信念は「本当にやるべきことはなにか」 次世代型介護事業 縁ある人の幸せに貢献する会社が目指すのは
有限会社ナンクルナイサァーケアネット / 取締役社長 乾 亮二 氏
2006年、現社長 乾亮二氏の妻 由香氏が在宅介護の会社「有限会社ナンクルナイサァーケアネット」を自宅の1階で立ち上げる。その頃亮二氏は、トラック運転手で家計に協力をしながら休みの日には夜間の訪問介護で実務経験を積んでいた。そして2013年から重度障害に特化したデイサービスを中心に運営、副社長として由香氏を支えてきた乾氏は、2018年4月に取締役社長に就任した。「うちが本当にやるべきことはなにか」を常に問い続け、次なるステップに進む有限会社ナンクルナイサァーケアネットの取締役社長 乾 亮二氏に、いままでの道のり、そして今後の活動を伺った。
アパレル会社の社員から介護事業に挑む
最初に、介護事業を始めたのは奥さんだったそうですね。
はい。当時妻はアパレル関係の仕事をしていたんですが、3人の子供の育児を機に退職。祖母の介護でヘルパーの仕事を目の当たりにし、お年寄りの役に立ちたいとヘルパーとケアマネージャーの資格を取ったんです。本当に妻は行動力があるんです。
奥さんの由香氏は、ヘルパーとしての経験を積んだのち、2006年に独立、自宅の1階で訪問介護の仕事をスタートさせた。その後亮二氏もヘルパーの資格を取得。経済的に安定するまではという思いでクロネコヤマトの社員となり、休みの日や夜間には訪問介護の仕事を手伝いながら実務経験を積んだ。
そんな中訪問介護・ケアマネージャー・高齢者のデイサービスをしてきたが、中でも重度の障がい者を対象とした事業所が非常に少ないことに気づく。
実は高齢者のデイサービスは、スタッフの確保のためと、給料のベースアップを目的としていました。ただ、妻も私もなんかもやもやしてたんです。
そんなときに売却したいという物件の話が舞い込み、購入することになった。
最初は介護付き住宅を建てようかとか思ったんですが、働いているスタッフのやりがいが持てることは何か、地域に必要なことは何か、模索しました。そんなときに特別支援学校に行く機会があったんです。そこは重度の障害を持つ方が通っていたのですが、高校を卒業すると、受け入れてもらえる施設がほとんどないという現実を知りました。
西成区初 民間の重度障害に特化したデイサービス施設をオープン
西成区には、重度障がい者を受け入れる施設は2か所しかなく、定員いっぱいになれば受け入れられない現実があった。自分達でなにかできないか、必要とされていることは何か・・・・。こうして、2013年に西成区に民間初の重度障害に特化したデイサービス「ナンクルナイサァー くくる」をスタートさせた。初の自社ビルでの施設である。2015年には、同じく重度障害に特化したデイサービス「ナンクルナイサァー ひので」を西成区に開設した。
そんな皆さんに必要とされてる施設ですので、スタッフはみんなやりがいが持てました。だんだん申し込みも増えてきたので、今までやっていた高齢者のデイサービスは、多くの事業所さんが手掛けているため、そちらにお願いをして、国からの報酬が少なく敬遠されがちな障がい者介護にシフトをし、在宅介護の事務所をあえて生活介護のフロアに変えました。
ただ開設後、スタッフの離職率の高さに悩んだ時期もあった。毎年15人前後の入れ替わりが続いたという。さらには信頼していたスタッフが、利用者を引き連れて退職・独立したこともあった。まさに青天の霹靂だったという。
そして2018年、今まで副社長だった亮二氏は、西淀川区に「ナンクルナイサァー あちや」を開設したのを期に、由香氏から社長を交代することになった。
妻からは社長交代について、3~4年前から言われていました。ただ自分は、女性スタッフが多いので社長は女性の方がいいだろうと思っていました。いやほんとうは妻に任せていたら安心だと、責任から逃げていたのかもしれません。
ちょうど、コロナ前の2019年、大阪府中小企業家同友会(※1)に入会、また同時にアチーブメント株式会社(※2)で人の成長を創り出す教育コンサルティングを学びながら、亮二氏は由香氏と共に、一から経営の勉強をした。登録ヘルパーは、サービスの質を担保にするのが難しい。例えば、家事の援助は時給が低く、病院の付き添いは時給が高い。これはおかしいと、亮二氏は、サービスにかかわらず時給を統一した。スタッフのやる気を引き出す仕組みも整え、また勤務態度の評価やクレームの有無などに応じて待遇に反映されるようにもした。
※1 大阪府中小企業家同友会:良い会社づくりを目指す経営者の団体です。1958年の設立以来、大阪府下に30支部があり、約2,200社(企業)の会員が活躍しています。
