神はどーだっていいとこに宿る


by god-zi-lla

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けっきょく、昨晩お向かいの家の屋根がいっときうっすら白くなっただけで、朝起きるとここいらへんは冷たい雨だ。

だけどほんとに降ってほしいところには降ってない。


先日、たぶん10なん年かぶりでモーズ・アリソンの《down hone piano》つうアルバムを引っぱり出して聴こうとしたんだよ。プレスティッジの65年前後に出たらしい盤なり。

でこのアルバム。どこにもSTEREO表示がなくて 'High Fidelity' とあるだけだから多分モノラル盤なんだが、なにしろ長いこと聴いてなかった。そこで(プレスティッジのこういう表示は信用ならないから)念のためオーディオクラフトのアームに現在取り付けてあるシュアーV15type5(針はJICO『牛殺し』)で、A面の出だしをちょっとだけかけてみた。



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うむ、間違いない。ピアノを先頭にベースもドラムスもセンター一直線に並んでる。これは正真正銘モノラル盤なり。まあ『牛殺し』でこのまま聴くのもけっして悪くないんですけど、モノラル盤ならモノラルカートリッジで聴くのが「吉」。冒頭30秒くらいで針を上げたんである。

それからあらためてモノ盤専用、マイクロのアームに付けたオルトフォンCG25Diの針先を盤のフチに持ってって降ろしたと思し召せ。いつもの通り、ごく当たり前に、フツーに、なんのためらいもなく。

そしたら滑ったのよ。針先がスルっと。リードイン・グルーヴをかすめて最初のトラックのアタマまで、ガスっとでもいうような小さいノイズをスピーカーから発しながら行ってしまうんである。ありゃま。グルーヴガードの「土手」に針先が当たっちまったか。それともおれの耄碌が進んだか。



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すると冒頭のトラック〈Dinner On The Ground〉のイントロがちょっと出たと思った途端、またガスっという小さなノイズとともに針先が滑った。先のミゾへ飛んだようにもきこえたが、もしかしたら戻ったかもしれない。とにかく正常にトレースしてないことは間違いない。1、2秒後にまたガスっと音がして飛ぶ、またすぐに飛ぶ。飛ぶというよりか、すぐ隣りのミゾにスベったって感じで音楽がギクシャクと途切れる。なんじゃこりゃ。10秒くらいそんな状態が続いたあとは、なぜかA面の最後までちゃんと再生した。アタマから10秒くらいだけがヘンなんである。

えー、でもだって、さっきシュアーのときはフツーにトレースしてフツーに音楽流れてたじゃん。ノイズだって発生しない。一体全体こりゃなにが起こってんだ。

ためしに何度かやってみたが同じようになる。オルトフォンだと飛び、シュアーに戻せばナニゴトもなくトレースする。たぶん関係ないと思いつつ念のた盤面をクリーニングしてからかけ直してみるが、やぱりカンケイない。

ひょっとしてCG25Diに問題発生かと、別のモノ盤をかけてみれば当たり前に再生する。んー。わからん。フツー、いわゆる「針飛び」が発生するのはレコードのミゾに原因がある(キズとかゴミとか)か、カートリッジ含むレコードプレーヤーのセッティングに(針圧が軽すぎとか設置場所がグラグラとか極端にナナメってるとか)問題があるかのどっちかなわけだが、少なくともシュアーでは問題なくトレースするんだから盤に問題があるとは思えない。ほかのモノ盤はいい音で再生してるんだからマイクロ+オルトフォン陣営に不都合があるとも思えない。

そもそも針圧4グラムのCG25Diが「飛び」、針圧1グラムのV15type5が「飛ばない」っつうのがジョーシキ外れだろ。

これは面白い現象に出くわしたなあ。どうなるとこうなるんだ?



で、もしかしてこういう可能性はあるか?



