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カテゴリー「経済・政治・国際」の60件の記事

2013.04.30

東京にオリンピックを???

 猪瀬直樹都知事が、2020年オリンピック招致を巡ってニューヨークタイムズから受けたインタビューで「アスリートにとって、いちばんよい開催地はどこか。インフラや洗練された競技施設が完成していない、2つの国と比べてください」と立候補国を比較する発言をし(IOC行動規範は比較を禁じている)、「イスラム諸国で人々が共有しているのは唯一、アラーだけで、互いにけんかばかりしている」と誹謗ともとれる発言をした——と、ニューヨークタイムズが記事を掲載し、波紋が拡がっている。

NHKニュース:すぐ消えるだろうが、この手のニューズの扱いがもっとも遅れるであろうNHKに掲載されたので。
毎日新聞

 これに対する猪瀬知事コメントは、知事のフェイスブックに掲載された。
猪瀬直樹facebook

 私は、IOCの行動規範第14条を充分理解しており、これまでも遵守してきている。今後も尊重し遵守していく。
記事の焦点が、あたかも東京が他都市を批判したとされていますが、私の真意が正しく伝わっていない。
 私は、トルコに行ったこともあり、イスタンブールは個人的にも好きな都市である。私には、他の立候補都市を批判する意図はまったく無く、このようなインタビューの文脈と異なる記事が出たことは非常に残念だ。
 私の招致にかける熱い思いは変わらないし、今後もIOCルールの遵守、他都市の招致活動への敬意をもって、招致活動に取り組んでいく。

 知事がどう思ったかは問題ではなく、具体的にどういう文脈でどのような発言をしたかが問題となっているのだが。

 ともあれ——個人的に不思議なのは、「なぜそこまでオリンピックにこだわるのか」ということだ。石原都知事時代に一度落選し、なおかつ運動を復活させ、しかも知事が猪瀬知事となっても運動を継続展開する理由が、私には分からない。
 私の周囲にも、「東京の古くなった都市インフラを一気に再整備するにはオリンピックをするしかない」という人がいるのだけれど、そんな内向きの理由だけでオリンピックを招致していいの?

 1964年の東京オリンピックは、首都高速道路を始めとしたインフラ整備に目が行きがちだけれど、実際には敗戦・占領を経た国が国際社会に再デビューを果たすという意味合いが大きかった。1963年に日本は「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」12条国から11条国に移行している。GATTでは、11条で自由貿易を規定する一方で、経済力の弱い国の自由貿易の制限を認めている(12条)。日本は1955年にGATTに加盟した時は12条の適用を受けていたが、1963年に11条国へ移行した。また1964年4月にはIMF(国際通貨基金)協定第8条を受託してIMF8条国に移行している。IMF8条は、自国通貨の交換性維持や差別的通貨措置(例えば自国に有利に相場を政策的に設定すること)の回避などを記した条項だ。GATT11条とIMF8条は、簡単に言えば国際的な貿易ルールの基本を定めたもので、日本がそれに従うということは、国際的な財貨の流れの中に復帰することを意味した。1964年10月の東京オリンピックには日本の国際社会復帰をアピールする意味があったわけである。

 このあたり、誰かが仕組んだというよりも、時代の流れの歯車がそのように噛み合っていったということのようだ。1959年5月に、1964年オリンピック開催地として東京が選出されている。一方IMF8条国移行は、1960年代に入ってから問題になりはじめ、1962年11月のIMF対日年次協議(東京にて開催)で、「日本は8条国に移行すること」という対日勧告が採決されている。GATTの12条適用の可否はIMFが判断することになっており、この対日勧告で自動的にGATT11条国移行も不可避になった。
 かくして日本の国際貿易体制への復帰とほぼ同時期に、海外から人もメディアも集まってくるオリンピックが開催されたわけである。

 今回そのような外向きの誘致の理由はない。となると、オリンピックという道具の使い道は、東京のインフラ再整備しかなくなる。インフラの再整備はどのみちやらねばならないことだし、拙速で変なハコモノを作ると今後100年は後を引くだろう。そこまでのリスクを取ってまで、たかだか2週間のお祭りを引っ張ってくる理由は、私にはないように思える。
 オリンピックの価値もかつてほどではないだろう。レスリングの五輪種目外れ問題に見るように、ますますオリンピックはショーアップされたお祭りと化している。たんまりと公費を突っ込むには、あまりにコストパフォーマンスが悪くはないだろうか。
 同じ肉体を駆使するショーなら、私はXスポーツを引っ張ってきたほうがずっと面白いと思うのだけれど(もちろんXスポーツを名目に、インフラ整備を行うことはできないだろうが)。

 その昔、墨田区の古老から東京オリンピックの印象を聞いたことがある。「川向こうでなんかやっとるという雰囲気で、こっちはどうってことなかったねえ」と言われて、はっとした。川とは隅田川だ。同じ東京でも、代々木のあたりと墨田区ではそれほどまでに大きな温度差があったのだ。50年を経てはるかに多様化した東京にオリンピックを誘致しても、面倒ばかり増えて大きな意義はないのでは、と思うのである。

 個人的には日本にオリンピックを誘致するとしたら東北。東日本大震災からの復興を見計らったタイミングで、と考える。もっと言うならオリンピックよりILC(国際リニアコライダー)誘致のほうがずっと有意義で、生きた投資となるだろう。

2011.12.16

川口コメントに追加あり

 はやぶさページに掲載された川口淳一郎教授のメッセージに追記が加筆された。

はやぶさ後継機に関する予算の情況について

 たくさんの反響をいただきました。
「草の根的であっても、それぞれの方法であってでも、政府・与党にメッセージを出していただければと思うものです」について具体的な方法をお尋ねいただいています。
 電話、FAX は業務に影響を与えかねないため、送り先を検索のうえ、手紙・はがきで首相・閣僚など政府・与党関係先にメッセージを送っていただくとよいと思います。

 送り先としては、やはり野田佳彦首相のところが最優先ということになるだろう。

野田よしひこ船橋事務所
〒274-0077
船橋市薬円台6-6-8-202

東京の事務所は
〒100-8981
千代田区永田町2-2-1-821

 電話・ファクシミリは業務に影響を与える可能性があるが、質問受け付け用のメールアドレスは、アドレスを分けているようなので、こちらは嘆願を送るのに使用しても大丈夫だと思う。 [email protected]


 川口先生は、講演で以下の通り話しているとのことだ。

——「こうしたメッセージを載せるということは、ある種のリスクを伴うものと理解している。国からの交付金で事業を実施する組織が、国民に向かって直接訴えかけるのは“反則技”かもしれない。“ダメ”と言われたら消すことになるので、みなさん早く読んでください」

 虎穴に入らずんば虎児を得ず——必要ならば積極的にリスクを取る精神もまた、初代はやぶさが体現していたものである。

2011.12.13

川口淳一郎プロマネのコメントが出た


 12月12日、はやぶさのプロジェクト・マネージャーを務めた川口淳一郎の文章が公開されました。必読です。

はやぶさ後継機に関する予算の情況について

はやぶさ初代が示した最大の成果は、国民と世界に対して、我々は単なる製造の国だったのではなく、創造できる国だという自信と希望を具体的に呈示したことだと思う。
自信や希望で、産業が栄え、飯が食えるのか、という議論がある。しかし、はやぶさで刺激を受けた中高生が社会に出るのはもうまもなくのこと。けっして宇宙だけを指しているのではない。これまで閉塞して未来しか見ることができなかった彼らの一部であっても、新たな科学技術で、エネルギー、環境をはじめ広範な領域で、インスピレーションを発揮し、イノベーション(変革)を目指して取り組む世代が出現することが、我が国の未来をどれほど牽引することになるのかに注目すべきである。こうした人材をとぎれることなく、持続的に育成されていかなくてはならない。
震災の復興が叫ばれている、その通りだ。即効的な経済対策にむすびつかない予算は削減されがちである。しかし、耐え忍んで閉塞をうち破れるわけではない。
なでしこジャパンのワールドカップでの優勝、それは耐え忍んだから勝てたのか?
そうではない。それは、やれるという自信が彼女らにあったからだ。震災からの復興を目指す方々に示すべき、もっとも大きな励ましは、この国が創造できる能力がある国だという自信と希望なはずなのだ。


