2007年 03月 07日
どうも著作権のことを根本から良くわかっていない人が多い。 みんながよくわからないのをいいことに「川内氏の行動は法的に根拠がないらしい」とか洗脳を試みる者もいたりする。前半部分の同一性の議論や、コモンズ一派としての心情はともかく、現行法的には大変な間違いなのに誰も指摘しない。 別にどうでもいいけど。 「おふくろさん騒動」について、法的側面と実務的側面をまとめてみる。 =============================================== 追記:「おふくろさん騒動」についてJASRAC裁定が別の形で出たから、混乱を避けるため追記。 ここでは「今後、森氏に自分の楽曲を使わせない」と申告した場合を考察しています。 「おふくろさん」と書かれてあるところは、まぁ川内氏の曲目を何を入れてもいいです。 =============================================== まず根本の根本に立ち返って考える。権利主体は誰か?つまり著作権者を考える。 この場合、「おふくろさん」の作詞部分の著作権者は川内氏だ。つまり川内氏は「おふくろさん」作詞部分についての権利を専有する。 森氏は実演家として、レコード会社も製作者としてそれぞれ著作隣接権を有する。 さて、著作者たる川内氏には様々な権利(支分権という)が認められる。そのうちのひとつに上演権・演奏権といったものがある。 第22条(上演権及び演奏権) 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。 つまり川内氏は、「森氏が気に入らない」のを理由に歌わせないという選択肢をとることは可能だ。理由は何だっていい。金銭面であわないとか、歌を封印したいとか、卑しさが気に入らないとか、まさに胸先ひとつだ。このことを「許諾権がある」という。 つまり川内氏の主張には法的には十分に根拠が存在するものだ。 ここで別組織「JASRAC」が登場する。(別名悪の枢軸。でも、ここではその側面はおいとく。) 川内氏は自らの権利をJASRACに全信託している。JASRACは音楽使用状況に合わせ、彼にそこからのアガリを還元している。 ということで、この場合JASRACは川内氏の代行人となり、著作人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)を除く全権利を保有する。 ここから話を2つに分ける。実務上、生使用とレコード使用と大きく2つに分かれているからだ。 まずは生使用。コンサートやテレビの公開録画等で、実際に生で歌を歌うことだ。 主体が誰かによって権利処理が変わるので、パターンを分けて考える。 まずは コンサートの場合。 森氏はコンサートで川内氏の楽曲を使用する際に、JASRACに申請を出す必要がある。 小倉弁護士は会場主が包括契約をしていると書いてるが、これは誤りで主体は興行主だ。(もちろん兼ねる場合もあるけど) まぁ主体問題はおいといて、コンサート主催者が年間の包括契約を結んでいるとする。しかしながら包括契約の場合でも、利用楽曲の申請は使用の度ごとに事前に行う必要がある。 ではこの申請は通るか?もちろん包括契約なので例外はなく許諾されるべきだ。 ここで権利の衝突が起こる。使用させたくない権利者と使用したい実演家。 で、JASRACは間で挟まれる。中間管理職みたいに。 権利者から見た場合には権利管理・集金代行機関であるJASRACは、もう1つ機能が存在する。権利を集めることで利用者側の手続きを容易にするのだ。 先にあげたように許諾権は鬼のように強い。誰かが使おうって思っても権利者がうんと言わなければ使えない。たとえば金銭面で折り合わないという理由だと、簡単に値上げ交渉ができる。だってその作品は世界唯一の存在であるから、権利者は首を縦に振らなければ、利用する側は折れざるを得ない。 でもそれだと既存の権利が「文化の発展に寄与」しないので、JASRACは全楽曲均一料金で、申請をするだけで許諾をしてくれる。もちろん無条件だ。 ということで争点は、その様な側面を持つJASRACが「森氏に限り許諾はダメ」という特例を認めるかどうかだ。 これは知る限り前例が無い。 だから「わからない」と言った答えが正直なところだ。おそらくJASRACすら分からないであろう。 (まぁ理詰めではなく現実的に考えるのならば、申請が出ても「お話がついてから、改めて申請を・・・」と言って逃げる可能性が極めて高い。) ただし現行ルール上、まったく問題にならずにJASRACから「おふくろさん」の許諾を得ることが可能な方法がある。 「アンコール使用」だ。 当日まで使用楽曲が分からない場合用の事後申請制度を利用して、やったもの勝ちの状態にする。現行のJASRACルール上では許諾を出さざるを得ない。 事前では許諾判断のチャンスがJASRACにはあるけれど、事後には無いのだ。 ではテレビで歌う場合には? こちらは完全なNHK及び民放連と完全な包括契約だ。小倉弁護士の言う通り。 しかも楽曲提出義務も無い。 なので森氏は現行協定上は、自由に「おふくろさん」を歌うことが出来る。 (ただし、現実的な話ではない。テレビ局が泣いて止める。) じゃあ生使用の場合の合わせ技。コンサートの様子を放送で使用する場合には?(観客は無料入場とする) この場合、JASRACと放送局との間に交わされた「放送のための公開演奏に対する覚え書き」により、放送使用という事になるのでセーフ。自由に歌うことが出来る。(けど、やっぱり放送局が泣いて止める。) また、ホテルや飲食店、バー等で森氏が歌う場合も考えられよう。 こちらについてもセーフ。こちらについては会場の年間包括契約があるから。 これもJASRACは止めようが無い。 続いてレコード使用。 森氏がコンサートの開場時BGMとして「おふくろさん」を使用した場合には? こちらはただのレコード使用なので利用料を払えば許諾はいらない。使用できる。 森氏がコンサート時に口パクをし、「おふくろさん」のレコードをかけた場合には? こちらはレコード使用の許諾が必要だが、これも事後許諾を許している。アンコールなら使用できる。 カラオケバージョンを流し、お客さんに歌ってもらうのは? 作詞関係なくレコード使用だけなので、これは事前申請でも通る。 (ただし、これも現実的ではない) こうやって分けて考えると、川内氏がいかにJASRACに差止請求だしても、現行ルール上はJASRACには手段が無いことが分かる。 森氏にとって制約されることは、「おふくろさん」を歌うとコンサートプログラムに書けないことだけだ。アンコールでは使用できるわけだし。 一方川内氏にも「JASRACからおふくろさんの権利を引き上げる」という手段が残されている。 演奏権は著作権者のものなので、今度は「以後、森氏には歌わせない!」といえる。これは法に基づいた正当な主張だ。 でも、川内氏はきっとJASRACから権利を引き上げない。これはただの仁義問題で著作権あんまり関係ないからだ。 だって森氏も、歌う権利について争っているわけじゃあないでしょ?ひたすら頭を下げてるだけで。 森氏が強行して「おふくろさん」歌ってくれたら面白いんだけどねぇ。
by soulwarden
| 2007-03-07 03:08
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