安倍政権考

安倍首相が仕掛ける労組分断作戦 信条重なる旧同盟系にじわり触手 祖父・岸信介と重なる巧妙戦術

【安倍政権考】安倍首相が仕掛ける労組分断作戦 信条重なる旧同盟系にじわり触手 祖父・岸信介と重なる巧妙戦術
【安倍政権考】安倍首相が仕掛ける労組分断作戦 信条重なる旧同盟系にじわり触手 祖父・岸信介と重なる巧妙戦術
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安倍晋三首相が日本最大の労組中央組織である日本労働組合総連合会(連合)の分断作戦を本格化させている。連合は民主党最大の支持団体でもあることから、首相は連合内の右派に接近して左派との分裂を誘い民主党の弱体化を図ろうとしているのだ。右派には集団的自衛権の行使容認、原発肯定、憲法9条改正賛成派が多く、政治理念は意外にも首相と近い。このため、公務員労組などの左派が警戒を強めている。

安倍首相は6月26日夜、連合傘下でスーパー、繊維労組などで構成する産業別労組「UAゼンセン」の逢見直人会長と首相公邸でひそかに会談した。政府は原則として首相との会談相手を公表している。ところが、26日夜に限っては、首相の公邸入り以降の動静が保秘扱いとなり、公にされなかった。

逢見氏は、民主党を支援する民間最大の産業別労組のトップ。連合ナンバー2の事務局長に10月に就任することが、会談の数日前に内定したばかりだった。

会談では、今国会で議論されている労働法制改革をめぐり意見交換し、首相が協力を求めたとみられる。

企業が派遣労働者を受け入れる期間の制限を事実上撤廃する労働者派遣法改正案をめぐり、安倍政権が成立を目指しているのに対し、連合は民主党と足並みをそろえて強く反対している。首相側に民主党を揺さぶる狙いがあったのは明白だった。

そもそも、連合内ではUAゼンセンなど民間労組中心の右派(旧同盟系)と公務員労組中心の左派(旧総評系)が牽制し合っている。このため、左派の労組幹部は「連合が政府に政策を要求することは大切だが、逢見氏のようにコソコソやることではない」と不快感を示した。

こうした連合内の様子を熟知する首相の労組分断作戦は実に巧妙だ。首相は自身の経済政策「アベノミクス」を実現させるため、「政労使会議」を発案。平成25年9月、連合の古賀伸明会長を引きずり出した。それまでの自民党政権は対(たい)峙(じ)型の「政労会見」として、政府と連合だけの枠組みで協議してきたが、政労使会議には経団連も参加することになった。政府が労使を取り持つ形で話し合いを続け、連合内にあった安倍政権アレルギーを徐々に払拭させることに成功。やがて逢見氏との密会を果たすまでに至った。

ただ、首相の正念場はこれからだ。古賀氏は26年の産経新聞の取材で、こう民主党を批判している。

「民主は働く者の視点に立った政策を進めようとしたが、ガバナンス(統治)に問題があった。政権運営に失敗した理由はほぼそれだけだ。自民の場合、いざとなったら政権維持にベクトルが向く。民主は、みんなが(消費増税をめぐり)言いたいことをどんどん言って分裂した」

連合が自民党を引き合いに出し、ここまで民主党を批判できるのは、自らのガバナンスに自信を持っているからだ。連合は平成元年、左派と右派が労働者のための政策実現を目指し結集し、憲法9条改正などイデオロギーの是非を棚上げにした。数の力で国会議員を送り出さなければ、利益団体として連合の望む政策が実現できないと考えたからだ。

両派の政治理念はテーマによっては「水と油」なのにもかかわらず、21年に民主政権樹立をさせ、四半世紀も分裂を回避し続けている。

とはいえ、同盟系の労組幹部は数年前、「総評系の公務員労組と一緒になるべきではなかったという考えは今でも変わらない」と明言している。首相は、こうした連合のイデオロギー上の矛盾を突いているようだ。

昭和35年、社会党右派が離党し民主社会党が誕生した。実は日米安全保障条約改定を目指していた安倍首相の祖父、岸信介元首相も西尾末広氏ら社会党右派に水面下で接近し、分裂を誘った節がある。安倍首相はそこまでできるか。

(政治部 比護義則)

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