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井上靜に関するblog(網誌)です。下記の著書を読んでもらえたら嬉しく存じます。


by ruhiginoue

「音楽に政治を持ち込むな」の滑稽

 「フジロック」で、共感できないからと「音楽に政治を持ち込むな」と言った者が笑われている。そして否定する多くの実例が挙げられ、そんなことを言っていたら音楽は成立しないと指摘された。

 ところで、音楽と政治の関わりということで、ボブ ディランやボブ マーレイやジョーン バエズやジョン レノンの話を例に出す人は多いし、またモーツアルトが『フィガロの結婚』をオペラにして政治問題になったことを引き合いに出す人もいた。
 また、高橋悠治が仲良しだった武満徹と喧嘩になったことも政治と音楽との関わりが原因だったし、そのさいチリの軍事クーデターで殺害されたビクトル ハラの話や、韓国の軍事政権に殺されかかった尹伊桑が話に出て来たし、民主化運動とからめて歌われるキムミンギの作品のことも思い出される。

 しかし、いつも思い出されるのは稀な例外であるし、その模倣がほとんどを占めていて偽物が多いから否定的になる人がいるのだろう。前に小室等が、キムミンギの歌は本物だが、日本の歌の社会派とは「親の脛かじりの無責任な正義感」だと否定的だった。

 そして、テレビ朝日で日曜朝に放送している『題名のない音楽会』では、かつて黛敏郎がことさら右翼ぶってみせ、音楽と政治の「牽強付会」と嘲笑されていた。これは友達の芥川也寸志に対抗しただけで、芥川が大江健三郎をネタにしたので、黛は逆にというか三島由紀夫をネタにしたりという程度のことの延長にすぎなかった。
 これについて、スポンサーの出光が「寛容」だったから出来たことで、当時同じ局で『こちらデクス』をやっていた筑紫哲也は、『題名のない音楽会』が右寄りすぎだから左寄りの番組もないと中立じゃないということで、他の局より自民党を批判できたと言っていた。

 とにかく、音楽家が自ら思想性を生み出すことは基本的に無理ということだ。昔、音大を目指していた時、本多勝一『NHK受信料拒否の論理』を読み共感し集金を追い払った話をしたら付いていた先生に「NHKを批判したら日本のクラシック音楽の世界では生きていけない」と叱られた。音楽なんて信念曲げてまでやることじゃないが。
 そのうえ、知り合いの音大招聘教授は、西洋美学専攻で演奏や創作はせず研究と論評の権威者だが、彼に言わせると音楽家は子供のころから音楽だけの人がなるものだから余計なことは考えないものだとし、要するに「猿回しの猿論」を説いた。
 では、自分の好きな音楽を作っている人に敬意は無いのかと問うたら、こう言った。
 
 「熊が蜂蜜を味わうとき蜂に敬意を持つかな」

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by ruhiginoue | 2016-06-23 12:52 | 音楽