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筆頭著者の記者会見と連名著者の責任

 本日、筆頭著者の記者会見がありました。ねつ造などが指摘されているNatureの論文2本ともの筆頭著者です。
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 いつものようにすごい論文や興味深い論文の紹介記事ではないので気が重いのですが、すんなりと世の中に受け入れられていたら歴史的論文となる可能性もあった2編です。
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 Articleと呼ばれる長い論文の著者は8名、Letterと呼ばれる短い論文の著者は11名で、いずれも筆頭著者は同じです。筆頭著者の次に重要な責任著者とも言われる最後にクレジットされるLast authorはそれぞれ異なります。

 この2編ともの論文に疑義が生じていますので、両者の筆頭著者の責任は非常に大きいということは誰でもが思っていることです。この論文が発表された時に国内でのプレスリリースの舞台になったのが理研CDB(発生再生科学総合研究センター)でプレスリリースでは理研の成果として発表されていましたので、その結果生じた責任問題も理研が受け止めなければならないと、誰でもが思います。

 そして理研の中で調査委員会が設けられ出した結論が、有罪は筆頭著者1名のみ、他の著者はいろいろな面での責任は免れないとしても基本的に無罪と報道されました。

 それではあまりにもアンフェアだということで、筆頭著者が昨日理研の調査委員会の結論に対する不服申し立てを提出したことで行われたのが本日の記者会見ということになります。

 さすがに、論文発表の時のプレスリリースで日本中を興奮に巻き込んだだけのことはあり、今日の記者会見も見た目はなかなか堂々として立派なものでした。

 しかし、その中で博士論文に使った写真を結果的にNature論文に使いまわしたことと、電気泳動ゲルの写真を(それとは明示せずに)切り貼り並びに拡大・反転などをしたことについて認めましたので、科学の世界のルールでは論文の意味は消滅、取り下げするしかないということを告白しています。

 どんなに堂々とまた時にはしおらしく発表し、見ている人の好感度が上がったとしても、科学の世界では許されないことをやったのでこれは「退場」以外の結論はあり得ません。

 残る問題は、弁護士を立ててまで争おうと思った、すべての責任が筆頭著者一人の責任にされたことの不公平だという点では、私も同意見です。

 理研では今回の論文についてだけ調査し、それについてだけ責任を問うという姿勢のようですから、話を簡単にするためにその土俵に乗るとしても、他の著者の責任がまったく問われないという結論は理研の外の世界ではとうてい受け入れられないものだと思います。

 Natureの論文では著者の役割が明示されています、Articleのものはこちらです。
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 Letterのものはこちらです。
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 やはり論文の本体を書いた人の責任は大きいということになると、H.O. and Y.S. wrote themanuscript.と書かれている最低限第二著者(巷でも言われていますし、イントロを読んでみても、これが若い研究者が書いたものではないことはすぐわかりますので、論文執筆の主体は第二著者だと私も思いました)は、記者会見などで申し開きをしなければまさかお咎め無しというわけにはいかないだろうと感じていました。

 筆頭著者が出て来て(その中身がすべて事実かどうかはさておき)会見した以上、第二著者も何らかの形で出てこざるを得ないだろうと思います。しかも、その方はCDBの副センター長でもあり、筆頭著者をチームリーダーとして雇用する際にも大きな影響力を発揮したと言われている以上、このままで先へ行くことは無理だと思います。

 理研にも文科省にも、そして政府にもそれぞれいろいろな思惑はあるでしょうが、もうこれ以上長引かせても誰も得をしないと思いますので、どんどんと先へ話を進めるべきだと思います。

