テキスト全文
回復期病棟におけるCOVID-19対策の概要
#1. 回復期病棟における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策について 神戸市立医療センター中央市民病院
感染症科
黒田浩一 1 注:このスライドは、作者が個人的に作成したもので、所属施設の見解を代表したものではありませんので、ご了承ください 2020.9.14
#2. 目次 SARS-CoV-2の感染経路
Withコロナの院内感染対策
- Withコロナの院内感染対策(一般論)
- COVID-19の可能性のある患者が院内で発生した場合
病院内に新型コロナが侵入する経路
急性期病院からの転院患者への対応
- いつまで感染するリスクがある?
Q&A 2
#3. 用語の確認 新型コロナウイルス
=severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2)
新型コロナウイルス感染症
=coronavirus disease 2019 (COVID-19)
3
SARS-CoV-2の感染経路と予防策
#4. SARS-CoV-2の感染経路 飛沫感染
くしゃみ・咳・会話(2m以内)
接触感染
痰や鼻水などの体液への接触
体液で汚染された環境への接触
空気感染?
可能性はある(ただし、証明されていない)
3密空間で、換気をしない場合にリスクが高い 3密(密閉・密集・密接) 4
#6. 標準予防策の徹底 適切なタイミングの手指衛生
適切な個人防護具の使用
- 吸痰時のサージカルマスク
- 体液に触れる場合の手袋
- 衣服が汚染する可能性がある場合のエプロン/ガウン 6
COVID-19患者の院内感染対策
#9. マスクを着用できない患者の場合 認知症、子供、精神発達遅延、せん妄...
患者からの飛沫が増加するため、目の粘膜への曝露を減らすため、医療従事者は、マスクとフェイスシールド/ゴーグルを着用する。
マスクできない患者が共有スペースを使用する場合、特にsocial distanceと換気に注意を払う 9
感染管理と個人防護具の使用
#11. COVID-19の可能性のある患者が院内で発生した場合 早期に察知:どんな時にCOVID-19を疑う?
感染経路別予防策
N95マスクを使用する状況(エアロゾル発生手技)
エアロゾルとは?
個人防護具の供給不足問題
感染防止策を実施する期間
COVID-19疑い患者対応のポイント
11
#13. どんな時にCOVID-19を疑うか? 発熱と気道症状(咳・咽頭痛)
味覚障害・嗅覚障害(単独は稀)
同じ病棟で同時期に複数の発熱患者がでた場合は、要注意! 13
#14. 感染経路別予防策 接触予防策
飛沫予防策
空気予防策(エアロゾル発生手技の時に必要) 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き・第2版
⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 14
#15. COVID-19の可能性のある患者の感染管理 個人防護具
1. 眼・鼻・口を防護するもの
サージカルマスク or N95マスク
ゴーグル or フェイスシールド
2. 長袖ガウン
3. キャップ(必須ではない)
4. 手袋 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き・第2版
⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 15
エアロゾル発生手技と感染リスク
#16. N95マスクを使用する状況 エアロゾル発生手技を行う場合
気道吸引 NIV
喀痰誘発 気管支鏡
胸骨圧迫 用手換気
気管挿管・抜管
咳が強い患者の診察(当院) 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き・第2版
⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 16
#17. リハビリテーションに関連したAGP 誤嚥のリスクを伴う摂食訓練
口腔・鼻腔・咽頭・気管内の吸引処置
詳しいことは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会・日本嚥下医学会のウェブサイトを参照 AGP:Aerosol generating procedures エアロゾル発生手技 17
#19. エアロゾルとは? 気体中に微粒子が多数浮遊した状態(ほこり、花粉、霧など)
その微粒子の大きさは、数nmから100μm程度まで様々
「エアゾロル感染」≒飛沫感染+空気(飛沫核)感染
「エアロゾル感染」の世界的に統一された定義は存在しない
「エアロゾル感染」は、空気感染(飛沫核感染)とは異なる
※飛沫核=長径5μm未満 19
#20. 病室・病室の空気中のウイルス 患者の頭から4m離れた場所の空気からSARS-CoV-2がPCR検査で検出された1)
隔離病棟・人工呼吸器患者の病室の空気中のSARS-CoV-2 RNA濃度は非常に低かったが、患者ベッドから約3m以内の床はウイルスで汚染されていた2)
→「エアロゾル」は、患者から4m離れたところまで到達する可能性
実験室の環境におけるエアゾロル(この実験では、5μm未満の飛沫核)中のウイルスは、3時間以上viabilityを保持する(半減期は1.1-1.2時間)3) 1. Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885.
