「日本人は社交辞令ばかり」と思われる3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(15)どういたしまして
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は相手の感謝に返す一言です。
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「手伝っていただいてありがとう!」「いいえ、どういたしまして。お役に立てて何よりです」は何気ない職場や日常生活でのひとコマ。短い言葉に思いをこめられるチャンスです。ところが意外とむずかしいのが、「いいえ、どういたしまして」のようなお礼に対する返答かもしれません。「お役に立てて嬉しい」という気持ちを嫌味なく相手に伝えることは大切です。
Thanks for your help. 「助けていただいてありがとうございました」
正しい訳:どういたしまして。
影の意味:まあまあ、いいってことです。
Thank you. とお礼を言われて、すぐに出てくるのはYou're welcome. かもしれません。教科書通りの返答、もちろん正しい英語ですが、実は社交辞令に聞こえることが多いため、ネイティブは避けることが多いのも事実です。上から目線と感じる人もいます。
正しい訳:はい、いいですよ。
影の意味:感謝してもらうのは当然。
ちょっと迷惑だったと感じさせてしまうような言い方です。
正しい訳:分かってますって。
影の意味:もちろん。
「それはそうだね」のニュアンス。
これなら「影の意味」はない!
とんでもありません。
直訳すれば「あなたは歓迎以上の方です」すなわち「とんでもありません。歓迎です」の意味になります。気持ちが込められた暖かさの伝わる言葉です。
あなたなら大歓迎です。
言い方によってはちょっとおざなりに聞こえるYou're welcome. もvery や most (You're most welcome.) であれば、あなたの気持ちが素直に伝わります。
もちろん、当然のことですよ。
軽いお礼に対する場合の返答。とてもフレンドリーなニュアンスを出せます。sure は「確信して/確かな」の意味。そこから「当然のことですよ」になります。
*Sure anytime. 「こんなことくらいならいつでもどうぞ」もよいでしょう。
(お役に立てたのであれば)それは私の喜びです。
* It's my pleasure. という答え方もありますが、It's all my pleasure. の方がより気持ちが伝わります。
もしお役に立てたのであれば、私も嬉しいです。
I could help. 「もしお役に立てたのであれば」という控えめな表現を使うことで、あなたの気持ちを大げさではなく相手に伝えることができます。
あなたが知らない本当の使い方――welcome
・We welcome the chance to learn more about your company. 御社のことをさらに知る機会を歓迎します。
*welcome a chance to:~できる機会を歓迎する
・We want to make improvements, so we welcome your criticism. 私たちはさらなる発展を望んでおりますので、皆様からのご批判を歓迎いたします。
*welcome criticism:~からの批判を歓迎する
・The new hiring policy is a welcome change. 新しい雇用政策の変化を歓迎します。
*welcome change:喜ばしい変化、すなわち「変化を歓迎する」の意味。
・You're welcome to leave anytime. この会社をいつ辞めてもいいんだよ。
*be welcome to:~することを歓迎される、この場合であれば「いつ辞めてもOK」の意味。
・If you wanted to join our company, we would welcome you with open arms. 我が社に入社したいのであれば、大歓迎です。
*welcome someone with open arms:両手を広げて歓迎する、暖かく迎え入れる
・She's an important customer, so we need to put out the welcome mat. 彼女は大切な顧客だ。粗相のないように迎えなければならない。
*put out the welcome mat:ドアマットを出す、すなわち「間違いのないように/きちんと迎える」。ドアマットはWelcome の文字があることが多いため、そのマットを外にあるいは玄関に出しておくことから来ています。
・Could you stand at the entrance and welcome the guests? 玄関でお客様をお迎えしてもらえますか?
* 例えば個人の家であれば呼び鈴を押したら初めて家人が顔を出すのと違い、stand at the entrance は、最初から玄関に立ちお客様をお迎えするイメージです。
warmly welcome one's guests at the front doorなら「正面ドアの前に立ち、お客様を温かくお出迎えする」の意味になります。
・Welcome aboard! ようこそ、ご搭乗/ご乗車/ご乗船ありがとうございます。
*aboard = on board: 搭乗して、乗車して、乗船して
またWelcome aboard! 「ようこそ」は会社に入社したり、クラブで新しくメンバーになった人への歓迎の言葉としても使えます。会社などで「運命共同体」をWe're in the same boat. 「私たちは同じ船に乗っている」のように言いますので、会社のような組織で共にいることは小船に乗って共に荒海に漕ぎ出すことを言うのかもしれません。
「歓迎する/歓待する」には次のような表現も使われます。
The small village rolled out the red carpet for the famous singer. 「小さな村は有名な歌手を大歓迎した」。「レッドカーペットを歩く」はそのまま日本語でも使われるように、映画祭など有名なセレモニーに登場する人やセレブたちがレッドカーペット(赤いじゅうたん)の上を歩くことを言います。赤いじゅうたんは、お客様を迎えるとっておきのおもてなし。普段まるめてあるじゅうたんをパッと広げて長く伸ばす。それがすなわち「大歓迎をする」ことになります。英語のフレーズにはこのように意味がそのまま分かるようなものも多くあります。覚えていくのも楽しい作業です。
Stay on the road to success!
: D セイン
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。長年にわたる豊富な英語教育経験を生かし、数多くの英語関連書籍を執筆。著者に「英語サンドイッチメソッド」シリーズ(アスコム)、「カシオ英会話学習機 入門ビジネス英会話 Joy Study」、「TOEIC テスト完全教本 新形式問題対応」(研究社)などの他ベストセラーも多数、累計300万部以上の著作を刊行している。日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞などでコラムを連載。NHKの日本語学習番組にレギュラー出演。英語教育推進事業団(EEPS) の学術顧問。受験生向けの英語学習サイト(http://david-thayne.com/)と日本文化を英語で紹介す る英語学習サイト(http://www.wakaru.guide/ )を監修。