田舎の自然と進んだインフラ、どちらも持ち合わせている「埼玉県本庄市」|文・アンゴラ村長(にゃんこスター)

著: アンゴラ村長(にゃんこスター) 

タピオカと新幹線で測る田舎度

あなたの地元にタピオカ屋はありますか? そのお店は、いつできましたか?

私の地元、埼玉県本庄市には3年前に初めてタピオカ屋ができました。今から、乱暴な持論をお見舞いしてしまうのですが、実は「いつタピオカ屋ができたか?」というものさしであなたの地元が田舎かそうでないかを測ることができます。

直近のタピオカブームは2018年に始まったとされているので、そこから1年以内の2019年……5年前までにできていたら、それはもう都会です。タピオカでピンとこない人は、アンチョビや花椒に置き換えても、ほぼ同じものさしで測ることができます。

その計算でいくと、本庄市は田舎ということになります。ですがここで難しいのが、本庄市には「本庄早稲田駅」という新幹線の駅も通っているという点です。ここでまたしても乱暴な持論をお見舞いしますと、実は「新幹線が通っているかどうか?」というものさしでも田舎かそうでないかを測ることができるのです。

田舎な側面と進んだインフラ、どちらも持ち合わせている街、本庄……。
東京から約50分で来られる田舎、本庄……。

いや、もっと魅力はほかにも沢山あるのです。ただテーマパークのような誰もが一瞬で楽しい場所と測れるような大スポットがなくて伝え方が難しいのです。でも、なんといいますか攻略していくと面白い街なのです。

なので今回のエッセイでは「本庄の良さを伝えたいな」という縦軸の毛糸に「街にちなんだアンゴラの思い出話も聞いてほしいな」という横軸の毛糸を上手いこと編ませていって、最後に素敵なマフラーが織れたら嬉しいです。今日はマフラーを完成させます。よろしくお願いします。

地元の子どものオアシス「ふじや綜合食品」

最初に、私が思う本庄の良さダダ漏れスポットは「ふじや綜合食品」です。

ここは個人経営のスーパーです。スーパーですが、私は駄菓子屋だと思っています。市の図書館の近くにあって、中学生のころは図書館に来るとセットで寄っていました。

あ! これはすごくかっこいい自分の話になるのですが、私は中学のときに通知表でオール5をもらったことがあります。そこから自分が勉強できることに気付き、オール5の歓喜に味を占めた私は、また取りたくなって、そのために内申点を上げたすぎて、みんなが1回しかやらない宿題を3回やって努力をアピールしたりと小賢しい中学時代を送っていました。

そんな風に勉強には力を入れていたので、テスト前になると図書館に朝から晩まで籠もって、息抜きにふじや綜合食品へ行ってブタメンを食べたり、ヤングドーナツを食べたりして過ごしていました。

なんかすごく良いのです。写真にもありますが、お店の前に昭和のオフィスを彷彿とさせるグレーのオフィスデスクが置いてあって、そこで買ったものを食べていいのです。

昼下がり、午後、流れていく車……。

そんな街を眺めながら食べる駄菓子に人生がどれだけ豊かなのかを教えてもらった気がします。そしてたぶん、ここが本庄最古のテラス席です。

ど、どうですか……?

本庄市の良さのニュアンスが伝わっていたら嬉しいです。「テーマパークみたいな良さではないけれど……」というのは、こういう意味だったのでした。きらびやかではないかもしれないけど、時間がゆっくりと、誰も人が乗ってないときのエスカレーターみたいに時間がゆっくりと進むのを体感できる街なのです。

「浅見山丘陵」など豊かな自然が隣にあった高校生活

そんな中学時代を経て、私は早稲田大学本庄高等学院に進学しました。学校名だけ聞くと、頭が良さそうに見えてしまうのですが、私は推薦で入学したので入試には関与していないのです。

高校は、天才ばかりでむちゃくちゃでした。

登校するとクラスメイトがバイオリンを弾いているのは日常茶飯事でした。さらに東京や神奈川などから新幹線に乗って高校に通う「新幹線通学」もあるあるだとして、ほかにもクラスメイトが喧嘩していたので内容を聞いてみると「無限大は奇数か偶数か?」で揉めていたりと、本当に漫画みたいな世界でした。

先生もむちゃくちゃで、定期テストという生徒にとって一世一代のタイミングで問題をたったの3問で100点にしてみたりと、ノーサンキューな遊び心で弄んできたりしました。

そんな天才ばかりの中で、地元で1人駄菓子を食べて勉強していただけの私はついていくのに必死でした。授業は録音するのが当たり前で放課後にもう一度聞き直してはノートにまとめていました。

しかし、仲間もいました。私と同じく天才に怯える同志で集まり、テストの2カ月前から放課後は一緒に勉強をしていて、勉強に行き詰まると山へ行きます。

高校は「浅見山丘陵」という山の中にありました。本庄市は、なんかめっちゃ自然! という感じではないのですが、山のエリアと住宅街のエリアに分かれていて、自然と住宅が適度に混在した街かなと思っています。あ、でも、自然に関していうと、辺りが山々に囲まれているせいで風がむちゃくちゃ強く、風がブワッと下から吹き荒れ前髪がプチリーゼントにされることも多々なロックな環境でした。

脱線しましたが、高校の話に戻します。過酷なテストのため必死で勉強していましたが、それに疲れると、山の中へ入っていくのが気分転換でした。そして落ちているデカイ木の枝を見つけると叫びながら折ってストレス発散していました。木の枝を折っているときの全能感はすごいです。

あのとき、世界は確実に私たちの手の中にありました。でもあるとき、いつも一緒に枝を折っていた友達が1人で枝を折っているのを偶然見かけて「1人でやり出したら話が違うじゃん……」と恐れ慄き、そこから枝を折ることはなくなりました。

そんな封印された枝折りに代わり、息抜きになったのは「サンドーレ」の「みかんサンド」でした。食に走りました。これは個人経営の手づくりサンドイッチのお店のものです。今流行りのフルーツサンドにかなり先駆けています。

「みかんと生クリームを食パンで挟んだサンドイッチ」

もう、この文章だけで美味しくないですか……? 本当にそれだけのシンプルさがいいのです。思い描いたそのままの味がすごくいいのです。

本庄にも映えはある

なんだか今のところ、駄菓子屋とか手づくりサンドイッチとか、昔ながらの心じんわり系のスポットばかり出てきているのですが、本庄にもちゃんと新しいインスタ映えスポットとかもあります。本当にあります。

「マリーゴールドの丘公園」です。ここは秋になると、マリーゴールドの花が満開に咲いてオレンジ一色の丘になります。太陽に着地したのでは……?と錯覚するほどのオレンジの絶景に包まれます。冬にはイルミネーションも点灯しますし、あとは日時計があったり、希望の鐘があったりします。

希望の鐘は、説明に「鳴らせばきっと、みんなが幸せに……」と「きっと」とあって、幸せになれるとは断言しない実直さがお気に入りポイントです。

こんな感じで本庄には、おニューの素敵スポットもあるのです。ああ、良い未来だなあと思います。子どものころ、こんな街になったらいいのになあと思い描いた本庄市にどんどんなっていってます。

活気を取り戻した、銀座通り商店街

本庄には「銀座通り」という商店街があります。ここは私が生まれたころにはもうシャッター商店街になっていて、普段は車で通り過ぎるだけの道でした。

でもお祭りのころになるとこの道は封鎖されて、沿道には沢山の屋台が並びます。そうして屋台を巡りながら自分の足で立ってこの通りを歩いてみたとき、初めてシャッターの閉まったお店一軒一軒に顔があることに気付きました。洋服店だったり、時計店だったり、電気店だったりしたのです。

