完全自動運転EVの量産化を目指すスタートアップ企業のTURING(チューリング、千葉県柏市)が3月15日、AIを活用して開発したコンセプカーのデザインを発表した。
同社は2021年に創業。2025年から完全自動運転EVのパイロット生産を始め、2030年には年間1万台規模の量産を実現させたいとしている。今回のコンセプトカーはそれをイメージしたものだ。
◆画像生成AIでアイデアを展開
ボディの四隅にタイヤがしっかり踏ん張るスタンスは、自動運転車にも欠かせない要素だろう。室内空間を最大化するモノフォルムのシルエットは、自動運転ならではのリラックスした移動時間を予感させる。ノーズからルーフへ延びる大きなグラスエリアも、移りゆく景色を存分に楽しめる自動運転車の特性を活かしたものと言えるだろう。
デザインを担当したのは、自動車メーカーなどに向けたデザイン開発支援で長年の実績を持つ日南という会社。初期アイデア展開の段階に、画像生成AIのStable Diffusionを活用したことが、今回の開発の大きな特徴である。
チューリングと日南の双方でデザインの方向性を協議した上で、いくつかのキーワードを抽出。そこからプロンプト(指示ワード)を作ってStable Diffusionに入力すると、AIが短時間に大量の画像を生成してくれる。通常のデザインプロセスで言うアイデアスケッチにあたるものが、自動的に得られるのだ。
次に大量の画像をテーマ別に分類し、それぞれプロンプトを調整してまた画像生成。目指す方向性に沿う画像が生成されるように、プロンプトに入れる言葉を工夫したわけだ。これを何度か繰り返し、ひとつの画像(斜め前と斜め後ろの1セット)を選んでイメージ確定とした。
こうして初期のアイデア展開を膨大かつ短時間で行えるのが、画像生成AIの最大のメリットだ。しかしAIが活躍するのはここまでで、以後は普通のデザインプロセスに近い。選択した画像をベースに、Alias(エイリアス)という3次元デザイン・ソフトウエアでバーチャルなデジタルモデルを作成。さらに3Dプリンターでスケールモデルを作り、その検討結果を反映してデジタルモデルをさらにリファインした。
◆目標は「テスラを超える」こと
チューリングの共同創業者のひとりである山本一成CEOは、将棋のAIソフトとして有名なPonanza(ポナンザ)を開発した人物。もうひとりの青木俊介CTO(チーフテクニカルオフィサー)は米国カーネギーメロン大学で自動運転の研究で博士号を取得し、現在は国立情報学研究所で完全自動運転の社会実装に向けた研究を行いながらチューリングのソフト開発を率いる。
同社のホームページによれば、山本CEOは「将棋名人に勝つ」という挑戦を15年前に始め、それを10年かけて達成した後、次の課題を「テスラを超える自動車メーカーを作る」と決めてチューリングを設立したという。目指すのは地域や区間に限定されない「完全」な自動運転車であり、カメラで得た情報をもとにAIが判断して運転操作するというのがチューリングのアプローチ。だからAIが大事であり、今回のコンセプトカーのデザインにもAIを活用した。
一方の日南は、カーメーカーからクレイモデルや樹脂モデル、デジタルモデルの作成を受託するのが事業の中核で、我々がモーターショーで見るコンセプトカーのなかにも実は日南が設計製作したものは少なくない。近年はデザイン開発やAIを活用したプロセス改革にも力を入れている。
ルーフからノーズへ延びるウインドウが、移りゆく車窓を楽しむ自動運転車の移動体験を予感させる。「このプロジェクトはAIデザインの驚くべき力と速さを証明するものです」と語るのは、日南の取締役でデザインとエンジニアリングを統括する猿渡義一(えんどぎいち)本部長。わずか1ヶ月半の開発期間でデジタルモデルやスケールモデルだけでなく、走行シーンのアニメーション、VR/ARコンテンツまで完成させたという。
ちなみに猿渡氏は元日産のデザイナーで、3代目『マーチ』などのエクステリアを手掛け、欧州スタジオ勤務、インフィニティのエキスパートデザイナーなどを経て、2015年に日南に転じた。「AIネイティブ」なチューリングとカーデザインを熟知した日南の協業により、今回のコンセプトカーが生まれたわけだ。
なおチューリングは3月1日に、エンジニアリング会社の東京R&Dとの戦略的パートナーシップの締結を発表している。東京R&Dは国内外の二輪/四輪メーカーの試作車や量産車の開発を支援してきた会社であり、電気自動車についても90年代から開発実績を持つ。2025年のパイロット生産に向けた完全自動運転EVの車両開発は、日南から東京R&Dに受け継がれて進むことになりそうだ。