20日に決定した令和7年度の与党税制改正大綱で、公的年金に上乗せできる個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の見直し内容の一部が〝改悪〟だとSNS上で話題になっている。現行では、60歳でイデコの運用資産を一時金として一括で受け取った後、65歳で退職金を受け取れば、退職金にかかる所得税が最大限で控除された。だが、今回の改正で、控除額を最大化できる年齢が70歳に引き上げられたのだ。
退職金より先の一時金が対象
退職金やイデコの運用資産は一括支給されると「退職所得控除」を差し引いて税負担を軽くする仕組みがある。控除額は勤続年数や加入期間で計算する。ただ、退職金と一時金の受け取るタイミングで、その控除額は大きく変わる。
退職金よりも先にイデコの一時金を受け取る場合は、退職金を受け取る間隔を一時金の支給から5年以上あければ、退職金にかかる所得税が最大限で控除される「5年ルール」が適用される。仮に一時金支給から4年以内に退職金を受け取った場合、イデコの加入期間と会社の勤続年数のうち、重複している期間分の控除などが差し引かれるため控除額が減少し、税負担が増える。
7年度税制改正では、この5年ルールが「10年ルール」に見直された。イデコで運用した資産の受け取りは原則60歳からなので、これまで65歳で受けられていた最大限の退職所得控除は、70歳からでないと受けられなくなった。このルールは8年1月から支給の一時金に適用される。
退職金の課税額が4・3倍に
仮に、60歳でイデコの一時金500万円(加入期間20年)、65歳で退職金2000万円(勤続年数35年)受け取る場合、今回のルール変更で、勤続年数とイデコ加入期間が重複している期間分などが控除対象外となり、退職金の課税額は変更前に比べて約4・3倍に拡大するという。
辻・本郷 税理士法人の山下大輔公認会計士・税理士は、「70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされたとはいえ、現状、退職金の受け取り時期を70歳にずらすのは難しく、実質的な控除減額だ」と指摘する。
一方で、財務省は「現状、大企業の約8割が定年を64歳以下に設定して退職金を支給しており、今回のルール変更で大多数の人は影響を受けない」と説明している。
ルール変更の狙いは
受け取る順序を逆にして、イデコの一時金より先に会社の退職金を受け取る場合には、退職金の受け取りから20年経過しないとイデコの退職所得控除を満額利用できない「19年ルール」というものもある。仮に55歳で退職金を受け取った場合、イデコは75歳まで待たないと満額で控除を受けられない。
ただ、イデコの受給期限は75歳のため、「実質的にこの条件をクリアして、控除を最大化するのは不可能に近い」(山下氏)。19年ルールよりも5年ルールを利用した方が多くの控除を受けられるため、ユーザーからは不公平との指摘もあったという。
7年度税制改正での5年ルールの見直しは、こうした不公平感を是正する狙いがあると財務省は説明する。その上で、「税制改正を機にルールの違いを理解してもらい、退職金やイデコの一時金を受け取るタイミングを考えてほしい」と呼びかける。
一方で、山下氏は「一連のルール変更は、定年70歳の義務化に向けた布石ではないか」と指摘する。SNSでも、「定年70歳に義務化する前のルール変更は順序が逆」、「すでにイデコを始めた人まで変更したルールに従わないといけないことは大問題」といった不満の声が噴出。「イデコ改悪」に賛同する意見があふれている。