コンビニのように統一化された顔ではなくて一軒一軒が個性のある顔で幼心に響きました。「昔はにぎわっていたんだよ」と聞いたとき、なんだか寂しくて、このシャッターの灰色で塗りつぶされた通りが、またカラフルににぎわったら良いのにと思いました。

どこにいってもあるものじゃなくて本庄にしかないもので溢れたら良いのに。しかし、そんなことを思っても自分にできることなんてなく、そのまま私は東京の大学に進学し、街を出てしまいました。

東京に出てきてもう9年くらい経ちます。本庄のことはずっと気にかけています。でも、嬉しいことに私のやんわりとした理想は誰かの夢でもあったようで、気付けば今素敵なお店が街にどんどん増えているのです。

あの、シャッターが閉まっていた銀座通りには「本庄銀座ブルワリー」という、クラフトビールの醸造所ができました。ここではオリジナルのビールが売っているのと、お店ではバー営業をしているのでお洒落なカクテルを嗜むことができます。まさか本庄でモヒートが飲める日が来るとは思いませんでした。

それから「はにぽんプラザ」という市の施設もできました。ここは街の人の交流の場であったり、フリースペースでくつろぐこともできます。中には「THREE PEAKS cafe」というカフェもあって、コールドブリューコーヒーみたいなそういうカタカナいっぱいのコーヒーが飲めるほか、イタリアンも楽しめるそうです。

あとは、蔵カフェ「NINOKURA」です。ここは、もともとは味噌や醤油を貯蔵していた蔵(明治22年につくられたらしい)を改蔵してカフェにしたお店です。小さいころから「なんか白くてもったりとした壁の、レアチーズケーキみたいな建物があるな」と思っていたら、それが蔵でした。代官山と見紛うほどの粋な空間です。ここではNINOKURAがオリジナルにブレンドしたコーヒーが飲めたり、本庄の名物料理「納豆ピザライス」や「つみっこ」も食べることができます。

ほかにも「ハナファームキッチン」も、かなりおすすめのお店です。サラダがむちゃくちゃ美味しいのですが、なんと素材によって一つひとつ調理法を変えているらしいのです。最高のバイトリーダーが適材適所にシフトを割り振った日のバイトみたいな、それぞれの持ち場での美味しさのパワーの発揮がえぐいです。一度は絶対食べてほしいです。

すみません……! 駆け込むように、自分の思い出もさながらにお店をバンバン紹介してしまいました。そのせいで最初に「本庄市の良さ」の縦の毛糸と「自分の思い出話」という横の毛糸でマフラーを編むとか豪語してたのに、最後に縦・縦・縦・縦・縦の毛糸ラッシュをお見舞いしていびつなマフラーを完成させてしまいました。すみません。

でも、嬉しかったのです。私にとっては、本庄市に行かないと触れられないもの、食べられないものがあることが嬉しくて、そしてそれを自信をもっておすすめすることができる今がとても嬉しいのです。タピオカはどこでも飲めるけど、本庄でしか味わえないものが本庄にはちゃんとあります。

私は今東京で芸人をしていて地元にはいないけど、こうして自分なりのかかわり方で貢献することができたらなんかすごい良い大人という感じで嬉しいです。

こんな感じで終わりです。今回のエッセイで「じゃあ今度の週末、本庄に行くか……!」と思わせられたかというとそれは自信がないのですが、でもその、なんといいますか……。

最近、隣の市の深谷市に「ふかや花園・プレミアムアウトレット」ができました。なのでそこへ行くついででも良いので、ぜひ一度本庄市にも来てみてください。

著者:アンゴラ村長(にゃんこスター)

お笑いコンビ・にゃんこスターとして活動。キングオブコント2017準優勝により「なわとびの子」として一躍有名に。なんと「30秒間でペアで交互になわとびを跳んだ回数」でギネス世界記録にも認定される。

編集:小沢あや(ピース)