ヨルダン行きの列車に乗って 8——ゴスペル版「スタンド・バイ・ミー」

ニューメキシコ州にて(著者撮影)

ザ・インプレッションズの名曲 People Get Ready の歌詞を、北米における黒人の歴史と文化に即して理解してゆく話その8。前回(その7)はこちら。

ヨルダン行きの列車に乗って 7——基層としての黒人霊歌
ザ・インプレッションズの名曲 People Get Ready の歌詞を、北米における黒人の歴史と文化に即して理解してゆく話その7。前回(その6)はこちら。前回(その6)では、歌詞中の列車がなぜヨルダン行きなのかという前々...

ここまで数回にわたって見てきたのは、この曲の歌詞中の「ヨルダン」は、旧約聖書においてエジプトを脱出したヘブライ人たちがめざす「約束の地(カナン)」を象徴するヨルダン川から来ていることだった。「ヨルダン=約束の地」という図式に、北米で奴隷状態におかれた黒人たちはみずからの境遇を重ねあわせ、そこからの解放や離脱への願望の暗喩としてうたわれてきた。それは、キリスト教化された奴隷黒人たちがうたった黒人霊歌 spirituals において、すでに見られる。前回(その7)では、こうした点について確認した。

前回あげた「漕げよマイケル」や「深き河」は、古くから黒人たちのあいだでうたわれてきた霊歌であり、19世紀に白人によって採取された曲だった。今回は、20世紀に入ってつくられたゴスペル・ソングを見てみよう。

代表的な曲のひとつが「スタンド・バイ・ミー Stand by Me」である。このタイトルを見ると、ぼくも含めてほとんどのひとが、ベン・E・キングの曲(1961年)を思い浮かべるにちがいない。しかし、ここでいう「スタンド・バイ・ミー」は、それとは同名異曲である。

ゴスペル版の「スタンド・バイ・ミー」が書かれたのは1905年のことだった。作詞作曲は、チャールズ・アルバート・ティンドレー (Charls Albert Tindley) というメソジスト系の黒人牧師だった。ベン・E・キングはむろんこの曲を知っており、この曲にインスパイアされて、もしくはこの曲を下敷きにして、あの曲を書いた。

YouTube には、教会での合唱やピアノ弾き語り形式でゴスペル版「スタンド・バイ・ミー」をうたう動画がいくつも投稿されている。それらがより原初的な形態なのだろう。この曲を、エルヴィスもうたっている。ここではそのリンクを貼っておく。1966年の録音だという。

Elvis Presley – Stand By Me [ CC ]
エルヴィスのうたうゴスペル「スタンド・バイ・ミー」(1966年)

話は逸れるが、1905年と1961年ふたつの「スタンド・バイ・ミー」を聴き比べてみると、メロディーや構成はともかく、歌詞にかんしては、モティーフも言葉づかいもかなり似ている。参考までに冒頭の1節だけ比較してみよう。

チャールズ・A・ティンドレー(1905):

When the storms of life are raging, stand by me.(2回)
When the world is tossing me, like a ship upon the sea,
Thou Who rulest wind and water, stand by me.

人生に大風が吹き荒れるとき、そばにいてください(2回)
激浪をゆく舟のように、世界に翻弄されるとき、
汝 風水を統べる者よ、そばにいてください

(引用者訳)

ベン・E・キング(1961):

When the night has come
And the land is dark
And the moon is the only light we’ll see
No I won’t be afraid
Oh, I won’t be afraid
Just as long as you stand, stand by me

夜が来て あたりが闇に包まれて
月明かりだけ ぼくらに見える
怖くなんかないさ
そうさ 怖くなんかないさ
きみがそばにいてくれるかぎり

(引用者訳)

たしかに両者はよく似ている。だが、違いもある。「そばにいてほしい」対象は、ゴスペル版ではイエスであるのにたいして、ベン・E・キング版では(少なくとも第一義には)恋人である。襲いかかる困難の度合いも、キング版にはゴスペル版ほどの深刻さや絶望感は見られない。

話を戻そう。さて、そのゴスペル版「スタンド・バイ・ミー」の最後の第5節にも「ヨルダン川」が登場する。

When I’m growing old and feeble, stand by me.(2回)
When my life becomes a burden, and I’m nearing chilly Jordan,
O thou Lily of the Valley, stand by me.

歳をとって衰えたときも、そばにいてください(2回)
生きる辛さに押しつぶされて、冷たいヨルダン川に近づいたときも
おお 汝 谷間の百合よ、そばにいてください

(引用者訳)

「谷閒の百合」というとバルザックの小説が連想されようが、Lily of the Valley という英語は植物のスズランのことだ。キリスト教の文脈ではイエスの象徴となるらしい。たとえば、賛美歌512番「我が魂の慕いまつる」の英語題名は The Lily of the Valley であり、日本語訳詞中では「谷の百合」となっている。この「谷の百合」がイエスのことなのだ。

ゴスペル版「スタンド・バイ・ミー」の歌詞でうたわれている「ヨルダン川に近づく」は、死が近づいているの意。川を渡った向こう側が「約束の地」、すなわち「天国」なのだから。日本流の言い方にをすれば、このばあいの「ヨルダン川」とは、艱難に満ちた現世と安寧の死後の世界とを分かつ「三途の川」みたいなものだ。

すでに述べたように、19世紀の奴隷黒人にとって、その「三途の川」たるヨルダン川は、必ずしも観念上の存在、というだけではなかった。奴隷州と自由州を分かつ境界、オハイオ川という地理的実在物に重ねあわせられていた。

People Get Ready のごく短く簡潔な歌詞の背後には、北米の黒人たちの歴史や文化にかんする分厚い記憶をともなっていることが少しずつわかってきた。

その9へつづく。

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