はやぶさ後継機(はやぶさ-2)を進めることに政府・与党の理解を期待したい。 この文章をお読みになった方々から、草の根的であっても、それぞれの方法であってでも、政府・与党にメッセージを出していただければと思うものです。

 12月11日に小林伸光さんとロフトチャンネルで行った、はやぶさ2の現状に関する解説は、こちらで見ることができます。
緊急トーク番組「はやぶさ2は今」松浦晋也+小林伸光

 できることを、諦めることなく。

2011.12.08

はやぶさ2で野田事務所に嘆願書を送った

 野田佳彦首相の事務所に、はやぶさ2予算に関して嘆願書を送った。

 文章は以下の通り。

内閣総理大臣 野田佳彦さま


小惑星探査機「はやぶさ2」
平成24年度予算案における予算大幅圧縮に関する嘆願

松浦晋也
科学技術ジャーナリスト/ノンフィクション・ライター

 私は、主に宇宙関連分野で文章を発表して生計を立てている者です。3年程前に、民主党本部でGXロケットと宇宙基本法関連のレクチャーが開催された際に、講師として招かれ、その席で野田さまとお会いしております。このような嘆願書を送ることをお許し下さい。
 この嘆願は、小惑星探査機「はやぶさ2」の平成24年度予算「日本再生重点化処置」について、特段の配慮を願うものです。

 初代はやぶさについてはご存知のことと思います。平成15年(2003年)に打ち上げられた日本初の小惑星探査機です。プロジェクト・マネージャーである川口淳一郎JAXA教授の指揮のもと、平成17年(2005年)に小惑星イトカワの探査を実施し、平成22年(2010年)6月にイトカワの岩石サンプルを地球に持ち帰ることに成功しました。はやぶさ2は、その後継機で平成26年度(2014年度)の打ち上げ、小惑星1999JU3を探査し、平成32年(2020年)地球帰還を予定しています。はやぶさの成果を引き継ぎ、さらなる科学的成果と、宇宙及び地球に関する人類の知的資産の蓄積を、日本自らの手によって目指す計画です。
 平成24年度予算要求において、はやぶさ2は文部科学省から「日本再生重点化処置」で73億円を要求しています。探査機の製造には数年がかかります。平成26年度打ち上げのためには、満額執行が不可欠です。
 しかるに、12月6日の第三回政府・与党会議において、はやぶさ2の来年度予算の圧縮が了承されました。
 予算が圧縮され、平成26年打ち上げを逃せば、計画は実質中止に追い込まれます。それは、日本の宇宙事業が諸外国より相対的に少ない予算の中で、長い時間をかけてやっと一つ達成した世界的アドバンテージが無に帰することを意味します。

 地球から目的地の1999JU3という小惑星への打ち上げチャンスは限られていて、次は平成31年(2019年)、その次は平成36年(2024年)です。2019年は到着時の太陽と地球との角度が悪くて、小惑星への着陸リスクが大変に大きくなります。2024年には初代はやぶさに若手として参加した研究者が定年となり、経験の継承と発展はおろか、研究者・技術者集団を維持することすら不可能になります。1999JU3はC型という特殊かつ科学探査の価値が高い小惑星であり、はやぶさ2の能力で行ける範囲に他のC型小惑星は存在しません。
 探査機の製造には数年の時間が必要であり、そのためにはメーカーに支払いをしなくてはなりません。平成26年(2014年)打ち上げのためには、平成24年度予算において、73億円の要求を圧縮することなく通すことが必要です。

 平成26年打ち上げを維持しないと、はやぶさ2は実質中止になるのです(正確にはH26から27にかけて打ち上げチャンスがあります。年度を跨ぐのですが、星の運行は地上の予算制度など顧慮しませんから、ここではH26と表記しました)。

 はやぶさ2が中止になると、昭和62年(1985年)以降、大変な努力の末に世界で初めて日本が達成した「小惑星からのサンプルリターン」という偉業にまつわるもろもろ(技術的蓄積、科学的成果)がすべて途絶し、無に帰します。
 日本の成果を知り、その科学的価値を認識したアメリカは今年度からはやぶさと同様の小惑星サンプルを持ち帰る探査機「オシリス・レックス」の開発を開始しました。予算総額ははやぶさ2の3倍です。小惑星サンプル採取と持ち帰りには、それだけの価値があるとアメリカも認識したわけです。オシリス・レックスは2016年(平成28年)打ち上げ、2023年(平成35年)帰還を予定しています。
 はやぶさ2は当初は平成22年(2010年)打ち上げを予定していましたが、財政状況その他で実現は4年遅れました。研究者は論文が書けない4年間を耐え、技術者とメーカーは収入の当てがない4年間をしのぎ、はやぶさ2の実現に向けて動いてきました。はやぶさ2には、それだけの価値があるからです。ぎりぎりの努力は今や限界に近づいています。

 なによりも、小惑星からの物質サンプル持ち帰りという世界初の試みに挑み、数多の困難に打ち勝って成功を収めた者に対して、国が後継機を実質的な開発打ち切りとすることの、国民心理への影響を憂慮します。はやぶさの帰還カプセルは、全国各地で展示され、老若男女を問わず多くの人々がその偉業に触れました。その中には、はやぶさの飛行に胸弾ませた子供も多くいました。
 彼らに「日本という国は、政府自らが、成功する者を罰する国だ」ということを、事実をもって示してしまって良いものでしょうか。多くの子供が「この国では成功すると罰を受ける」と思ってしまえば、日本の未来は閉ざされます。

 それは、民主党の第一の理念「透明・公平・公正なルールにもとづく社会をめざします」に逆行する行為ではないでしょうか。

 内閣総理大臣としての野田さまの見識を信じ、「日本再生重点化処置」におけるはやぶさ2の平成24年度予算について特段の配慮を賜りたいと強く願うものです。

#追記:勝手ながら同内容を、メール及びファクシミリで送らせて頂きます。


平成23年12月8日

(住所・電話番号・メールアドレス)

 送付先は、野田首相のホームページにある。
 メールアドレスはすべてのページの一番下に書いてある [email protected]
 ファクシミリ番号は後援会である未来クラブのページに書いてある。

 紙という実態の重みもあるので、署名を入れたファクシミリも送付した。内容は全く同じで、ファクシミリは、署名などの挿入位置を変えて体裁を整えている。

 政治家に嘆願書を送る時の秘訣。

1)政治家は忙しい仕事なので、なるべく短く簡潔に書く。ビジュアルで一発で理解できるようなものが一番良い。ひとつの目安はA4用紙に12〜14ポイントの文字で印字して1枚に収まること。私は文章しか書けない上に、くどい質なのでどうしても長くなって2枚になってしまった。

2)礼節を守り、決して失礼な事や攻撃的なことは書かない。目的はあくまでも自分の主張を相手の心に届けることで、自分の怒りをぶつけることではない。

3)きちんと自分の身分を明かし、それを証明できる住所などを添えること。個人情報の漏洩を心配する必要はない。もしも事務所が個人情報を漏洩したら、昨今の情勢からしてその政治家は失脚する。きちんとした事務所は、個人情報の管理はしっかりしている。ここは相手の事務所の力量を信じるべき局面である。

 最後にファクシミリ送付した文面の画像ファイルを掲載する。ファクシミリを通した後も読みやすく要点が一目で分かるように心がけた。

 どんなときも最後の最後まで諦めることなく、自分のできる限りのことをする。いうまでもなく、これは初代はやぶさが私たちに教えてくれたことである。

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2010.08.30

はやぶさ後継機、平成23年度予算概算要求に29億8700万円

 文部科学省の平成23年度概算要求が公開された。


 事前に報道されていた通り、はやぶさ後継機には29億8700万円の要求が出ている。
 以下の科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局の資料に記載されている。

 要求の項目は、当然のことながら、宇宙開発戦略本部の当面の宇宙政策の推進について(pdfファイル)に沿っている。

 ただし、ここでも文書内には「はやぶさ後継機」と記載されており、「はやぶさ2」とは書いていない。また、2014年度打ち上げとも書いていない。つまり、国の施策としてはやぶさ後継機を推進することは決まったが、それがはやぶさ2であるかどうかは、文書上、まだあいまいにされている。宇宙開発委員会での審査を行った以上、はやぶさ2以外は事実上あり得ないが、まだまだ何が起きても私は驚かないであろう。
 文科省の要求段階で、はやぶさ2が潰される事態は回避された。それにしても2014年打ち上げにはぎりぎりだ。はやぶさが宇宙空間でたどった苦難の旅を、はやぶさ2は計画段階でなぞっているかのようだ。

 その他では、小型固体ロケット「イプシロン」の開発に38億円、HTV-R(公文書では「回収機能付加型宇宙ステーション補給機」という名前になっている)の研究開発に5億円が付いている。

 大塚実の取材日記に、本日30日開催のサンプル分析に関するブリーフィングが掲載されている。


 分析作業はじりじりと這うようにして進んでいる様子。サンプル採取の可能性が高いB室の検査は10月半ばになるとのこと。

2010.08.29

情報収集衛星への投資の推移

 某所で3日ばかり合宿生活をして先ほど帰宅した。NHK「追跡A to Z」のはやぶさ特集は、うっかりしてタイマーをかけ損なったので見ていない。仕事は相変わらず、一つ山越しゃホンダラッタホイホイ状態である。

 22日に書いたはやぶさ2のみならず、宇宙開発全体のお金の話に関連して、一つ資料をアップしておく。日本が情報収集衛星にどれだけ予算を使っているかという表だ。
 出展は宇宙開発戦略本部が一昨年に宇宙基本計画を策定していた時に、内閣情報調査室・内閣衛星情報センターから宇宙開発戦略本部に提出された資料だ( 第4回宇宙開発利用体制検討ワーキンググループヒアリング資料 平成21年1月19日 pdfファイル)。
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 これが現在の状況だ。年間600億円以上が、コンスタントに情報収集衛星に注ぎ込まれている。これらはもとはといえば、宇宙関連予算から削ったものであり、それだけ既存宇宙計画は圧迫された状況を10年以上強いられている。

 事の善し悪しとは別に、これが現状だということを理解した上で、今後のことを考えていかねばならない。


 今のところ、情報収集衛星についてまとめた本はこれしかない。導入の経緯と、アメリカとの関係の中で現状の形にまとまっていった推移をまとめている。



 私も2005年に出したこの本で一章を割いて情報収集衛星についてまとめているが、内容が大分古くなっていることは否めない。導入時の思惑違いと、思惑違いが何によって発生したかについてはきちんと書いたつもりではある。


2010.08.28

宇宙開発戦略本部の文書を読み解く

 最近、少々ココログの仕様が変わって、スパムのコメント投稿、スパムのトラックバックを自動的に弾くようになった。ところが、フィルターがまだ不完全なのか、学習が足りていないのか、時折まともなコメントやトラックバックを弾いてしまうことが起きている。気が付き次第、正常に掲載されるようにはしているが、当方が気が付かないで掲載が遅れることがあるかも知れない。
 当面、ご容赦ください。

