ゴミ屋敷にはどんな人が住んでいるのか。公認心理師の植原亮太さんは「『生きたい』という気持ちのない人は、そもそも自分の身の回りを片付けるという発想に至らない」という。最終回は、親から虐待を受け、うつ病を発症した男性の事例を紹介する――。(第4回/全4回)
※事例は個人情報に配慮し一部加工・修正しています。
生きる意欲がなくて「ゴミ屋敷」に
なぜ、ゴミ屋敷が生まれるのか。
このテーマに沿って、本連載ではゴミ屋敷問題に関連の深い精神疾患の事例を紹介してきました。①「軽度」知的発達症、②認知症、③統合失調症です。これらは脳機能障害に分類され、生まれつきか、もしくは発症によって、生活技能が低くなってしまうものだと述べてきました。ここに、本人の意思や努力などは関係がないのです。
しかし、これから紹介する④セルフネグレクトによるゴミ屋敷は心の問題によるもので、ある意味で本人の意思によって引き起こされている部分があります。生活技能ではなく生活意欲が低いがために、積極的に生きられなくなっている状態です。
なぜ私たちは掃除をするのか
私たちが暮らしを整え、身だしなみを気にし、清潔を保とうとするのはなぜでしょうか。それはおそらく、そうしたほうがスッキリして気持ちがいいし、周囲からも嫌われないで済むし、人生をより良く営もうとする気持ちが根底にあるからでしょう。
ところがセルフネグレクトが起きている人には、この前向きな気持ちがありません。
では、なぜセルフネグレクトが起きてしまうのでしょうか。私の経験では、そのほとんどにうつ病が関係しています。
本稿ではセルフネグレクトの名の通り、自らの人生を放棄していった男性を紹介していきます。この事例は、拙著『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)には収録しきれなかったものです。親からネグレクト(虐待)されてきた人が、今度は自らをネグレクトする心の傷の痛ましさを、垣間見ることができると思います。