娘のことを大事に思っているのに、なぜか娘との会話がぎくしゃくしたり、煙たがられたりしている。そんな父親に対して、脳の仕組みをベースにしたコミュニケーション方法を説く、人工知能研究者・黒川伊保子さんの著書『娘のトリセツ』から、娘や家族とのコミュニケーションを円滑にするコツをご紹介します。

文・黒川伊保子

コミュニケーションには法則がある

先日、セミナー後の質疑応答で、ある男性から質問を受けた。
「女性はなぜ、質問にまっすぐ答えないのでしょうか」

――この間、家に帰ったら、妻が見慣れないスカートをはいていた。新しいのかなぁと思って、「それ、いつ買ったの?」と聞いたら、妻がむっとしたように「安かったから」と答えた。うちではよくある展開で、質問への答えが永久に返ってこないし、会話も弾まない。あれは、どうしたことでしょうか。

あらまぁ、と、私は声を上げそうになった。重要なコミュニケーションの法則を、この方は知らないのか、とかわいそうになって。ふと見ると、会場中の男子が深くうなずいている。もしや、この世の男子の多くが、この失敗をしている……?

実は、妻や娘に、いきなり5W1H系(いつ、どこ、だれ、なに、なぜ、どのように)の質問をしてはいけないのです。ご法度と言ってもいい大事なルールだ。知らなかった?

5W1H系の質問を、私は対話クラッシャー(潰し)と呼んでいる。この質問を受けると、脳は、心の対話のために使う回路を遮断し、問題解決型の回路が強く発火する。いわば、戦闘モードに入るのである。

「それ、何?」「今日、何してた?」「学校、どう?」「宿題やったのか?」「なぜ、これをやらない?」「どこに行くんだ?」「何時に帰る?」……心当たりありませんか? まさか、家族との対話を、5W1H系の質問と、指図と説教だけで進めていないですよね?

娘や妻がイラッとして反撃してくる理由

いきなりの5W1Hは、脳を戦闘モードに入れる。妻や娘は、迎撃態勢に入ってしまうのである。つまり、「(それ、新しいよね)いつ買ったの?」と尋ねたつもりが、向こうには「(俺に黙って)(こんな不必要なもの)いつ買ったの?」に聞こえてしまうのだ。攻撃されたと感じてイラッとし、身を守るために、反撃に出ることもある。

そもそも、女性があえて「それ、いつ買ったの?」という場合は、ほぼ100%「(私に黙って)いつ買ったの?」である。女性は、相手を攻撃するために意図的に「いきなり5W1H」を使うからだ。「それ、どうしてそこに置いたの?」は「それ、邪魔なんだけど」の意味。スマホのアプリを覗き込んで「それ、何?」は、「(ほかにすることあるだろうに)何してるわけ?」である。

娘とコミュニケーションを取ろうとして、「それ、何?」なんて、言ってませんか? 携帯に夢中な娘に、あるいは、見慣れないものを身に着けている娘に。それって、「勉強もしないで、何してる?」「その変なものは、何なんだ?」と聞こえちゃっているのだ。

男性だって、その気持ちはわかるはず。たとえば、エレベーターで一緒になった社長があなたのシャツを指さして、「それは、何だ?」と聞いてきたら、何かしくじったのかと緊張するはずだ。人は、決定権を持つ人の「いきなりの5W1H」に緊張する。攻撃されたと思って、身を守ろうとする。逆に言えば、5W1Hの質問をして嫌な顔をされたとしたら、権力者だと認められたってことだ。

というわけで、「それ何?」と聞いてくる父親は、その経済力に頼っている娘にしてみたら、本当にウザい。嫌な思いをさせて威嚇しようというつもりなら成功しているが、親交を図ろうとして、それをやっているのだとしたら、それこそ大失敗である。

というわけで、ここからは、父の知らないコミュニケーションの法則について、しっかり学んでいただこう。

ウザい父とウザくない父はどこが違う?

知人が、高校1年生の娘の仲間内で、「ウザいパパ、No.1」に選ばれたという。

その審査基準は、「あれこれ聞いてくる」度合いだそうで、グランプリになってしまった本人は、「ウザがられるほど、娘に話しかけたりはしていないと思うのですが」と困惑気味だ。

これは、「量」ではなく「質」の問題だなと直感したので、普段娘さんとどんな会話をしているか尋ねてみた。
「学校どうだった?」とか、お洒落してたら、「そのバッグいつ買ったの?」とか、「どこに行くの?」とか、「誰と行くの?」とか、まあ普通のことしか言いませんよ、と彼。

ほらね、やっぱり「いきなり5W1H」である。

次回は、対話クラッシャーをしないようにするため、「心の対話」と「問題解決の対話」についてお話します。

* * *

『娘のトリセツ』(黒川伊保子 著)
小学館新書 

黒川伊保子
1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学料率業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)、『コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する』(PHP新書)など多数。

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