5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

たった二人の反乱

 京都大学には(全国の国立大学法人と同様にだと思いますが)、法人化以降に雇われた非常勤職員には契約期限が5年間という就業規則があるのだそうで、来年度が5年目になる約100名が来年春に雇い止めということでクビを切られることになっています。

 産経新聞によると、「契約満了の対象となるのは、17年度に採用された非常勤の事務職員や研究員、看護師ら。京大によると、20年12月現在、時給制で働く非常勤職員は約2600人で、うち半数の約1300人は、17年の就業規則改定後に採用された」そうで、今後は毎年数百人規模で非常勤職員が5年の契約期間満了で雇い止めになっていくようです。

 たとえ、京都大学をクビになっても、日本経済全体の景気が良い時でしたら、身につけた仕事の能力を使って別のところに就職することもできたのかもしれませんが、ミゾーユーの不景気の今だと首切りは即失業を意味することになる人も多いのだと思います。

 たとえ雇用契約に書かれていたとしても、社会の「公序良俗」に反するものは、裁判所の判断が必要ではありますが契約として成立しない可能性もあり、契約書に書いてあるからといって、それに逆らうことができないというわけではないのが、民主主義日本の法体系だと思います。

 つまり、労働者の当然の権利として労働争議の対象にできるということになります。とは言っても、ただでさえ弱い立場の非常勤職員が争議行為を起こすのは難しいことだろうと思いますが、京都大学の時間雇用職員組合である Union Extasy がストライキに突入し、時計台前で「首切り職員村」を開村し、デモンストレーションを行っています。

 組合の名前が「ユニオン・エクスタシー」とは、ちょっと変だぞと思われるかもしれませんが、私もそう思い調べてみました。組合のブログはここにあります。これが、事実上の組合のホームページのようでもあります。

 京都大学時間雇用職員組合 Union Extasy

 「組合員を募集しています」というところを読んでみると、なんとなく事情が見えてきました。
現在、組合員は2名。
2名というのも悪くはない。だいたい、何か決めるのが簡単、思いついたらもう一人に電話をすればいいのだから。会議なんていらない。3人になったらこうはいかない。
そして、2人のいいところは1人ではないところだ。組合は1人でも作れるというが、1人だと自分が悪いとか思ってしまいがち。2人いたら、たいていのことは自信をもってできる。
とはいえ、2人だとやはり組合としては寂しいようだ。そのうえ、現組合員は現在2人とも5月病気味。(少々覇気がない)
乞う、新組合員!
 組合というものは、労働者であるならばたとえ一人でも作ることができると聞いたことがありますが、組合員が二人の組合というのは私の知る限り世界一小さい労働組合です。

 もちろん時代が時代ですし、場所が天下の京大ですから、こんなたった二人の戦いでもマスメディアが喜んで取り上げてくれたことで一気に有名になり、本来(?)ならば誰にも知られずに葬り去られたはずの「首切り職員村」もまだ続いています。

 こちらでも、映像や関連情報が見られます。

 一寸の虫にも五分の魂 even a Worm will turn.
 【わしら】京大「首切り職員村」無期限ストライキ突入、非常勤職員が5年雇用期限撤回求め:リンク集【スターダストや】


 戦っているご本人達は本気であるのだと思いますが、今後の身の振り方を考えると間違いなく不利なことに遭遇する可能性は高いのだと思います。にもかかわらず、関西的とでもいいますか、戦いの中に悲壮感はあまり感じられず、逆に「明るい笑い」があることがとても救われた気持ちになります。

 彼らの戦いの相手は、とりあえず京都大学当局であり、それを管理する文部科学省であり、さらにそれを管轄する政府ということになるのでしょうが、そうした大きな相手に要求を突きつけつつも、まず自分一人から戦いを始めるという姿に大いに共感します。

 とりあえず、被害を受けたら戦う、というこの簡単な姿勢が、雇用者になめられないための基本なのだと思います。彼らの目標はとりあえず、2つです。
(1)「時間雇用職員は通算5年で解雇」という規定を撤回させる。
(2)時給を2000円にさせる。
 おそらく、この要求だと京都大学だけでも対処できる問題なので、(実際には全国の大学を陰で支配しているといっても)文科省は知らぬ存ぜぬと言うと思います。

 いしがめのじだんださんのところに、山井和則衆議院議員(民主党・京都6区)の国立大学の「雇い止め」に関する質問趣意書と,政府答弁書がありますので見てみると、やはりという感じです。答弁書を転載します。
一から三まで及び五から七までについて

 文部科学省としては、国立大学法人における職員の雇用形態等は、労働関係法令に従って、各国立大学法人において、それぞれの経営方針等に基づき、適切に定めるべきものであると考えており、お尋ねの事項について、現時点では把握しておらず、また調査を行うことも考えていない。

四について

 文部科学省としては、国立大学法人における職員の雇用形態等は、労働関係法令に従って、各国立大学法人において、それぞれの経営方針等に基づき、適切に定めるべきものであると考えており、国立大学法人において「有期雇用の非常勤職員」が雇用されている理由や「有期雇用の非常勤職員」が行う業務の内容等について具体的に把握しておらず、お尋ねにお答えすることは困難である。

八から一一までについて

 お尋ねについては、いずれも個別具体的な事実関係に基づき判断されるべきものと考えており、一概にお答えすることは困難であるが、いずれにしても、文部科学省としては、国立大学法人における職員の雇用形態等は、労働関係法令に従って、各国立大学法人において、それぞれの経営方針等に基づき、適切に定めるべきものであると考えている。
 まあ、政府の対応などというものはこんなものでしょうが、文科省は口出しをしないから各大学できめなさいと言っています。今、国立大学首脳部に何か言うと「それは文科省が許可してくれないから無理だ」という答えが決まり文句のように返ってくることが多いのですが、文科省はこの件に関しては各大学が決めることだから勝手にやってくれと言っています。もちろん文科省は実際には、交付金の配分という形で各大学の箸の上げ下ろしまで支配しているのですが、とりあえず時限雇用に関しては「それは各大学が決めていいことだ」と答弁したのですから、ある意味では彼らの闘争の「勝利」ということもできます。

 たった二人の戦いも、無駄ではなかったということではないでしょうか。

 彼らを見習い、ユーモアを忘れずに、しかし正論は捨てずに、明るい労働争議をどんどん起こしていきたいものです。
by stochinai | 2009-03-01 22:15 | 大学・高等教育 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai