アギーレ解任も所詮は対岸の火事 スペインやメキシコでのリアルな反応

池田敏明

タイムラグ無く情報が広がったスペイン

3日午後にJFAから発表されたアギーレの日本代表監督解任は、スペインでもタイムラグ無く報道された 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 3日午後に日本サッカー協会(JFA)から発表されたハビエル・アギーレの日本代表監督解任。アギーレの母国メキシコ、そして彼が指導者としてのキャリアを積んだ国であり、解任の理由となった八百長疑惑の当事国でもあるスペインでは、この件についてどのように報じられたのか。

 スペインでは、『アス』紙の電子版が現地時間の3日8時47分(日本時間の同日16時47分)に「JFAが本日、アギーレ代表監督を解任する」という記事を配信した。「した」ではなく「する」と現在形になっていることからも分かるとおり、正式発表の前に配信された“飛ばし記事”ではあったが、結果的に内容は正しかったこととなる。同記事内では大仁邦彌JFA会長がアジアカップ敗退後に発した「これまでの成果から判断して、アギーレは続投する。就任以来、彼は十分に手腕を発揮してチームをよくまとめている」というコメントを引用しつつ、「大仁会長はそのように語ったが、日本サッカー協会は方向転換して本日、アギーレを解任する」との見解を示した。

 そして現地時間の3日9時20分(日本時間の同日17時20分)に『マルカ』紙の電子版、9時54分(同17時54分)にバレンシアの地方紙『ラス・プロビンシアス』の電子版など、各紙のサイトがアギーレの解任を既成事実として伝えた。日本で17時から記者会見が行われたことを考えると、タイムラグがほとんどない状態でスペイン全土にこのニュースが広がったことになる。「このような形で終わらせなければならないのは大変残念だが、我々は代表チームのことを最優先に考えなければならない。日本代表にとって最大の目標は、2018年のロシアワールドカップ(W杯)出場だ。この件がアジア予選を戦うチームに悪影響を及ぼすことは避けなければならなかった」という大仁会長の記者会見での発言、「日本で仕事ができて幸せだった。すべての日本人サポーターに感謝している。日本代表の将来の成功を祈っている」というアギーレのコメントなどが記事内で紹介されているが、アギーレの今後の予定や日本代表監督の後任人事などには一切、触れられていない。

大きくは取り上げられない一つの要因

スペインでは同日、バルセロナのネイマール獲得に際しての脱税疑惑が大きな話題となっていた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 スペインではアギーレ解任の一報が伝えられたのみで続報はなく、『マルカ』の電子版ではこの記事自体もすぐに他のニュースに埋もれてしまった。

「アギーレは2月25日以降にバレンシア裁判所に出廷し、事情聴取を受ける可能性がある」と書かれており、実際に動きを見せ始めれば詳しく報じられることになるだろうが、現状では大きな関心を引くニュースにはなっていない。バルセロナ寄りで知られる『ムンド・デポルティーボ』紙の電子版に至っては、現地時間の3日11時10分(日本時間の同日19時10分)に短いニュースを配信したのみ。JFAが八百長疑惑の関係でアギーレを解任したこと、大仁会長が記者会見で公表したこと、アギーレがアルベルト・ザッケローニ前監督の後任として、ブラジルW杯後に就任していたことをまとめただけの簡素な内容であり、『マルカ』や『アス』で掲載されていた当事者のコメントはカットされていた。

 スペインのメディアがこの件をあまり大きく取り上げていない要因の一つとして、同日、バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長に対して検察局がネイマール獲得に際して280万ユーロ(約3億7000万円)の脱税疑惑をかけて告発し、このニュースが大きく取り上げられたことが挙げられる。バルトメウ会長は2月13日に出頭することになり、スペインの人々にとっては、こちらのほうがはるかに大きなニュース。当面はこの一件が紙面を賑わし、人々の関心を集めることになるだろう。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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