※2 アチーブメント:アチーブメント株式会社は個人の目標達成を支援する人材教育コンサルティング会社です。
https://achievement.co.jp/
同友会やアチーブメントの学びを実践してみると、自分たちに足らないところが分かってきたんです。そしてスタッフとの面談を増やし、仕事の目標だけでなく、プライベートの目標も聞くようにしました。今までは、悩みを聞いても支援ができていませんでしたが、悩みに対してアドバイスも行うようになり、改善を進めてからは離職率も減少しました。
新たな取り組み 就労継続支援B型事業所 オープン
今年6月、新たな取り組みとして大正区に新しくできた「大正ヨリドコるつぼん」に就労継続支援B型事業所(※3)「ナンクルナイサァーろくえもん」とグルテンフリーのヴィーガンスイーツ(※4)を販売する「アトミヨソワカ」をオープンした。
アトミヨソワカ
3年前からテナントを探していました。大正区泉尾の築70年の双子長屋をリノベーションした施設の見学会でシェア工房があったんです。入居しませんかと勧められたときは、風呂やバリアフリーにするのは無理だったんで、できないと思いました。ただオーナーの地域に対する思いを聞いて、この場所で何かしたい、何ができるんやと考えました。就労継続支援B型事業所をすることにしたのは、うちがやれること、やるべきことだと思ったからです。
※3 就労継続支援B型事業所:障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難な場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練をおこなうことができる事業所及びサービス。何かしら作ったもの、作業したことに対する成果報酬として工賃が支払われる。
※4 グルテンフリーのヴィーガンスイーツ:バター、卵、牛乳等の動物性原材料を使用していないスイーツ。
「大正ヨリドコるつぼん」は、福祉×アート×小商いをコンセプトにした多世代が交流する地域の相互扶助コミュニティ長屋である。就労継続支援B型事業所「ろくえもん」で作ったスイーツを「アトミヨソワカ」で販売し、地域の人達や訪れた人達と共にまちづくりを進めていきたいと考えている。
「アトミヨソワカ」とはさがしものを見つけるときの“おまじない”の言葉。こころを満たすおまじないの味、みんなが探していたお菓子という意味を込めての店の名前にしたそう。そしてグルテンフリーのヴィーガンスイーツを作ったきっかけは、由香氏がたまたまファスティング(※5)をしたときに出会ったヴィーガンスイーツが、小さく安価ではなかったからである。米粉を使用し、卵、グルテンアレルギーのある人もない人も美味しく食べていただけるもので、より付加価値の高いものが出来ないかチャレンジし作ることにした。お豆腐とおからを使ったやさしく美味しい5cm四方角の「Block cake」は、外はカリっ、中はズッシリ新食感、オーガニックオートミールのザクザク感が美味しい直径9センチの大きなクッキーは食べ応えも満点である。そのレシピは由香氏が考案した。
※5 ファスティング:一定の期間食べ物を断つ行為です。多くは、固形の食べ物を半日~数日間摂取しないことを指します。ファスティングの実施期間は半日~2週間まで様々です。また摂取する物や栄養素が決まっているやり方などもあります。
ほんと(不思議なぐらい)、みなさんのご縁で繋がっています。そして「ろくえもん」は繋ぐではなく、ツクル、ツナゲル、ツドウという3つの「ツ」を大事にしています。
社会と繋ぐではなく、社会と繋げるのである。大正区の古き良き街にオープンした「ろくえもん」は、一人ひとりの個性を大切にした就労支援を行う場所として、スタートしたばかりで、現在、見学希望者、(利用者)働く人を募集中である。
取材時には西淀川区の「ナンクルナイサァー あちや」にお邪魔をしましたが、正直、重度障害の方が通われてるとは思えない、元気な挨拶で、とても温かく心地よい空気が流れていました。西成区でスタートした有限会社ナンクルナイサァーケアネットは、どんどん地域を広げている。社名であるナンクルナイサァーは沖縄の方言で「一生懸命に努力をしていれば、いつか夢は叶う。なんとかなる」という意味である。乾亮二氏は「うちが本当にやるべきこと」を常に念頭に置き、必要とする人のために必要なものをつくり、繋げ続けている。
有限会社ナンクルナイサァーケアネット
本社:大阪市西成区南津守3丁目3番22号
オフィシャルサイト:https://nankur.com/
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