2. Nature. 2020 Apr 27. doi: 10.1038/s41586-020-2271-3.
3. N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. doi: 10.1056/NEJMc2004973. 20
環境表面のウイルスの安定性と感染リスク
#21. ガウンはタイベック®がよい? 基本的に通常のガウンで問題ない。
タイベック®の利点は、全身を覆うことができることであり、気管挿管(咳がある状況)の際、術者の耳・頚部・髪・靴に飛沫が付着する可能性が指摘されているため、その際はタイベック®の使用を検討する。 JAMA. Published online April 27, 2020. doi:10.1001/jama.2020.6633. 21
#22. キャップは必須? キャップ装着は、必須と考えられていない
ただし、髪に触れた際に、⼿指に付着したウイルスによる粘膜汚染が懸念されるため、特に髪を触りやすい人は着用したほうが安全と思われる 22
#23. シューズカバーは必要? 集中治療室で最重症COVID-19診療している医療従事者の靴の裏のウイルスPCRが50%で陽性であった報告がある1)
COVID-19診療している医療従事者の靴の前面のウイルスPCRが陽性であった報告がある2)
しかし、シューズカバーを脱ぐ際に⼿指が汚染するリスクを考慮すると、シューズカバーの着用は推奨されない3,4) 1. Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885.
2. JAMA. 2020 Mar 4;323(16):1610-1612. doi: 10.1001/jama.2020.3227.
3. ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版.
4. 国立感染症研究所. 新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 2020年5月20日改訂. 23
#25. 病院内のどこが汚染? レッドゾーン
床(70%で陽性)・コンピューターマウス・ゴミ箱・ベッドの手すり・ドアノブ・患者マスク・排気口フィルター・テーブル・ロッカー、椅子・照明のスイッチ・聴診器・洗面台(外側・内側)・窓・シンクの上のPPE置き場・トイレのドアノブ・便器の表面
隔離病棟のグリーンゾーン
受話器と手指衛生消毒薬のプッシュボタン Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885.
JAMA. Published online March 4, 2020. doi:10.1001/jama.2020.3227 J Hosp Infect. 2020 Apr 15;S0195-6701(20)30195-X. 25
#26. JAMA. Published online March 4, 2020. doi:10.1001/jama.2020.3227 26
#27. グリーンゾーンの汚染対策 レッドゾーンを出たときに手指衛生
高頻度接触面の定期的な消毒 27
#28. 環境表面のウイルスのviabilityがある期間 いつまで生存(残存)?
PCR陽性≠感染伝播
ウイルス培養のほうが感染性をより反映 28
#29. SARS-CoV-2の環境表面での安定性 プラスティック:72-96時間以内(半減期6.8時間)
ステンレス:48-72時間以内(半減期5.6時間)
銅:4-8時間(半減期1時間未満)
ダンボール:24-48時間以内(半減期3-4時間) N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. doi: 10.1056/NEJMc2004973. 29
COVID-19患者の退院基準と感染防止策
#31. 環境表面のウイルスのviability 汚染された物品はいつから触れることができるか?
紙・ティッシュペーパー・ダンボール:24-48時間以内
木・布:2日以内
ガラス:4日以内
ステンレス・プラスティック:3-7日以内 31
#33. 退院後...入院中使用していたものは... ビニル袋に入れて、自宅も持って帰る
紙や布製品は2日以上経過したら取り出してOK(ビニル袋の内側のウイルスが気になる場合は1週間後に取り出す)
プラスティックやステンレス製のものは1週間後に取り出す
患者以外だれも触らないものは、すぐに取り出してよい(例:仕事用のパソコン、時計、財布:ただし、環境汚染に注意する)
独居の場合は、家に帰ったらすぐに袋から取り出してよい 33
#34. 個人防護具(PPE)不足問題 サージカルマスク
N95マスク
ガウン 34
#35. サージカルマスク不足への対応 全員マスクによって消費量が増加
2020年5月以降は供給量増加中?
ユニバーサルマスキングでのマスクはre-useする(例:1日1枚)
予定入院患者には、事前にマスク購入をお願いする(布マスク許容)
COVID-19患者(疑いを含む)対応後・汚染後は破棄する(re-use禁) 35
#36. N95マスク不足への対応 エアロゾル発生手技をする可能性のある患者に使用を限定
extended use
reuse
使用期限切れのN95マスクの使用(ゴムバンドが正常) 36
#40. 個室隔離 確定例・疑い例ともに個室隔離が必要
十分な換気が重要(可能限りこまめに行う)
必ずしも「陰圧室」でなくてもよい
エアロゾル発生手技を行う場合は、陰圧室が望ましい(陰圧室がない場合は、換気を十分に行う) 40
COVID-19疑い患者の対応と感染経路
#41. 感染防止策を実施する期間 COVID-19患者
発症から10日以上、かつ、解熱72時間以上(退院基準)
鼻咽頭ぬぐい液PCR検査2回連続陰性確認(間隔:24時間以上)
※PCR陰性化は、前者の基準より1-2週間程度遅れる(当院data)
COVID-19疑い患者
COVID-19が除外されるまで 41
#42. COVID-19の診断 症状:発熱、咽頭痛、咳、味覚障害、嗅覚障害
曝露歴:家族内、職場、clusterが発生した場所、など
行動歴:Clusterが発生しやすい場所(ナイトクラブ、カラオケ、ライブハウス、スポーツジム、大規模イベント)
画像検査:胸部レントゲン、胸部単純CT
PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液・唾液)
抗原検査(鼻咽頭ぬぐい液) 42
#43. COVID-19疑い患者 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液) COVID-19確定 陽性 代替診断なし 代替診断あり 陰性 COVID-19除外 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液)※1 COVID-19確定 陽性 代替診断なし 代替診断あり・検査前確率が高くない 陰性 COVID-19除外 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液 or 喀痰)※2・抗体検査※3 COVID-19除外 陰性 ※1:検体は喀痰でもよい
※2:発症から4-7日目が望ましい
※3:発症から10日目以降がよい 陽性 COVID-19確定 各evidenceを参考に作成した私案 43
#44. COVID-19疑い患者対応のポイント 基本は、サージカルマスク・ガウン・手袋・フェイスシールド
キャップは必須ではないが、したほうが安全かもしれない
直接の診察(特に聴診)は最小限にする
鼻咽頭ぬぐい液を採取する場合
- 正面に立たない(患者の右側または左側に立つ)
- 患者にはマスクしてもらう(鼻だけ出す)
気管挿管/吸痰をする可能性がある場合は、N95マスクを使用 44
#45. COVID-19疑い患者対応のポイント LINEやFacetime(TV通話)を活用する(iPadなど)
軽症の場合、バイタルサインの測定は最小限で
(重症なら即急性期病院に搬送)
体温とSpO2と脈拍:患者本人が測定
血圧1日1回で十分
早めに保健所にPCR検査の相談をする 45
#46. COVID-19疑い患者に対応する人数は最小限にする
疑い患者は、必ず個室に移動
個人防護具の着脱をお互いにチェックし合う
COVID-19と確定診断された患者がでた場合、発症から48-72時間までさかのぼって、接触者を調査して、COVID-19に対応できるPPEを使用していない場合は、14日間仕事を休む 病棟での工夫 46
#48. 病院内に新型コロナが侵入する経路 転院患者 医療従事者(市中感染) 面会者 48 外来患者
#49. 病院内に新型コロナが侵入する経路 転院患者 医療従事者(市中感染) 面会者 49 外来患者
#50. 面会者からの感染伝播予防 発熱、気道症状、味覚障害、嗅覚障害のある家族・知人の面会を禁止:面会前の問診票記載と体温測定
面会者のマスク着用義務化
面会者の手洗い(病院の入り口、病室の入り口)
COVID-19流行期の原則面会禁止
50
職員の市中感染予防と感染対策
#51. 病院内に新型コロナが侵入する経路 転院患者 医療従事者(市中感染) 面会者 51 外来患者
#52. 職員の市中感染予防 屋内や人混みでのマスク着用
身体的距離の確保(最低1m、可能なら2m)
手洗い
3密(密集・密接・密閉)の回避
感染が流行している地域への移動を控える どの範囲まで要請するか、病院ごとで検討する必要がある 52
#53. 職員の市中感染予防 感染対策部門は、ここに最も注意が必要かもしれない
- 体温自己申告制・問診なし・長時間病院に滞在・人数多い
転院患者:事前に医学的にリスクを検討済
→安全
面会者:体温測定・問診を行う・短時間病院に滞在・人数少ない
→比較的安全 53
#57. 院内職員間感染予防の工夫 頻回の手指衛生
ユニバーサル・マスキング
- 特に2m以内で会話する場合は、サージカルマスクを着用
- 休憩室・ロッカー・カンファレンスルーム・帰り道に注意!
