F35を護衛艦いずもに載せると自衛隊の戦術はどう変わる? -F35特集(4)

自衛隊がF35を配備するのは既に決まっていますが、それは地上の基地に配備できるF35Aだけです。空母や軽空母に配備可能なF35BやF35Cの導入は2018年の時点では決まっていません。なぜなら自衛隊にはそれを運用できる母艦が存在しないからです。

ところが、ヘリコプター母艦である「護衛艦いずも」を改修し、F35の艦載型を載せようという動きが出ています。カタパルトを使うF35C型は無理でも、短距離離陸・垂直着陸が可能なF35Bであれば甲板を耐熱化することで搭載可能になるようですが、実際に自衛隊がF35Bを搭載するとしたら、自衛隊の戦い方はどのように変化するのでしょうか?

いずもの空母化構想って? F35は何機載る?

いずもは2018年現在の時点では「ヘリコプター搭載護衛艦」という位置付けです。装備やサイズ的には「軽空母」と言える艦で、細かな違いについてはこちらで解説しています。空母と言っても、一般的な空母のイメージにあるような戦闘機を発艦させる能力はなく、一概に「空母」とは呼べない艦です。

このいずもが戦闘機を扱えない理由が幾つかあります。それは「甲板が短いのでそのままでは離陸できない」「戦闘機を強制的に加速させるカタパルトがない」「離陸を補助するためのジャンプ台がない」「短距離離陸機の下方排熱に耐える甲板が無い」などですが、甲板を伸ばすのも、カタパルトをつけるのも、ジャンプ台をつけるのも設計そのものを弄るので改修は不可能です。

しかし、排熱に耐えるための甲板をつけるのはそれほど難しいことではありません。設計を変える必要はなく、過去に米軍がヘリコプター用の母艦として設計された軽空母(強襲揚陸艦)の甲板を改修して試験運用をしたこともありました。

F35Bはいずもが運用する大型ヘリに比べて極端に大きいわけではなく、エレベーターや格納庫のサイズは問題ありません。いずもにはヘリコプターが14機搭載できるので、10-13機程度は搭載できるのではないでしょうか。

性能が低いと噂のF35Bで良いの?


(リフトファンを開いて離陸するF35B、翼下に武器を搭載している)

F35はただでさえ小型な機体に様々な機能を詰め込んでいるにも関わらず、短距離離陸・垂直着陸のためにリフトファンまで追加したのです。このリフトファンを搭載するスペースを確保するために、燃料と武器搭載スペースが減っています。さらに、重量も重くなりました。

結果的に、F35Bは基地運用型のF35Aと比べると様々な点で性能が劣ります。搭載燃料が減ったことで航続距離が短くなり、機内の武器搭載スペースが減ったことで一部の装備が搭載できなくなり、重くなったことで機動力が落ちました。また、短距離離陸の場合には最大離陸重量が減るので、翼下に積める搭載兵器の重量にも限りが出ます。

ステルス戦闘機としては中々に致命的な欠点が揃いました。航続距離が短くなることで作戦行動ができる範囲が狭くなりますし、武器搭載量が減った影響で一部の高威力兵器が積めません。機動性が落ちたことで格闘戦が難しくなりましたし、そもそも機銃を積んでおらず、機銃が欲しい場合にはガンポッドを別途装着する必要があるのです。

以下はガンポッドをテストしている動画。

ガンポッドを搭載すると多かれ少なかれステルス性や機動性に影響しますので、機銃を扱えるようになったとしても格闘戦については大きなハンデを背負うことになるでしょう。

とは言え、こうした欠点は以外と大きな問題にはならなかったりします。

そもそもF35Bを搭載する空母自体が動けるので航続距離の短さはそれほど大きな問題にはなりません。目的地が遠ければ空母が移動すれば良いのです。機内に積める兵器の種類に制限が出るといっても大半の装備は搭載できますし、どうしてもというのなら翼下に積めます。

最大離陸重量が減るのは短距離離陸機の宿命ですし、ハリアーに比べればマシな部類です。そもそも燃料満タン・兵器満載の状態では、離陸はできても垂直着陸ができません。余った武器を海に捨てなければならないケースを考えると、翼下に大量の武器を搭載できる必要はないでしょう。

機動性に関しては問題になり得ますが、格闘戦はしなくても良いように戦うのが基本です。さらに、格闘戦になって機銃を使うには敵の背後に回らなければならないわけですが、F35の空戦では敵の背後に回るような戦い方は必要ないため、設計段階から機銃を使うような格闘戦は最初から想定されていません

もっと言えば、F35の機銃はF35AもF35B/Cのガンポッドも共に25mmの機関砲です。これは一般的な航空機の機銃に比べて口径が大きく威力が高いのですが、これが搭載される最大の理由は「地上攻撃のため」で、空戦のためではありません。どちらにせよ、空戦に機銃を使うなんてことは全く考えていないわけで、それ挙げて「弱くなる」と表現することは難しいでしょう。

空母いずもはどう戦う? 何か意味はあるの?


(護衛艦いずも_海上自衛隊HP)

F35Bの性能面に関する課題が多少払拭されたところで、問題は使い方です。自衛隊は専守防衛を掲げる組織であり、世界大戦の頃のように、味方の飛行場が無いような遠く離れた敵地で活動することはまずありません。空中給油機を使えば多少離れた場所にもF35Aは飛べるので、日本海や東シナ海程度ならば簡単に超えられます。空母は本当に必要なのでしょうか?

一方、ヘリコプター搭載艦が必要なのはヘリコプターの行動範囲が狭いからですし、ターゲットである潜水艦は海の中をゆっくりと進みます。ピッタリくっついて偵察するためにはヘリコプターを入れ替わり差し替わり送り込めるような場所に拠点(空母)がなければなりません。F35を潜水艦の偵察に使えないこともないのですが、対潜用途で使うならヘリコプターの方が優秀です。

では、F35Bをいずもに搭載してどのように使うのでしょうか?

最も有効と考えられるのが離島防衛や艦隊防衛への投入です。多数の基地と飛行場を持つ本島では空母は必要ないでしょう。対空防衛も万全ですし、一度の攻撃で全ての飛行場が使えなくなることもありません。しかし、小さな飛行場が1つや2つしかないような離島近辺や離島すら無い海の真ん中は別です。

小さな飛行場が1つや2つしかない場合、弾道ミサイル攻撃や爆撃で簡単に無力化されます。その瞬間、制空権は敵に奪われたも同然です。また、海の真ん中で活動する艦隊が敵の戦闘機や爆撃機に襲われた場合、水上艦の対空兵器のみが頼りです。対空最強を誇るイージス艦(1つの艦隊に1隻)が集中攻撃を受けて沈めば、艦隊は瞬く間に壊滅するでしょう。

こうした状況でF35Bを搭載した空母がいれば非常に強力です。離島・艦隊の付近にステルス機の敵編隊が突然現れたとしても、空母からF35が発艦できれば接近する前に迎撃できます。空母は艦隊で運用しますので、空母と共に展開するイージス艦はF35が撃ち漏らした敵だけを迎撃すればよいので、万全の対空防衛となるでしょう。

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