言の中で、政府決定や処分開始の時期を明示しなかった。期限を切って意思決定の手続きを進めるようでは困る。
仮に処分方法が決まっても、準備に年単位の時間がかかる。処分を終えるまでには、さらに長い年月が必要だ。息の長い取り組みになることを、政府は肝に銘じなければならない。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら