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私の古巣である朝日新聞社についてさまざまなメディアから取材を受ける機会が急増している。巨大新聞社が崩壊する過程を描いた新刊『朝日新聞政治部』を読んで取材依頼をしてくれるメディアがほとんどだ。
質問項目はだいたい二つに絞られる。①朝日新聞はなぜ、自民党と統一教会との歪んだ関係について報じないのか②朝日新聞は経営難から早期退職制度を再び実施しているようだが、社内の空気はどうなのかーーというものだ。
①について、私は2014年に当時の木村伊量社長らが慰安婦報道取り消しや池上コラム掲載拒否問題で安倍政権や右派勢力から激しくバッシングされた際、経営者たちの自己保身や組織防衛を優先。自分たちは直接関与していなかった特別報道部の吉田調書報道をいきなり取り消し、取材記者を処分して世論の批判を取材現場へ振り向けた結果、朝日社内は権力追及に対する萎縮ムードが蔓延し、国家権力から決して批判を受けないような無難な記事で紙面が溢れるようになったと解説してきた。
実際に現場記者が国家権力を追及する原稿を出してもデスク陣は編集局長室の顔色をうかがいながらあれやこれやとリスクを強調し、記事化をじりじり引き伸ばしてボツにするケースが2014年以降は格段に増えたし、それは今も変わらないだろう。
ただ、自民党と統一教会の歪んだ関係について、ここまで世論の関心が高まっているにもかかわらず、朝日新聞がまったく報道しようとしないのは、そのような一般論だけでは説明しきれない異様さを漂わせている。
もはや自民党と統一教会の関係を報じない方が世論の批判を招くリスクが高まっているのに、それでもこの問題を黙殺し続けているのは、報道することによるもっと大きなリスクが潜んでいるからとしか思えない。
そこでひとつ惹起されるのは、朝日新聞社と統一教会の間で、公にされていない特殊な関係があるのではないかという疑念だ。統一教会を批判する報道を展開して彼らを怒らせ、その特殊な関係をバラされると、報道を避けつづけているよりももっと大きな世論の反発を浴びるかもしれないという懸念があるのではないかということである。
例えば、統一教会を名前は出さずにその関連団体から過去に巨額の新聞広告料をもらっていることはないのだろうか。統一教会は自民党などへの政界工作を展開してきたのだから、マスコミ対策のために巨額の新聞広告を水面下で出していても不思議ではない。
ここで気になるのは、SDGsだ。政府が旗を振るこの運動を、朝日新聞社は大好きである。SDGsに関する政府広告も新聞にはたくさん見かける。経営難に陥った新聞社にとって、政府広告の割合は増しており、そのなかでもSDGsは社会貢献のイメージを高めるため都合がよい。
さらに気になるのは、統一教会もまた学生を勧誘する際にSDGsへの取り組みを通じて接触すると報じられていることである。私は国家が旗をふるSDGsのような運動はハナから信用していない。大企業や宗教団体などが巨額の資金力を背景に国家と結びつき、イメージアップ戦略に利用することがみえみえだからだ。朝日新聞も統一教会もまさにそうであろう。国家プロジェクトというものは腐敗とつねに隣り合わせだ。
過去の朝日新聞に掲載されたSDGs関連の記事や広告をつぶさに調べていくと、統一教会の関係団体との線が浮かび上がるということはないのだろうか。この点をはじめ、朝日新聞社は統一教会や関連団体との新聞広告をはじめとする商取引が一切ないのか、率先して明らかにすべきだ。ここまで自民党と統一教会の関係を報じないのだから、さまざまな疑念を抱かれてもやむを得ない。自ら信頼を担保する必要がある。
以上の考え方をツイートしたところ、大きな反響をいただいた。
私は東京五輪も疑っている。朝日新聞が安倍政権時代、ジャーナリズムの一線を超えて読売新聞などとともに東京五輪スポンサーになったのは周知の通りだ。これも経営難のなかで東京五輪関係の巨額の新聞広告を得る目的があったのは想像に難くない。
もはや新聞社は読者よりも政府の顔色をうかがう税金ビジネスで成り立っている。そして東京五輪誘致の先頭に立った安倍晋三元首相や安倍派と密接な関係を築いてきた統一教会が東京五輪にどう関与したかも注目すべき点であろう。
安倍氏が死去してようやく検察当局が五輪関連疑惑の捜査を始めたが、安倍派に食い込んでいる統一教会が東京五輪という巨大国家プロジェクトに無関心であったとは思えない。本来はジャーナリズムが追及すべきテーマであるが、東京五輪スポンサーである朝日新聞などにそれを期待するのは不可能に近い。その時点でジャーナリズムとして終わっている。だから報道機関が国家権力と巨大ビジネスをともにしてはいけないのだ。
次に朝日新聞の経営難と早期退職制度の問題だ。
吉田調書報道取り消しを理由に政治部出身の木村社長が辞任した2014年、後継社長となった大阪社会部出身の渡辺雅隆氏は社会部出身の「お友達」で経営・編集幹部の要職を独占する稚拙な経営を重ね、2021年には創業以来最悪の大赤字に転落して引責辞任に追い込まれた。後を継いだ政治部出身の中村史郎社長は小役人タイプで実権を握れず、今の朝日新聞は社会部出身の角田克常務(編集担当)が幅を利かせて大リストラの旗を振っている。
角田氏のやり方は巧妙だ。退職金を積みます早期退職制度というアメを45歳以上の社員にぶらさげつつ、もう一方で記者職を外したり地方へ転勤させるなど強烈なムチの人事をベテラン記者に容赦なく断行し、プライドとやる気を削いで早期退職制度に手を挙げるように追い込んでいくのだ。
ここ数年も朝日社内に詳しい私の目からみて、あまりに理不尽な人事が繰り返された。取材力も実績も気骨もある40代以上のベテラン記者たちが角田氏ら上司に媚びへつらわず、ツイートで独自の発信をしたり他媒体に積極的に執筆したりしてきた結果、記者職から外されたり、地方へ転勤させられたりする露骨な人事が相次いでいるのだ。
これは単なる嫌がらせ人事というだけにとどまらず、執筆意欲の高い記者からあえて執筆機会を奪い取り「記事を書きたいのなら、会社を辞めて独立するしかない」と思わせて早期退職制度に申し込ませる誘導作戦だと私はみている。
朝日社内はこれら「みせしめ人事」に震え上がり、「角田氏に睨まれたら飛ばされる」と怖れる声が私のところへもいくつも舞い込んでくる。角田氏は国家権力から反撃を浴びる恐れのある追及型報道に極めて慎重で、朝日社内には権力批判型報道を避ける空気が充満しているという。
朝日記者たちをふるえあがらせる決定打となったのが、通称「追い出し部屋」だ。
記者たちの編集業務を支援するという名目で最近新設された部署で、高校野球のスコアづくりや世論調査データの入力など単純作業が想定されているようだが、記者職ではないため時間外手当はなく、年収は大幅にダウンする。ここへ実績のあるベテラン記者たち(それも上司に従順ではない記者たち)が次々に送り込まれているというのだ。
実際の仕事でもコピーの取り方が悪いと叱責され、いかにもプライドややる気をくじくような対応が相次いでいると私は聞いた。そして彼らを管理するその部署の上司は高給の記者職だというのだ(ちなみにこの部署の責任者はかつて編集局長補佐の時に朝日記者であった私を密室に呼びつけ、私の職務外活動であるツイッター発信について注意・警告を語気を強めて繰り返し、言論を封殺する役割を担っていた。彼もまた社会部出身だ)。
朝日新聞は大企業などの「追い出し部屋」を批判する記事も書いてきた。だがいまや自らがその先頭に立っている。記者たちは追い出し部屋行きを恐れ、上司の顔色をうかがい、少しでも抗議を受ける恐れのある取材には手を出さないように自主規制する。そのような隘路に陥っているのがいまの朝日新聞である。