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ついに発見された光合成植物の脊椎動物細胞内での共生

 私が良く学生に出す質問のひとつに、無脊椎動物ではたくさん光合成植物を細胞内共生させて光合成の恩恵にあずかっているものがいるのに、なぜ脊椎動物ではそれが発見されていないのか、というものがあります。今まで発見されていないのだから、非常に稀なことは間違いないとしても、実は脊椎動物ではなんらかの共生できない理由があるのかもしれないということを考えてもらいたいという問題です。

 ところがなんと本日発表になったPNASのオンライン早版には、その「常識」が打ち破られる論文が出ていました。サンショウウオ(spotted salamander (Ambystoma maculatum))の細胞の中で光合成する緑藻(green algae (“Oophila amblystomatis”)です。

Published online before print April 4, 2011, doi: 10.1073/pnas.1018259108 PNAS April 4, 2011

 サンショウウオはウーパールーパーに近いスポットサラマンダーという種で、Wikipediaの写真を見るとなるほど黄色いスポットが目立っています。
ついに発見された光合成植物の脊椎動物細胞内での共生_c0025115_19122977.jpg
 Scott Camazine web.mac.com/camazine (licensed under the Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0)

 緑藻はクラミドモナスに近い種類らしいですが、昔からこのサンショウウオの卵膜と胚の間の囲卵腔に住んでいることが知られていたものです。学名のOophilaというのは「卵を愛する」という意味で、その後ろにアンビストーマというスポットサラマンダーの学名が使われているところは、そのものズバリでスポットサラマンダーの卵の中に住んでいる緑藻として有名なものだったのですが、誰もまさかサンショウウオの細胞の中にまで入り込んでいるとは思っていなかったのでした。

 研究自体はそれほど最新の技術を使ったわけでもなく、大学生の卒業研究だったといってもおかしくないくらい、ある意味素朴なものですが、さすがに世界初の脊椎動物の細胞内に共生する光合成植物ということで話題になっています。

 原著論文はPNASというハイレベルな雑誌に載っています。
ついに発見された光合成植物の脊椎動物細胞内での共生_c0025115_191845100.jpg
 解説記事が、TheScientistという科学読み物に載っただけではなく、BBCニュースにも載っていますので、いずれ日本の新聞でも「ヒマねた」として出てくるかもしれません。

 The Scientist: Salamander cells harbor algae

 BBC NEWS: Plant lives inside animal: algae invade amphibian cells

 PNAS論文にはカラー写真が載っています。
ついに発見された光合成植物の脊椎動物細胞内での共生_c0025115_19185487.jpg
 Aは中にサンショウウオの幼生がはいっている卵で卵膜が緑に見えているのは緑藻が繁殖しているからです。Bの写真は神経ができ始めた時期の胚ですが、お尻のところ(原口)が陥入する時にまわりにいる緑藻を一緒に巻き込んで(矢印)原腸を作っているように見えることを示しています。Cが緑藻がピンクの自家蛍光を示すことで、胚の体の中にあることを示した写真で、おそらくこれが最初の発見につながったのではないでしょうか。DとEは胚の切片の中に緑に見える緑藻がはいっているところです。FからHは体内で、Fは間充織ですが、Gは肝臓、Hは軟骨の中に見える緑藻です。

 というわけで、体内に取り込まれていることは間違いないのですが、細胞の中に入っているのか細胞の間にいるのかは、電子顕微鏡で見なければわかりません。次が電子顕微鏡写真です。
ついに発見された光合成植物の脊椎動物細胞内での共生_c0025115_1919025.jpg
 胚を輪切りにして光学蛍光顕微鏡で見たのがAで、BからFが透過型電子顕微鏡像です。Aは原腸(腸)の内腔から体の中へと緑藻が侵入しているのではないかと思わせられる像ですが、それ以降の電子顕微鏡写真を見ると、緑藻はサンショウウオの細胞の中へと侵入していることは間違いないことが示されています。

 発生が進むと体内の緑藻はどんどん少なくなり、発見するのが難しくなるのですが、サンショウウオの組織をすりつぶして調べてみると、緑藻の遺伝子が発見されるのでおそらく少数は生き残って隠れているのだと考えられます。どこにいるのかとDNAの分布を調べてみると、どうやら卵を体外へ送り出す輸卵管や、精子を送り出す輸精管に隠れているらしく、次の交尾や産卵の時に精子や卵と一緒に卵の中へと滑り込んでいくことが想像されています。

 卵の中にはいって「遺伝」するように親から子へと伝えられるのではないらしく、輸卵管や輸精管の細胞にはいったり、あるいは他の細胞の中に隠れて、次の産卵の時に囲卵腔に入り込んでいくのだと思われますが、この論文を読む限りではそこのところが今ひとつ明らかになっていないようですので、まだまだ未知の部分の多いお話しですが、いずれにしても脊椎動物で始めて発見された光合成植物の細胞内共生は、生物の生き方について、我々がまだまだ知らない世界があることをまた教えてくれました。

 なんとなく、今年は続々とこの手の発見が続きそうな予感がします。
Commented by ぜのぱす at 2011-04-05 22:37
あれ?これって、去年の夏にnaturenewsに出ていましたよね(上のURLにリンク)?詳細が報告されたんですね。
Commented by ぜのぱす at 2011-04-05 22:45
「上のURLにリンク」は、「ぜのぱす」をクリック。

何故か、重複して投稿されて、しかも、パスワードが違うと云われて、自分では削除出来ませんので、一方を削除願います。お手数をおかけします。
Commented by stochinai at 2011-04-05 23:07
 見事にそのニュースがそのまんま、この論文になっていますね。1年近く経ってから、ちゃんとした論文になったのですから、ある意味では安心かもしれません。実は、この論文を紹介しながら、ちょっとだけ「大丈夫かな?」という気持ちもあったものですから・・・。
by stochinai | 2011-04-05 19:55 | 生物学 | Comments(3)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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