~「日本沈没」出版、コミック化、ラジオドラマ化、映画化50周年~
【1973年「日本沈没」誕生】
・小説
3月20日出版(カッパ・ノベルス上下)
・コミック
8月25日連載開始(少年チャンピオン・9月24日号)
・ラジオドラマ
10月8日放送開始(連続ラジオドラマ・毎日放送)
・ラジオドラマ
11月4日放送(芸術祭参加作品・文化放送)
・劇場映画
12月29日公開(東宝)
*2023年12月現在
コミック化計3回、ラジオドラマ化計3回、映画化計2回、テレビドラマ化計2回、アニメ化1回。
【はじめに】
『日本沈没』は1973年3月20日、光文社カッパ・ノベルスとして出版された長編書下ろし小説であり、出版当時上下巻385万部という大ベストセラーになりました。また、同年中にコミック化、二度のラジオドラマ化、劇場映画化が行われ、メディアミックスの先駆けとなりました。
出版当時は、60年代の高度成長が1970年の大阪万博をピークとして終わりをつげており、世界的経済混乱を招いた1971年のドルショック、また1973年2月には浅間山が噴火するなど、社会に暗い雰囲気が広がり始めていました。
「日本沈没」の発表後も、10月に中近東での紛争を背景とした、OPEC(石油輸出国機構)の大幅な原油値上げによるオイルショックで世界全体が大混乱に陥り、日本では、この影響で、もの不足が深刻化し、トイレットペーパーが無くなるというデマによるトイレット騒動も勃発。石油節約のために、テレビの深夜放送は休止、繁華街のネオン照明も自粛されるなど、世界の経済大国としての日本の基盤が足元から崩れていくような不安が世間全体を覆うこととなりました。これらの出来事が、未曽有の地殻変動による、日本人がその国土を失うという物語である「日本沈没」への関心につながったと考えられます。
原作である「日本沈没」は、後に文春文庫、徳間文庫、双葉社文庫、小学館文庫、角川文庫、ハルキ文庫と出版が続き、2023年12月現在、累計490万部を超えています(海外出版・電子書籍のぞく)。
【1973年のコミック化】
「日本沈没」は、「ゴルゴ13」で知られる、さいとう・たかを先生により劇画化され、1973年9月から少年チャンピオンにおいて連載が開始されました。
コミック本は、秋田書店、講談社、リイド社と出版が続き、累計100万部を超えるロングセラーとなりました。
【1973年の2度のラジオドラマ化】
《毎日放送 連続ラジオドラマ「日本沈没」》
1973年10月8日からは、毎日放送により連続ラジオドラマとして放送が開始されました。
演出は『私は貝になりたい』(1958)で知られる岡本愛彦さんで、江守徹さん、太地喜和子さん、角野卓造さんと出演陣も豪華でした(小松左京も本作を高く評価していましたが、「深海潜水艇ケルマディックをケマルディックと毎回間違った読み方をされたことだけは残念だ」と語っていました)。
音楽は、アニメ『黄金バット』『サスケ』『妖怪人間ベム』、また『アップダウンクイズ』や『ミスターシンセサイザー』といった作品で知られる田中正史先生。
毎日放送のラジオドラマ『日本沈没』の楽曲は、2019年開催された「小松左京音楽祭」において演奏され、記念のCDに収録されました。
小松左京音楽祭(2019年11月30日開催)のスリーシェルズにおける紹介ページです。
https://www.3s-cd.net/2019-11-30/
《文化放送 ラジオドラマ「小松左京“日本沈没”より ここを過ぎて悲しみの都へ」》
1973年11月4日には、文化放送で単発のラジオドラマ『小松左京“日本沈没”より「ここを過ぎて悲しみの都へ」』が放送。日本が沈むという設定だけを取り込み、中尾彬さん演じる一市民の眼から未曽有の危機を描写するオリジナリティーの強い作品でした。老いた主人公が、かつて日本があった海域を訪れるという、「日本沈没 第二部」を彷彿とさせる印象的なシーンで幕を閉じます。
本作は昭和48年 第28回芸術祭賞の優秀賞を受賞しています。
*1980年8月4日から、NHKの連続ステレオ小説「日本沈没」も放送されており、主役の小野寺は鹿賀丈史さんが演じています。
【1973年の映画化】
「日本沈没」の映画版は、超大作でありながら、撮影開始から四か月と驚くほど短期間で完成し、1973年12月29日に公開され、大ヒットを記録しました。
