先週末に実施された欧州議会選挙において、英国では極右政党UKIP(英国独立党)が第一党に大躍進しました。
前回の記事で紹介したOWEN JONES オーウェン・ジョーンズの『Chavs: La demonización de la clase obrera(チャブズ―労働者階級の悪魔化)』は、新自由主義プロパガンダにおいてチャブズが果たした役割を明らかにするものだったのですが、チャブズと呼ばれる白人の労働者階級が極右勢力の支持基盤ともなっていることから、ファシズム台頭の背景を探る手がかりにもなります。そこで、本の内容が良く纏まっていたエル・ディアリオ紙掲載のジョーンズのインタビューを紹介しておきます。
オーウェン・ジョーンズ・インタビュー
オーウェン・ジョーンズ以前には、チャブ(chav)は英国好きな人たちのための言葉であった。自宅がある公営住宅の入り口でフライドチキンを食べるジャージ姿の若者たちに関連する言葉で、目にするのは英国メディアにおいて、もしくは『リトル・ブリテン(訳注:英国のコメディ番組)』ファンなら、登場人物ヴィッキー・ポラードが口にするのを耳にしたかもしれない。いきなり、学生のような風貌の金髪の若者が登場して、その言葉を国全体がかかっている症状の名に変えてしまった。
彼の著作『Chavs, la demonización de la clase obrera(チャブズ―労働者階級の悪魔化)』は、現在の英国の労働者階級が象徴するものについての病を映し出し、解剖する鏡となった。オーウェン・ジョーンズは二つの講演会を行うためにスペインを訪れている。月曜日にバルセロナで、火曜日にマドリッドで、自分の著作を解剖してみせる。
―労働者階級の悪魔化は、英国だけに見られる現象でしょうか?
悪魔化は、格差がある全ての場所において避けられません。考えてみれば、格差とは合理性のないものです。権力と富は、ごく一部の人の手にあるべきではありません。エリート層の人々は、賢く、働き者だから今いる場所にいるのが相応しく、下層の人々は、愚かで怠け者だからそこにいるのが相応しいという考えによって、格差は合理化され正当化されるのです。社会に格差があればあるほど、それを正当化するための悪魔化が必要となります。英国のケースは鍵となるでしょう。とりわけサッチャリズム以降にますます加速化しているからです。そこでは、貧困や格差はもはや社会的な問題ではなく、個人的な失敗とされるという変化が生じています。
あるサッチャー信奉者の政治家の有名なフレーズがあります。「30年代、私の父は仕事を失うと自転車に乗って、仕事を探しに行った」というものです。こうして、「君も自転車に乗れ」が国家的な常套句となりました。巨大な格差と集団としての回答が必要な事柄を政府による個人主義にすり替えることは、他の国でも起こっていますが、とりわけ、マスメディアがこの論調を支持し支援する英国において顕著です。
―そのことは、マスメディアと超保守的な論調の共存が明らかなチャブスにおいて、容易く確かめることができますね。
そうです。メディアは、極端な例を用いてこの論調を全面的に持ち上げるのです。昨年のミック・フィルポット事件がとても有名になりました。彼自身が起こした火事によって、17人の子供のうち6人が死亡したものです。英国には、失業中で10人以上の子供がいる家族は190しかないのですが、手当があることにつけ込む労働者階級の典型として繰り返しマスメディアに現れます。裁判の後、二番目に多くの読者を持つ新聞デイリー・メイルは、「新たな英国の福祉国家の忌まわしい産物」と見出しを付けました。こうした極端な事件によって絶え間なく福祉国家を非難するのです。
―調査によって、マスメディアのこれほどまでに明白な攻撃性が明らかになっていくさまは衝撃的です。
恐ろしいのは、私がこの本を書いて以降状況が悪化していることです。この本の中で、私はマスメディアによる悪魔化の様々なケースについて言及していますが、今説明した事件は福祉国家を直接殺人に結びつけています。
―どうしてこんなことが起こるのでしょうか?
左派が富裕層への増税を要求すると、マスメディアはねたみを増長させているとそのアイデアを退けます。これと同じ事が移民に対して起こっているのに。人種差別的な論調を増長させるために、社会的支援を通じて家を手に入れた移民のケースを多く取り上げるのです。公務員に対するねたみを増長させるために、看護師、医師、教師といった公務員の年金について詳しく説明します。このようにして、マスメディアは世論を操作するための事案を大きく取り上げるのです。社会費の不適切な使用は0.7%なのですが、人々は27%と認識しています。私たちのマスメディアは極めてイデオロギー化しており、ありのままに現実を伝えていません。
―こうしたメディアを、他の国で行われているように、法律で罰するべきであると考えていますか? 例えば、人種差別的憎悪をかき立てるものを罰する国のように。
問題は、極めて精緻な方法で憎悪をかき立てているということです。補助金濫用のケースを解説して、それが移民についてだと示す。これで十分です。問題はその行間なのです。議論を移民に集中させるポピュリスト右派政党UKIPの台頭とともに、英国の雰囲気は非常に不吉なものとなりつつあります。党首ナイジェル・ファラージは、先週、近所にルーマニア人が引越してきたら心配になる人の気持ちはわかると発言しました。70年代のトーリー党(訳注:保守党の前身)のキャンペーンを彷彿させます。「黒人の隣人が欲しいなら、労働党に投票を」というキャンペーンで、言葉遊びでした。当時の世論は憤慨しましたが、それに引き換えて現在、この同じ考えが再び正当化されているのです。
―躍進が可能なのは、極右が変革を行っているのだからだという意見に同意しますか?
表面的にはイエスです。人々の怒りを導くことができなかった左派の失敗によるものですから。右派は、銀行家や脱税をする人々、ローン会社経営者に対するその怒りを、その隣人、移民や公務員に向けることに成功しました。右派は、公的セクターにおいて効果があったポピュリズムを用いて、底辺の人々に責任を負わせることに成功しています。左派にはそうしたことを行う術がなく、右派はその隙間を利用したのです。フランスにおいて、力のある労働者階級を有する市町村での数字に表れています。かつて共産党に票を投じてきた労働者階級が、現在破壊的な経済危機の真っ直中で、国民戦線に投票しているのです。
―それでは、労働者階級の悪魔化とは兆候でしょうか、それとも結果でしょうか?
労働者階級は存在しない、私たちはみな中産階級だという考えを破壊することが鍵となります。この考えは、中産階級出身の政治家やジャーナリストによって促されたもので、格差に関する議論を紛糾します。なぜなら、もし社会的階級がないのであれば、議論することは何もないからです。これを支配的な中産階級の外に残された者たちは、働きたがらない怠け者でたちの悪いチャブズだという考えと組み合わせます。これをさらに、貧困や格差の増大と労働者のせいにするという論調への変換と結びつけると、完璧なスピーチのできあがりです。公共住宅における労働者階級のゲットー化は、最も支援を必要としている人々を他の国民から隔離させることになりました。そのことによって、一グループをまるごと悪魔化することがさらに容易になったのです。貧困化した階級はみな一カ所に集まっているので、それ以外の人々が彼らについて知るのは、テレビで語られることによってのみです。
―著作において、Lynsey Hanleyの『Estates』を引用していますが、そのゲットー化がどのように計画されたのか、偶然ではありえないことを明白に説明する重要な作品です。
それはイデオロギー的な決断だったのです。本来、公共住宅は混合共同体を促進するものでした。公共医療の創設者でもあるアナイリン・ベヴァン(Aneurin Bevan)は、医師と肉屋が隣り合って暮らす、あのイングランドやウェールズの美しい村々の最良の面を再生したかったと言っています。問題は、トーリー党が建設の質を下げて、一切共同体の価値を増長しないような、ばかでかい集合住宅の塊に人々を押し込めたことです。80年代には、最も支援を必要としている人々用に一部を残して、公共住宅を販売用に提供しました。それが共同体のゲットー化、そしてまたその分裂と分断を生みました。誰もが同じ住宅を求めて競いあったからです。
―ポップ・カルチャーには何が起こりましたか? 本の中では、どのようにチャブズのための娯楽とエンターテイメントが消えてしまったかが探られてています。
社会的な階級が存在しないという考えは、部分的には文化の民主化という考えに由来するものです。『Xファクター(訳注:新たな音楽スターを発掘するテレビ番組)』は、ウィリアム王子でもチャブでも見ることができる番組です。かつては、大衆文化は大衆のためのもので、高級文化は中上流階級のためのものでした。今もオペラで労働者階級の人を目にすることは珍しいのは確かであるとはいうものの、大衆文化は広がりました。問題は、かつてはそれが労働者階級の文化―ビートルズが典型的な例です―であり彼らの逃げ場となっていたことです。しかし、1990年と現在のヒット・リストを比べてみると、現在ミュージシャンはすべて、国民のわずか7%しか手にとどかない私立学校での教育を受けた裕福な階級の出身であることがわかります。
社会保障と奨学金システムへの攻撃によって、労働者階級ではごくわずかな人々しか、扶養下にある子供の音楽活動を支えることができなくなってしまいました。同じ事は、伝統的に労働者の職業であったサッカーにも起こっています。90年代に中産階級が興味を示し始めると、試合の入場券が値上がりしました。これはまた、労働者階級に内在するとみなされる暴力を止める試みでもありました。さらには、有料スポーツチャンネルが導入されました。ついに、労働者階級の固有の文化が彼らの手の届かないものになってしまったのです。
―それによって、労働者階級は消費者となり、自らの文化の作り手ではなくなってしまった。
その通りです。それ以外にも、ジャーナリストのように、もはや労働者階級の手に届かなくなってしまった職業がたくさんあります。見習いになるには数ヶ月間ただ働きしなければならないのであれば、それを支払うことができるのは誰でしょうか? 一番重要なのものが才能から家族が持つお金という考えに移動しているのは、勉学にだけではなく、文化を生み出すことに関しても言えるのです。これは比較的新しい階級の壁です。
―『Xファクター』は部分的に、本当に手に入れようと努力すれば、すべては君のものになるという能力主義という保守派の神話を永続させています。
そうです。そして、メンズクラブという労働者の伝統のコピー、カラオケです。しかし、奇妙にも思えるものの、『Xファクター 』は労働者階級にプラスな結果を生みます。なぜなら、リアリティの部分において、すべて労働者階級の出身である参加者たちの生活を見せるからです。犯罪者扱いする状況を描写する代わりに、労働者階級の人々の日常生活を見せる数少ない場の一つなのです。その一方で、才能があれば私たちの誰もが宝くじの当選者となることができる、努力すれば私たちの誰もが頂点に達することができるという考えを増長させているのも確かです。それはまやかしなのに。それだから、労働者階級の若者たちが熱望ことは、あまり現実的ではないのです。ポップ・スターやサッカー選手…。それらが彼らに与えられている唯一のモデルだからです。
―この悪魔化は90年代に一時中断されませんでしたか? 階級ツーリズムやコックニーのアクセントの真似といった…。
そうですね。大学において多く見られました。それこそ、ブラーがやったことですよね?(笑)。90年代には、社会階級を下げることが流行しました。勇ましさを示すものだったのです。何かポジティブなもののように思われました。なぜなら、その裏では、もし労働者の環境から来たのであれば、そこにいるのは才能によると認識されたからです。音楽において労働者的なものを賞賛する、その締めくくりがオアシスでした。その一方、現在いるのはコールドプレイ、特権階級出身で上品と見なされているバンドです。労働階級というプロフィールを満たすオアシスのように重要なグループは一つも思い浮かびません。現在、大学で流行っているのは、スタイルだけであったとしても、気取った感じでいることなのです。ピンクのシャツと馬鹿げたネクタイという『Brideshead Revisited(訳注:80年代のTVシリーズ)』のルックスがリバイバルしていて、笑いのネタとしてチャブズをテーマにしたパーティを企画するのです。本質的な変化です。
―チャブズのように大成功した本の後で、次に来るのはなんでしょうか?
今、指導者層についての本『The Establishment and how do they get away with it 』を執筆しているところです。支配階級、そして彼らが何を行っているのかについてで、膨大な量のインタビューに基づいて、彼らがどのように権力を操り、それを維持しているのかに焦点を当てたものです。
―面白い発見はありましたか?
なんてひどい奴らなんだってこと(笑)。彼ら自身がそう言っているのです。彼らのメンタリティーがロレアルの広告のようであることを発見しました。「私にはその価値がある」。そうして、彼らはなんの良心の呵責もなしに、政治的・社会的特権を正当化し、給与を上げ、公職から民間企業の職へと渡り歩いているのです。
************
著作の中でも触れられていた英国のバンド、オアシスの例は、リアルタイムで聴いていたこともあってとても印象的でした。確かにオアシスとブラーが「労働者階級とブルジョワ階級の対決」のようなな取り上げ方をされたあたりから、「ブリットポップ」という言葉が使われるようになって、英国の音楽シーンがライトになっていった記憶があります。
オアシス
ブラー
https://www.youtube.com/watch?v=SIEsmGzo2UE
労働者階級出身のバンドをいくつも排出してきた工業都市マンチェスター近郊の出身ジョーンズは、ブラーが嫌いなようですが、労働者階級ぶっていたというのはこの頃でしょうか。
考えてみると、ブラー、オアシスに先行するマッドチェスターブームのバンド、ハッピー・マンデーズ 、インスパイラル・カーペッツ 、ザ・ストーン・ローゼズなどのメンバーは今で言うチャブズなわけで、あのシーンはまさにチャヴズたちが生み出したものでした。当時の熱気が伝わるハッピー・マンデーズのライブ映像。
https://www.youtube.com/watch?v=qvJoW3SvSRU
こうしたパワーはもうなくなってしまったということなのでしょうか…。ハッピー・マンデーズのベズが、シェールガス採掘と遺伝子組み換え食物への反対を掲げて、2015年英総選挙出馬表明したというニュースは、時の流れを感じるとともに、とても感慨深いものがあります。