 昨日の宇宙開発戦略本部の文章について。少々細かく見ていくことにする。

(3)最先端科学・技術力の強化  世界トップレベルの成果を挙げている宇宙科学・技術分野については、引き続き、我が国の強みを活かしながら取り組んでいくことが必要となっている。
 この部分は現状認識。「政府はこのように現状を認識している」ということを宣言している。



 小惑星探査については、「はやぶさ」の微小重力天体からのサンプルリターン技術を発展させ、鉱物・水・有機物の存在が考えられるC型小惑星からのサンプルリターンを行う探査機について、小惑星との位置関係等を念頭に置いた時期の打上げを目指し、開発を推進する。

 小惑星探査に関する主文。対象は「はやぶさ2」ではなく、あくまで「小惑星探査」であることに注意。そのまま、はやぶさ2に関して述べている用に読めるが、どこにも「はやぶさ2」、「2014年打ち上げ」という言葉は入っていない。「C型小惑星からのサンプルリターンを行う探査機を」、「小惑星との位置関係等を念頭に置いた時期の打上げを目指し」「開発を推進する」と述べているだけである。
 だから、例えば「はやぶさ2はもう間に合わないから、はやぶさ2を破棄して、はやぶさマーク2を推進する」というようなことがあっても、この文言は有効ということになる。
 官庁の文書によくある典型的玉虫色文言だ。
 ただし、はやぶさ2を推進したい側はこの文書を「政府決定である」と利用できる。


 月探査については、宇宙開発担当大臣の下での「月探査に関する懇談会」の検討結果をも踏まえ、国際協力による効率的な実施や実施時期などについて柔軟に対応しつつ、着実に推進する。

 これは、小惑星探査以上にあいまいな文面。「開発を推進する」ではなく「着実に推進する」だし、実施時期についても「柔軟に対応」としている。つまり、この文章に従う限り、国際公約などで絶対に実施しなければならいところに追い込まれるまで、実施を引き延ばすこともできる。
 ただし、「「月探査に関する懇談会」の検討結果をも踏まえ」とあるので、懇談会報告書(pdfファイル)からはずれることはできない。

 何度か指摘しているが、官庁の文書は独特の読みとりを必要とする。

 ひとつはっきりしていることは、政府が当面の宇宙開発の重点として「小型衛星・小型ロケット」「地球観測」「準天頂衛星」「ISS運用延長」「宇宙システムのパッケージによる海外展開」「小惑星探査」「月探査」を選んだということだ。つまりこれらに関しては何らかの予算措置があることが確実になった。
 「当面」というのも、いつからいつまでかがわざとぼかされていることを意味している。おそらくは今後の政治状況の変動を織り込んでいるのだろう。

2010.08.24

宇宙開発委員会と宇宙開発戦略本部の資料

 はやぶさ2の開発研究入りと、イプシロンの開発入りにゴーサインを出した第29回宇宙開発委員会の資料が公開された。同時にこの日の議題に入っていた月探査ミッション検討状況と、HTV-Rの検討状況についての資料も出ている。

 一昨日のはやぶさ2のみならず、宇宙開発全体のお金の話で、「では、民主党は?というのが今の状態である。」と書いた。
 現在、民主党の事実上のブレーンとなっているのは、有識者会議だ。会議は4月に以下の報告を出して一応の活動を終えているが、任期は8月31日まである。また、山川宏京都大学教授が宇宙開発戦略本部事務局長に就任したことから、その影響力は今後も続くことになるだろう。となると、以下の資料が今後の民主党の政策を読む上で重要ということになる。


