【『檄文』の論理②】「非論理的正常人=司馬遼太郎」と「論理的狂人=三島由紀夫」/~人間という”支点”で論理を中断する者がノーマルな日本教徒~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/『檄文』の論理/『檄文』は狂人の文章ではない/43頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①氏が『檄文』で何をのべようと(氏が切腹をしなければ)日本人はこの『檄文』の言葉を「空体語」に組み入れてしまい、人間という支点を使って「実体語」とバランスをとり、(続 pic.twitter.com/X5RnB8NQIM

2016-04-19 22:24:43
山本七平bot @yamamoto7hei

②続>「なるほど三島氏の言うことは論理的に筋が通っている、まさにその通りだが、しかし『人間』を忘れてはいけない」 という意味の事をいい、同時に(続

2016-04-19 22:39:08
山本七平bot @yamamoto7hei

③続>「…だが彼も『人間』だから、彼(という『人間』)を支点として、この『空体語』の世界とバランスをとっている『実体語』の世界がある筈で、彼は、自分の『実体語』の世界を、彼なりの『空体語』で言っているだけだ」 と考え、それで終りにしてしまいます。

2016-04-19 23:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

④事実、彼が切腹をするその瞬間まで、すべての日本人は彼の言葉をそのように扱い、従って、彼が何を言おうと大して心にかけていませんでした。 これが、その証拠です。

2016-04-19 23:38:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤そして彼が、「人間」という支点を無視して(「生命尊重以上の価値の所在を見せてやる」)、分銅をいきなり天秤皿に移し、その論理を物差のように使って「実体語」の世界を規定しようとしたことは、日本教徒にとっては、「気が狂った」としか思えないわけであり、(続

2016-04-20 08:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥続>同時に、この分銅の移動という考えられぬ行為は、当然、天秤の支点を壊し、これは、いわば彼という「人間=支点」の首を切り飛ばしただけでなく、全日本教徒の信仰の対象である「人間=支点という概念」の首をも折りそうになりました。 pic.twitter.com/SNsTF6fWEe

2016-04-20 08:56:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦これがいかに大きなショックであるか。 日本人は少なくとも徳川時代から全員が無神論者ですが、「無人間論者=無支点論者」が存在するなどとは、夢にも考えられない民族ですから、当然のショックです。 従ってこのショックが逆に、日本教を強く浮かび上がらせる結果にもなりました。

2016-04-20 09:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧すなわち、断固として日本教徒の立場に立った司馬遼太郎氏の反論(乃至は批判)がそれです。 事件直後に、多くの評論家・文化人・新聞の論説委員などが三島事件について発言しておりますが、…これらはいずれも取り上げる価値はありません。

2016-04-20 09:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨その中にあって、『毎日新聞』に掲載された司馬遼太郎氏の『異常な三島事件に接して』という一文は、逆にこの事件によって触発されて、日本教徒の本心、すなわちその「考え方の型」を思わず率直に語ってしまったという点で、実に貴重な一文であると思います。

2016-04-20 10:09:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩これは「三島批判」というより、むしろ 「三島事件に際して、全日本教徒に与うるの書」 とでも言うべきものです。 事件が起ったのが11月25日、この一文が掲載されたのが26日の朝刊ですから、おそらく非常に短時間に一気呵成に書き上げられたものでしょう。

2016-04-20 10:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪従って短い前文が終ると、いきなり「日本教」の核心ともいうべき言葉が来ます。 『檄文』を抜粋したように、この一文をも説明を加えつつ抜粋してみましょう。

2016-04-20 11:09:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫【①思想というものは、本来、大虚構であることを我々は知るべきである。 思想は思想自体として存在し、思想自体として高度の論理的結晶化を遂げるところに思想の栄光があり、現実とはなんのかかわりもなく、現実とはかかわりがないところに繰りかえしていう思想の栄光がある。】

2016-04-20 11:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬【ところが、思想は現実と結合すべきだというふしぎな考え方がつねにあり、特に政治思想においてそれが濃厚であり(と氏は書いていますが、私はむしろ、日本では、「政治においてそれが露呈する」と考えます)、たとえば吉田松陰がそれであった。】と。

