帝京の復活、激戦ブロック、80年代生まれの監督… 高校サッカー選手権の注目トピックス5選
名門・帝京の15年ぶりとなる選手権出場は、多くの高校サッカーファンにとって嬉しいニュースだろう。エースの森田らを中心とする攻撃的なサッカーに注目だ 【土屋雅史】
トピックス⓵:帰ってきたカナリア軍団
積み重ねた6度の全国制覇は、国見と並んで戦後最多タイ。高校サッカー界を代表する名門だが、稲垣祥(名古屋グランパス)がキャプテンとしてチームを率いた第88回大会(09年度)を最後に、この大舞台から遠ざかっていた。
苦しむチームにとって1つの転機になったのが、同校のOBで、自身もキャプテンとして選手権優勝を味わっている日比威氏(現アドバイザー/順天堂大監督)の母校帰還だ。1年間のコーチを経て、2015年に監督に就任すると、ポゼッションを軸に据えた攻撃的なスタイルがチームに浸透。さらに積極的なリクルーティングもあって、才能豊かなタレントも少しずつ集まり出した。
その中から三浦颯太(川崎F)や横山夢樹、梅木玲(ともにFC今治)のようなJリーガーを輩出し、22年にはインターハイで準優勝を飾るなど、復権の香りは確実に漂っていた。ただ、選手権予選では決勝で4度、準決勝で4度の敗退を突き付けられ、日比監督は昨年度いっぱいで退任。今年からやはりOBで、選手権準優勝をこちらもキャプテンとして経験している藤倉寛監督が、その跡を継ぐことになった。
迎えた24年はインターハイにも出場。プリンスリーグ関東でも多くの試合で主導権を握る戦いを見せるなど、都内では頭1つ抜けた存在となった。選手権予選も順当に勝ち上がり、決勝では國學院久我山に逆転勝利。藤倉体制1年目にして冬の全国切符を鮮やかに引き寄せた。
今年のチームも決定力に優れるFW森田晃(3年)や、キャプテンでプレーメーカーの砂押大翔(3年)を中心に、細かいコンビネーションを駆使した攻撃力が最大の特徴だ。守備陣にもU-18日本代表の田所莉旺(3年)、昨年から守護神を務める大橋藍(3年)など軸になる選手を揃えており、十分に上位進出を狙える陣容となっている。
「自分たちは全国優勝しか考えていない」(砂押)。まずは国立競技場での京都橘との開幕戦で、日本中の高校サッカーファンに向けて“新しい帝京”を存分に披露したい。
トピックス②:激戦Aブロックの本命は?
近年稀に見る激戦区となったAブロック。どこが勝ち上がっても驚きはないが、本命は連覇に挑む青森山田か。小沼(右)を擁する守備陣は抜群の安定感を誇る 【土屋雅史】
さらに、そんなプレミア勢以外にも確かな実力を有する“曲者”が、国立競技場を目指して着々と準備を整えている。
初戦(2回戦)で青森山田と対戦する高川学園は、プレミアリーグ昇格を懸けたプレーオフで、夏のクラブユース選手権日本一のガンバ大阪ユースと大接戦を演じた。最後は1点差で敗れた(1-2)ものの、小さくない自信を得ている。
また2回目の出場となる広島国際学院も、1回戦で激突する静岡学園を前回大会ではPK戦の末に破っている。1年越しのリベンジを期す相手を返り討ちにしたとしても驚きはない。
さらに“大物食い”を成し遂げている2校にも注目が集まる。新潟明訓は県予選準決勝で、インターハイ4強に入ったプレミアリーグWEST所属の帝京長岡を撃破。そして、今季のプレミアリーグで頂点に立った大津にインターハイで勝利を収めている阪南大高も、上位進出の有力候補だ。
とはいえ、やはり勝ち抜けの本命は青森山田だろうか。
「今年はディフェンディングチャンピオンというのはあまり口にしたことがなくて、『オレらは雑草だぞ。下から這い上がっていこう』と話しています」とは、正木昌宣監督。そうした謙虚さをベースに持ちつつも、昨年度の優勝をピッチで味わったDF小沼蒼珠(3年)やMF谷川勇獅(3年)を中心とする伝統の守備力は、高校年代トップレベルだ。
ベスト8に入ったインターハイ以降にたくましさを増してきた静岡学園との対戦が3回戦で実現すれば、両校の意地がぶつかり合う激闘となるのは間違いない。
トピックス③:見逃し厳禁のタレント3選
今大会屈指のMFと言えるのが、清水への入団が内定している大津の嶋本。3列目から積極的に前線へと飛び出していくスケールの大きなプレーは必見だ 【土屋雅史】
豊富なタレントを擁するプレミアリーグ王者・大津の中でも、清水エスパルスへの入団が内定している嶋本悠大(3年)のスケール感あふれるプレーは、一際目を引く。3列目から積極的に前線へ飛び出し、ゴールを奪うだけではなく、アシストもきっちり計算できる献身的なスタイルが特徴。初の日本一を狙うチームを牽引する大会屈指のMFだ。
1年生の冬に川崎フロンターレU-18から転籍し、高校サッカーの世界に飛び込んだ帝京の田所(3年)もこの冬のブレイク候補だ。187センチの長身を生かした空中戦の強さもさることながら、最大の武器は最終ラインから放つ高精度のフィード。10月にはU-18日本代表にも選出されるなど、カナリア軍団でその実力に磨きをかけてきたセンターバックが選手権のピッチで躍動する。