 非常に短い文章で、提言をまとめている。すこし細かい内容は一つ前の第6回会合に出ているが、こちらはビジュアルで基本的にA41〜2枚で一つのテーマをまとめている。

 私は提言そのものは真っ当なものだと考えているが、問題はこれをきちんと民主党の政治家が受け止め、既存勢力などからの抵抗を主体的に排除して実行できるかだと見ている。政治の側が有識者会議の提言の中から、適当に都合の良いところだけつまみ食いすると、目も当てられないことになるだろう。

2010.08.22

はやぶさ2のみならず、宇宙開発全体のお金の話

 まだまだ暑い。霞ヶ関界隈では来年度予算要求の作業が行われているはずだが、具体的な動きはまだ見えてこない。民主党の政治主導の方針を受けて、宇宙開発戦略本部では政治が意志決定を行う手順の構築を行っているはずなのだが、こちらも22日現在、音無しで事態は潜航している。
 宇宙開発委員会の資料アップは相変わらず遅い。8月11日に開催された第29回会合では、はやぶさ2とイプシロンロケットの審議を行ってるのだが、資料がまだアップされていない。議事録は関係者の間を回覧してから公開するので、公開が遅くなるのは理解できる。しかし、すでに傍聴可能な委員会で公表された資料のアップぐらいすぐにできるはずだ。しかもその手間は恒常的に忙しいキャリア官僚の手を患わすまでもなく、事務職で行える。この遅れは怠慢以外のなにものでもない。

 現在の日本の宇宙開発の根本にある最大問題は、「自民党政権時代に、政治が宇宙開発にあれこれやるべきことを押しつけたあげく、予算を増やさなかった」ということにある。1960年代以降、日本の政治は3回、宇宙開発の意志決定に参画した。
 最初が1969年に宇宙開発事業団を設立し、「実用衛星とロケットを国産化する」と決めた時。当然ながら、この時はきちんと予算が付いた。

 次が1980年代初頭、現在の国際宇宙ステーション計画が動き出し、そこに日本モジュールで参加すると決めた時だ。参加にあたっては「ロン・ヤス」を標榜し、親米を強調する中曽根政権の意向が大きく働いた。しかし、予算措置はなかった。既存予算を削る形でステーション計画は予算化された。関係者の間では、「こんなことではやってられない」「日本モジュールは完成させても運用予算が出ない。このままでは神棚に飾るしかない」と悲鳴が上がった。

 しかし、その後のバブル景気で国家予算全体が膨らみ、宇宙予算も相応に増えたので、完成した「きぼう」を神棚に飾る事態は回避された。政治はなにもしなかったが、時代の流れが予算危機を回避する役割を果たした。

 最後が1998年の情報収集衛星計画を決定した時だ。この時は、自民党の防衛族議員が積極的に動いたが、予算については彼らはなにも動かなかった。結果、国際宇宙ステーション計画の時と同じつじつま合わせが行われた。既存宇宙計画の予算を400億円削って、その分を情報収集衛星に回した。開発は宇宙開発事業団委託となったので、予算は表面上減らなかった。が、400億円規模の巨大計画を押しつけられたのだから仕事は増えて予算は増えないということになった。
 しかも、バブル経済が追い風になった国際宇宙ステーション計画とは異なり、この時日本経済はバルブ破裂後の「失われた10年」の真っ最中だった。当然予算の自然増はあり得ず、その後の「失われた20年」で予算不足の歪みは拡大した。

 「はやぶさ2」の予算がなかなか付かなかった背景には、様々な思惑が交錯しているのだが、一番の根本には、この「政治がやることばかりを増やしてカネを付けなかった」という問題が存在する。
 タダで仕事をする者ははないし、タダでできる買い物もあり得ない。仕事を増やすなら予算を増やすべきなのだ。カネがないならその分をどこか、別の国家の仕事を減らして捻出すべきである。それを行うのが政治というものの役割であるはずだ。
 自民党の長期政権は少なくとも宇宙開発に関して、その当たり前の財布の管理ができていなかった。
 では、民主党は?というのが今の状態である。