2016-04-20 12:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

①ここで、プラトンを思い起すのは恐らく私だけではありますまい。 彼の記すソクラテスは、司馬氏とは全く逆で、 ロゴス(言葉=論理=思想)は現実と結合しなければ無意味だ と次のようにはっきりと断言しているのです。<『日本教について』

2016-04-20 12:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

②【私(ソクラテス)としては、今に始まったことでなく常に、私に関する限り、私には最良と思われる思考の結果であるロゴス(言葉=思想)以外には、絶対に従わないという人間である。 今まで口にしてきたロゴスを、私の運命がこうなってしまったからといって、今、捨て去ることはできない。】

2016-04-20 13:09:10
山本七平bot @yamamoto7hei

③【いや、それ(ロゴス)はほぼ同じだと私には思えるし、以前同様それをうやまい、尊んでいる。 今、我々が、語るべきより良きものを持たないならば、知れ! 私はあなたに従わないことを。 正しいと同意したことは、実行すべきか破棄すべきか……実行すべきだ。(『クリトン』)】

2016-04-20 13:39:06
山本七平bot @yamamoto7hei

④以上のプラトンの言葉を頭において、司馬遼太郎氏の次の言葉をお聞きください。 【②松陰は日本人がもった思想家のなかで最も純度の高い人物であろう。 松陰は「知行一致」という、中国人が書斎で考えた考え方(朱子学・陽明学)を、日本ふうに純粋にうけとり、】(続

2016-04-20 14:09:27
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤続>【自分の思想を現実世界のものにしようという、たとえば神のみがかろうじてできる大作業をやろうとした。 虚構を現実化する方法はただひとつしかない。 狂気を発することであり、狂気を触媒とする以外にない。】

2016-04-20 14:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥【要するに大狂気を発して、本来天にあるべきものを現実という大地にたたきつけるばかりか、大地を天に変化させようとする作業をした。 当然この狂気のあげくのはてには死があり、松陰のばあいには刑死があった。】

2016-04-20 15:09:33
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦さて刑死という言葉が出て来ますと当然ソクラテスが連想されます。 すると「私に関する限り、私には最良と思われる思考の結果であるロゴス(言葉=思想)以外には絶対に従わない」と明言した彼も「狂気を触媒」とし「要するに大狂気を発して」「この狂気の挙句の果てに」死があったのでしょうか。

2016-04-20 15:39:30
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧もちろん否です。 ソクラテスは少しも狂気せず、きわめて冷静かつ論理的に自問自答しているだけですから。 彼(ソクラテス)の場合は「思想が現実と結合すべきだ」と考えない人間がいたら、その人間こそ「狂気を触媒として」思想という名の妄想を抱いているにすぎないことになるでしょう。

2016-04-20 16:10:20
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨すなわち彼は、法を破って脱獄すれば、その行為自体が、誤っているはずの裁判官の判決を、正しいと裏書きすることになる。 なぜなら、法を破壊するものは、青年や無知な者を堕落させると思われるのが当然だからだ――

2016-04-20 16:39:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩一体、国外に逃亡して、そこの人びとに何と話しかけ、どういう思想を語るつもりか、 彼らに近づいて、例えば、徳、正義、秩序、法が人間にとって最高の価値を有するものだなどと話すつもりなのか、 そういう行為こそ、最大の恥知らずではないのかと。

2016-04-20 17:09:30
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪――もしそういう行為ができるものがいるとしたら、その人間こそ、ソクラテスにとっては「狂人」ではないでしょうか。 彼ソクラテスの場合は「思想」のみが「現実」ですから、現実の「彼」は言うまでもなく「彼の言葉」です。

2016-04-20 17:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫これは西欧人にとっては自明のことであり、従ってソクラテスが、生きるも死ぬも、自分のロゴス(言葉=論理=思想)で自分と自分の世界を律しているのもまた当然で、ここに狂気が入る余地があるはずはありません。

2016-04-20 18:09:16
まとめたひと
山本七平bot @yamamoto7hei

山本七平の著作から名文・名言等を紹介しています。字数の都合上、元の記述を編集・追記・省略等したり、(続)で分割して続けたり、①②のように連続させている場合があります。また、字数に余裕があれば<の後に引用元の著作名を入れています。 作者:@yamamoto8hei 作者のブログでも山本七平を紹介中です。