7度目の挑戦でプロテスト合格 ティーチングプロからの狭き門を突破した古家翔香の情熱

北村収

7度目の挑戦でプロテストに合格した古家翔香 【Photo by Atsushi Tomura/JLPGA via Getty Images】

 合格が非常に難しいとされる日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のプロテスト。今年は695人が挑み、その中で最終的に合格を勝ち取ったのはわずか26名で、合格率は3.74%だった。

 7度目の挑戦で栄冠を手にしたのが古家翔香(25歳)だ。最終日を41位タイで迎えた古家は、最後のラウンドで19位タイまで順位を大きく伸ばした。合格圏である20位タイ以内に入り、劇的な逆転合格を果たした。

「ゴルフが好きだから辞められなかった」

 7回目の挑戦でついにプロテスト合格を果たした古家。合格が決まった瞬間の心境について、「やっと終わったという感じで、嬉しいというより、もう二度と受けなくていいという安堵感が強かったです。ただ、もちろん嬉しさもありました」と、複雑な感情が入り混じっていたと振り返る。

 なぜ7回もの挑戦を続けられたのか。その理由を問うと、「単純にゴルフが好きだから辞められなかったんです。それに、プロテスト合格前からいろいろなスポンサーさんに応援していただいていたことも大きいです。そして、何より自分の中でどうしてもツアープロになりたいという強い思いがあった。それが原動力になって、今日まで頑張ることができたと思います」と明かした。

友人の何気ない一言が最終日大逆転の原動力に

プロテスト合格決定直後の古家。この数時間前には落ちたと思い涙を流していた。 【Photo by Atsushi Tomura/JLPGA via Getty Images】

 プロテスト3日目を終えた時点で、古家は41位タイ。合格ラインの20位タイには遠い厳しい位置だった。その日の夜、電話で友人が発した「思ったより落ち込んでないね」という何気ない一言が、古家を奮い立たせた。

「もっと余裕で合格できると思っていた自分がいたので、この順位にいるのが信じられない状態でした」。友人の一言で、「自分は合格できるんだ」と思っていたことを思い出したという。

「この1年、本当にやれることは全てやってきました。それを信じないのは、自分にも支えてくれた周りの人にも失礼だと思ったんです。絶対にできると信じて18ホールに挑もう、と決めました」。古家にとって、その友人の言葉は大きな転機となった。「今でも、あの一言がなければどうなっていたか分からないですね」と感謝の思いをにじませる。

 迎えた最終日、古家は4日間の中で「一番緊張せず、一番冷静にプレーできた」と語る。スタートからバーディを重ねスコアを伸ばし、結果は3バーディ、2ボギーで1つスコアを伸ばすにとどまったが、最終プロテストの最終日、緊張から崩れる選手が続出する中、逆転での合格を果たした。

ホールアウト直後は不合格だと思い涙。ところが…

プロテスト最終日の古家。4日間の中で「一番緊張せず、一番冷静にプレーできた」。 【Photo by Toru Hanai/Getty Images】

 最終日、ホールアウトした古家は、自身の順位が合格ラインに届いていなかったので「落ちた」と思い込んでいた。そんな中、テレビ取材の依頼を受け、「嫌ですとも言えない(笑)」と応じるものの、「泣かないように頑張っていたけれど、4日間どうでしたかと聞かれた瞬間、(落ちたので)いいことはないと思ったら涙が出てきました」と振り返る。

 その後、コーチと「来年も頑張ろう」と話をしたり、友人と電話をして気持ちを切り替えようとしていた。ところが、テレビインタビューから約1時間後、リーダーボードを確認すると、順位が上がっているのを発見。「まだ合格圏ではなかったけれど、かすかな希望を持ちました」と当時の心境を語る。

 プレー中は一切緊張しなかったという古家だが、この瞬間から心拍数が上昇。「自分が合格圏に入ってからのほうが、さらにドキドキしました」と振り返る。そして、見事に合格を果たした。

ティーチングプロ資格取得がもたらした成長

 プロテストを諦めようと考えたことがあったという古家翔香。「2回目のプロテストの頃、周りのレベルの高さに圧倒され、自分の実力が合格レベルに達していないと痛感していました。そこから何年間かは本当に辛かったです」と、当時を振り返る。

 そんな時、新たな道を示してくれたのは父親だった。「精神的に追い詰められていたけれど、ゴルフ以外に道がないという思いもありました。父に相談したところ、『ティーチング資格を取れば道が開ける』と勧めてくれたんです」と語る。
 JLPGAティーチングA級ライセンスの取得には3年間の講習が必要で、古家は2023年1月1日に正式にライセンスを取得した。その3年間について、「ゴルフだけでなく、人生における多くの気づきを得られた時間だった」と感慨深げに語る。

「関わってくださる方への感謝の気持ちを強く持てるようになりましたし、メンタルや栄養学など、多方面での学びがありました」と、その経験が現在の自分に役立っていると語る。資格取得後に参加した講習会などで出会ったティーチングプロの方からも大きな刺激を受けたという。「ツアープロにならなければ認められないという風潮がある中で、ティーチングプロ資格を取得した方々はそれぞれの道を切り開き、輝いていました」と話す。

「自分は自分のままでいい」──ティーチングプロたちから得た気づき

「ティーチングプロとして輝く人々の姿に触れ、自分自身を肯定できるようになったのですか?」と筆者が尋ねると、古家翔香は「そうですね。そうなんだと思います」と静かにうなずいた。

「プロテストの1回目、2回目の頃は、自分は世の中から必要とされていないという思いがすごくありました。このままいったらゴルフが少し上手い女子というか、小銭が稼げるくらいのただの人。私がなりたいのはそうではないという葛藤がすごくあった」と当時を振り返った。そんな時「いろいろな輝き方をしている人たちに出会いました。道は一つじゃないと気づいたことで、心が軽くなったんです」。

 この「いろいろな生き方がある」という気づきによって、ツアープロにならなくてはいけないという重圧から解放され、ゴルファーとしてだけでなく、人間としての成長にもつながった。しかし、それでも彼女の心の奥底には揺るがない思いがあった。

「それでも、自分の根本にあるのはツアープロで生きていきたいという思いでした。この気持ちだけは本当に捨てきれなかった。今になって改めてそう思います」。ティーチングプロたちとの出会いがもたらした気づきは、彼女に新たな視野を与える一方で、自身の核となる目標をさらに強く意識させた。その経験が、彼女をゴルファーとしても人間としても成長させた。

1/2ページ

著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント