【取材記事】
市民クラブ・湘南ベルマーレの未来のために
RIZAP グループへ求める説明責任と透明性
はじめに
湘南ジャーナル社は、地域メディアとして、また市民株主・パートナー企業として30年以上にわたり湘南ベルマーレ(以後、ベルマーレ)を応援し、取材をしてきた。そして、クラブが時代の荒波に向き合うたび、地元企業、市民、サポーターと共に耐え、支え続けてきた歴史がある。
今回、ベルマーレ責任企業、筆頭株主であるRIZAPグループによって発表された新体制と人事改革について、クラブの理念と未来に関わる重大な疑問が明らかになった。
湘南ベルマーレ・スポーツ評議会(以後、評議会)の議事内容を複数の取材で得た事実、特に、評議会重田照夫会長へのインタビュー、湘南ベルマーレに関係する人々の証言から明らかになった事実を本記事に記載する。
なお、本記事は、対立を目的とするものではなく、説明責任と透明性の確保を求めるための社会的意思表示だ。
市民クラブとして誕生したベルマーレに対し、地域企業・市民株主・サポーターへ説明する義務は、責任企業として筆頭株主に明確に存在すると考える。
1. 評議会が取材に回答した理由と背景
「回答がないまま変化だけが先行している」
重田会長を筆頭に評議会メンバーは取材において以下のように述べている。
「評議会が求めてきた説明に対する回答が得られないまま、体制変更と人事改革が進んでしまった。事実関係が不明確な状態で変化が先行していることが、取材に応じる理由です」
評議会はこれまで、対話と提言を通じてRIZAPグループへ責任企業としての説明を求めてきた。しかし、その回答がないまま意思決定が進んだことは、市民クラブの理念に沿わないものと考えている。
2.評議会の役割と目的
「クラブの哲学を守る守護者」
評議会は、ベルマーレの定款に記載された正式な諮問機関だ。市民クラブとしての成り立ちの中で生まれた存在であり、単なる任意の集まりではなく、クラブのガバナンス構造において明確な位置づけを持つ組織だ。そして責任企業に対し、地域の声とクラブの哲学を伝える役割を担っている。
評議会は以下の3つの目的を掲げてきた。
評議会の主目的
1. 責任企業に地域の声を届けること
2.入場収入増加のためのスタジアム問題解決
3.育成した選手がクラブに残れる経営基盤づくり
いずれもクラブ運営の根幹に関わるテーマであり、単なる意見表明ではなく、経営提案として公式に扱われてきた。
重田会長は、インタビューの中で評議会の性格について次のように語っている。
「ベルマーレは市民球団になった経緯があり、その哲学とDNAを守る存在として評議会がある。評議会はクラブの哲学を守る守護者だ。評議会は人事権や経営権を握る立場ではなく、株主総会や取締役会で決められたことを覆す機関でもない。市民クラブとして生き残り愛されてきたクラブの性格をどう維持するかを見守る役割だ」
「評議員は無報酬で、クラブへの愛着と責任感から関わっている。私自身、老後の楽しみとして夫婦で観戦を続けてきた。J1でもJ2でも、本当のファンはチームを愛し続ける。そういう思いで評議会に関わっている」
評議会は定款に基づく公式諮問機関でありながら、その活動は無報酬であり、利害ではなく純粋にクラブの未来を案じる立場から行われている。またそのメンバーはベルマーレを愛するパートナー企業、株主、地域経済団体の代表、地域の有識者などである。
3.評議会への取材で確認された事実
【説明要求案件】
【I】ベルマーレからRIZAPグループへの貸付金
評議会資料・説明によって確認された貸付履歴は以下の通りだ。
| 実施日 | 金額 | 返済期間 | 利率 |
|---|---|---|---|
| 2025 年 3 月 28 日 | 2.5 億円 | 1 カ月後返金 | 3% |
| 2025 年 4 月 30 日 | 1.0 億円 | 2 週間後返金 | 3% |
| 2025 年 7 月 30 日 | 1.0 億円 | 6 日後返金 | 10% |
| 2025 年 9 月 29 日 | 1.5 億円 | 1 週間後返金 | 10% |
当社が長年ベルマーレを取材してきた経緯と、筆者が経営者であることから、この一連の貸付金の動きを見て、強い疑問を感じている。違法ではないかもしれない。しかし、現ベルマーレの経営状況を考えれば、短期間に繰り返される親会社への貸付は、ベルマーレに求めるべき姿とは到底思えない。
評議会も同様の懸念を共有していた。
評議会は「RIZAPグループにも株主がおり、企業責任があることを理解し、これらの情報を外部に伏せ、議論の継続を望んできた。」
にもかかわらず、評議会との対話をせずに人事改革が進行したことは、まさに今回の取材応諾につながっている。
重田会長はインタビューで以下のように述べている。
「ルール違反かどうかは法律家が判断することだが、親会社として健全なお金の動かし方とは言い難い。何をしたいのか、何を目指しているのか分からない」
【II】評議会が公式に提示した経営提言(2025年2月13日)
ベルマーレの赤字予測を受け、次の提案が正式な議題として提出されている。
• 「今こそ責任企業としての資本責任を果たすべき」
• 「増資の検討」
• 「第三の株主を増やし、責任企業を厚くする」
• 「ブランド戦略を明確化し、育成選手の安売りを防ぐ」
• 「35億円予算の壁を突破する戦略構築」
いずれもクラブ強化を目的とした建設的な提案だ。しかし、これに対する返答や回答も出されていない。
【III】予算に計上された6億円のサッカー収入に対する疑義
(2025年6月12日)
6月の評議会では2025年度予算に、6億円を収入計上した点について、以下の懸念が示されていた。
• 「6億円は何を意味するのか」
• 「選手売却によって6億円確保した場合、J1に残れるのか」
• 「過去にこうした無謀とも思える予算編成はなかった」
追加で、「(RIZAPグループへの)貸付金はなぜ、どのように発生したか?」という質問も出された。
この件に関しても、重田会長は次のように語っている。
「6億円規模の選手売却等により、RIZAP側では数字上の成果を計上できる構図になっている。しかし、それがクラブ強化につながっているのか、J2降格に起因しなかったのか、疑問を感じざるを得ない」
【IV】増資に関する議論における姿勢
評議会によればRIZAPグループの増資提案に対する否定的姿勢、投資の受け入れ拡大への慎重な姿勢が確認されている。(RIZAPグループからの過去のベルマーレへの補填額は8,000万円弱とのこと)
評議会はRIZAPグループへ感謝を述べつつも、「目的と戦略が見えない」との不安を共有している。
4.評議会が繰り返してきた核心的な質問
下記3つの質問が評議会からRIZAPグループへ繰り返し質問されてきた。
【評議会での回答要求質問】
1. 貸付金の目的と判断理由
なぜ、何の目的で繰り返されたのか
2. 6億円収入計上の意図
クラブ強化を目的としたものか
3. 増資に関する方針
責任企業として資本責任をどう考えているのか
要するに、本質的な問いは「RIZAPグループは、ベルマーレをどうしたいのか」である。
RIZAPグループには、地域の支えで成立した市民クラブに対し、避けられない説明責任があると私たちは考える。
評議会が最も懸念する点——増資拒否と株主総会
重田会長は、特に増資に対する姿勢への懸念を率直に語っている。
「大株主としての存在が現れた以上、その一企業に対して否定する立場ではない。しかし、資本増強(増資)をしない、少数株主からの増資も受け入れない。結果として、支配は維持したいが、責任ある資本投入はしたがらないように見える」と。
取材を重ねる中で、株主総会への疑念もでてきた。大株主として過半数以上の株を持つRIZAPグループにとって、株主総会を開けば反対意見や疑問の声が多数出るのは明らかだ。筆者が以前参加した株主総会においても、増資の提案や評議会の質問と同じ内容が株主から出ている。しかし回答は得られていない。
どうせ可決できるから、うるさい場は開かなくてもいい、という発想が透けて見えるようなこととなれば、この懸念は、市民クラブのガバナンスに関わる重大な問題だといえる。
5.臨時評議会招集の正式決議
(2025年10月9日)
前述の貸付金を含む、今までの質疑や提案に対する説明要求のため、評議会で「臨時評議会の開催とRIZAPグループ側へ説明を求める」と正式に決議がされた。
その後、開催案内が2025年12月1日に評議会へ通知され、12月10日の開催予定が決まっている。評議会は「あまりにも対応が遅い」と述べている。
6.今回の人事と J2 降格責任について
評議会は、役員人事そのものについては「ノーコメント」の立場を明確にしている。
しかし、6億円計上、選手放出、監督、新体制の発表に関して透明性があると言い難い一連の過程において、「J2降格の責任を社長、会長、監督に求めるのは理解しがたい」という意見が複数の評議会メンバーやパートナー企業、ベルマーレ関係者から共有されている。
取材した関係者の証言
筆者は、重田会長へのインタビューの中で、以下のような声があることを伝えた。
「監督解任、選手放出、J2降格、社長会長の退任などの一連の出来事について、何らかの『仕掛け』があったのではないかという疑念を持つ関係者の声がある」 さらに、
「旧来のスタッフや古くからの人材が『古い体質』とされ外されていった流れや、ベルマーレの歴史や強い時代でさえも、過去は何でも『古い体質』と表現し、数字ばかり追いかけ、実務や現場を支えてきた人たちが、十分な説明のないまま退くという印象がある」
重田会長は慎重に次のように述べた。
「これは事実と感じ方が入り混じる部分であり、断定はできない。しかし、そうした声が複数あることは事実として認識している」
7.評議会会長の言葉
「べルマーレに対する愛があるからこそ、
品のある誠実な態度を」
取材の中で、会長は次の言葉で思いを語った。
「湘南ベルマーレには愛がある。J1でもJ2でも、本当のファンはチームを愛し続ける。だからこそ、責任企業のRIZAPグループには品のある誠実な姿勢を求めたい」
会長が語る「品」という言葉には、以下の意味が込められている。
• 誠実さ
• 説明責任を果たす姿勢
• 市民クラブの歴史に対する敬意
そして、会長は次のように続けた。
「悪口を言っても、書いても何も生まれない。萎縮させるだけだ。だからこそ、事実に基づいて、品のある態度を求めるというところで言葉をとどめたい」
この言葉に、本件を争いではなく、市民クラブの理念を守るための行動だという意味が凝縮されている。
結びに-市民クラブの理念と未来のために
湘南ベルマーレは、市民、湘南地域、パートナー企業、サポーターに支えられてここまで歩んできた。私たちは、その歴史を知っている。
クラブがJ1の舞台でここ8シーズン戦ってこられたのは、地域の応援と信頼があったからだ。だからこそ、責任企業であるRIZAPグループには説明責任があると考える。
• 市民クラブの理念を守るため
• クラブの未来を正しく判断するため
• 不透明な状態のまま変化を進めないため
評議会は、湘南ベルマーレの公式諮問機関であり、純粋にクラブを愛する立場から、繰り返し対話と説明を求めてきた。
12月10日の臨時評議会において、RIZAPグループから誠実で透明な回答を期待する。いや、誠実な回答をすべきである。そして、当社は、引き続き愛するベルマーレの取材を続ける。
2025年12月5日
(株)湘南ジャーナル社 定成 幸代
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