引き継ぎは少人数で(例えば3人以下)
食事は、2m以上の間隔をあけてとる(対面はダメ)
休憩時間の分散化 57
#58. 微熱や軽度の気道症状がある場合
→出勤しない or 業務中なら業務を中断する
COVID-19担当の医療従事者が、発熱・気道症状・嗅覚/味覚異常がでた場合の対応方法
→例:「1-2週間休む±(保健所に相談した上で)受診してPCR検査」を行う
院内の職員間感染を予防する ※PCR検査の適応は、流行状況や保健所・コロナ対応病院の方針によって異なる 58
#59. 体調不良時に「休む」文化が大切 自分のため
同僚のため
患者さんのため 59
#60. 病院内に新型コロナが侵入する経路 転院患者 医療従事者(市中感染) 面会者 60 外来患者
転院患者の感染リスクと対応策
#61. 外来患者からの感染伝播予防 職員の市中感染予防と同様(以下を指導する)
- ユニバーサルマスキング、手洗い
- 3密回避
- 人との距離を2m以上保つ
(可能であれば)入院患者とリハビリする場所を分ける
症状日誌:体温測定1日2回、発熱、咳、咽頭痛、倦怠感、味覚障害・嗅覚障害・感染者との接触・同居家族の感冒様症状 61
#62. 病院内に新型コロナが侵入する経路 転院患者 医療従事者(市中感染) 面会者 62 外来患者
#64. 急性期病院からの転院患者の対応 いつまで感染するリスクがある?
安全な転院条件
COVID-19患者の場合・COVID-19以外の患者の場合
入院患者が発熱した場合の対応
64
#65. いつまで感染するリスクがある? ただしく恐れる 65
#66. 「感染性がある」とは? PCR陽性→×
ウイルス培養陽性→?
実際に起こったoutbreakの調査結果 66
#67. 軽症から重症のCOVID-19患者12例の検討
・発症から9日目でウイルス培養陽性の症例があった
・10日目以降のウイルス培養は検討されていない
・気管挿管例は含まれていない Nat Med. 2020 Apr 23.
doi: 10.1038/s41591-020-0877-5 67
#68. 軽症COVID-19(9例の検討)発症8日目までの喀痰ウイルス培養陽性 便のウイルス培養は全例陰性(PCRのウイルス量に関連なし) Nature. 2020 Apr 1.
doi: 10.1038/s41586-020-2196-x. 68
#69. 米国のSkilled Nursing Facilityで起こったoutbreak。重症例も含めたCOVID-19の上気道検体を使用したPCRとウイルス培養を施行。SARS-CoV-2は、発症6日前から発症9日目で培養陽性となった。ウイルス量(PCR)が多い場合に培養陽性となる傾向があるようにみえるが、発症早期にウイルス量が多いことが原因と思われる。 N Engl J Med. 2020 Apr 24.
doi: 10.1056/NEJMoa2008457. 69
#70. 発症前(潜伏期間):45%
発症後:40%
環境接触:10%
無症状感染者:5%
感染伝播:感染(曝露)から10-12日頃まで Science. 2020 May 8;368(6491). doi: 10.1126/science.abb6936. 70
感染伝播の期間と再検査の必要性
#71. COVID-19のヒト-ヒト感染77ペアを解析した研究。感染伝播は、発症2.3日前から出現し、発症前後でpeakとなり、その後発症7日目までに急速に減少する。感染伝播の44%は発症前に起こる(pre-symptomatic transmission)。 Nat Med. 2020 Apr 15. doi: 10.1038/s41591-020-0869-5. 71
#72. 100名の患者からの感染伝播を調査した台湾の報告。Secondary caseは、index case発症から初回曝露までの期間が5日以下までの症例のみだった。感染率が高いのは、発症前曝露(pre-symptomatic transmission)、家庭内曝露、重症例/最重症例。無症状感染者からの感染(asymptomatic transmission)はなかった。 JAMA Intern Med. 2020 May 1.
doi: 10.1001/jamainternmed.2020.2020. 72
#75. 75 成人COVID-19患者(重症度や年齢・基礎疾患などの詳細なdataは提示されていない)の鼻咽頭または気管内検体のウイルス培養で、発症から8日以降は陽性例なし。Ct値>24でも陽性例はなかった。 Clin Infect Dis. 2020 May 22;ciaa638. doi: 10.1093/cid/ciaa638.
#77. 感染伝播する期間:文献のまとめ 発症2-4日前から発症後5-10日目までがリスクが高い
- 院内感染のリスクが高い感染症である
それ以降に感染伝播が起こる可能性は非常に低い
→ 発症から11日目以降の感染リスクはほぼない
最重症例(人工呼吸器管理)は20日間までリスクあり 77
#78. PCR検査は再度陽性になることがあるが感染伝播した例は報告されていない 2回PCR陰性確認された4名のCOVID-19患者で、5-13日後にPCRが再度陽性化した
SARS-CoV-2 PCR検査2回陰性確認後退院となった患者の14.5%で再度陽性化した
韓国CDCは、COVID-19の症状が改善し、いったんPCR陰性化した患者で、再度陽性になった285名の追跡したところ、1例も感染伝播を起こさなかった Clin Infect Dis. 2020 Apr 8;ciaa398. doi: 10.1093/cid/ciaa398. JAMA. 2020 Feb 27;323(15):1502-1503. 78
#79. COVID-19治癒後の患者へのPCR再検は原則不要 終生免疫はできない可能性が高い
そのため、治癒後長期間(例えば6か月)経過してから
再度感染する可能性はある 79
#80. ちなみに... 治癒後のPCR再陽性(転院前に依頼されて再検するケースetc)は、医学的に診断する必要はない(治療不要、かつ、隔離不要であるため)
しかし、現在の日本の行政ルールでは、新規感染と同じ扱いとなり、まったくの無症状でも、10日間隔離対応が必要となる
患者のADLや意欲の低下につながるため、害があると言える 80
無症状感染者のリスクと対策
#81. 最近治癒と判定された患者へのPCR再検要求は禁忌に近い 81 不要な再隔離のリスク→人権侵害
医学的に「安全」なのに検査要求→差別
#82. 感染伝播する期間:2020.5以前 発症から10日以上経過、かつ、解熱状態72時間以上経過していれば、感染性はないと考えてよいと思われるが、さらに安全な条件として、「症状改善、かつ、24時間以上の間隔をあけてPCR 2回陰性確認」。 82
#83. 退院基準の変更(日本) 2020年6月12日に「発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合」に変更
退院の適応を決定するにあたって、原則PCR検査は行わないことになった
この基準は、重症度を考慮していない 83
#84. 院内感染対策終了の基準(米国) 軽症・中等症の場合(呼吸不全なし)
発症から10日以上、かつ、解熱24時間、かつ、症状改善
重症・最重症の場合(呼吸不全あり)
高度免疫不全の場合
発症から20日以上、かつ、解熱24時間、かつ、症状改善 ※退院基準ではない 84
#87. 感染伝播する期間:2020.8の当院 発熱を含めた症状が改善して72時間が経過、かつ
- 軽症・中等症は、発症から10日以上
- 重症・最重症の場合は、発症から20日以上
経過していることが確認できれば、感染性はないと判断している 87
#88. COVID-19治癒後の患者の転院の条件(私案) 発症から10 or 20日以上経過(重症度による)
72時間以上解熱している
気道症状が改善している
鼻咽頭ぬぐい液SARS-CoV PCR 2回陰性確認
PCR 2回陰性確認後のPCR再検も当然不要 88
#89. COVID-19と診断されていない無症状の患者の転院は安全? 89
#90. 検討すべきこと COVID-19の潜伏期間
無症状の感染者は実在する
無症状の感染者からの感染伝播は十分ありえる
PCRの感度が不十分である(特に潜伏期間での感度は低い)
地域の流行状況(転院元の入院期間が2週間以上であれば、ほぼ関係ない、例外:院内感染が起こっている病院) 90
院内感染対策の基準と流行状況
#91. 潜伏期間:曝露から発症までの期間 中央値:4-5日(IQR:2-7日)
曝露後2-14日の間で発症する N Engl J Med. 2020;382(13):1199-1207. N Engl J Med. 2020;382(18):1708-1720.
Lancet. 2020;395(10223):514-523. Ann Intern Med. 2020;172(9):577-582. 91
#92. 無症状の感染者は存在する 正確な数は不明
- どの程度PCRを広く行うかで結果は異なる
- 「有症状」の定義でも変わってくる
当初は、ほとんど無症状者はいないとされていた1)
ダイアモンド・プリンセス号のoutbreakの研究:18-32%が無症状2, 3)
ベルギーの施設入所者の研究:75%が無症状4)
1) JAMA. 2020 Feb 24. doi: 10.1001/jama.2020.2648. 2) Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180.
3) Lancet Infect Dis. 2020 Jun 12;S1473-3099(20)30482-5. 4) Lancet Infect Dis. 2020 Jul 3;S1473-3099(20)30560-0. 92
#93. 無症状者と有症状者でウイルス量(PCR)の推移は同等 JAMA Intern Med. 2020 Aug 6. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.3862. 93
#94. 発症前(潜伏期間):45%
発症後:40%
環境接触:10%
無症状感染者:5%
感染伝播:感染(曝露)から10-12日頃まで Science. 2020 May 8;368(6491). doi: 10.1126/science.abb6936. 再掲 94
#95. 転院前のスクリーニング検査の意義 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液) 95
#96. 無症状なのになぜPCR? 症状ないCOVID-19患者をみつける
- pre-symptomatic transmission
- asymptomatic transmission 96
#97. 上気道検体(鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液)の
PCR検査の偽陰性率は、発症4日目がもっとも低い 発症日 Annals of Internal Medicine. 2020 May 13. doi: 10.7326/M20-1495. 無症状の場合の検査感度は非常に低い 97
#98. 無症状者のPCR陰性は「安全」を意味しない 98
#99. 「流行期」の定義は、ない 新規陽性者数、新規陽性者数における接触歴等不明率、週単位の陽性者増加比、重症患者数、入院患者数、PCR検査の陽性率、受診相談窓口における相談件数、などを「総合的に判断」して、「自粛要請」が検討されてきた
現在は、「病床のひっ迫具合」「療養者数」「PCR検査の陽性率」「新規感染者数」「直近1週間と前の週の感染者数の比較」「感染経路が不明な人の割合」の6項目から、総合的に評価 99
#100. 各病院で独自の基準を作成?難しい.... 100
面会制限と感染防止の工夫
#101. 転院元の入院期間が2週間以上であれば地域の流行状況は原則として関係ない 101
#102. 例外院内感染が起こっている病院 102
#103. 無症状のヒトが「安全」と判定されるための条件(私案) 流行期において、100%安全ということはあり得ない
紹介元の病院のCOVID-19流行状況の確認
- 院内感染がある?
- その患者が過去2週間滞在した病棟でCOVID-19感染リスクがある?
いずれかを満たす場合、以下の対応を検討する
1. 転院後、COVID-19疑いとして2週間対応(個室隔離・感染対策)
2. 転院前 or 転院時にPCR検査で陰性を確認する(転院元と協議必要)
(ただし、無症状者に対するPCR検査の感度は不十分である) 103
#107. Ans 1:世界各地で臨床試験中 第3相試験まで進んでいるワクチンが複数ある
日本で第3相試験まで進んでいるワクチンはない
効果の程度と持続期間はまだ不明 107
#108. Q2COVID-19の重症化リスク 108
#109. Ans 2:重症化リスクは以下の通り 悪性腫瘍、慢性腎臓病、COPD、固形臓器移植後、心不全、虚血性心疾患、心筋症、2型糖尿病、肥満(BMI≧30)など
臨床フレイルスケール5点以上だと死亡するリスクが高い
Lancet Public Health. 2020;5(8):e444-e451. 5点:IADL のうち難易度の高い動作(金銭管理、交通機関の利用、負担の重い家事、服薬管理)に支援を要するレベル 109
#110. Q3入浴介助時のマスクは必要? 110
リハビリテーションにおける感染対策
#111. Ans 3:不明、当院はマスク着用 マスクをするメリット
飛沫の吸い込みを減らすことができる
マスクのデメリット
濡れたマスクにどれほどの効果があるか不明
フェイスシールドのメリット
顔面への飛沫の曝露を減らすことができる
フェイスシールドのデメリット
曇って入浴介助がしにくくなる
111
#112. Q4サージカルマスク?布マスク? 112
#113. Ans 4:サージカルマスクを使用 飛沫の量
サージカル:1%
コットン:10% 113
#115. Ans 5:食堂での感染対策 会話は最小限にする
対面は避ける
席は1つずつあけて座る(距離をとるため)
会話や介助が必要で、対面となってしまう状況ができる可能性がある場合は、テーブルの間にアクリル板を置くとよいかもしれません 115
#117. Ans 6:スタッフ休憩室での注意点 会話する場合はマスクを着用する
食事中はしゃべらない
会話はなるべく休憩室の外でする
対面にならないように、イスの位置を調整する
1-2mの間隔をあけて座る
一度に入ることができる人数を制限する 117
#119. Ans 7:面会は最小限 and 面会方法を工夫 面会の頻度・人数・時間は、施設の実情に合わせて最小限にする
体温測定、問診票(過去2週間の症状の有無、流行地域への旅行歴)
マスク着用の義務化
アルコール手指消毒薬の使用
小児は原則面会禁止が無難:5歳未満の小児の鼻咽頭ぬぐい液のウイルス量は成人より多い、マスクできない、いろいろ触ってしまう
JAMA Pediatr. 2020 Jul 30. doi: 10.1001/jamapediatrics.2020.3651. 119
#120. 工夫の例:タブレット端末の利用 病院所有のタブレット端末を必要数購入
院内Wi-FiまたはポケットWi-Fiを利用
家族がスマートフォンやタブレット端末を持っている場合に
- 家族とのTV通話
- リハビリしている姿を生中継する
など、実際の「今」の姿をみてもらうことは重要 120
学生実習の受け入れと感染対策
#121. Q8リハビリ室で患者と密着するがマスクだけでよいか?フェイスシールドは必要? 121
#122. Ans 8:マスク+フェイスシールドを推奨 目の粘膜からのウイルスの伝播のリスクを考慮する
患者がマスクしていれば、フェイスシールドは必須ではないが、患者のマスクがリハビリ中に外れてしまうかもしれないため、全例つけたほうが無難
フェイスシールドではなく、ゴーグルやアイシールドでもよい 122
#123. Q9嚥下訓練で口腔内を触る時手袋だけでよいのか? 123
#124. Ans 9:サージカルマスク+ガウン+手袋 嚥下訓練は、COVID-19疑い患者には行わない
飛沫/エアロゾルが発生することを念頭にPPEを選択
- サージカルマスク、フェイスシールド
- ガウン
- 手袋
セラピストは飛沫の曝露が少ない位置から介入する
マスクも含めてすべてのPPEは、患者毎に交換する PPE(Personal Protective Equipment)個人防護具 124
#125. Q10医療従事者としての日常生活/職場の注意点 125
#126. 病院に持ち込まないために
- 屋内や人混みでのマスク着用と身体的距離の確保(可能なら2m)
- 日ごろからの手指衛生
- 3密(密集・密接・密閉)と流行地域への移動を避ける
感染してしまった場合に、病院での伝播を防ぐために
- 日ごろから感染してしまっている可能性を念頭に行動する
- マスクの着用
- マスクしていないときの身体的距離の確保
- 適切なタイミングでの手指衛生
- 体調不良時は必ず休む(休みやすい文化をつくる) 126
#127. Q11せん妄、不穏、認知等、家族の付き添いが必要な時はどう考えればよいか? 127
#128. Ans 11:対応の例(各施設にあった方法で) どうしても付き添いが必要なことが事前にわかっている場合は(転院元の病院に前もって付き添い希望の有無を全例で確認するとよい)、付き添いをする家族に対して、事前に2週間の症状日誌・3密回避・屋内でのマスク着用・流行地への移動を控える・身体的距離の確保をお願いして、それを満たした場合に付き添いを許可する。
付き添いを開始した後は、院内での手指衛生の徹底とマスク着用の義務化、症状日誌・3密回避・屋内でのマスク着用を遵守してもらう。
発熱・気道症状・味覚嗅覚障害がでたら、面会禁止とする。 128
#129. 付き添いを認める基準 各病院内で検討が必要
希望者全員にその対応をすると、業務過多となり、感染対策の破綻のリスクが高まる可能性がある
例えば、せん妄や認知機能の低下などがあり、家族の付き添いがあったほうが、看護・リハビリが安全行うことができると医学的に判断される場合に限定する
家族がいないと不穏や暴力・暴言・徘徊がある場合、家族がいないことによって、標準・接触・飛沫予防策の破綻のリスクがあがる可能性がある 129
#130. いつまで面会制限?-最適解は?- その医療圏(たとえば神戸市)の1週間の新規患者数が0になる、または、ある一定の値まで減った場合(例えば1週間で7人以下=10万人あたり0.5人以下)は、面会制限終了してもよいかもしれない(より慎重にするならば、上記の条件を2週間満たした場合に解除)
「再開の基準」も作成する必要がある:上記のような終了基準と同じ基準で再開すると、かなり安全性は担保されると思われる
市レベルの罹患者数は、各自治体のウェブサイトで確認可能 130
COVID-19の感染経路と重要なメッセージ
#131. Q12学生実習の受け入れは可能か? 131
#132. Ans 11:十分な準備を行えば可能 いつまで続くかわからない流行のために実習の受け入れを止めることは、長期的にみると、リハビリ業界にマイナスな影響が大きい
実習開始2週間前の時点から、三密環境の回避(通学電車を除く)とマスク着用の徹底・身体的距離の確保・流行地への移動を控える・症状日誌の記載の徹底を行う
実習生の学校ときちんと事前協議が必要(責任の所在などは明確に) 132
#133. 実習開始後は... 実習開始時に、飛沫・接触予防策について講義・実習を行う
ユニバーサルマスキングと手洗いの徹底
症状日誌を継続
発熱・気道症状・味覚嗅覚障害などの体調不良を認めた時点で自宅待機として、受診をすすめる、または、7-10日間休みとする(休み期間は、有症状の職員の就労制限の基準と合わせる)
上記内容は、実習生の学校と事前に協議しておく 133
#134. 職員・患者・付き添い家族・実習生重要な対策はすべて同じ 134
#135. 院内では.... ユニバーサルマスキング
手指衛生
症状がでたら病院の中に入らない 135
#136. 日常生活では 3密回避
マスク着用
身体的距離の確保
流行地域への移動を避ける
136
#137. Take Home Messages COVID-19の主な感染経路は、飛沫感染と接触感染である
空気感染は証明されていないが、3密空間では起こりうる
標準予防策の徹底とユニバーサルマスキングが重要
職員間感染予防は、マスク・手洗い・3密回避・身体的距離確保
微熱や軽度の気道症状が出現したら、すぐに休む
感染伝播のリスクは発症2-4日前から発症後5-10日目までが高い
転院患者、外来患者、職員の市中発症、面会者からの感染持ち込みに注意する
転院前PCRは安全を担保しない(過去2週間の曝露歴が重要) 137