 そろそろ、日本がこの無駄な「お祭り」から目を覚まし、毎日毎日重ねている損失から脱しましょう。

【蛇足:STAP細胞はおそらく幻想の産物】
 実際にはきちんと調べてみなければ断言はできないですし、研究している筆頭著者自身は本当に心から信じているかもしれませんし、将来実際にできる可能性もあるのかもしれませんが、現時点では私はSTAP細胞というものは幻想の産物だと思っています。簡単にできないということもそうですが、最初のプレスリリースの時に言っていたマウスの新生仔からとった細胞でしかできないということが今も私の頭の中で引っかかっておりまして、その時期までは体内に残っている分化しつつある細胞がたまたま幹細胞的な挙動を示したものだろうと思っています。そう考えると、いろいろと言われている「STAP細胞の不思議」は私の頭の中ではほぼすっきりと整理されます。ただ、その新生仔マウスを使って実験をする限り、誰がやっても時々はSTAP細胞があるかのごとき結果が出てしまうということで、やっている本人すらもだまされることになる可能性があるのではないか、それがこの実験の魔力で、熟達しているはずの老練な研究者たちも思わず信じこんでしまったのではないかと思います。そうでなければ、これだけそうそうたるメンバーがまるで吸い付けられるようにこの研究に加わるものかと思います。あ、もうひとつ研究費の魔力というものもあり、こちらは文系・理系を問わず、吸い込まれてしまうことに不思議は感じません。もちろん、この蛇足は私の想像の産物なので、こちらにマジレスはしないでいただきたいというのが正直なところです(笑)。
Commented by 名無しの研究者 at 2014-04-10 03:38 x
正直言って、何を言っているのかよくわからない記事でした。
というのも、「責任」という言葉が記事中曖昧に使われているからです。
この場合、不正に対する「責任」とは、「社会的責任」と「共著者としての責任」に分けられますが、本記事が主張するのは、「共著者としての責任」はどうとるべきか、ということだと思います。
「共著者としての責任」は、論文の取り下げ、データの開示、再現実験に尽力すること、などなど様々です。
Author contributionに照らし合わせて、個々の共著者がどのような責任を取るべきかは、さらに議論すべきこととして記事の主張に賛成します。
しかし一方、「社会的責任」に関しては、調査委員会も”重大な責任あり”と言っていますので、何もお咎め無しということはありえません。解雇にはならないと思いますが今後何らかの処罰があるでしょう。
そもそも、共著者が不正に関わっていないことは、小保方氏本人も認めるところです。従って今回の会見が開かれた理由が、「すべての責任が筆頭著者一人の責任にされたことの不公平だという点」とするのは全く誤解で、単に不正はなかった、と主張するためのものです。
Commented by stochinai at 2014-04-10 06:37
ミスがあったことは本人も認めています。科学の世界では、そのミスが十分に責任を取るに値することで、共著者は連帯責任を負うのが国際ルールだと思います。社会的責任はむしろ、研究所、文科相、政府それにマスコミが大きく負っており、しっかりとした対応ができるのもそれらのパートだと思っています。
Commented by toro2007 at 2014-04-10 20:11 x
本筋についてはツイッターでつぶやいたので、蛇足についてひとつだけ(^_^;)これが正しいと仮定すると、素人考えですが、マウス以外の生物でも新生もの?なら同じ現象が起こるかもしれませんね。
Commented by stochinai at 2014-04-10 22:12
それは十分にあり得ることだと、私も思います。
Commented by 鶏肋 at 2014-04-11 00:37 x
周りでもこの会見に同調する意見が多く、やや意外でした。

理研のユニットリーダーは教授と同格だと思っていました。
なので、自分で責任を取れない者を祭り上げることの是非はともかく、「未熟」や「トカゲの尻尾切り」の扱いには違和感があります。
もちろん、第二著者の人が表に出てこないことにも疑問は感じますが。

東大などの例をみても、これまでは直接的な関与がない限り、共著者や所属機関は責任を問われなかったと思います。
科研費は不正使用などがあった場合、共同研究者も連帯責任を負うようになったみたいですが、今後は何か問題があった場合はチームや所属機関が連帯で責任を負う形になるのでしょうかね。
Commented by stochinai at 2014-04-11 13:24
まあ、普通の科学関係者からは総スカン状態で、ここは直接に関係のない「一般市民」の同情をひく作戦に出たということだと思いますが、ほぼ100%が弁護士主導だったこの作戦はある意味「成功」したような面もあるようです。

ユニットリーダーは一応PIですが、任期つきで成果が出ないとクビですから、私から見るとただの研究労働者に見えます。また、もしも本当に未熟な存在なのだとしたらそんな人を雇った選考責任も問われることになります。いずれにしても理研CDBの責任は免れないと思います。

今まで、共著者や機関が責任を問われなかったことが、こういう事件がいつまでたってもなくならないことの一因とも言えないでしょうか?
Commented by 知り合い at 2014-04-11 19:29 x
笹井氏は単なる「共著者」ではないと思います。理研内で小保方氏のメンターであり、プロジェクトを見守って育ててきたはずの立場です。小保方氏の次に、このプロジェクトを知っているはずです。
Nature にのった論文が、事後の検証で、取り違えだらけの図表以外、なんの確かな「物的証拠」も出てこないというのは異常です。小保方氏とのやりとりは、「STAPはないのでは?」「あります!」「証拠は?」「私は確かに見ました」の応酬で、こんなの、できの悪いラボミーティング以下です。
研究者社会としては、小保方氏では論理的なやりとりはこれ以上不可能でしょう。社会的にも、理研はこんな状況で、さらに1000万円以上かけて「追試」を行おうとしている訳で、少なくとも信頼できるはずの笹井氏に、scientificにどこまでが確からしいのか、どこから追試しないといけないのか、説明を求めるのは間違ってないと思います。
この状況では、「メンターとしての責務」と、本来する必要がないはずで無駄になるかもしれない「追試」をお願いする立場から、説明していただくしかないのではないかと思います。
Commented by stochinai at 2014-04-12 08:07
まったく仰るとおりだと思います。そういう意味で来週にあると報道されている会見は今回の「騒動」の一区切りになる重要なものということになりますが、そこまで引っ張って付き合わされている日本中が今回の「被害者」だという思いが強くなってくる今日このごろです。
by stochinai | 2014-04-09 19:43 | 科学一般 | Comments(8)

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