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ヘタな図でスマン



レコードをプレスするとき、なんらかの理由で(スタンパーがゆがんでたとか、プレスが不均衡とか)この盤の外周部分のミゾだけが細くて浅くなってしまった。ところがCG25Diは針先チップが太いうえにモノ専用だからカンチレバーは左右には動くが上下にはほとんど動かない。なのでミゾの上っツラのところに軽く乗っかるばかりでミゾをキャッチできない。結果として針圧はじゅうぶん重たいにもかかわらずスベって「脱線」してしまう。




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それにひきかえシュアーV15type5+『牛殺し』のペアは針先チップが細いので、通常盤よりも浅いミゾにもかかわらずすっぽりと刺さり、ステレオ仕様だから上下の動きにも追随してトレースするので針飛びを起こさない。

もしかして、そういうことなんじゃあるまいか(あくまで推測だけど)。
半世紀以上レコードかけて聴いてると、いろんなことに出くわすモンである。

つうわけで、このレコードはステレオカートリッジで聴くしかないと定まった。仕方ないねえ。そうじゃなかったら最初のトラックのイントロのところがちゃんと聴けないもん(ちなみにB面冒頭でもほぼ同じ現象が起きることをその後確認した)。



ところでこのアルバムなんだけど、ずいぶん前にモーズ・アリソンのヴォーカルの飄々とした味わいを知って買ってみたところが、なんとこのアルバムは全曲インストナンバーのみなんであった。えーなんだよーこのレコード、ぜんぜん歌ってねーじゃん。クソっ。確認も試聴もせずに買ったおれが悪いっちゃあ悪いんだけど、いっぺん聴いて棚にしまってそれっきりの幾星霜。




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だけどまあ、ちゃんと聴いてないのはいかにもモッタイナイ。たまたま今回出して盤を見てみたら 'VAN GELDER' の刻印もある。いっぺんちゃんと聴いてみるかとターンテーブルに乗せたらコレだったんだけどね。以前しばらくの間CG25Diを使ってない(つか、使えない)時期があったから、このアルバムはきっとその頃買ったんだろうな。

だけど今回あらためて聴いてみると、アリソンはどっかモンク的だったりもしてバップ以前のジャズの香りがする楽しいピアノを弾くひとだったってことに気づいた。ちなみにモーズ・アリソンは1927年生まれの2016年没。バド・パウエルより3歳若く、ビル・エヴァンスより2歳上つうような世代だから、やってる音楽を「ジャズ側」から見ればメインストリートをちょい外れたとこにいたってことなんだろうな。

んー、まるでわかってませんでしたモーズ・アリソンのききどころ。

このアルバムを棚にしまってからの10数年、おれもちったあ成長したってことか。歌わないモーズ・アリソンもいいモンだ。


なんてこと思いながら、あらためて英文のライナーノートを拾い読みしたら、このアルバムはモーズ・アリソンの50年代のアルバムのなかからインスト曲ばかりを集めて作ったと明記してるじゃないさ。えーっ!?

モーズ・アリソンの歌を聴きたくて買ったアルバムが、よりによって歌モノを外してこさえたコンピレ盤だったなんて、なんちゅうウカツなおれなんだ。


とほほ。



Mose Allison / down hone piano (PRESTIGE PR7423) LP mono




晩年、来日したときのブルーノート東京のPV
行きたかったねえ








# by god-zi-lla | 2025-03-05 08:59 | オーディオもねぇ… | Comments(1)



老人は1500円の文庫本に(老人らしく)恐怖する。_d0027243_18255986.jpg



若いひとにはわかんないでしょうけど、老人の目には新潮文庫も実際こんなふうに滲んでブレてぼやけて見えているんだよ。

なんつって、ただ手が滑ってスマホを取り落としそうになった拍子に撮れちゃっただけなんだけどさ。だけどね。ツルツル手が滑ってモノを取り落とすってのがそもそも老人状態が佳境に入りつつある動かぬ証拠ってもんなんだぜ。


先日見た映画『敵』の原作、筒井康隆の『敵』を、その前後に書かれた長編『パプリカ』と『わたしのグランパ』をリアルタイムで読んでるのに、なんでこれだけ読まずにすっ飛ばしたんだろかと不思議だったんだ。

よーするに「老人小説」なんてものを読むのがまだるっこしかったんだな、きっと1998年当時41歳のおれ。自分ももれなく老人になるってことについてなーんのリアリティもなかったから、本屋でちょっと立ち読みして「うざっ。いらねー、なにこの小説」って感じで。

