川谷絵音が振り返る2022年の音楽シーン

川谷絵音(Photo by Masato Yokoyama)

Rolling Stone Japanでは2020年2021年に引き続き川谷絵音を迎え、Spotifyの年間ランキングを踏まえながら2022年の音楽シーンを振り返ってもらった。

世界的なパンデミックから2年が経過して、海外ではライブ/フェスが以前の光景を取り戻した感のある2022年。派手なチャート記録が次々に誕生し、ハリー・スタイルズ、バッド・バニー、ビヨンセ、テイラー・スウィフトらがシーンの顔となった。一方、国内のライブでは依然制限が続いたものの、各地でフェスが再開され、下半期からは来日公演の数も一気に増加。また、Spotifyの月間リスナーが1000万人を突破する国内アーティストが初めて誕生し、新たな胎動を感じさせる一年となった。ゲスの極み乙女が結成10周年を迎え、indigo la Endで初の日本武道館公演を成功させた一方、ラランドのサーヤとともに新たなバンド・礼賛をスタートさせ、楽曲提供も積極的に行うなど、多方面での活躍が見られた川谷絵音はそんな一年をどのように見つめていたのだろうか? 年末恒例となったこのインタビューで、Spotifyの年間ランキングとともに、あなたの2022年も振り返ってみてほしい。

※この記事は2022年12月発売の『Rolling Stone JAPAN vol.21』に掲載されたもの。取材は同月初旬に実施。

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川谷絵音
2014年、indigo la Endとゲスの極み乙女の2バンドでワーナーミュージック・ジャパンより同時メジャーデビュー。現在ジェニーハイ、ichikoro、礼賛を加えた5バンドの他、DADARAY、美的計画のプロデュースや様々なアーティストへの楽曲提供など多岐に渡る活動を続けて現在に至る。ジェニーハイの「PEAKY」「超最悪」、ゲスの極み乙女のライブ映像作品「解体」が好評発売中。(Photo by Masato Yokoyama)




ハリーとテイラーは「ちょうどいい」

―まずは2022年をどんなふうに振り返りますか?

川谷:個人的には、アルバムを出さなかった年で。ゲスでベスト(『丸』)は出しましたけど、オリジナルは出してないので、「そんな年あったっけな?」っていう。

―おそらく10年ぶりだと思います。2013年にインディゴで『夜に魔法をかけられて』を出して以来、毎年インディゴかゲスでアルバムを出していたので。

川谷:そうですよね。ライブをやりながら曲はずっと作ってたんですけど、楽曲提供に追われたり、(8月に)コロナに罹って1カ月くらい何もできない時期もあったりして。療養中はマジで何もできなくて、その時期に出た新譜もリアルタイムでは全然聴けなかったです。

―音楽シーン全体に対してはどんな印象ですか?

川谷:2021年とあんまり変わらなかった気もするんですよね。日本で言えばTani Yuukiくんとか、なとり「Overdose」とか、ボカロの系譜もありつつ、今までより歌ものがより出てきてるのかなとは思いつつ、「TikTokで流行る音楽」みたいな流れがそのまま続いてるというか。新しいスターはそんなに出てこなかった印象で、紅白に初出場するVaundyやSaucy Dogにしろ、2021年からもう人気でしたしね。

海外もSpotifyのランキングを見ると、新人でめっちゃヒットした曲はそんなになかったというか。ビリー・アイリッシュの「bad guy」とか、昨年でいえばオリヴィア・ロドリゴのような動きはなかったですよね。そういう意味では、日本も海外も2021年からの延長にあるのかなって。バッド・バニーも一昨年からずっと1位ですもんね。

―〈世界で最も再生されたアーティスト〉のトップ5は、順位が入れ替わっただけで顔ぶれはほぼ同じ。バッド・バニーとテイラー・スウィフトの1位・2位も昨年から変わらずです。

川谷:〈世界で最も再生された楽曲〉も、ザ・キッド・ラロイの「STAY」が昨年からずっと入ってますよね。ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」(2019年リリース)がやっといなくなったなと思いましたけど(笑)、やっぱり全体的にはそんなに変わってない印象です。


Photo by Shareif Ziyadat/WireImage (Bad Bunny), Lillie Eiger (Harry Styles), Jeff Kravitz/Getty Images for MTV/Paramount Global (Taylor Swift)


〈世界で最も再生された楽曲〉プレイリスト

―そんな中で2022年のトピックといえば、まずはハリー・スタイルズかなと。

川谷:ハリーのアルバム『Harry’s House』はめちゃくちゃ聴きました。「As It Was」はそれこそ「Blinding Lights」からの流れにあるようにも思いましたけどね。シンプルな、みんなで歌えるリフ一発押し、みたいな。やっぱり2022年一番のヒット曲だった気がします。「As It Was」はコーチェラのライブ映像で、イントロに合わせてハリーが階段を駆け降りてくる姿もすごく印象的で。本当にスーパースターだなって。

これは一昨年も話したと思うんですけど、2018年の年末にカラオケに行ったらハリーがいて、一緒にユーミンを歌ったんですよね。ハリーはどんな曲かわかってなくて、勘で歌ってましたけど(笑)。あれから3~4年で……もちろん、あのときもすでに大スターだったけど、ここ3年の活動はすごくないですか? 音楽的にも信頼できるアーティストになったというか、「ワン・ダイレクションのソロ」みたいな感じでは完全になくなったなって。



―これまではどうしても評価が分かれがちでしたが、もうアイドルとは呼ばせないところまで来ましたよね。

川谷:テイラー・スウィフトもそうじゃないですか? 今回のアルバムは『Midnights』っていうタイトル通り、真夜中の物語というかずっしりした重めの作品で。かつてのテイラーしか知らない人からすると、「今はこんな感じなんだ」って思いそうな曲ばかりですよね。どちらかといえばハリーの作品は派手、テイラーは地味だから方向性は違うけど、2022年を象徴する2作だった気がします。

―川谷さんの年間ベスト(一覧はこちら)にもハリーとテイラーの曲が選ばれていますね。ハリーは「As It Was」ではなく「Daydreaming」が入っています。

川谷:そこは迷いましたね。ゲスでNFTをやったときに「Gut Feeling」という曲を作ったんですけど、海外のリスナーに聴いてもらうためにはどういう方向性がいいかを考えたときに、ちょうど「As It Was」が出て。「これだ!」と思って、ちゃんMARIと2人でかなり聴いたので、リファレンスとして2022年一番大きかった曲かもしれないです。一方の「Daydreaming」は普通に曲が好きすぎて。とにかくメロディがいい。ハリーの曲はキャッチーなんだけどお洒落さもあって、BGMとしても聴けるし、じっくり聴くこともできるから絶妙なんですよね。「Daydreaming」は2022年一番たくさん聴いたと思います。



―テイラーに関しては、ラナ・デル・レイをフィーチャリングに迎えた「Snow On The Beach」が挙げられています。

川谷:あの曲も単純にメロディが好きで、途中の曲名をリフレインする部分は特に中毒性があるんですよね。これまでテイラーはそんなに聴いてこなかったんですけど、僕は夜中に音楽を聴くことが多いから、ベッドルームミュージックみたいなのが好きで。だから、今回のアルバムは自分にすごくしっくり来て、その中でもこの曲が一番好きでした。真夜中感に加えて、空白がちゃんとあるというか、そこが今のテイラーの良さだと思います。



―テイラーはコロナ禍に入ってからフォーキーな『folkrore』『evermore』を出して、去年は初期作『Fearless』『Red』の再録を出してるんですよね。それによって、『Midnights』は初期のポップさと近年のフォーキーさの中間みたいなアルバムになった印象もあって。

川谷:たしかに。その話でいうと、僕はいつも「ちょうどいいアルバム」を探していて。実はあんまりないんですよね。「ロックすぎる」とか「またこのトラップ感かぁ」みたいに、みんなどこか極端になりがちで、その中間があんまりなくて。ちゃんとキャッチーなんだけど、深いテーマ性もあるというか。それこそハリーとテイラーは作風こそ違うけど、どっちも「ちょうどいい」感じがしたんですよね。なかなか言葉では説明しづらいんですけど。

―海外は特にそうですけど、コロナがほぼ終息したような雰囲気になり、音楽的にも開けたものが増えた印象があって。でも急にめちゃくちゃロックだったり、パーティっぽいのも違うし、いつまでもメソメソしてるのも違うし……というなかで、ハリーの適度な軽さや明るさ、テイラーの適度な重みや暗さがちょうどよかったということかなと。

川谷:あとは出た時期もちょうどよかったんでしょうね。「コロナもういいでしょ」みたいな空気に「As It Was」はうまくハマった気がします。時代を切り取る音楽って、タイミングもすごく大事だと思うから。テイラーに関しては、もはや世の中の流れはそんなに関係ないというか、すごい記録を打ち立てたりもしてたじゃないですか?

―11月5日付の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で、史上初めてトップ10を独占しました。

川谷:このちょっと地味なアルバムで、そういう記録を達成できたということは、アーティストとしての絶対的な評価を得たってことですよね。アルバムの初週売上もアデル以来(『25』以来、約7年ぶりの好セールス)とかだったと思うし、もはや単なる歌姫ではなく、一人だけ別格になりつつありますよね。

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