オン アサイメント (前半)
トラベルジャーナリストの寺田直子さんと2008年の夏にはじめて東京でお会いした。
そのときにタスマニアのポピー(ケシ)産業の取材の段取りをつける宿題をもらった。
麻薬であるアヘンの原材料となるケシの花が夏のタスマニアではいたる所で咲き乱れるが、実はタスマニアに住む人たちもこのアヘンケシについての情報を持っていない。
タスマニアのケシの取材は難しいとよくジャーナリストたちから聞いていたのでこの取材の鍵を握るキーマンを人づてで探した。
タスマニア・アルカロイズ社がタスマニアのケシ産業の大半を押さえていると知っていたのでこの会社に取材を断られるとこの仕事は無くなってしまう。
なので注意深く人づての紹介を探った。
タスマニアは小さな島だ。
何かアクションを起こそうとする時は人脈がものを言う。
知り合いからの紹介、これが何事についても手っ取り早く安心。
しかしこの作戦は失敗に終わった。
僕の友人、知人だれもタスマニアのケシ産業と接点がなかった。
しかたなく正攻法でタスマニア・アルカロイズ社に取材を申し込むことにした。
取材を申し込む時、自分が何者で、いつ、どこで、どんな取材をし、どんな内容の記事を書き、どんな媒体で掲載するのかをハッキリと相手方に伝えないと断られてしまう。
できるだけ取材される側にもメリットがあることを強調しなければならない。
この時は週刊文春で掲載することが決まっていたので、この雑誌の発行部数や社会的影響力も説明した。
サーキュレーション(発行部数)が週に50万部という数字に先方は驚いた。
タスマニアの人口は約48万人、この人口よりも多い発行部数、、、。
どんな取材をしたいか力説するためにはこの産業のことをある程度知り、その中の何を取材したいのかということを明確に相手に伝えないといけない。
そのためにはネゴシエイトするまえに事前のリサーチが必要だ。
今の時代、農、林、水産業を語る時科学の知識抜きでは話が前に進まない。
ケシ産業でとれたアヘンはモルヒネやテバインなどに精製される。
この小さな島からとれるケシが世界のシェアの40%を占めるに至までには並々ならぬ科学的挑戦があった。
学者たちが書いた科学的資料を1ヶ月読みあさった。
専門用語が多く、ただでさえ不得意な英語読解に時間がかかった。
大体のことが飲み込めたときは自分でアヘンを抽出したい欲望にかられた。(冗談です)
12月に第一回目の撮影を行った。
ケシの花が咲き乱れる写真が一番欲しいものだったがただそれだけでは弱いということは十分に分かっていたので、それ以上の何かをどれだけ撮れるか、プレッシャーで胃が痛み、頭はくらくらしていた。
はじめて訪れたタスマニア・アルカロイズ社は予想通り超厳重な警備体制。
それをなんとか撮影したかったのだがまったく許されなかった。
一枚の写真が彼らが今まで築き上げて来た顧客への信頼を壊してしまう可能性があるからだ。
ケシ畑はタスマニア・アルカロイズ社の12人のフィールドオフィサーが管理している。
この人たちの同行なしでの撮影は許されない。
フィールドオフィサーの中で一番若い25歳のディランが僕に同行してくれた。
タスマニア大学でアグリカルチャーサイエンシーを学んだ優秀な好青年だ。
一人のフィールドオフィサーが約50のケシ栽培農家を担当している。
ランドクルーザーで各農家をまわり、適切なアドバイスを農家に与える。
昨年一年で彼がこのランクルを運転した距離は110,000kmだといって彼は笑った。
撮影を許可された時間は2時間。
この一回の撮影で充分なページを作れるだけの写真を手に入れたい。
きれいなライティングをしている時間などないので、右手にトランスミッターをつけたカメラ、左手にフラッシュという方法で出来るだけたくさんのカットをとるよう努力した。
ディランに頼み、子供のいる若いケシ栽培農家に手当たり次第連絡してもらった。
以前タスマニアのケシ畑の中を農家の子供たちが走り回るのを見た時ショックを受けたことがある。
そんなことがあっていいのか、、、と思った。
違法にケシを栽培する国では裸の子供たちをケシ畑の中で走らせる、という話を聞いたことがある。
ケシの実には事前にナイフで切り身をいれ、そこから白い樹液が流れる。
暑い日差しの中で走り回る子供たちの身体は汗とその白い液にまみれ、大人たちがそれをへらですくう。その白い液がアヘンだ。
合法的にケシを栽培するタスマニアのケシ畑を無邪気な子供たちが走る。
ジャガイモやタマネギを栽培する農家の子供が自分の家の畑で遊ぶのと同じことと言えばそれまでだが、それでもこれはオーストラリアで一番治安のいいタスマニアだからこそ許されることだろう。
絶対に撮りたかった絵だった。
(つづく)
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by somashiona | 2009-04-24 18:58 | 仕事