テーマ:"星に願いを"
創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照してください。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5
締切は1月8日(日)の午後9時ごろを予定しています。
『色のない星』
登場人物:
・緑
・黄○はてなスター郵便局
倉庫のような場所。
下手にたくさんのバスケットが整然と並べられている。
一番奥に、ひとつだけ目立つバスケットがある。
バスケット群の手前には、コンピュータとヘッドセット。
舞台中央にボウリングのボールを返送する、ボールリターンのような設備。
緑、舞台の中央。
緑「今日からこの職場に新人が入ってくる。…お、来た」
黄、下手から登場。
黄「はじめまして。よろしくお願いします」
緑「よろしく」
ボールリターンの穴から星形の物体が現れる。
緑、それを検分して下手のバスケットのひとつへ投げる。
黄「なにをしてるんですか?」
緑「スターの振り分けだ」
黄「さっきのがスターですか?」
緑「そうだ。ネット上にはたくさんのスターが飛び交ってる。
いいなっていう気持ちがヒトからヒトへ発せられてる。
我々はそのメッセンジャーってわけだ」
ボールリターンに次のスターが現れる。スターにタグがついている。
緑、それを検分して、スターを黄に手渡し、
緑「ぐらむす。さんからだ。これ、meeflaさんに渡して」
黄「え?」
緑「meeflaと書いてあるバスケットに入れるんだ」
緑、コンピュータを操作して、m、e、eと入力する。
インクリメンタルサーチで、該当しないバスケットが自動でフタを閉じる。
黄「コレがあると見つけるのが楽ですね」
緑「慣れれば必要ない」
黄「あ、紙がついてる。(タグを読み上げて)『講評は必ず』…」
緑「(黄からスターを取り上げて)読むな」
緑、スターをmeeflaのバスケットに入れる。
黄「見ちゃだめなんですか?」
緑「当然だ。我々の仕事はメッセンジャー。
スターにはメッセージを付けることもできる。
だがそれに介入するのは我々の職務の範疇外だ」
黄「(気落ちして)はあい」
ボールリターンには次々とスターが現れる。
それを受け取る緑。バスケットに分類する黄。
緑「(作業しながら)ネットには負の感情も多い。
でもスターは明るいメッセージだけ伝えている。
我々はネットの世界を明るくしていると自負していい」
黄「(うれしそうに)はい」
黒いスターがボールリターンから現れる。
緑、すばやく受け取って、自分でバスケットに投げる。
なにかがぱちんとはじける音。
黄「いまのは?」
緑「(慌てて)なんでもない」
アラームが鳴る。
緑「呼び出しだ。すぐ戻るから、なにかあったらコンピュータで呼んでくれ」
緑、上手から退場。
黄「ひとりになっちゃった」
ボールリターンから黒いスターが現れる。
黄、それを手に取って、
黄「ほかのスターは少し透明なのに、このスターは中がどろどろしてる。
よくないものなんじゃないかな。そうだ、送り返しちゃおう」
黄、送り主の名前を入力して、ふたの開いた一番奥のバスケットを狙う。
緑、上手から再登場。黄からスターを奪って本来の宛先のバスケットへ投げる。
バスケットの中で金属のぶつかる音がする。
緑「ロックをかけ忘れた」
黄「?」
緑「こちらの話だ。今なにをした?」
黄「——」
緑「我々は、スターに意味やメッセージや価値を、付け加えちゃいけない。
スターのことは、深く触れてはならぬ。運ぶだけだ」
黄「スターは明るいメッセージだけ伝えてるって、本当なんですか?」
緑「当然だ」
黄「黒いスターでも?」
緑「(口ごもって)仕事に戻りなさい。初日から、職務への集中が悪すぎる」
黄「(腑に落ちない様子で)はい」
暗転。
○はてなスター郵便局
黄、下手から登場。
黄「おはようございま、あれ、だれもいない」
ボールリターンからスターが出てくる。
黄「まあいいか。スターの振り分けなら自分でできるようになったし」
しばらくして、黒いスターがたくさん出てくる。
黄「(慌てて)また黒だ。こんなにたくさん。
宛先は…(スターを確認する)これ、たぶん全部のバスケットに送られてる。
これ、きっと悪い人が流してるんだ。明るいメッセージなわけない!
やっぱり送り返そう」
一番奥のバスケットのふたは閉まったままで開かない。
黄、ヘッドセットを装着し、コンピュータの緑のボタンを押す。
黄「緑さん! 緑さん! —返事がないや。だめだ。
(青いボタンを押して)青さんは? —だめか。
(赤いボタンを押して)赤さんは? —だめ。つながらない」
増えつづける黒いスター。床にこぼれおち始める。
鳴り響くアラーム。サイレンの光。
黄「これは…?」
黄、当てずっぽうで透明なボタンを押す。音波はどこかへつながる。
増えつづける黒いスター。ひざほどの高さになる。
黄「黒いスターを大量に発送している人がいます。
送り返したいです。許可してください! 許可してください!」
コンピュータがブラックアウト。
黒いスターが一番奥にあるバスケットに吸い込まれていく。
サイレンがやみ、光が差し込む。
すべての黒いスターが吸い込まれたあと、色のないスターがひとつ届く。
スターにはタグがついている。宛先は「はてなスター郵便局」。
黄、それを取り上げて、
黄「タグがついてる。えーと、
(読み上げて)『メディアはメッセージ。価値を生み出し続けなさい。
持てる力を、ここで発揮しなさい。』」
黄、スターを手に立ち尽くす。
間。
黄、思いついて、その色のないスターにメッセージを少し書き足す。
それを、一番奥のバスケットに放り込む。
暗転。
あけましておめでとうございます。
新年一発目ということで、無理からトップバッターを取ろうとベリーショートストーリを書いたのですが、なんだかんだで4本立てとなりました。
#1『ひゅうまじゃないけど』
お得意の野球ネタです。お題を完結に表してみました。
#2『フィルムカメラってまだあったっけ』
お題を巧く捻って取り入れました。そんだけ。
#3『2億4千万の星屑』
割と楽しく書けました。読みようによっては(というか必然的に)ちんぷんかんぷんかも
知れませんがどうやら、私はこういうのが(こういうのも?)好きなようです。
ただし、全然お正月っぽくありません。
#4『触っちゃいけないほうのT&K&M』
今から書くのですが、やはり野球ネタです。季節感無視。勢い重視で頑張ります。
偶然にも#3と星屑繋がりです。
ぐらむす。さん、投稿ありがとうございます。
早速ですが、講評です。
#1『ひゅうまじゃないけど』
作品解説の
×完結
○簡潔
というツッコミはさておき。
最初の一行でオチが見えてしまいますわな。
そこを承知の上でのベリーショートストーリー、新年一発目にふさわしいと思いました。
染之助・染太郎レベルで。
#2『フィルムカメラってまだあったっけ』
フィルムカメラは不滅ですが、未来の話で日常使いさせるためにはそれなりの設定が必要ですね。
デジカメに寄生して増殖する宇宙生物とか。
トランスフォーマーみたいな奴。
#3『2億4千万の星屑』
雰囲気で読ませる作品、でよろしかったでしょうか?
必然的にちんぷんかんぷんでしたが、嫌いじゃないです。
何をどうしたら砂時計やらカウントダウンやらをあれこれできるのか、が興味深い所。
#4『触っちゃいけないほうのT&K&M』
勢いは買います。
ごめんなさい、あだち充は守備範囲外でした。
『触っていいほうのT&K&M』を知らないとわからないようなディープなネタは仕込まれていないと信じたいです。
最後に、良い子の皆さんへ。
1回答に複数作品を書くのは邪道で、質問者さんにも迷惑なんだ。
絶対にマネしないでね。
meeflaさん、講評ありがとうございます。
早速ですが、講評の講評です。嘘。お詫びやらなんやら。
>最初の一行でオチが見えてしまいますわな。
これは、こんな回答経験のある人で無い限りは、さすがに一行目からということはないとは思いましたが、明らかに練りこみ不足ですね。
もっと、ズバッと最後の一行で全てが明らかに……みたいな風にしたら良かったと思います。
>『フィルムカメラってまだあったっけ』
私自身コメントのしようがないような奴に律儀に返信くださりありがとうございます。
>雰囲気で読ませる作品
そんな感じです。伝わってよかったです。
>勢いは買います。
お買い上げありがとうございます。
実はディープなネタは仕込まれていないどころか、初めはテーマ曲に載せてストーリを
進めるつもりが、挫折したり、主人公の名前を言及するのをすっかり忘れてたり。
ホントに勢いだらけです。何の捻りもない。
>1回答に複数作品を書くのは邪道で、質問者さんにも迷惑なんだ。
ごめんなさい。もうしません。
だけれど、これといったアイデアが浮かばずそれこそ納得するまで、10でも20でも
書いてやろうかと思いつつ。それすら挫折した。
やっぱり、書きたいものをじっくり書くのがよいとあらためて思いました。
続く。
町の外れにある天文台。こんな世の中で星など眺めて何になるのか、と周囲の大人たちは非難するが、僕はこの場所が気に入っていた。
喧騒とは無縁の場所、というのが一番の理由だが、ここで星を観察しているというササキの話が好きだった、という理由も動機のひとつだったかもしれない。ササキはうだつのあがらない初老の男で、一応ここの唯一の職員らしいが、掃除以外の仕事をしているのを見たことがない。放課後、僕が天文台を訪れた頃にはもう日が暮れていた。
「おう、坊主また来たか。そろそろ『便り』が来る頃だ。コーヒーでも飲むか?」
妙に機嫌の良いササキの好意に、僕は素直に頷いた。
ササキは支度をしながら、いつものようにおしゃべりを始めた。
「まあこの星に見切りをつけて出て行った連中、正確にはその連中の子孫、ということになるか。当時は無謀とか散々言われたらしいが、なんとか安住の地を見つけたらしい。
昔はあちこちに天文台があってな、色々込み入った情報もやりとりしていたらしいが、先の戦争でそれどころでなくなってしまった。どうやらあちらも似たような状況らしい。」
30年前の戦争の話は僕も学校で習った。
戦後、天変地異が重なり復興は思うように進まず、生活環境の改善……平たく言えば食料の増産が今の政府の最重要課題だ。
「それでも細々と『通信』を続ける天文台は、お互いいくつかしぶとく生き残っているようでな。ここもその一つってわけだ。まあいつまで維持できるかわからんけどな……。」
その時、「受信機」と書かれた古ぼけた金属の箱が、今にもかすれそうな音色で鳴動を始めた。
「おっと、噂をすればなんとやら、だ。復号するからちょっと待ってろ。」
そう言うとササキは、受信機につながる別の装置を見つめたまま、受信した電文を読み上げた。
『お久しぶりです。お元気ですか。こちらは元気です。星暦1276年1月2日。TEパプソニアG2天文台』
そして今度は「送信機」と書いた装置に向かって鍵盤を叩き始める。入力した文字列がモニタへ浮かび上がる。
『お便りありがとう。そっちも大変だろうが、こっちも似たようなもんだ。なんとか無事でやっています。星暦1277年1月2日。新美原市天文台』
ササキは一通り「送信」の儀式を終えると、肩の荷が下りたと言わんばかりの弛緩した表情になり、僕にやっとコーヒーを淹れてくれた。
ちょっと苦みのきついコーヒーを啜りながら、僕はササキに『受信』の日付の間違いを指摘した。もう年も明けたのだから1277年じゃないか、と。
ササキは苦笑しながら教えてくれた。
「この通信機はだいぶ旧式でな、どうやら先方に届くまでちょうど1年かかるらしい。昔はもっと性能の良い装置もあったらしいがなんせこんなご時世だ。使えるだけでも有り難い、と考えるべきだろうな。あちらさんも似たような環境なんだろう。」
――つまり、次の「便り」は2年後ってこと? 僕がそう尋ねるとササキは少し寂しそうに笑いながら頷いた。
「なんせ遠いところだしな……。でもまあこの広い宇宙でお互い無事ってことが確認できた、この星空の中に同じことを考えながら星空を見上げている連中が居るってだけでなんだかちょっと嬉しくならないか?」
そう言ってササキは古ぼけた望遠鏡を覗かせてくれた。
――僕はレンズの向こうで瞬く星に、1年後、ずいぶん間延びした年賀の挨拶が無事に届くことを願った。
GM91 さん、投稿ありがとうございます。
人力検索での2回答目が、この「かきつばた杯」だったようですね。
なんでもない日常の描写から、宇宙を越えた通信に広がるお話、楽しませていただきました。
年賀状の季節ネタが無理なく入っていて、個人的な評価は高いです。
どこか書き慣れているような印象で、初作品とは思えないような気がします。
お褒めに預かり恐縮です。
自分のサイトで旅行メモとかは好きでよく書いていたのですが、創作と言うのは初めてです。
子供の頃、眉村卓にはまっていたのでちょっと意識しながら書いてみたのですが、書き上げてみるとあんまり似てないですね…。
この設定を膨らませてもう1作書こうかな~、などと思っていたのですが間に合いませんでした(^^;
今後ともよろしくお願い致します。
何億光年も離れた星の光は、何億光年もかけて地上に届くという。
例えある星が何万光年もの昔に消滅していたとしても、
その光は、その後も何万光年もの間、遥か離れた地球上からは、
まるで今も生き続けている様に明るく輝き続けて見えるという。
幼少の頃から、たまの休暇で都市を離れ、近隣の田舎などに行くと、
普段はシティライトの明るさでかき消されていた星達がよく見えて、
どの星が今もまだ実在するのだろうか、それともほとんどがもう
実は何光年もの昔に消えていて、光だけが残っているのかなとか、
この星の光は他の星にも届いているのかなと幼心に思ったものです。
流れ星が消えないうちに願い事をかければ叶うといいますが、
私は一卵性双生児の兄を七歳に満たない時に亡くしましたので、
故人が星になるという大人達の言葉がどこかで信じられずに、
あの流れ星も何光年も過去の流れ星の光の記憶に
過ぎないのではないかと思ったものです。
幼い頃の兄との思い出がいつまでも私の心に残っているように…。
あれから十七年、経ったでしょうか。
研究室で懇意にして頂いた教授に国費留学の推薦をいただけ、
数年、ハワイ大学で研究留学をすることになりました。
島の周辺には天文観測の邪魔になるシティライトがなく、
星々の光がとても明るく大きく、また近くに見える為に、
活火山で有名な太平洋のハワイ島のヒロ市には、
日本の有名な天文観測台もあります。
故人が本当に星になるのなら、ここはおそらく地球上でも
もっとも彼らに近づける神秘的な場所の一つなのかもしれません。
季節の方も、いつまでも続く夏の様な時間だけが続き、
時間の流れがどこまでも静かで、ゆるやかに積み重なります。
昔からの地元の伝説では、火山には島の産みの母でもある
ペレという女神が住んでいると信じられていて、
ヘリコプターなどで噴火口の近くに行くと、岩の割れ目から
真っ赤な溶岩が火山の女神ペレの赤い唇のように見えるのです。
ペレの火山が産み出した溶岩が、空気や海水などで冷やされ、
ゴツゴツとした隕石の様な黒い岩となり、新しい大地となり、
島の地理を未だに変えているので、都市があるにも関わらず、
この島はまだ原始の誕生の過程にいるかのようでした。
札幌からヒロに移って来てからしばらくは現実感がなく、
毎日余暇を見つけてはドライブや散歩に行き、
スタートレックに出てくる別の惑星の表面のような原始的な
巨大岩の横を走り抜けたり、大きなクレーターの様な地割れや、
真っ黒な新しい大地に力強く芽吹く古代植物の様な緑、
珍獣の様な大亀が甲羅干しをするブラックサンド・ビーチで、
好奇心が自分よりも強かった兄をここに連れてきたら、
どんなことを言うだろうかと思っていました。
一卵性双生児はどこかでつながっていて、
一人が死ぬと、もう一人も分かると言われることがありますが、
兄が亡くなってからは、まるで兄の一部が自分の中に
永遠に取り込まれてしまったかのように、兄の存在を
以前よりも近く、強く感じる瞬間があるのです。
天文台の研究室では、八角形の蜂の巣のような巨大な鏡面を
組み合わせた反射板で宇宙の光を集め、天文観測をしては
新星を発見している「スター・ハンター」と呼ばれる
いつもカウボーイハットの先生のアシスタントを何学期かしました。
この天文観測設備は全て高山上にあるので、体を標高に慣らす為に
学期中はしばらくこの狭い世界にこもることになり、
みんながみんなを家族の様に知っている様な小さな世界から、
あの広大な宇宙の星々と対話をするという不思議な場所でした。
観測時も、星をそっけない軌道名から付いた番号だけでなくて、
星の個性を見て愛称をつけるのがみんな大好きで、
星だけでなく、研究所のペットも面白い名前が付けられていて、
ふわふわの灰色のダブルコートのまだら毛の雑種は、
気まぐれなので、ロンドンの空の様だと、ハワイ生まれなのに
「ロンドン」という名前が付けられていました。
明るい黄色に近く、うねりのある毛色の猫の片耳が、
好奇心が強くどこかに頭を突っ込んだ時にケガをして、
包帯を巻いていたことから、「ヴィニー」と、
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの愛称で呼ばれていました。
私の名前はヒロシであったため、このヒロ市のヒロから
「ヒロ」というあだ名が先に確定していましたが、
中には美人だが気性が荒く、怒るとものすごくこわい為に、
火山の女神ペレの名前をつけられている女性もいました。
新しい星が発見された際、彗星だと自動的に発見者の名前が
最初の三人まで付くのですが、恒星だといくつかの規定は
ありますが、基本的には発見者が命名をできる場合が多いです。
多分、その練習でみんな命名癖があるのですが、
研究室で使用している設備にまで色々愛称がつけられており、
ある朝には「ベス(エリザベス)」が迷子になったというので、
どなたのことかと思っていると、一番昔からあるファイルの
シリーズの愛称で、誰かが何世かをどこかに置き忘れた様でした。
そんなある日、研究者の一人が、惑星の消滅を確認しました。
惑星の距離から、何万光年前に消滅した光の消失が、
何万光年後の今日に地上で観測されたという発見です。
等星も高い方だったので、ベスのファイルにも、
最新のファイルにも、昨日まで観測されていた記録が
載っていましたが、何万光年前の今日、
すでに消滅していた星だったのです。
しかし、何万光年もずっとその消滅が知られずに、
存在すると信じられていた星…。
その星を発見して亡くなった奥さんの好きだった名前を
命名された方は、何年も前にすでに亡くなられていましたが、
彼が発見して命名した時には、運命の皮肉にも
実はその星はすでに死星だったのです。
私は常に、新星を発見したなら、両親のために
兄の名前を星につけてあげたいと思っていました。
毎日鏡で見るこの顔にそっくりだった双子の兄が、
この世に存在したことを、まるで今も生き続けるかのように
一人でも多くの人に知って欲しかった。
よく双子の一人の身に何かがあると、もう片方にも
似た事が起きると言う言い伝えがあって、
それで兄の死から自分の死を恐れている部分も
あったのかもしれません。その私が恐れることが、
起きた様な感じでした。せっかく命名した星が、
すでに消滅していて、光だけが残っていたということ。
しかし、私がこの話を「スター・ハンター」の先生にすると、
彼は、「その一方で、何万光年前に生まれたにも関わらず、
まだ地球にまで光が届かずに知られていない新星もたくさん
あるはずだよ」と、優しそうに微笑んで言いました。
その昼休み、標高の関係で涼しげな研究所の食堂の端っこでは、
お天気屋の「ロンドン」が今日は陽だまりの中で昼寝をしており、
もこもこの重そうな灰色の背を壁に少しこするようにして
ゆっくりと伸びながら寝返りを打ってヘソ天になりました。
「ロンドン」はお腹の方は白っぽくて、食堂の青い床の上では、
今日はハワイの青空に浮かぶ軽やかな白い雲のようでした。
お天気が変わらない様に、一番近いテーブルでコナコーヒーを
飲みながら会話していた人達は、そろりそろりと研究室に戻ります。
黄金色の「ヴィニー」も、白雲になった「ロンドン」の近くで
丸くとぐろを巻いてうたた寝をしていて、
青空の床の上では、黄金の太陽と白い雲のようでした。
研究室に戻ると、写真のスライドを合わせていた「ペレ」の
ご機嫌が、今日はすこぶる良い様でした。
ここは狭い世界なので、ペレのボーイフレンドの「フランク」
(本名ではありません。噂ではフランク・シナトラの歌の様に
とてもマイウェイな人なのだそうです。そのせいで「ペレ」が
時々、火山の女神の様に大爆発するのだとか?)の噂も
小耳に入って来て、どうやらその「フランク」が、今回
惑星の消滅を確認したチームの主任で、学会などに
出席するために、近々「下界」に降りるのだそうですが、
彼女も一緒に行けるようになったのだそうです。
そういうわけで明日には「ペレ」に変わる新メンバーも
「入山」してくるのだそうで、みんなどんな人なのか、
どんな愛称を付けられるのか、楽しみにしているようでした。
名簿に記載された本名をちら見した人の噂では、
どうやらロシア人男性の「ユーリ」が来るのだとか…?
翌日、夕方近くに、今日は空のはずだったゼミ室の方で
「ロンドン」がわんわんと何かに対して愛嬌良く吠えていて、
「スター・ハンター」の教授がドアを開けると、
一人の若い東洋人風の女性が、椅子に横たわっていました。
昼には到着したものの、少し高山病のような症状が出て、
空だったゼミ室の方で少し休憩をしていたのだそうです。
女性は日本人で、本名は「ユリ」と言いました。
ユリは日本語でリリーのこと、小柄で色白で、
高山に咲いた可憐な百合(リリー)の様だったということで、
早速に「リリー」という愛称がつきました。
「リリー」は日本の大学の研究室から、確認をして欲しい
新星である可能性のある恒星のリストを持ってきていました。
近年、日本からの新星の発見は多く、中には日本人の発見した
小惑星に「タコヤキ」なんて名前の付いた星もあります。
「リリー」のリストは、私にとって宝の山の様な気がしました。
体が高度に慣れるまでの間、日本語を読める私が志願して、
このリストの確認の助けをすることになりました。
「リリーのリスト」の中には、等星の低い小惑星に混じって、
先日消失が発見されたのと同じくらいに等星の高い
惑星も含まれていました。
人間と同じく星にも寿命がありますが、
それまでに観測されていなかった新星が
すでに消滅している死星の可能性は、比較的少ないです。
仲良くなるにつれて、私はなぜか「リリー」に兄の話をしていました。
「リリー」は彼女が子供の頃に空想したペアの星の話をしました。
互いの引力で引き合うつがいの星は、片方の星が消失すると、
もう一方の星は軌道を外れて、どこかに行ってしまい、
それでいつもは同じ軌道に留まっているはずの恒星が、
彗星や流れ星になってどこかに消えてしまうのではないかと
空想したのだそうです。
これは、「リリー」のご両親が幼少の頃に離婚してしまって、
お母さんに引き取られた「リリー」が、「お父さんがおうちに
帰って来てくれますように」という願いを聞いて欲しくて、
一人で夜空に流れ星を探している時に思ったのだそうです。
彼女は、目に光をたくさん溜めて、静かに言いました。
「あなたのお兄さんの星が、この中に見つかるといいね。
みんな、何かを求めて、星に願いをかけているのね。」
なぜなに さん、投稿ありがとうございます。
リドル・ストーリー のご回答 「優柔不断小説」 でも感じたのですが、長すぎです。
今回の作品は、4249字ありました。
文章量に制限はありませんが、読者のことを考えて2000文字くらいまでに抑えるほうが望ましいでしょう。
人力検索かきつばた杯とは - はてなキーワード
読者を引きずり込めれば長文は力作になりますが、昨今のこらえ性のない読者には冒頭の数行で飽きられてしまうという危険性をはらんでいます。
何億光年も離れた星の光は、何億光年もかけて地上に届くという。
例えある星が何万光年もの昔に消滅していたとしても、
その光は、その後も何万光年もの間、遥か離れた地球上からは、
宇宙ものを書くのであれば、
「年」とついているが時間の単位ではない
光年 - Wikipedia
くらいは把握して下さい。
私はここで脱落しそうになりました。
他にも、
研究者の一人が、惑星の消滅を確認しました
太陽系外惑星 でしょうか。
だとしても、惑星にしなければならない必然性を思いつきません。
ペットのネーミングとかの余計な枝葉を除けば、半分くらいの量にはできると思います。
ただ、個人的に面白かったのはペットのネーミングでしたので、悩ましい所ですが。
アドバイスありがとうございます☆
1光年は光が1年間に進む距離というのは勿論常識ですが、
冒頭部分は子供時代に聞いた言い伝えを元に書いています。
もちろん、他の伝説や言い伝えにも出てくる通り、
故人が星になるとか、火山の女神ペレが実在するとか
流れ星が願いを聞いてくれるという科学的実証はなされておりません。
でも、そういう子供の夢を大切に語れる大人でありたいと思います。
耐え難い乱筆を最後まで我慢して読んで下さり、ありがとうございました。
「ご飯、食べないの?」
食べないよ。
「死んじゃうよ?」
死なないよ。死ねないんだもの。
「寂しくないの?」
寂しくないよ。僕はずっと前から一人だもの。
「何でそんなところにいるの?」
神様に罰を与えられたからさ。
「どんな罰?」
分からないけれど、きっと僕は消されてしまうんだろうな。
「何でそんなことしたの?」
何でって聞かれたって、ただそうしたかったからさ。
「何をしたの?」
もう良いだろう?放っておいてよ。
これ、邪魔だなぁ。
ガラスかな、透明で、キラキラしてて、綺麗。
でも、中に居る彼の方が、もっと綺麗。
叩いても、堅い物をぶつけてもなかなか割れないや。
ああ、綺麗だなぁ。
お日様のような金色の髪、ふわふわしたあの髪に顔を埋めてみたい。
花のような淡い桃色の頬、優しく撫でてみたい。
氷をはめ込んだような冷たい碧の瞳、その奥に映る物が知りたい。
ぎゅっと抱きしめてあげたい。
彼はずっと、そっぽを向いたまま。
一体何をしちゃったんだろう。
このまま消えるなんて勿体無いな。
助けてあげたいのに。
上を見ていた。
大きな白い闇が、口を開けていた。
もう空は朱くなっていた。
星が幾つか、雲に食べられていった。
白い月が、冷たく笑って姿を消した。
まだ、指が凍みている。
背中の傷は、癒えていた。
女の子は、まだ壁を叩いてる。
それくらいじゃ、壊れないのにな。
そろそろ時間が来る。
少し前まで、自分の血が通っていた、柔らかい白。
拾い上げるとまだ温もりは残っていた。
ふっと赤が走る。
ポルックスで、手を切っていたようだ。
小さな悲しみが、降って来た。
哀しい子。
美しく生まれ、美しく育った私の子。
大事にしてきた私の子。
消してしまうには勿体無い、私の子。
翼を無くした、私の子。
星の糸を紡ぐ私が、もう見えない哀れな子。
人に見られ、語りかけられている私の子。
もう消えるしかない、私の子。
たった一人の、私の子。
空はまるで氷の膜のよう。
冷たい膜を空けた途端、沢山の悲しみが、ゆっくりと白い雪となって降り注ぐ。
人々は家路を急ぎ、星々は雲の中で夢を見る。
無知な天使は涙を流す。
空に、大きな穴を空けた。
弥演琉さん、投稿ありがとうございます。
かきつばた杯は3作目ですね。
感性で押し切る作風と見ました。
あ、でも はてな コード の方は違うかな?
いずれにせよ、書けば書くだけ上達する時期だと思います。
受験も頑張ってくださいね。
コメント有難う御座います。
作風は特に気にせず書いてるので気にしないで下さい(^^;)
励まし有難う御座います!!
『星に願いを』
気が付くと、満天の星だった。どうやら生きているらしい。顔をめぐらしても、真っ暗でほとんどわからない。水音が聞こえるから、川が近くにあるようだ。
「手は動くかな」
思わず声がでた。しかし、右手は動かない。左手も肩が変だ。手首を持ち上げて、時計を見る。
「見えねぇな。ライっ いてっっ」
右手を動かそうとして激痛が走る。
「この調子じゃ動けないな。」
足の感覚も無いしな。
時計が見えないなら、しかたない天測しよう。
「降るような星空だなぁ。」
2001年宇宙の旅のボーマン博士の気持ちがわかった気がする。天は星でfullだ。オリオンの3つ星が見える。あの角度なら、零時ぐらいか。
「なんかないのか?」
かろうじて動く左手で、周りを探る。
これは石。
草だな。
う、なんだこれ、虫の死骸?
これはミミズ?動いてる。
固いな。丸いな。ををこれは懐中電灯。
手にした懐中電灯のスイッチを入れる。…つかないな。LEDが潰れてるのか。
じゃあ反対向き。
赤い線が空中に引かれるのが見える。懐中電灯に取り付けてある測距用レーザポインターは無事だ。懐中電灯を振ると、遠い木々に赤い点が移動するのがかろうじて見える。崖下の 河原に転がっているらしい。ザックや装備は、首の動く範囲には見えないな。
万事窮したって感じだな。
「星と俺だけか」
満天の星の下、俺は動かない体のまま、星座を数える。
オリオン座、おうし座、おおいぬ座、ふたご座、こいぬ座、ぎょしゃ座…
明るい星が多い冬の星空は、夜中に饗宴を開いている。そこに木星や土星も加わって賑やかだ。
「昴が七つ余裕で見えるなぁ」
天頂近くのプレアデス星団が、ひときわ輝いている。
こんな星の下で、焼酎のお湯割りが飲みたいと、俺はふと思った。
なんだか、すごく飲みたくなった。
体は動かないけど、もう長くない気もするけど、焼酎が飲みたい。
「昴に願いをかけてみようか」
俺はそう呟いて、赤いレーザーをプレアデス星団に向ける。天頂に向けて、まっすぐに赤い線が引かれる。
「焼酎を飲みたいです。お湯割りで」
左手に力がもう入らない。昴は願いを聞いてくれるのかな、とぼんやり思う。
まあいいや。手も足も感覚ないし。
昴の数もよくわからないし。
眠いな。
おやすみ。
なんだよ。寝かせてくれよ。
うるせぇ。起こすなら酒くれ。
「焼酎」
だよ。なんだよこれ。うへっ、酒だよ。
あったかいよ。
でも、焼酎じゃないじゃん。
とたんに、俺の目に耳に口に鼻に左手に、いっぺんに情報がやってきた。
まぶしい光の中、ウィスキーのお湯割りとチョコを手にした山岳パトロールが俺を覗き込んでいた。パトロールは、脈を測りながら、
「ダイジョブ?」
とたどたどしい日本語で聞いてくる。
「ああ」
と答えると、満足そうに頷き、ヘッドセットを俺の頭にかける。
「おい、大丈夫か?俺だよ、山崎だよ」
友の声に、俺は返事をする。
「山ちゃん」
「無理に返事しなくていいから。遭難したらしいって聞いて、そのへんの山の画像を、人工衛星から拝借してスキャンをかけてたんだ。」
また、ハッキングかよ。
「そしたらさ、真上を通っていたスパイ衛星に、半導体レーザがその河原から届いてるじゃないか。そいつは怪しいってんで、近くにいた山岳パトロールに連絡したのさ。」
ありがとな。
「そのパトロールに、そいつ呑兵衛だから、酒かがせると起きるって言っておいたんだけど」
それでウィスキーだったのか。俺は山ちゃんに言った。
「今度は、焼酎が好きだって言ってくれ。」
してみるものだな、星に願いを。
たけじん さん、投稿ありがとうございます。
たけじん さんの事ですから、お題から素直に考えられる SF 仕立てを、あえて縛ったと推察します。
「ジョー、君はどこに落ちたい?」をやる人がいるかも、と思ったんですが。
常連さんですし、安心して読めました。
えと、今回は縦読み仕込んでないですよね?(笑)
素直に読んでいただいてありがとうございます。普通に、素直に書きましたよ。
仕込みありの方を書きかけて、息子とスキーに行ってしまったので、そちらはお蔵入りですねぇ。
(某質問のコメントで、水野版はこれ、望月版はお蔵いりです。…どうせアイデアは使えないので、暇があったらコメント欄に投げておきますね。(縦読み込かどうかは秘密です)
「星に願いを」
祖母の家にある縁側は僕の特等席だった。
鳥の鳴き声、風の音、木々のざわめき、雲が流れる様子を見ているうちに、やがて日が暮れ、夕焼けになり、辺りが暗くなりはじめると澄み切った夜空には満天の星。都会では気にしたこともないその一つ一つがとても心地よく、いつまでも座っていられる気がした。そんな僕を見て、祖母は決まって僕の好きなスイカをそっと置き、黙って横に座るとうちわで扇いでくれた。
ある日、いつものように夜空を眺めていると、星が夜空を横切った。
「おばあちゃん、見て!流れ星だ!!」
いつものように横に座っている祖母を見ると手をあわせていた。
「おばあちゃん、何してるの?」
僕が不思議そうに尋ねると、祖母はこう教えてくれた。
「流れ星が消えるまでに願いごとを3回唱えるとね、願いごとが叶う(かなう)と言われてんだよ」
「ふうん、そうなんだ・・・。願いごと叶う(かなう)といいね!僕も今度流れ星にお願いしよっと!!」
そんな僕を見て祖母はニコっとほほ笑むと、再び僕と一緒に星空を眺めながらうちわで扇ぎはじめた。
あれからXX年・・・2011年(平成23年)3月11日14時46分
巨大な揺れのあと、押し寄せる津波は僕の特等席だけでなく、大切な人達もすべて飲みこんだ。
「神様は残酷だ・・・」涙がとめどなく溢れた。
何も無くなってしまった場所にたたずむ僕の横に父さんがそっと寄り添い、静かに肩を抱き寄せた。
「人はそれぞれ大空に自分の星があって、この世からいなくなるとその星は流れ星となって落ちるそうだ。今夜は夜空を一緒に見よう。おばあちゃんの星が見れるかもしれない・・・」
そんな父さんの肩も悲しみに震えていた。
もし、あの時、僕が「いつまでもこの時間が続いてください」と願っていたなら、その願いは叶ったのだろうか?
今夜は願うとしよう。星に願いを。
~Fin~
こちらこそ、よろしくお願いします。締め切り後のおまけ作品です。
2019年8月7日
"学校以外に行こうとしない しをりを助けて 果歩"
学校から家に帰ると幼馴染の果歩(かほ)からこんな件名でメールが入っていた。最近、「遊びに行こう」と誘っても、かたくなに「今日は家に帰る」と言う栞を心配してのことだった。私たち3人は幼馴染で、子どもの頃から一緒によく遊んでいた。でも大学に入り、果歩と栞と離れた私は同じ学校に行く友達と遊ぶようになり、彼女たちとは連絡を取りあうことも少なくなっていた。
『何かあったのかな?』少し心配になり、メールの返信しようとすると、また果歩からメールが入った。
件名には、
"ニーナと私が願い 祈ろうね"
とあり、本文には何も書かれていなかった。
『これは何かあったに違いない!』果歩に電話しようと思ったら、今度は栞からメールあり。
件名には、
"本当のことを知ってもらいたい"
とあり、栞のメールにも本文はなかった。
ここで私はピンときた。
「ちょっと待って・・・これは暗号ね!!」
私たちは昔から言葉遊びが好きだった。
このメールに何かキーワードが隠されているに違いない。
私は果歩と栞のメールの件名をノートに書き写した。
"学校以外に行こうとしない しをりを助けて 果歩"
"ニーナと私が願い 祈ろうね"
"本当のことを知ってもらいたい
うーん、これだけではよく分からない・・・。
私は頭を悩ませていると、ベランダから空を見上げた。
空には一番星が輝いて見えた。
「分かったわ!」私はひらめいた。
彼女たちが8月7日という日を選んだのも意味があったのだ。今日は旧暦の七夕の日。国立天文台では、新暦の7月7日は梅雨のさなかでなかなか星も見えないため、旧暦の7月7日を伝統的な七夕の日としている。私たちは一番綺麗な星が見えるこの日を選んで3人で星を見に行ったことがある。
そうだ、ちょうどあれは7年前・・・私たちは「いつまでも友達でいようね」とあの星空に誓ったのだ。
私は先のメールの件名を8と7に分解することにした。
"学校以外に行こうとしない しをりを助けて 果歩"
がっこういがいに
いこうとしないし
をりたすけてかほ
"ニーナと私が願い 祈ろうね"
にーなとわたしが
ねがいいのろうね
"本当のことを知ってもらいたい
ほんとうのことを
しってもらいたい
今度は組み合わせを変えてみた。
ほんとうのことを
しってもらいたい
にーなとわたしが
ねがいいのろうね
がっこういがいに
いこうとしないし
をりたすけてかほ
文頭を読み解くと、「星に願いを」
そして文末から逆に読んでも「星に願いを」
私は彼女達のメッセージを読み解くと、あの思い出の場所へ急いだ。
~Fin~
<前回までのあらすじ>
"本当のことを知ってもらいたい
ニーナと私が願い祈ろうね
学校以外に行こうとしない
しをり助けて かほ"
2019年8月7日
ほんとうのことを
しってもらいたい
にーなとわたしが
ねがいいのろうね
がっこういがいに
いこうとしないし
をりたすけてかほ
果歩と栞の8×7マスに隠された「星に願いを」というメッセージには、7年前、私たち三人がこれまでと変わらぬ友情を誓った場所での再開を意味していると確信した私は、少し天気が悪くなってきた夜道を急いでいた。
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その頃、学校では・・・果歩と栞が再開を果たしていた。
「果歩久しぶり!」
「あ、栞!今日は早かったわね」
「もちろんよ。今日はあの日三人で約束した日だもの・・・」
「そうね、こうしてここに来るのも今年でもう7回目ね・・・」
そのとき、私は神妙そうに話している二人の姿を見つけると、手を振りながら急いで駆け寄った。
「遅れてごめん!!果歩、栞!」
でも、そんな私の声を無視するかのように二人は話を続けた。
「あの日、ニーナからもらったこの手紙も一緒に持ってきたわ」
果歩はバックから一通の手紙を栞に差し出した。
「そう・・・」
栞がゆっくり開いた手紙には
"本当のことを知ってもらいたい from ニーナこと新名アカリ"と書いてあった。
「これは私の字だ!」私は驚いた。そこには確かに私の字で書かれていた手紙があった。
私の名前は新名(にいな)アカリ。他の友達は下の名前で呼ばれることが多かったが、私は新名(にいな)という苗字ということもあり、友達からはニーナと呼ばれていた。
果歩と栞も私のことをニーナと呼んだ。
『あのメッセージは栞と果歩のものだったはずなのに、なぜ 私の手紙が?!』私の頭は混乱していた。
「"ニーナが学校以外に行こうとしない 栞助けて"と果歩からメールをもらった時、てっきりニーナは彼とうまくいっているものとばかり思っていたのに」栞は唇をかんだ。
『一体、何のこと?!』私の頭はパンク寸前だった。
そのとき、雲の隙間から月明かりが三人を照らした。
「私の影がない!!」
月明かりに照らされた果歩と栞の足元には影があり、なぜか私の足元にだけ影が無い。
『もしかして私、死んでるの?!』
それは単純な言葉遊びのはずだった。
一体、私の身に何があったというのだろうか?
to be continued...
PS:この物語は、sokyoさんの
【二人分の荷物がやけに重・・・で始まる文章】『二人分の荷物』
http://q.hatena.ne.jp/1290052601#a1047932 を読んで、http://q.hatena.ne.jp/1324043526#a1123150 で感想を書いたことを切欠に思いつきました。気が向けば次のお題に続きます。
「あなたとこうして話せるなんて夢のようだわ」
そう言った私の言葉への【彼】の返答は
「僕もそうだよ。といったら鼻が伸びるかな」
『嘘をついたら鼻が伸びる』……
これは、彼の嘘に対して私がなんども繰り返し言っていたことだった。
【彼】は最終段階を迎えている。
室内を陣取る大型の量子コンピュータ。その傍らには永遠とも思える時間眠り続ける彼。
その命は数々の機器によってかろうじて生かされている。
【彼】とこうして再び言葉を交わすまでには長い長い道のりがあった。
そもそも、彼が目覚めないと知った時――正確には彼が目覚めなくなってからの数ヶ月――、私にはすがるものがなく、ただただ祈ることしかなかった。彼の目覚めを。
時には星に願うこともした。だけれど、そんな毎日を繰り返しているうちに違う意識が芽生え始めた。
自分の手で彼を目覚めさせようと。どんな形であれ。
近年の科学、医療技術の進歩は目ざましい。特に脳医学の分野での研究が進み、それまで謎に包まれてきた脳の働きが徐々に明らかになってきた。私の専門分野でもある。
さらに、与えられた数々の恩恵。
ひとつは、高性能の量子コンピュータが誕生し始めたこと。
そして、脳内の信号の行き交いをキャッチできる新たな素子が開発されたこと。
緻密で複雑なパスを持つ高密度の記憶媒体の登場などなど。
動物による実験は、既に様々なものが行われている。
脳を量子コンピュータに移植し、仮想世界の中で現実と同じように生かすのだ。
ディスプレイの中で彼らは、現実と同じように振る舞い生活した。
だが、それらが何を考えながら生活しているのかを聞くことはできない。
それをしようと思えば意思の疎通が可能な人間の脳で行ってみる必要が生じるが、それについては倫理的な問題から公には行われていない。
なにより、費用、時間、そして被検体の協力といった厚い壁が立ちふさがる。
しかし、幸運にも私はその全てを持っていた。
彼の実体に様々な刺激を与え、そのデータを取り、入力を繰り返す日々が続いた。
最初の失敗。
それは、創り上げた【彼】がそのまま目覚め無いというものだった。
これは、意識を失っている状態の彼をそのまま複製したことが原因だと考えた。
擬似的に創り上げた脳内への情報の入力が処理されても何ら出力へは結びつかなかった。
調整する日々が続く。
考えられる限り、思い出せる限りの彼の振る舞いを私はデータ化していった。
始めた会った時はどうだっただろう。初デートの時は……。
どんな歩き方をして、彼の癖ってなんだっただろう。
私の研究が明るみに出そうになったこともある。
その頃はまだ、大学にも籍を置いており、学内での研究の傍ら【彼】のモニタリング結果などを精査していた。
共用のコンピュータに消し忘れたそのデータを研究生に見られたのだった。
これが公にされれば、私には研究者としての賞賛と、人間としての非難が大きなうねりとなって押し寄せただろう。
静かに研究を続けることは、もはやできそうにも無い。
その場はうまくごまかし、そして程なく私は大学を去った。
何度も失敗を重ねた挙句、私は彼の脳を量子コンピュータに直接結びつけることを考えた。
いくらデータの収集を重ねたところで、彼へ与えられる刺激のパターンには限界がある。
意識の無い彼からの反応も実際のものとは大きく異なっているはずだから。
【彼】の脳を創ることから、彼の脳へ繋がる道筋を創り変えるという作業へ切り替えた途端に、
研究は大幅に進歩した。
まず、【彼】は刺激に反応する。
ディスプレイの中の【彼】は痛みに四肢をびくつかせ、苦痛に顔を歪める。
音楽を聴けばリズムに合わせて体を揺らし……。
そんなことを続けていくうちに【彼】はシミュレートされた世界の中で、日常生活を送るようになっていた。
そして、ついに訪れた二度目の出会い。長い長い間待たされた再開。
「そうか……。そんなことをしてくれたのか。随分と長い間眠ってたんだね。僕は」
「ずっと会いたかった。私が見える?」
「ああ、でもなんだか妙に鮮明で……。なんだか画面越しに会話しているような感じだ」
それはそうだろう。【彼】の目に映る私は彼の目を通した映像ではなくカメラ越しに撮影された画像が信号化されたもの。
【彼】が聞く私の声もマイクからの入力を変換したもの。
それでも構わない。彼とこうして再び話すことが出来たのだから。
「それで、僕はこれからどう生きていけばいいんだろう? つまり毎日何をすればいいのかってことなんだけど」
「あなたのしたいように。そして、こうして私と喋ってくれたらそれだけでいいのよ」
「君の相手をするときだけ目覚めていればいいのかな」
「これから少しずつ考えていけばいいわ。ほんとに、あなたとこうして話せるなんて夢のようだわ」
「僕もそうだよ。といったら鼻が伸びるかな。君の僕に対する愛情には感謝している。だけどこういった状態で目覚めさせてくれたということについては正直困惑している。生きている実感というか、今の僕には感情というものが感じられないんだ。嬉しいとも悲しいとも思えない。だからこれ以上君を喜ばせることはできないと思う」
ああ、やっぱりそうなのだ。
彼の顔をしていても、声や口調が同じでも【彼】の意識はやはり眠ったままなのだ。
願いは届かなかった。絶望にも近しい感情がこみ上げてくる。
ただ、その中でも私の中における彼の存在が、ひときわ大きく輝きだしたことが唯一得た明るい希望だった。
そう、これからは記憶の中の彼と生きていけばよい。【彼】を彼に近づけるという無謀な挑戦を続けるのではなく。
私はコンピュータの中の全てのデータを消去すると、その傍らで眠り続ける彼の体、その顔をそっと見つめた。
安らかな寝顔、その顔がふと微笑んだように感じられた。
落ち着いた気持ちでそれを見届けると、私は彼の生命維持装置にそっと手を伸ばした。
fin
ぐらむす。さん、2回目の投稿ありがとうございます。
×再開
○再会
というツッコミはさておき。
こちらが本編でしょうか?
お題のネタ元であるピノキオを絡めていただいて嬉しいです。
(恐らく)出題者の SF 好きを承知の上での王道ストーリー。
最後の1行でホラー風味(ですよね?)も効いてます。
残念ながら、レッドスターの持ち合わせがありません。
これからもわが道を行ってください。
よっしゃ~!
次点だ次点(ベストアンサーと大差を付けられての)。
こちらが本編>
いや、締め切りに間に合わなかった48のアイデアと、52のプロットがあるんですよ。
実は。迷惑なので書きませんでしたけど。
アイデア負けしているので、後悔は半分ですが、誤字脱字はもとよりもう少し練って
書いたら、BAに惜敗ぐらいできたのではと考えるとやっぱりちょっと後悔です。
作風(というか書き方、姿勢、身のこなし)をあらためて考え直すよい機会になりました。
ほんとは、もっとピノキオの原作に沿った感じで進めていくつもりが、やっぱり挫折。
クジラだったりマグロだったりというのが一点と、そもそもAIの開発とピノキオの
接点が少なすぎ。
初めは騙されない回路とか、嘘を付く機能とかを実装したりしなかったりしながら
わぁ! ハッピーエンドって感じにするつもりでした。
このエンディングには、納得してますが展開とか描写とかもう一度書き直したい作品
ベスト1に選ばれそうです。もちろん私の中で。
作品数が多かったのもあるでしょうけど、完結さの中にも書き手をくすぐる明確な表現も多々あってよい講評だと思いました(何目線だ?)
最後の1行とかも読み取っていただいて。
是非とも今後とも、講評だけでもやってってくださったらなと思います。
自分で立てた質問以外でも。(そんな暇人が私以外にいるかどうかは別として)
これが他の人だったら、またもう雰囲気に騙されて…… とか
とりあえずBA回数の多いsok(ryにベストアンサー付けときゃ体裁保てるだろなんて
考えて選んだんじゃねぇのか? などと毒づくところですが、
やっぱり、ヤラレますね。あの人の文章には。置いてけぼりを食らわないように
私も精進。まずは、推敲の義務を果すように心がけ。なおかつわが道を行くべし。
ありがとうございました。
You're My Only Shinin' Star
人には思想・信条の自由というものがある。
だから、千恵が「星に願い事をしたいの」と言い出したとしても、それを咎めたてるべきではない。そして願い事をするのに、私を誘ったとしても別にかまわない。
しかし、星に願い事をする場所にプラネタリウムは違うと思うのだ。
「一言言っておくけどな、千恵」
「何?」
「プラネタリウムに映る星は星じゃない」
上映前に受付で貰ったパンフレットから顔を上げ、千恵は可愛く微笑んだ。
「そんなこと言ったら、空の星だって本当の星じゃないわよ」
「空の星が星じゃなかったらなんなのよ」
「光よ」
「光?」
「そう。あたしたちが星を呼んでいるものは、星そのものじゃなくて、星が放つ光にすぎないわけよ。しかも数万年、数十年前の。だったら、同じ光であるプラネタリウムでも同じだよ」
そう言って、千恵はパンフレットを閉じた。
プラネタリウムは、平日の夕方ということもありお客さんは少ない。カップルや親子連れがちらほらといるだけだ。
「あ、始まるよ」
ブザーが鳴り、部屋が暗くなっていく。
プラネタリウムのプログラムが始まる。
私はプラネタリウムの星を眺めながら、千恵のことを考えていた。
千恵と知り合ったのは、今年の五月。学校の図書室でのことだ。ある本がどうしても借りたくて、その本を借りている千恵が返しにくるまで図書室でずっと待っていたのだ。千恵が図書室に来て本を取りだした時、思わずその腕をつかんだ。その時の千恵の驚きの顔、そして笑いに変わっていく表情を今でも覚えている。
『……そして夜はふけていきます……』
プログラムが終盤に近づく。
私はちらりと隣の千恵の顔をのぞき込んだ。千恵は熱心に映された星空を見ている。
オリオン座が映された。冬の代表的な正座だ。
千恵が顔を伏せる。
「カズちゃんと来年も友達でいられますように」
プログラム終了のアナウンスが流れる。暗い部屋が徐々に明るくなっていく。
私は大きく瞬きをした。
私は、ぽそりと言った。
「あんな願い、星に願わなくてもすぐにかなうのに」
「そんなことないよ!」
千恵は意気込んで言った。
「人生なんてなにがあるかわからないんだから。今日帰ってカズちゃんがご飯をのどに詰まらせて死んじゃうかもしれないし」
「勝手に殺すなよ」
「あるいは、私が明後日交通事故で死んじゃうかもしれないし。人生なんて一瞬先は闇なんだから」
千恵はぐっと拳を握り締める。
「本当は一生友達でいてほしいんだけど、それは今年の願いが叶ったら来年お空のお星様にお願いしようと思って」
友達、か。
私は千恵に言った。
「てっきり高瀬のことをお願いしたのかと思ったよ。これから高瀬とうまくいきますように、とかなんとか」
「高瀬くん? なんで高瀬くんが出てくるの?」
「高瀬から告白されてまだ返事してないだろ」
「ああ、あれね。断った」
「断った?」
「だってつきあうなんてピンとこないし。それに『カズちゃんと会う日の方が多いけどいい?』って聞いたら複雑な表情してたからお断りしたの」
「・・・・・・あんたね。あとで悔いても知らないわよ」
「するわけないよー、そんなの」
そう言って、千恵は笑う。
私は、自分の顔が赤くなっていないかどうか不安だった。
プラネタリウムを出たところで、千恵が叫んだ。
「あ、忘れ物!」
千恵は私が声をかける間もなくダッシュでプラネタリウムにとって返し、三分後に戻ってきた。はあはあと息が切れている。
「はいこれ」
千恵はなぜか私にストラップを差し出した。
それは星のストラップだった。プラネタリウムの売店で売ってる安っぽいお土産物だ。
「なにこれ」
「プレゼントよプレゼント。今日つきあってくれたお礼」
「……やすっぽい」
「なによー」
千恵は少しむくれる。
本当は千恵に抱きつきたいほどうれしかった。なにしろ、千恵からプレゼントを貰ったのは初めてなのだ。
でもそんなことするわけにはいかない。プラネタリウムの入り口は大通りに面していて人目がある。
それになにより私は千恵の『友達』なのだ。『友達』は滅多なことで友達に抱きついてはいけない。
「で、なにを願うの?」
「え?」
「カズちゃん今日なにも願ってなかったでしょ。あたしだけ願い事するのは不公平だと思って」
私は改めて星のストラップをみた。
星に、願いを。
何を? 千恵とずっと一緒にいれますように? 千恵と『友達』以上になれますように?
・・・・・・いやいや、そんな願いはストラップの星には荷が重い。夜空の星にだってつらいだろう。
なにしろ、叶いっこない願いなのだから。
私は目を閉じ、祈った。
「きっと叶うよ」
「なんで断言できるのさ」
「だってその星は、私が選んだカズちゃん専用の星だもん。世界中の人が願い事を言ってる夜空の星とは違うよ。カズちゃんの願いごとしか聞かない星だよ。だから、きっとかなうよ」
「……だといいな」
私はぽつりとつぶやく。
「さ、帰ろう。ね、帰りにモスに寄って行こうよ。新メニュー来たらしいよ」
「夕食前に食うと太るぞ」
「う、なぜあたしが一キロ太ったこと知ってんの! 国家的秘密のはずなのに」
「顔が丸くなってるから、もっと太ったかと思った」
「ひどーい!」
千恵が頬を膨らませる。
「あたし先に行って席とっておくね」
そう言って、千恵は走りだした。
私は星のストラップをぎゅっと握り締める。
あなたは私の輝ける星。
この星が、もうしばらく私のものでありますように。
百合が流行っていると聞いて(ry
dragon77th さん、投稿ありがとうございます。
なんと、人力検索での初回答が「かきつばた杯」なんですね。
いやあ、見事に騙されました。
女性が読んだら騙されなかったのかなー、とか思いつつ。
『色のない星』
登場人物:
・緑
・黄○はてなスター郵便局
倉庫のような場所。
下手にたくさんのバスケットが整然と並べられている。
一番奥に、ひとつだけ目立つバスケットがある。
バスケット群の手前には、コンピュータとヘッドセット。
舞台中央にボウリングのボールを返送する、ボールリターンのような設備。
緑、舞台の中央。
緑「今日からこの職場に新人が入ってくる。…お、来た」
黄、下手から登場。
黄「はじめまして。よろしくお願いします」
緑「よろしく」
ボールリターンの穴から星形の物体が現れる。
緑、それを検分して下手のバスケットのひとつへ投げる。
黄「なにをしてるんですか?」
緑「スターの振り分けだ」
黄「さっきのがスターですか?」
緑「そうだ。ネット上にはたくさんのスターが飛び交ってる。
いいなっていう気持ちがヒトからヒトへ発せられてる。
我々はそのメッセンジャーってわけだ」
ボールリターンに次のスターが現れる。スターにタグがついている。
緑、それを検分して、スターを黄に手渡し、
緑「ぐらむす。さんからだ。これ、meeflaさんに渡して」
黄「え?」
緑「meeflaと書いてあるバスケットに入れるんだ」
緑、コンピュータを操作して、m、e、eと入力する。
インクリメンタルサーチで、該当しないバスケットが自動でフタを閉じる。
黄「コレがあると見つけるのが楽ですね」
緑「慣れれば必要ない」
黄「あ、紙がついてる。(タグを読み上げて)『講評は必ず』…」
緑「(黄からスターを取り上げて)読むな」
緑、スターをmeeflaのバスケットに入れる。
黄「見ちゃだめなんですか?」
緑「当然だ。我々の仕事はメッセンジャー。
スターにはメッセージを付けることもできる。
だがそれに介入するのは我々の職務の範疇外だ」
黄「(気落ちして)はあい」
ボールリターンには次々とスターが現れる。
それを受け取る緑。バスケットに分類する黄。
緑「(作業しながら)ネットには負の感情も多い。
でもスターは明るいメッセージだけ伝えている。
我々はネットの世界を明るくしていると自負していい」
黄「(うれしそうに)はい」
黒いスターがボールリターンから現れる。
緑、すばやく受け取って、自分でバスケットに投げる。
なにかがぱちんとはじける音。
黄「いまのは?」
緑「(慌てて)なんでもない」
アラームが鳴る。
緑「呼び出しだ。すぐ戻るから、なにかあったらコンピュータで呼んでくれ」
緑、上手から退場。
黄「ひとりになっちゃった」
ボールリターンから黒いスターが現れる。
黄、それを手に取って、
黄「ほかのスターは少し透明なのに、このスターは中がどろどろしてる。
よくないものなんじゃないかな。そうだ、送り返しちゃおう」
黄、送り主の名前を入力して、ふたの開いた一番奥のバスケットを狙う。
緑、上手から再登場。黄からスターを奪って本来の宛先のバスケットへ投げる。
バスケットの中で金属のぶつかる音がする。
緑「ロックをかけ忘れた」
黄「?」
緑「こちらの話だ。今なにをした?」
黄「——」
緑「我々は、スターに意味やメッセージや価値を、付け加えちゃいけない。
スターのことは、深く触れてはならぬ。運ぶだけだ」
黄「スターは明るいメッセージだけ伝えてるって、本当なんですか?」
緑「当然だ」
黄「黒いスターでも?」
緑「(口ごもって)仕事に戻りなさい。初日から、職務への集中が悪すぎる」
黄「(腑に落ちない様子で)はい」
暗転。
○はてなスター郵便局
黄、下手から登場。
黄「おはようございま、あれ、だれもいない」
ボールリターンからスターが出てくる。
黄「まあいいか。スターの振り分けなら自分でできるようになったし」
しばらくして、黒いスターがたくさん出てくる。
黄「(慌てて)また黒だ。こんなにたくさん。
宛先は…(スターを確認する)これ、たぶん全部のバスケットに送られてる。
これ、きっと悪い人が流してるんだ。明るいメッセージなわけない!
やっぱり送り返そう」
一番奥のバスケットのふたは閉まったままで開かない。
黄、ヘッドセットを装着し、コンピュータの緑のボタンを押す。
黄「緑さん! 緑さん! —返事がないや。だめだ。
(青いボタンを押して)青さんは? —だめか。
(赤いボタンを押して)赤さんは? —だめ。つながらない」
増えつづける黒いスター。床にこぼれおち始める。
鳴り響くアラーム。サイレンの光。
黄「これは…?」
黄、当てずっぽうで透明なボタンを押す。音波はどこかへつながる。
増えつづける黒いスター。ひざほどの高さになる。
黄「黒いスターを大量に発送している人がいます。
送り返したいです。許可してください! 許可してください!」
コンピュータがブラックアウト。
黒いスターが一番奥にあるバスケットに吸い込まれていく。
サイレンがやみ、光が差し込む。
すべての黒いスターが吸い込まれたあと、色のないスターがひとつ届く。
スターにはタグがついている。宛先は「はてなスター郵便局」。
黄、それを取り上げて、
黄「タグがついてる。えーと、
(読み上げて)『メディアはメッセージ。価値を生み出し続けなさい。
持てる力を、ここで発揮しなさい。』」
黄、スターを手に立ち尽くす。
間。
黄、思いついて、その色のないスターにメッセージを少し書き足す。
それを、一番奥のバスケットに放り込む。
暗転。
sokyo さん、投稿ありがとうございます。
「かきつばた杯」では初めての戯曲ですね。
しかも、はてなスター仕立てで。
正直に言います。
これを読んだ時点での感想は「ベストアンサーにはできないな」でした。
エンディングが弱い、とも感じました。
そう、『名のない星』 が来るまでは。
ちぇ、せっかく念願の刑事課に配属になったってのに、初日からついてないなあ。
今日は、配属のお祝いに店を取ってあるって言ってたけど、待ち合わせの時間に遅れるどころの話じゃなさそうだ。
普通のひったくり犯として、処理するだけの簡単な仕事だったはずだったのに。
別件の聞き込みをしている最中に、たまたま出くわしたひったくりの現行犯。
近くの交番に引っ張っていって調書を取るところまでは、なんてことは無かったのだけれど。
娘の受験がどうとか言って、電話で席を外しちゃう先輩にだって、非はあると思うんだ。
まあ、一番悪いのは、油断して逃げられてしまったぼくなんだけれども。
ただなんとなく年月を過ごしてきただけのぼくとは違う彼の生い立ちなどを聞いているうちに、
つい思いにふけってしまった隙にガツンとやられてしまった。
幸いにして、銃の携帯はしていなかったから、最悪の事態にはなっていないが、
せっぱつまると刑事の頭をなぐるやつだし、思いつめると何をしでかすか分からない。
思いなおして、出頭して来てくれないかなあ。
「こらぁ、犯人に願い事なんてしてんじゃねえ。てめえのケツはてめえで拭きやがれ。」
いけない、考えていることが口に出てたみたいだ。
歳は、ぼくの方が上だから、やりずらいらしいことは感じてるけど、それにしても先輩は口が悪い。
「もう一度、付近の聞き込みに行きます。」
「ひとりで行動するのは、規則違反だろうが。俺も行くから、コーヒーくらい飲ませろ。」
結局、ぼくの不始末に自分では決着をつけられず、被疑者は、三日後に隣の管内で捕まった。
= = = = =
「短い間でしたが、大変お世話になりました。本日をもって、退職となりますが、今まで無事に勤めてこられたのは...」
結局、黒星をひとつつけただけで、短いようで長かった、ぼくの一ヶ月は幕を閉じた。
定年を迎えるぼくのことを気遣って、最後だからと署長の特権を振り回してくれた同期のあいつには、最後の最後で、また面倒をかけてしまった。
儀礼的ではあるが、熱心に誘ってもらった送別会を断り、少し歩きたくなって、一駅手前で電車を降りた。
凍てつくような寒さだけど、抜けるように澄みきった空に瞬く星がきれいだ。
柄にもなく、初めて配属された交番のことを思い出す。
星空がきれいなだけが取り柄の田舎で、暇なパトロールの最中、流れ星にいくつお願いごとをしたんだったか。
無事で帰ってきてよね、という妻の願いごとだけは、とりあえず叶ったようだ。
心配をかけ通しだった妻と子供たちが、お祝の準備をしてくれているらしい。
さすがに今日は、約束をすっぽかすことも無いだろう。
a-kuma3 さん、投稿ありがとうございます。
ご質問やらご回答やらで、結構な小説読みの方と認識していますので、これまた安心して読めました。
「犯人(ホシ)に願いを」ですね。
座布団三枚!