それがあろうことかなかろうことか、いまや映画『敵』を共感と恐怖を抱きながら見てしまった68歳のおれ。筒井センセイはこの小説を64歳のときに上梓している。なんちゅうこっちゃいな。今のおれより若かったのか。

いやこれは読まねばなるまいて、と思ったところが、だ(ここから本題)。



1週間くらい前に左の欄に書いたとおり(すでに削除済み)、税込み693円の新潮文庫がAmazonですごい値段なのよ。



老人は1500円の文庫本に(老人らしく)恐怖する。_d0027243_08531434.jpg


ほらね。これは今日(2月20日)の夕方に押さえたスクリーンショットだ。1500円だぜ。「新品」だぜ。

新潮文庫の『敵』は版元品切れのようで紀伊國屋書店のオンラインショップでもずっと買えなかったんだけど、このオンラインショップのサイトでは店舗在庫を検索できるからやってみると新宿本店では〈在庫あり〉と出る。んー、店に行けばあるんだな。だけど当面新宿方面へ出る「ついで」のないのが困った。693円の文庫1冊のために電車賃と老人の余命の一部をかけて新宿まで出るのもちょっとなー、なんて。

ま、映画化のあとも引き続き話題になってるんだから(長塚京三のインタビュー記事とか最近多いし)新潮社もきっと重版検討してるでしょ。Amazonで1500円出して買うなんてバカバカしいマネ、誰がするかっつーの。

そしたら案の定、おとついくだんのオンラインショップを覗いたら在庫20冊と出た。ほーらね。そこで他の本やら雑誌やら〈ほしいものリスト〉に入れてあった数冊まとめて送料無料にして注文し、さきほど届いたのであった↓


老人は1500円の文庫本に(老人らしく)恐怖する。_d0027243_18303069.jpg

めでたしめでたし。
これが令和7年2月5日付けの7刷り。映画の特別カバーが通常のカバーの上に重ねられてる。

Amazonにはこの増刷分が入らないのでしょうか。別にいいんだけど。



ところでAmazonで「新品」が1500円、書籍の再販制度っていつ廃止になったの?

この国も、どんどん無法者の国になり下がってくよなあ(よしんば中古を新品と言い立てて売ってるんであれば、それはそれで無法者)。

もしかするとこれも「敵」の謀略なんじゃあるまいか。



いま紀伊國屋を覗くとオンラインショップはまた品切れだ。んー。

これもきっと「敵」の謀略にちがいない。

いや待てよ。もしかして、おれの手元にあるこの文庫の「敵」がそもそもマボロシなんじゃあるまいか。ホントはうちに本なんて届いてなかったりする? いやいやまさかそんなことは。じゃあ昼間来た宅配便のニイチャンはなんだったんだ。するとあれが「敵」か?


まさかまさかまさかまさかさまかまかさかまさまさかまさかまさか。










# by god-zi-lla | 2025-02-20 22:12 | 本はココロのゴハンかも | Comments(2)

ルシンダ・ウィリアムスのビートルズ(Lucinda Williams Sings The Beatles From Abby Road)_d0027243_11432476.jpg



きのうはすごい風だったな。
おれんちのまわりにはタワマンが何本もにょきにょき立ってるから、なおさら風がキツい。ひどいもんだぜ。これも「公害」だよな絶対。イマドキ建設前にいくらだってコンピューターでシミュレーションできるだろうに。


それはともかくとして、これはルシンダ・ウィリアムスのニューアルバムなり。

去年の暮れくらいからピーター・バラカンの番組などラジオでかかるのを何回か聴いて、あーこれはいいなあと思ってたんだよな。

例の感染症が世界じゅうで猛威をふるってる最中、ルシンダが始めた〈LU'S JUKEBOX / IN STUDIO CONCERT SERIES〉つうカヴァーアルバムのシリーズがあってね。サザンソウルのカヴァー集とかディランのカヴァーとかトム・ペティのカヴァー集なんかが今までに出て、LPを買ったのもあればハイレゾをダウンロードしたのもあり、配信で聴いたのもあったりしたんだよ。

たしかウィルスの蔓延で仕事が激減したスタジオミュージシャンやレコーディングスタッフの救済と、室内に引きこもることを余儀なくされてるリスナーのためにルシンダ姐御がスタートさせたシリーズだったから、パンデミックの沈静化した今ではもう完結したんだとばかり思ってた(けっこうなハイペースでアルバム6枚出た)。

そしたら去年の暮れにビートルズのカヴァーときたもんだ。しかもアビーロード・スタジオでレコーディングしたっつうんだから、ちょっとびっくりだ。

もしかするとシリーズとして所期の目的は達したけど、やってみたらカヴァー集作りが意外と楽しくて(曲を作らなくていいからラクってのもあったか)、なおかつセールス的にも売れ行きが良かったってことなのかもしれない。

まあホントのところはよくわからんけども、ともかく年末からラジオでかかるのを何度か聴いてるうちにこれは配信とかダウンロードとかじゃなくてレコードで欲しいよなと思ったんでした。


ルシンダ・ウィリアムスってシンガーは、おれが聴き始めたころは〈オルタナ・カントリー〉系のシンガーソングライターつうようなジャンルでわりかし語られた気がする。ようするにカントリーシンガーとしたら相当にクセっぽいというか個性的というか、だから誰でも好きになるようなひとじゃなかった。

明るく爽やかなんつうところはないしね。どっかライヴで叩き上げた苦労人の歌手っぽい雰囲気だし、ざらざらした声でシャウトしたり唸ったりするし発音もクセっぽい(もしかして方言か)。そのうえトシ取ってきてからは風貌にいっそうヤサグレ感が増してきたりなんかして、まあどう考えたって全世界で何千万枚もアルバムが売れるようなスターなわけはない。

それがねえ。このビートルズのカヴァー集ではびっくりするくらい「素直」にストレートに歌っててね。それが新鮮というか意外つうか、まあこのシリーズ全般にストレートに歌ってきてるとは思うんだけども、ビートルズではそれをことのほか感じてしまうんだった。

なにを歌ってるかといえば

side 1

Don't Let Me Down
I'm Looking Through You
Can't Buy Me Love
Rain
While My Guitar Gently Weeps
Let It Be

side 2

Yer Blues
I've Got a Feeling
I'm So Tired
Something
With a Little Help from My Friends
The Long And Winding Road


以上12曲。

あのルシンダ独特のシャウトとか唸り声もない。自分の個性に強引に引っぱり込んだ「解釈」なんてのもなくて、どっちかっていうとティーネイジャーのころシングル盤をかけながら、あるいはラジオから流れてくる曲に合わせて口ずさんでたのを思い出して歌ってるような素直さを、フッと感じたりしてね。いやーあの姐御がねえ、って感じがまたいいんだよね。

ミュージックマガジン誌1月号のレビューによればルシンダ10歳のころ「自室の壁はビートルズだらけ、ポール・マッカートニーに夢中だった」とある。

あーそんな感じがジャケットの写真にも出てるかもなあ。ちょっとだけ夢見るオトメっぽい?

ドキドキしながらアビーロード・スタジオで歌ってるルシンダ・ウィリアムス72歳。


だけどさ。アビーロード・スタジオで録音されたビートルズナンバーなんだけど、バックはギター・ベース・ドラムスの3ピースにペダルスティールとハモンドB3が加わって、なんつうかもうこれはかなりバリバリの "アメリカーナ" サウンドなのであった。これがまた、おれ的にはとってもいいんだよねえ。

どのトラックもいい感じで、一度ターンテーブルに乗せれば両面全曲聴いちゃうんだけども、B面ラストのロング・アンド・ワインディング・ロードがしみじみとして、あーもういっぺんアタマから聴こうかなーなんて毎回思っちゃうんだよ。



それとこれは余談ですけど、ジャケットまん中らへん 'From Abby Road' の文字のすぐ下の白ヌキの6本線が楽しいよな。





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HIGHWAY 20 RECORDS (7 3288 20533 0)

さらに余談。

それにしても今日び新譜のレコードは高い。おいそれと手が出せるようなお値段じゃない。ぢつは買うか買うまいか結構迷ったもん。これも4070円もしたけどイマドキもっと高い新譜LPはいくらでもある。年金生活のジジイにはツラいよ。










# by god-zi-lla | 2025-02-14 13:41 | 常用レコード絵日記 | Comments(0)