脚本の橋本忍先生は、「羅生門」(1950年)を黒澤監督と共同脚本する形でデビュー、黒澤明監督の助手を長くつとめ、数多くの名作を世に送りだす森谷司郎監督がメガホンを取りました(森谷司郎監督とは「八甲田山」で再びコンビを組み、こちらも1977年の邦画配給収入一位を記録しました)。主人公、小野寺俊夫を藤岡弘、さん、ヒロイン阿部玲子をいしだあゆみさん、山本総理を丹波哲郎さん、そして田所博士を小林桂樹さんが演じ、日本列島を失うという未曽有の危機に直面する際の苦悩を、それぞれの役を遠して浮かびあがらせました。
*B班カメラの木村大作さんは、後に小松左京原作の「復活の日」(1980)の撮影監督として劇場映画世界初の南極撮影に挑み、2021年には「日本沈没」4Kデジタルリマスター化の監修もされています。
この作品のもう一つの要である特撮は、昨年惜しくも逝去された中野昭慶特技監督が担当しました。
円谷英二特技監督の愛弟子である中野特技監督は、徹底してリアルな描写にこだわり、映画のプロローグで描かれた、実寸大模型の深海潜水艇わだつみの潜水シーンから、特撮を駆使した深海での列島沈没の前兆現象発見シーンまで、まるで、科学ドキュメンタリー映像のようなリアリティーでです。
また、第二次関東大震災のシーンは、ただの特撮のスペクタクルシーンを超える、大地震のまっただなかにほうりこまれたような恐るべき映像となっています。
『日本沈没 公開 50 年記念 4K リマスター数量限定愛蔵版』
劇場公開50年を記念し、非常に内容の充実したBlu-rayが12月20日に発売されます。
4Kデジタルリマスターされた映像を収めた4K-UHDをはじめ、特典映像としては竹内均先生と小松左京のスペシャル対談や貴重な海外向け短縮版の本編、特典物として決定稿台本やパンフレットの復刻物も納められています。
日本沈没 公開50年記念 4K リマスター数量限定愛蔵版(TBR33269D)|新着ブルーレイ・DVDカテゴリー|TOHO theater STORE|
【1974年のドラマ化】
社会現象ともいえるブームとなった「日本沈没」ですが、翌年になっても、そのうねりは衰えず、1974年の10月からは、TBS系列でドラマ「日本沈没」の放送が始まりました。
本作の出演は、小野寺俊夫を村野武範さん、阿部玲子を由美かおるさんが演じ、田所博士は劇場版と同じ小林桂樹さんでした。
2001年に、アミューズソフトからDVD化されますが、特典のオーディオコメンタリーには、第1話と最終回を演出した福田純監督にお話を聞く形で庵野秀明監督、樋口真嗣監督が加わっています。
TVドラマ版では、劇場版「日本沈没」では殆ど登場しない深海潜水艇ケルマディック(劇場版では黄色い船体の一部が一瞬確認できるだけ)が大活躍し、特撮やメカファンにも嬉しい作品になっています。
【1974年 日本推理作家協会賞・星雲賞受賞】
1973年3月に始まり、社会現象と言われるまでになった日本沈没ブームは、本ドラマ終了の1975年3月まで約2年続き、この間に、第27回日本推理作家協会賞、そしてSFファンが投票し決められる第5回星雲賞の長編賞を受賞することになりました。
*この年の星雲賞の短編賞は、筒井康隆先生の『日本以外全部沈没』でした。
【2006年の映画化】
「日本沈没」の第一次ブームから30年余り経過した2006年7月、製作費20億円という超大作として公開され、その年の邦画ランキング第4位というヒット作となりました。
『日本沈没』の原作、映画、ドラマいずれにも深い思い入れのある樋口真嗣監督がメガホンをとり、出演は主人公・小野寺俊夫に草彅剛さん、ヒロイン阿部玲子に柴咲コウさん、田所博士を豊川悦司さん、さらに総理大臣に石坂浩二さん、田所博士の元妻で、危機管理担当大臣には大地真央さんと、1973年版「日本沈没」同様に大変豪華なものでした。
最新VFXを駆使し描かれ、日本各地を襲う地殻変動の数々は、まるで、現実のニュース映像かと錯覚するほどの凄みのあるものです。また、この映画にさらにリアリティーを与えていたのは、しんかい2000、しんかい6500という本物の有人潜水調査船二隻と、公開の前年である2005年に完成したばかりの地球深部探査船ちきゅうの協力でした。
トピックとしては、樋口監督と同じく、『日本沈没』のファンで、本作のメカニックデザインを担当した庵野秀明監督が、奥様の漫画家、安野モヨコ先生と揃って日本を脱出する役で出演され、また「機動戦士ガンダム」を生んだ富野由悠季監督も貴重な仏像の国外への搬出を見送る僧侶の役で出演されています。
発売元:セディックインターナショナル・小学館
販売元:ジェネオン エンタテインメント
©2006 映画「日本沈没」製作委員会
【2006年の第二部出版】
2006年の映画化企画と、ほぼ足並みを揃える形で、D-3と呼ばれる計画が進行していました。
これは、『日本沈没』の第二部を完成させるため、チームを組んで取り組むというもので、株式会社イオを拠点に、小松左京、SF作家の森下一仁先生、そして執筆を担当される谷甲州先生を中心に、2003年末に活動が開始されました。月一回ほどの割合で、取材と基本構想の取りまとめが平行して進められ、一年近くかけて基本構想が形づくられました。
そして、2006年8月1日、第一部から33年を経て、『日本沈没 第二部』がついに出版されました。
本作の完成がいかにうれしかったか、小松左京は、あとがきの中で次のように述べています。
とても一人では達成することが出来なかった難行を、こうして多くの方々の協力によって成し遂げ、ようやく肩の荷を下ろすことが出来た。感謝に堪えない。ここに、あらためて、谷君をはじめチームのメンバー、そしてご協力いただいたすべての皆様にお礼を申し上げたい。とりわけ、谷君の努力には、深甚なる感謝と敬意を捧げたい。本当にありがとう。
『日本沈没 第二部』(小学館)より
【2006年のコミック化】
1973年には、さいとう・たかを先生が劇画版『日本沈没』を連載されていましたが、2006年にも、映画「日本沈没」の公開に合わせ、小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」で、一色登希彦先生による劇画版『日本沈没』の連載が行われました。こちらは、映画の公開終了後も、延べ三年間にわたって連載が続き、コミックにして15巻に及ぶ大長編となり、発行部数の累計は100万部を超えました。
【2006年のパロディコミック】
「日本沈没」は1973年登場以来、小説、漫画、アニメ、芝居など様々なバリエーションでパロディにされました。筒井康隆先生は、その先駆けとなり、1973年に短編「日本以外全部沈没」が発表され、翌1974年、星雲賞の短編部門を受賞されています(「日本沈没」は同長編賞受賞)。
そして、「日本沈没 第二部」が完成し、2度目の映画が公開された2006年に、原作者公認のパロディとして、「日本ふるさと沈没」が出版されました。
総勢21人の漫画家による、遊び心満載の全描き下ろしのアンソロジーでした。
なお、当時の帯には原作者 小松左京の言葉として、「しかし、こんなふうには沈まんっ!!!」と記されていました。
【2020年のアニメ化】
2020年7月9日、Netflix オリジナルアニメシリーズ『⽇本沈没 2020』として初のアニメ化され、全10話が世界配信されました。
2020 年の東京オリンピック直後の⽇本が舞台となる本作では、これまでの『⽇本沈没』の映像作品では描かれることの少なかった“ごく普通の家族の物語”を通じて、“いま描かれるべき⽇本沈没”をアニメの手法を駆使し世界に投げかけました。
⾳楽は、『ピンポン THE ANIMATION』『DEVILMAN crybaby』から 3 度⽬の湯浅監督とのタッグとなる⽜尾憲輔さん。主題歌には、2010年に発表された大貫妙子さん、坂本龍一さんによる「a life」が起用され、最終話(10話)では、グランドエンディングテーマとしてバーチャルシンガー・花譜さんの「景色」が流れました。
「アヌシー国際アニメーション映画祭2021」テレビシリーズ部門の審査員賞を受賞しています。
【2020年のコミック化】
Netflix での配信に合わせ、アニメのストーリーを元にした、渡邉健一さんのウェブコミック「日本沈没2020」が、WEBコミック『GANMA!』で連載されました。
【2021年のドラマ化】
2021年10月10日から、TBS日曜劇場でテレビドラマ「日本沈没ー希望のひと」が放送されました。
(1974年にTBSで放送されたドラマ「日本沈没」から47年ぶり)。
2023年という放送時点から2年後の日本を襲う未曽有の危機に立ち向かう人々を描く作品。
日本列島が海に沈むという事態における人々描くという基本コンセプトは原作と同じですが、ストーリー、登場人物ともにドラマオリジナルなものとなっています(原作と共通の登場人物は田所博士のみ)。
日本人を救うために、全てを捧げ活動を続ける主人公の若き環境省官僚を小栗旬さん、その親友の経済産業省官僚を松山ケンイチさん、ヒロインの新聞記者を杏さん、そして学会からつまはじきにされながらも、異常なまでの執念で日本沈没の真実をつかむ田所博士を香川照之さんが演じています。
また、乃木坂46の与田祐希さんと板垣瑞生さん主演した、Paraviオリジナルストーリー「最愛のひと〜The other side of 日本沈没〜」最終話では、物語から3年後の後日談が描かれています。
【2022年 朗読コンテンツ】
2022年には「日本沈没」初の朗読コンテンツが、Audibleで配信開始。
「日本沈没」は過去3回ラジオドラマ化されていますが、作品の朗読はこのコンテンツが初めて。
朗読は声優の田尻 浩章さん。上下及び解説を合わせると、再生時間は26時間になります。
Amazonが提供するオーディオブックサービス 『Audible』会員プランの聴き放題対象タイトル
【1973~2021主題歌等】
「日本沈没」は過去に映画化2回、ドラマ化2回、アニメ化1回、延べ5回映像化されていますが、それぞれ主題歌(およびイメージソング)が存在しています。
1973年 映画「日本沈没」イメージソング
・「ここより永遠(とわ)に」(歌 桑原一郎、作詞 阿久悠、作曲 筒美京平)
劇場公開に合わせ発売されたイメージソングで、映画本編では流れません。
1974年 ドラマ「日本沈没」主題歌
・「明日の愛」(歌 五木ひろし、作詞 山口洋子、作曲 筒美京平)
「日本沈没」初の主題歌で今でも多くのファンがある曲。
作曲は「ここより永遠に」と同じく、筒美京平先生。
2006年 映画「日本沈没」主題歌
・「Keep Holding U」(歌SunMin thanX Kubota 作詞・作曲 久保田 利伸)
久保田利伸さんと 韓国人アーチストSunMin(ソンミン)さんによるデュエット。
2020年 アニメ「日本沈没2020」主題歌
・「a life」(大貫妙子&坂本龍一)
2010年に発表された大貫妙子さん、坂本龍一さんによる「a life」が起用されました。
*最終話(10話)では、グランドエンディングテーマとしてバーチャルシンガー・花譜さんの
「景色」が流れました。
2021年 ドラマ「日本沈没―希望のひと-」主題歌
・「ラストシーン」(歌 菅田将暉 作詞・作曲:石崎ひゅーい/編曲:トオミヨウ)
【配信中の電子書籍】
2023年3月現在、光文社、小学館、文藝春秋、KADOKAWAから、それぞれ、「日本沈没」の電子書籍が配信中。
小学館からは谷甲州先生との共著の「日本沈没 第二部」の第二部も電子書籍化されています。
文藝春秋の「日本沈没 決定版」は、電子書籍初の上下一体版であり、カラー図版とともに詳細な解説が掲載されています。
【販売中の電子書籍コミック】
これまで、コミック化された3作品は、全て電子書籍で利用が可能です。
【海外での出版】
「日本沈没」は、1970年代後半から現在にいたるまで、アメリカ、ソ連(現ロシア)、スペイン、メキシコ、東西ドイツ(現在ドイツ)、ラトビア、ブルガリア、中国、韓国など様々な国で翻訳出版され続けています。
表紙に関しては、各国ごとに、破壊される都市、日本の伝統をイメージしたものなど、独自のデザインで作品のアピールをしています。なかでもユニークなのが、1996年のフランス語版の表紙で、地球の上にそそりたつ力士を描いたものです。
この表紙、大阪商船株式会社(現 株式会社 商船三井)の1917年のポスターを流用したもので、足元には大阪商船の航路も描かれていま。
商船三井に伺ったところ、当時の横綱「太刀山」を撮影した写真をもとに、作画:町田隆要、製版:大沢保正 市田オフセット㈱により制作されたものとのことでした。