「安心して読める」なんて、過分な評価を頂けて、ありがたいです。
かきつばたは、いつも参加しようと思ってるのですが、なかなか回答まで至りません。
駄洒落のようなギミックに頼らないのをやりたいんですが、まだまだ力不足です ><
「これでよし、と」
私はスコップを置いて、額の汗をぬぐった。
「だれにも見られていませんよね」
「ああ、見られてはいないよ。心配ない。冬のこんな山奥に、登山をしにくる物好きはいない。夜も遅いんだ」
大庭はそういって、軽く笑った。
あいかわらず、楽観的だ。
「あした、大雪が降る。そうすれば、春が来るまでこの地は雪で閉ざされる」
「そうですよね」
「それに、何メートルも穴を掘って埋めたんだ。見つかりはしないよ。やつはとんでもない悪人だった。こうなって当然なんだよ」
遠い街の光に目をやった。とてもいい眺めだ。
私は、大きなためいきをついた。
「大丈夫、ですよね……」
だれにともなく、そうつぶやいた。
「ああ、見ていたとしたら、空で瞬いているお星さまだけだ」
そういって、大庭が笑う。
「もし、仮にお星さまが見ていたとしても、お星さまには口がない。証言できないってことよ」
大庭の話が終わるか終わらないかのうちに、私は、胸のまえでそっと手をあわせ、目を閉じた。
――あとは、祈るしか……。
「どうか、見つかりませんように」
「はは」大庭が笑う。「星に願いを、か。まったく、年ごろの乙女じゃあるまいに」
清冽な風がふいている。
木々が揺れ、葉ずれの音があたりをつつんでいる。
しばらく、何ごとかしゃべっていた大庭の話が途切れた。
静寂のときが流れた。
ふと、横目で確認すると、大庭も、両手をあわせ、祈っていた。
gtore さん、投稿ありがとうございます。
コメント欄からすると、もう少し練り込みたかったご様子ですね。
これはこれで、コンパクトにまとまっているような気もしますけど。
次回作にも期待してます。
『名のない星』
男が目を覚ましたのは夕方の事だった。何時から眠っていたのか判然としない。男は甚だ断片的な記憶を辿った。
例えば男は電車に乗っている。向かいに座る中年の老人が、大声で通話していて耳障りだ。男はスマートフォンから、自作のブラウザを立上げる。そして黒いスターを選択し、発射する。程なく向かいの老人が口を押さえて黙りこくる。老人の携帯に届いた黒いスターが口の中で弾けたからだ。暫くは声も出せまい。
例えば男は電車を降り駐輪場へ歩いている。そこに駐輪してあった筈の自転車がない。男は適当な別の自転車を見繕い、スマートフォンから例のブラウザを立上げる。黒いスターを選択し、自転車の後輪に向けて発射する。衝撃で壊れる鍵。男はそれに乗って家に帰る。
男は自作のブラウザから「黒いスター」を発射する事が出来る。これが出来るのはそのブラウザだけで、この世でそのブラウザを持っているのは男だけだ。
例えば深夜、男は家のPCでオンラインハンティングをしている。一瞬の睡魔に噛み付かれて、気付いたら酷い事になっている。仲間だと思っていたユーザに裏切られ、アイテム欄は蛻の殻。それで感情に火が着く。黒いスターを躊躇いなく連射する。消えろ。消えろ消えろ消えろ。遊びは終わりだ。消えろ消えろ消えろ。ヴァーチャルもリアルも消えろ。全員消えろ。自分自身も消えろ。2度ずつ消えろ。この世の苦しみを全て抱えて消えろ。限りなく後悔しながら消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ梢えろ梢えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ男のPCのディスプレイから程なく黒い星屑が戻り来て溢れ出して零れる固体特有の存在感が部屋の平衡を乱し液体特有の几帳面さが部屋を黒く染上げ気体特有の執念深さが部屋を悪臭で満たす。男は気絶する。自分で作り上げた黒いスターの思念に囚われてしまって。
* *
男が目を覚ましたのは夕方のことだった。いつから眠っていたのか判然としない。男ははなはだ断片的な記憶をたどった。部屋に広がる黒い思念の気配。ふと、その最後に、見たことのない、色のないスターが届いているのを男は見つけた。スターにはメッセージが付いていた。メッセージにはこうあった。
メディアはメッセージ。価値を生み出し続けなさい。持てる力を、ここで発揮しなさい。できれば、よい方向に。
男は思い出した。HTMLとCSSで文字の色を変更して、それだけでプログラマを気取っていた幼ない自分を思い出した。任意の台形を描画して面積を求める、何の役にも立たないプログラムで鼻を高くしたころを思い出した。年賀状の住所録で、初めて自分のプログラムが実用的に役に立ったのを思い出した。当のそのプログラムが住所録のデータを無意味なデータで上書きし途方に暮れた日のことを思い出した。卒業アルバムに将来の夢はプログラマだと書いたことを思い出した。その夢が叶った日のことを思い出した。
男はPCに向き直った。自作のブラウザのソースから、黒いスターの物理的な攻撃の部分を全てコメントアウトした。黒いスターはもう終わりだ。男は届いたばかりの、色のないスターの画像をロードした。そこにコードという命を吹き込んだ。そして、できたての、新しい、まだ名のないスターを使って、差出人「はてなスター郵便局」に返信した。
無事に送信したあとで、少し行動をとめた男は、先ほどコメントアウトした部分をすべて選択した。そしてDeleteキーを叩いた。
sokyo さん、2回めの投稿ありがとうございます。
締め切りの2分3秒前で、滑りこみセーフです。
さてと。
やられました。
『色のない星』の続編と言うか、完結編と言うか。
戯曲形式を踏襲しなかったのは、モノローグだけになってしまうからでしょう。
それが奏功して、読み始めは続編とは思えず、「黒いスター」というキーワードで初めてわかる、という仕掛けになってます。
『色のない星』で抱いた不満を全部解消した上におつりが来るという心憎さ。
「1人2回まで」にこういう使い方があったとは。
なにが怖いって、sokyo さんの場合、計算づくでやっているか天然なのかがわからない、という所ですね。
計算づくでやっているのであれば脱帽ものです。
というわけで、2作の合わせ技一本でベストアンサーです。
本当はこっちの方にベストアンサーを付けたかったのですが、こっちが一番上に来てしまうとよろしくないので、ベストアンサーは『色のない星』の方に付けました。
sokyo さん、投稿ありがとうございます。
2012/01/09 15:11:27「かきつばた杯」では初めての戯曲ですね。
しかも、はてなスター仕立てで。
正直に言います。
これを読んだ時点での感想は「ベストアンサーにはできないな」でした。
エンディングが弱い、とも感じました。
そう、『名のない星』 が来るまでは。