 第5回MMD杯に、また宇宙関係の動画の投稿があった。


 はやぶさからイカロスへ…。この認識は正しい。
 はやぶさシリーズはこれから理学探査ミッションとして安全性・確実性を上げていく必要がある。
 はやぶさが切り開いた「積極的にリスクをとり、より遠くへ、世界の誰もやったことのないことを」という系譜はイカロスに引き継がれている。その先には、ソーラ電力セイルミッション(pdfファイル)がある。目指すは木星圏。木星にプローブを突入させ、木星の強大な磁場を観測する探査機を分離、スイングバイによる黄道面脱出により太陽系を外から一望し、さらには複数のトロヤ群小惑星を世界で初めて探査する。

 はやぶさを巡るブームは、「ブームがブームを呼ぶ」という段階に入ったようだ。一昨日の毎日新聞の記事のように「今、はやぶさがブームになっている」的なメタデータ的記事が増えて来つつある。このような記事が出始めると、宇宙にも科学にもまったく興味を持たなかった層が「今、ブームになっているんだって?!」と動き始めるものだ。

 ニコニコ動画 探査機「はやぶさ」タグの登録件数は900件にもなった。
 pixivはやぶさタグは1231件となり、まだ増え続けている。

2010.07.29

月探査に関する懇談会から最終的な報告書が出る

 今日は月探査に関する懇談会の第9回会合を傍聴に行く予定だったのだが、ついにダウンしてしまった。5月からこっち一日も休みなしになにかしらをやっていた結果である。身体も精神も2〜3日の休養を要求しているが、その時間がとれない。貧乏暇なし。

 今日の会合の様子は、有人ロケット研究会事務局長の大貫剛さんがTwitterに書いており、すでに月懇談会会場なうというまとめも出来ている。大塚実さんも傍聴に行っているので、すぐにまとめが掲載されるだろう。

追記:大塚さんによる速報版報告が出た。月探査に関する懇談会 第9回会合(速報版):大塚実の取材日記

 すでに宇宙開発戦略本部のページには月探査に関する懇談会 第9回会合 議事次第として、本日配布された資料が掲載されている。報道機関は以下のようにこの件を伝えている。

 分析を書きたいが、時間がとれない。

 ざっとみた印象では、みんなでわーいと諸手を挙げて、月探査という破局に突き進むのはぎりぎり回避できたかなという印象だ。相変わらず「日本の月探査はアメリカに触発されたものではない」というような自己欺瞞だとか、「2020年に南極に無人基地」というような「サイエンスとしてほんとうにそれでいいのか、もっと議論すべきではないか」といった記述も残っている。それでも、若干正気に戻ったかというように読める。若干ではあるが。
 資金規模については、「2015年頃までに約600〜700億円程度」「2020年頃までに累計約2000億円程度」、月探査に必要な研究開発について、「2020年頃までの資金規模としては、900億円程度と試算。(なお、その後の実機規模の研究開発のための第2ステップには、数千億円規模を要する見通し)」と書いている。2400億円と書いていた前の案からするといくらか少なくなった。
 この数字を予算獲得の武器として一人歩きさせずに、アメリカの有人月計画なき今、全体計画の中にどうやって月探査を位置付けるかが、今後の宇宙開発戦略本部の仕事となる。

 以上、取り急ぎアップする。


 アマゾンでも買えることに気がついたので掲載する。この週刊ダイヤモンド6/12号に、現在の日本宇宙開発が抱える問題点についての記事を書いた。月探査に関する問題点も指摘している。



 JAXAが出した日本宇宙産業を総括したムックだが、実は記事のかなりの部分を、無記名ながら大塚実さんと私が書いている。現状を知らなければ問題点の把握もないわけで、今の日本の宇宙産業がどうなっているかを見通すことができる一冊である。


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